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[25078] 【ネタ】究極(リリカル)!!変態仮面【エクストリーム謝罪級】
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/16 06:49
 一人反省会終了……いや、その甲斐はなかったかもしれない……

この作品は『リリカルなのは』の世界に『究極!!変態仮面』の主人公、
色条狂介の能力を持って転生したオリ主が活躍するクロスオーバーです。

以下の条件に該当するお方は申し訳ありませんがブラウザバックでお戻り下さい。

・クロス元の世界観を崩されたくないお方。
・アンダージョークを解されないお方。
・遅筆に我慢ならないお方。
・武侠小説風の文体に我慢ならないお方
・変態仮面とマスク・ザ・パンツの違いがわからないお方

では、筆者五体投地にて本編を始めさせていただきます。



[25078] プロローグ
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2010/12/25 09:05
 新暦71年4月29日
ミッドチルダの臨海空港で大規模火災発生、そのとき少女の命は、
誇張抜きで風前の灯であった。



---さて、これから話すのは幾重にも分かれた平行世界の一つ。
君たちのよく知る二次創作における定番手法の一つ、二次元世界への『転生』を
遂げた主人公を紹介するわけなのだが、まずは見ていただきたい。---



 熱風は乙女の涙を焼き、姉の消息を求めて声帯が張り裂けんばかりに立てる声も、
崩れ落ちる建造物の轟音に掻き消され、誰の耳にも届かない。

 少女は泣き虫であった。
 力なく、いつも姉の背に隠れては見ず知らずの他人におびえ、
 持ち前の心優しさを振舞うのは気心の知れた家族にのみ。

 誰が責められよう、この地獄の中。
 彼女のみならず響く怨嗟の声、苦しみからの解放を求める怒号、すすり泣く音。
 救いを求め縋り付く手はわずかな救助者が握り締める前に、一つ、また一つと地に伏してゆく。

 少女に力はなかった。
 愛した母も、愛する父も、己が力の限り見知らぬ人々を助ける職に就きながら、
 持ち前の心優しさを振舞うのは気心の知れた家族のみ。

 誰が責められよう、この地獄の中。
 誰にもへ与えられる当たり前の明日が来ようはずもない今、この時。
 やがて得たであろう父母譲りの意思は芽吹かぬままに朽ちる。

 目を覆う惨状、少女の未来は奪われる。
 まさに少女の身の丈をはるかに超える瓦礫が、その身の上に落ちようとしているのだ。



---君たちのよく知る『リリカルなのは』その第三期、冒頭である。
本来ならタッチの差でわれらが高町なのはが瓦礫を吹き飛ばし、見事スバル・ナカジマを救出、
やがてその姿に憧れた彼女はトクサイへの道を邁進するわけなのだが---



 だがしかし、瓦礫はその小さな体を押し潰したりはしなかった。
 力強い詠唱、少女の悲鳴すら掻き消したその青年の声は彼のナニより野太い輝ける荒縄を生み、
 無作法な瓦礫を食い止めたのだ。
 その…………

…………亀甲縛りで。

「変態秘奥義、ミッド式悶絶捕縛魔法------伏竜ッッッツツ!!」



---ようこそ諸君。
 残念ながら当SSで取り上げられるレパートリーに『萌え』の二文字はない。
 正しくクロスオーバーであるように魔法少女は最低5割確保でお送りしようとおもうが、

 オリ主は何と言っても『変身ヒーロー』だ---



 誰得SS、『リリカル変態仮面』始まります。




 己が窮地を救い出した恩人の姿を見て、ナカジマスバルは泣き出した。
 再び、それこそ己が内にも火が飛んだように激しく、力強く。
 それもそのはず、目の前の男は胸元で交差したブラジル水着のようなものを着て、
 足元には網タイツのように魔道式が絡みつき、燃える瞳をさえぎる様に、パンティーで顔を隠していたのですから。

