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商機開拓 新華僑ネットで海外市場へ進出――第13部〈世界商網〉

2010年6月14日16時9分

写真アチーボ・ジャパンの曹陽社長=古川透撮影

写真世界の華人企業家がネットワークを確認した世界華商大会。参加者は各国・地域の旗を手に壇上に集まった=2009年11月、マニラ、浅倉写す

 世界の華人社会で、「新華僑」「新移民」と呼ばれる人々が力を持ち始めている。中国の改革開放以降、大陸から世界各地へ渡った若い世代だ。留学経験者など知識や技術をもった人も多く、IT(情報技術)ビジネスでネットワークを築いている。

 東京・秋葉原のビルにオフィスを構えるアチーボ・ジャパン。本拠は米シリコンバレーにある。北京や上海、大連などの子会社を通じ、主に日本企業から受注したコンピューターのソフト開発を中国で行う。中国に多くのIT技術者を抱えているのが強みだ。

 アチーボ・ジャパンの曹陽(ツァオ・ヤン)社長(42)は、中国・吉林省出身。中国の大学で学び、北京にあった日中合弁のソフト開発会社で働いた。だが、会社は解散。一部の同僚たちと、新会社BBXを1999年に北京で設立した。その直前から来日して日本法人設立の準備を進め、2001年にBBX―Japanの社長に就いた。

 事業を欧米にも広げたい。そう考えていた時、米国の華人らが設立したアチーボ社から連携を持ちかけられ、BBXは傘下に入った。ドイツやカナダにも子会社をもつ。この世界ネットワークを、多くの「新華僑」「新移民」たちが支えている。

 日本向けの仕事を長く続けてきて、日本流が身についてきた。「うちの社内のコミュニケーションポリシーは、『ほうれんそう(報告、連絡、相談)』です。中国にいる新人にも教える。これを守っていけば、トラブルは起きない」。顧客から「この会社は逃げない」と言われたことを誇りにしている。顧客第一の日本式の対応を評価した言葉だからだ。

 中国市場が大きくなり、会社全体のビジネスは中国へシフトしつつあるが、日本事業はなお、ネットワークの重要な位置を占める。日本流ビジネスと中国市場開拓の両方を考える日々だ。(浅倉拓也、五十川倫義)

■新移民、シンガポールへ続々 資金蓄え、日本進出狙う

 世界最大の華人社会を抱える東南アジア。その中でも華人の比率が高いシンガポールに近年、中国から若い起業家たちが続々と押し寄せている。株や不動産投資にかかわり、日本を視野に入れる人たちも少なくない。

 高級マンションや緑地に囲まれた高層ビルにオフィスを構えるある投資会社は、中国内陸部出身の男性(40)がファンドマネジャーとして率いる。6年前に妻子と移住し、2007年にシンガポール国籍を取得した。

 「中国国籍を捨てることにこだわりはなかった。今は中国人ではなく、シンガポール人であり、華人だと思っている。私の人生観と価値観では、何よりも家族が大切で、国家が中心なのではない」。家族と休暇を過ごすためにヨットも買った。

 天安門事件の翌年の1990年、20歳で北京の有名大学を飛び級で卒業した。改革開放政策の実験地だった広東省・深セン(センは土へんに川)経済特区の国有投資会社に就職し、株取引を中心とした投資の世界に足を踏み入れた。03年に香港に渡り、自らの投資会社を設立。香港や米国でさらに実務を学び、人脈を増やした。

 約1年後に、シンガポールへ。税金が中国よりも安く、情報も集まりやすい。英語も中国語も通じ、欧米企業と付き合えることも魅力だった。中国政治の安定性について不安も感じていた。

 昨年4月、「新移民」や米国帰りの華人ビジネスマンらを集め、新たな投資会社をつくった。ファンドに投資するのは、過去につきあった大陸の中国人企業家ばかりだ。まず1.5億シンガポールドル(約100億円)を目標に資金を集めたいという。

 シンガポール政府も中国人の企業家ら富裕層の移住を歓迎する。男性の次のターゲットは日本だ。「(企業や不動産など)日本の投資対象は良いものが多いのに、いまは値段が安い。家族も日本食など日本に良いイメージを持っている。ぜひ、進出したい」

■旧来のつながりも力

 「新移民」のネットワークが動く一方、旧来の華人ネットワークも健在だ。

 4月、マレーシアの首都クアラルンプール。古い雑居ビルにあるエネルギー開発会社、海鴎能源の研究室で、タイ国籍の李居強(リー・チュイチアン)さん(58)が金属の熱の伝わり方に関する独自の研究を進めていた。この会社は昨秋、中国政府系の研究機関、中国科学院と共同で北京に実験室をつくることで合意した。中国側は素材開発への応用などに関心を持っているという。

 中国・海南島出身。人民解放軍の通信学校で無線通信技術を学んだ。1974年に雲南省、ラオス経由でタイへ潜入。地下ラジオで共産主義革命を宣伝した。90年に除隊したが、タイに残り、通信機器の修理業を営んでいた。

 李さんは研究内容を、マレーシアで漢方薬の輸入などを手がける海鴎集団のタン・カイヒー会長(73)に話した。タン会長は中国と組む事業を探していた。2007年に子会社として海鴎能源を設立し、マレーシアの政界や官界に人脈を持つ華人のウン・リップヨンさん(60)を社長に迎え入れた。

 インドネシアでは、現地華人が中国企業と組んで石炭や天然ガスなどのエネルギー開発を進めている。資源や技術を求める中国と旧来の華人ネットワークが共振している。(塚本和人)

     ◇

 〈東南アジアの華人〉 華人研究の拠点、中国福建省のアモイ大学南洋研究院の調査によると、2009年時点で中国と台湾以外に住む華人・華僑の総数は4530万人、うち3200万人余りが東南アジアに集中する。

 中国の改革開放後、教育水準が高い「新移民」が増え、最近は富裕層も多い。シンガポールなど経済発展が著しい国のほか、ミャンマー(ビルマ)やカンボジア、ラオスなどにも進出し、同研究院の推計では、東南アジアの「新移民」総数は270万〜280万人。

 「新移民」の豊富な資金力と人脈で、東南アジア経済は中国との結びつきをさらに強めることになりそうだ。同研究院の荘国土院長は「経済の一体化が進むにつれ、新移民の存在感が高まり、中国に精通した新移民が、国家関係にも影響力を発揮することになるのではないか」と話す。

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