実際に店舗経営をしている場面では不正を発見した後の対応が非常に難しいのです。特に、内部不正を行った場合には、被害金額を特定することが非常に難しいのです。本人に口頭で「とった」と聞いたところで素直に「はい」と回答してくれるケースはレアです。大半は「いいえ」と返答するものです。加えて金額に関しては本人が覚えていないケースもあります。なぜなら、長期間にわたって内引きを行ってきたからです。
そこで、不正を働いたであろう従業員に自白してもらうように誘う必要があるため、店長としては、じっくりと証拠集めを行っていきます。被害防止(=不正を行いにくく環境整備する)という作業から、発見という作業に変更していきます。あまりやりたくはないですが、
・ピンホールカメラを従業員ロッカー付近に設置する。
・従業員ロッカーをチェックする。
・従業員ユニホームをチェックする。
・他従業員からインタビューする。
などという行為です。
過去、筆者が行ったケースとしては、最初に深夜時間帯の固定客の方から店長に情報提供がありました。
「最近入ったアルバイトの態度が悪いねぇ。店内にいっぱい友達が来ているよ」
という内容でした。残念ながらその店舗では防犯カメラを4台しか設置していなかったため、店内を大枠でしかチェックできない状況でした。事務所・バックルームにも設置されていません。
防犯ビデオ内容を確認してみましたが、そのような証拠映像は映っていません。犯人を早く特定するために店長と二人で張り込みを行いました。深夜時間帯(2時ごろ)から自家用車に乗り、二人で店舗の反対側から店内をチェック。約1週間後ついに、店内に入る多数の従業員友人関係者の姿が見えました。店長と二人で「来た!」と叫び店内に突入、発見となりました。
証拠集めが終わった次の段階は本人への告知、質問になります。この場面では店長の決意が揺るがない状況にしておく必要があります「辞めさせる」、「弁償させる」と。中途半端な対応をしてしまいますと、ほかの従業員にも悪影響を与えてしまうからです。
固い決意を胸に秘めて面談を行います。
同様に筆者が行ったケースとしては、面談の最初に「とったか?」という質問をし過去の棚差ロス金額を説明しました。「君が勤め始めてから今までの棚差ロス金額は約150万円になります。150万円とったの? 返してくれない?」のようにです。
さすがにこれほどの金額を内引きしているわけではないことは、重々承知していますが、こちらの意思を伝えるためにも強い口調で話をします。このケースでは、結局本人から「スイマセン。でもこんなにとっていません。たばこカートンを20個ぐらいです」と自白させたのです。
自分が採用した従業員を疑うことは非常に嫌な行為です。「人間不信になりました」と数多くの新任店長さんのコメントをもらっています。結果として内部不正を行う環境を作ってしまった店長自身の問題が一番大きいのです。
防犯システムに関しても、内引きを発見し従業員を処分することを目的とするのではなく、内引きが発生しにくい環境作りを目的としたものにしたいです。そのためにも、店長と従業員とのコミュニケーションが非常に重要になってきます。
※この記事は、2008年07月30日~2009年12月18日まで日経ビジネスAssocieにて、連載していたものを加筆・修正し掲載しています。
●筆者プロフィール
笠井 清志(かさい・きよし)
船井総合研究所 戦略プロジェクト本部 次長 シニアコンサルタント。
1974年大阪府生まれ。複数の企業にてキャリアを磨き、船井総合研究所の経営コンサルタントとして従事する。コンビニ本部等の多店舗展開チェーン企業へのコンサルティングを中心に活動。クライアント先である「NEWDAYS」の平均日販を日本一に押し上げたことが話題になる。月刊コンビニ(商業界)にて連載を持つほか、著書に『コンビニのしくみ』(同文館出版)や『よくわかるこれからのスーパーバイザー』(どちらも同文館出版)がある。
(著:COBS ONLINE編集部)