「うわーん、へんたいだーァァァァァァァッ。
助けておとうさーんッ!!」
「……私は変態ではない」

 だがしかし、その男、紳士。
 泣き叫ぶスバルと視線をあわせ、そっと力強く肩に手を乗せ、
 股間のお稲荷さんからブラジャーをとりだすとほほを伝う涙をぬぐう。
 そして言い聞かせるように、まずはその名前を教えるのだ。

「変態仮面、今日から君の友達だ」
「へんたい……ぐすっ…かめん、さん?」
「そうだ、そして知り合いに曰く友達になるには作法がいる。
まずは君の名前を教えてくれないか?」
 途切れ途切れに、しゃくりあげながらも名前を告げた。
「スバル……スバル・ナカジマ…」
「そうか、スバル、いい名前だな。
この火災の中でよく生きていてくれた」

 変態仮面は少女の頭を撫でた、若草のようにしなやかな其の髪も、
 熱気にさらされて少し傷んでいる。

「まずはここを脱出しよう。
其の後で、がんばった君には何かおいしいものでもご馳走したい。
スバル、君は何か好きな食べ物はあるか?」
「うん、アイス」
「そうか、アイスか。
自前でホットなキャンディはあるが、こんな所に長くいたなら冷たいものもいいな」
 二人は手を貸しながら立ち上がり、再び困難を極める退路を行こうとする。
「でも、でもへんたいかめんさん、ここにまだおねえちゃんがいるの。
いっしょにさがしてくれる?」
「なんだと?
それは大変だ、急いで迎えにゆかなくては……ムッ!?」



『ディバイィィィン・バスタァァァァァ』



其の時、オリ主は膨大な魔力の迸りを感じ取った。
少女を背に、目にも止まらぬ速さで腰を突き出すし電光石火の防御魔法を展開、間一髪でその桃色の光から身を守る。
やがてその場に降り立つ一人の乙女、其の名も高町なのは。
いわずと知れた正ヒロインである。





「生存者二人をかくほ……ッてパンツさん?どうして!?」
「壁抜きとは相変わらずダイタニッシュな手腕だ、久しいな高町、息災かね?」
互いに杖と腰を突きつける二人、だがしかし再び泣き出そうとする幼女に感づき、その矛を収める。
「わたしはたまたま居合わせて救助活動を手伝っているだけですけど……まさかパンツさんも?」
「そのまさかだよ。
あまりにも時空管理局が鈍亀なので好きにやらせてもらっている。
大体の要救助者は火の及ばぬところに吊るしておいたよ。
少しは私の亀を見習いたまえ」
 どんな穴にもすばやく潜り込む、そう言うと背にしたスバルを促した。
「さあスバル、このお姉ちゃんが空を飛んで君を安全な場所まで送ってくれる。
きっと私が助けた人の中に君のお姉さんもいるはずだ」
「……フェイトちゃん、がんばって地面におろしてるの。
何で蓑虫みたいに吊るしてまわってたんですか?」
「この火災は人為的なものだろう?
中に犯人が居るかもしれないではないか常考」

『なのはーなのはー、なんでこんな複雑にバインドされてるかわかんないんだけど、
もう切っちゃっていいかなー?』

 親友からの念話が聞こえた。
 なぜか救護者が身をよじって上手く解けないという。

 とてとて、となのはに近づいたスバル、なのははそんな彼女をそっと抱きあげると宙を舞う。
「へんたいかめんさんは?」
「わたしは炎の大地を行く、ひょっとしたらまだ助けていない人がいるかもしれないからね。
高町、その娘を…頼む」
「いえ、普通に任意同行を求めます。
というか早く捕まって……掴まってください。
もうすぐはやてちゃんが凍結魔法で鎮火しますから」
「そうはいかん、それにこれだけの火災を消し止めるなら相当魔力を食うぞ?」
 ならば私はそちらに手を貸す、そう言って炎の中へ消えて行く変態仮面。
 なのははその後姿をしばし眺めた後、いこうか?と少女を促し、彼女の輩、果て無き空へ身を窶す。
 (また喧嘩にならないといいんだけど…)
 そんな事を思いながら。



 そして炎に焼かれるはずであった幼い少女の瞳には、戦乙女の横顔と、愛の戦士の後姿が焼き付いた。
 スバルは思う、ただ泣くだけの自分も、力のない自分も、もう終わりにしよう。

 強くなるんだ……そして100円ショップの電池とパンツは、もう買わないようにしよう、と。



* 



 八神はやては業火の中、いつの間にかあらかた助けられている救助者をフェイトに任せ、ユニゾンデバイスであり
彼女の家族でもあるリインフォースⅡとともに儀式魔法を展開していた。
 管理局の対応の遅さに憤慨していた彼女も、今はただ目の前に荒ぶる炎を消し止めんと、
今まさに広域魔法を放とうとした其の時。

「……雨?」

 瞬く間に暗雲に覆われる空、そして一筋の水滴が彼女の鼻先を濡らした次の瞬間。
 炎が掻き消えるほどに激しくその場に雨が降り注ぐ。
 南米のスコールもかくや、といわんばかりの勢いで、だ。

「ありえへん……天の助けといわれればどんな邪神もあがめたる量やよ?コレ」
「はやてちゃん、あのビルの屋上です!見るです!」
 はたして、末っ子の指し示した先に、崇めると誓った其の男はいた。

 わっしょいわっしょい、そいやそいや。
 
 強奪したであろう官給品のストレージデバイス、その先端に無数の女性下着をくくりつけ。

 わっしょいわっしょい、そいやそいや。

 一心不乱に天を突く纏(の、ようなもの)をふりかざしている其の男、変態仮面。
 忘れようはずもない、彼がかぶっているのは失った初代リインフォースの遺品であった。



「変態やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッツ!!
だれかあいつ捕まえたってーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」



 絶叫であった。
 彼女達、時空管理局を差し置いてだれもが『陸の守護者』とはやし立てる其の男、変態仮面。
 時空管理局に反目し、己が正義でもって人々を救う変身ヒーロー!------オリ主!

 だが果たして、高町なのはを除く彼女達にとっては……







「そこまでだ!デバイスを捨てて投降しろ」
 油断なく愛機、バルディッシュを構えてビルの屋上へ降り立つフェイト・テスタロッサ。
 ふむ、と一つ頷くと杖を床に転がし、肩をすくめる。
 ---遠雷が一つ、轟いた。

「久しいなテスタロッサ、御身疾風の如しと謳われた君にしても、今宵のおいしいところはすべて頂いてしまった。
いっておくが、此度の火災は私の仕業ではないよ?」
「そんなことは解ってる、でもここで逃しはしないよ全次元広域指定性犯罪者」
『Haken Form』
 ---一触即発、いまだ二人の間に雨は降り注いでいる。

「……やれやれ、ご馳走を平らげてしまった以上、ここは私の体一つでもてなすよりあるまいか?」
 手を後頭部に添え、ファイティングスタイルを取る変態仮面。
「公務執行妨害、器物破損容疑、加えてわいせつ物陳列罪の現行犯で逮捕・連行する。
行くよ、変態仮面……いや」
 其の身を低く、B+のランク程度しか持たぬ相手をしてなお全力で切りかかる執務官。
「『アールワン・D・B・カクテル』ゥゥゥゥゥゥ!!
母さんのパンツ返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!!!!」
 



 嗚呼、幾度目の決闘だろうか。
 その日---97管轄外世界『地球』より遥か彼方の地に、落ちた迅雷と愛の太陽---



[25078] 承前~高町家編~
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/07 22:20
 夕日が赤く海を染め上げるころ、海鳴の臨海公園に小さく金属がきしむ音がする。
 一人、また一人と子供達が家路に就くころに、俯き小さくブランコを揺らす幼女が一人。
 即に言うぼっちなのはである、



「君、もうすぐ暗くなる。
家に帰らなければあぶないぞ」
 背後から誰かの声がした。
 しかし、幼女---なのは---はブランコから腰を上げることをしなかった。
「……まだ、おかあさん達もおにいちゃんもかえってこないの」
「一人きり、というわけか。
ならばなおさらの事、君が待っていてあげなければ家族は真っ暗な家の鍵を開けなければならなくなる」
「おうち、くらいの。
でんきをつければあかるいけれど、みんな元気がないの」
 その小さな背にかけられる言葉は優しかった。
 家族の前では押し込めていた苦しみが、堰を切ったようにあふれ出してくる。

「それは、どうしてだい?」
「お父さんがかえってこないの。
しごとでおおけがして、しんじゃうかもしれないっていわれて。
何とかそんなところはとおりこしたっていわれたけど……」
 ついに、なのはの瞳か涙がこぼれ始めた。
「でも、そしたら、おかあさんもおねえちゃんもずっとおとうさんのびょうしつにいっちゃったままだし……
おにいちゃんもすごくこわいかおしてずっとずっとけんをふってるし……
みんなわたしのこと、いらなくなっちゃったのかな……
わたし、これからどうすればいいんだろう」
 しゃくりあげながらも、胸の内を一気に吐き出した。
 ブランコを握り締める手が震えている。
 あるいは、背後に立つ何者かにすがりつかない事こそ、最後の、自身の弱さへの抵抗であったかも知れぬ。

「君のお父さんは悪い奴だな。
こんなにかわいい娘を一人きりにしておいて、病室のベッドでぐっすりおやすみとは------」
「おとうさんわるくないもん!!やさしいもん!!
きっともうすぐ帰ってきてわたしのことだっこしてくれるんだから!!」
 はじかれたようにブランコを飛び降り、公園の真ん中で見事にすっ転び、天を仰いで号泣する。
 そして背後の男はゆっくりとちかづいて、彼女の脇をもちあげしっかりと立たせるのだ。
「ありがとう、もちろん君のお父さんも君の事を心配している。
お母さんやお前の兄弟のこともな。
------だから最後の力を振り絞って、奇跡を呼び起こしてここまで来たんだ」




 なのはは背後を振り返る、そこには自分より5歳ほど年上の少年が、
---------ブーメランパンツをかぶっていた。
「わたしは高町士郎……君のお父さんの、パンツだ」



 君を助けにきた、そういって幼女を抱きしめた少年の瞳にはハイライトが無く、
にごった上に焦点も合っていなかったが、なのははその奥に確かな優しさを見た。
それは、父の瞳であった。







 少年、否、高町士郎のパンツはジーンズから携帯電話を取りだし、
登録していた息子の番号を呼び出すとなのはに手渡した。
「さあ、これで恭也に電話して『変な人につかまった』といいなさい。
あいつなら物の数分もしないうちに駆けつけてくれるぞ。
何を賭けてもいい」
「------なんでもいいの?」
 幼女はそれをうけとって、少しだけ自分より背の高い少年を仰ぎ見る。
 初めて手にした父の携帯は、とても頼もしく思えた。
「ああ、もちろんなんでもいいよ。
私が起きたら家族みんなで遊園地にでもいこうか?」
 ゆっくりと、絆を確かめるようにコールボタンを押したなのは。
 言われたとおり兄に助けを求めると、漫画のように携帯がブッ飛んだ。
 大事そうにそれを拾い上げる娘、父のパンツにそれを差し出すと、告げた。

「おでかけはいいよ」
「…では、なにがいい?」



「------はやくかえってきてほしいの」



 不覚にもジンときた。
 意識の奥底に閉じ込められた少年---オリ主---本来の魂が、今初めて、この世界への転生を感謝した。

 其の瞬間である。
 爆発する音、地を駆ける炎、吹き飛ぶ民家の屋根や粉砕する塀とともに駆けつける姿、
電話からわずか数十秒、現れたのは高町恭也、その人である。

「---------なのはッ、大丈夫か!?」
 力任せに抱きしめられるなのは、兄の背後から遅れて届く大気を揺るがす『キィィィィン・ゴォッッッッ』と言う轟音。
 周囲の木がど真ん中からヘシ折れて、海に落着する。
「おにいちゃん、これ……」
「これは父さんの携帯……なのは、悪い奴はどこだ?」
 父の所有物を見せられ、息巻く恭也。
「ぱんつさんは…」



「ここだあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 ひん曲がった街灯の上、腕を組んで二人を見下ろす少年。
 踵を一つ打ち下ろすと、音も立てずに一瞬で砂塵と消える鉄製の足場。
 着地し、静かな足取りでこちらに向かってくる相手は……表情が伺えなかった。
「其の年甲斐の無い色、形……父さんのパンツじゃないか!?」
 息子の目からしてもどうかと思う、父の勝負パンツで顔を隠していたのですから。
「いかにもそのとおりだ、恭也。
そして何をしている、なのはを独りぼっちにして、それでも御神の剣士かッ!!」
「ちょ、一寸待ってくれ!
どうして父さんのパンツをかぶった子供に責められなければならないんだ?」
 ワケが解らなかった。
 確かに変態には違いないが、思った以上に年若い。
 加えて父のパンツ、何でそんなものを持ち出したのか皆目検討もつかぬ。

「どうやら私は買いかぶりすぎだったようだ。
敵を眼前にこうも動揺するとは……構えろ恭也、性根を敲きなおしてやろう」
 上着のスソからヴァイブとアナルビーズを持ち出して突きつける。
 それはまごう事なき、自身に染み付いた小太刀二刀流。
「---------永全不動八門一派・御神真刀流……其の構えは、もしや」
「行くぞ恭也!!」
 ---------虎切---------
 神速をもって襲い掛かる猛攻を、二振りの小太刀で受け流す。
 返す刀で相手に切りかかるも、バイブレーターの振動と硬軟一体のアナルビーズではじき返された。
 二合、三合と打ち合って行くにしたがって、彼の中で相対する相手が、寸分違わず父の技であると確信する。

「恐ろしく腕が鈍っているぞ恭也、恐れ、不安がにじみ出るような太刀筋だ」
「クッ……」
「私が倒れ、居もしない難敵に挑み続けても何かを守るための力は身につかん。
ならばこそ、愛するものをしかと心にとどめておかなくては私のように不覚を取る羽目になる」
 獲物を収める父のパンツ、膝を屈する其の息子。
 書いていて思ったんだが上記のような表現でも卑猥なものに思えてしまう当SSの狂気。
「ならば、それならば、なんであんな怪我をして帰ってきたんだ、父さん……
母さんも、俺達も置いてゆくところだったじゃないか」

「それは正直すまんかった。
だがしかし、私の愛は尽きることが無い、こうやってパンツに残留思念を残して尚、
お前達が生かしてくれている自身の体には熱い思いが駆け巡っているのだから」
「---------------------------御神にそんな技が……」
「すべてを伝えるまで、私は死ねないさ」
 父のパンツがなのはを促し、大切な其の家族をしっかりと抱きしめる。
「待っていろ、もうすぐお前たちの所に帰るからな」

 二人は其の心地よい絆に目を伏せ、そしてしばらく後、忽然と抱きしめる腕の感触が消えたかと思うと、
一陣の風が過ぎ去るがごとく、父のパンツは姿を消していた。

「おにいちゃん……」
「ああ、なのは。
父さんのところに行こう!!」







 そして、高町士郎は目を覚ました。
 しばらくは己のおかれた立場に戸惑っていたようだったが、一家総出で涙を流しながら迎えてくれたことには、
どうやら不覚を取りながらも無事に帰ってきたのだ、と安堵した。

 まどろみの中、覚えていたことはなにもない。
 故に問いたださねばならないだろう。

 「------------------なあ、どうして布団の上に俺のパンツが置いてあるんだ?」



[25078] 承前~R1編~
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/07 22:21
サッカーボールをおいかけた少年が、車道のほうへ飛び出した。
そんな光景を目の当たりにしたならば、たとえ聖者にあらずとも、必ず人間の体は動く。

 今、このSSを読んでいる諸君の体も必ず動くだろう。
 幼い命を救わんと、己が身の最速をもって助け出そうと駆け出すだろう。

 そういった意味では、この作品のオリ主も、君たちとそう変わらない青年であった。
 見事に目的を完遂し、助け出した其の子供にいくつか言い聞かせた後、その場を去る。

 だが、そんな帰り道、彼の亡骸は無残にひき潰された姿で発見された。
 運命が、其の天秤をつり合わせたかのように、青年はこの世を去ったのである。

 しかし検死に当てられた其の死体、結果を見て誰もが首を捻る。
 其の身に、そして現場に残されたタイヤ跡はあまりにも大きかった。
 全長18メートルは下るまい、正直日本の道路を走る余地も無いほどの大型自動車にひき逃げされた青年。

 この事は、日本にいくつもある未解決事件の一つ、もしくは都市伝説の一つとして誰もの耳に入ったが、
やがて風化して消えていった。
 青年に家族は無く、ただ警視庁のファイルにはさまれた、一枚の紙片としてしか、彼は『かつていた世界』に痕跡を残さない。

 それはある意味、幸福な結末であったのだろう。







「ここは、どこだ?」

 見慣れぬ草原であった。
 おぼろげながら、自分が---何か物々しい---巨大なトラックにひかれる寸前までのことは覚えているが、
ここは聞き知った三途の川ではない。
 小鳥のさえずりが聞こえないことが、いっそ不思議なほど穏やかな風景。
 しばらくそれらを眺めていると、遠くからエンジン音が聞こえた。

 それは、かつて流行したスーパーカーに似た存在だった。
 青年が駆け寄ると、2・3度ヘッドライトを点滅させ、語りかけてきた。
 彼が、其のスーパーカーが、である。
『遅くなってすまない    君、急なことで動揺しているだろう?』
「なんと!?」
 急展開に目を見開く青年、スーパーカーは来た道をゆっくりバックし、距離をひらくと、



 ------変形した。
全長7メートル程度の蒼いロボットに、である。



『私の名はセイザー。
君たちが言う神様が指名した<観測機構隊>の一員だ』
「セイザー……そうか、神様の名を出すということは、私は死んだのだな?」
『そうだ、本来ならあの少年を突き飛ばし、君が身代わりになって轢かれるはずだった。
わざわざその場を離れてから君をここへ呼び足したのは、君にお願いがあったからだ。
回りくどいことした』
 セイザーは頭を下げる、自分より大きな其の機械を手で制すると話を促す。
「それで、死んだ私はどうすればいい?
自分が昔坊主に聞いた話ならば、49日のたびを経て、仏の弟子になるとの事だったが……」
『ああ、その事なのだが。
かつて勇気あるものは、オーディンという私の上司が天界の兵にしていた』
「かつて、とは?」
『今は君たちの言う天国で、戦争は無いということさ。
だがしかし、その地を狙う亡者達は組織化し、さまざまな平行世界を新たな自分の住処とし、
侵略を始めたのだ。
頼みがある、君は私の知るとある世界に行き、そこで第二の生をすごしてほしい』
「------転生、というわけか?
だが、そんな事をして君たちにはどんなメリットが?」
 一つ頷くとセイザーは言う。
『其の世界における私達の旗印になる、いわば所有権を行使できるわけだ。
亡者達は争いと混乱を望むので、身を守る特別な力はつける。
最低限だが、其の世界で生きて少しだけ活躍できるだけの力を。
礼とはおこがましい程度の、だが……』

 俯くそのロボットを、勇気ある青年は笑い飛ばした。
「わずかな力も必要ない。
もう一度生きて、何かを為す舞台を与えられるなら感謝するよ。
それこそクトゥルフ印の機械神でも、億単位の異星起源種であろうとも力の限りあがいて見せよう。
------其の世界の人間として、ね」
 青年はヲタク野郎であった。
 苦難の道ですら、これから始まる冒険を前にして心躍らせるほどの、重度な。
『ありがとう、それでは早速ゲートを……』

『まぁぁてぇぇぇぇぇぇい!!』

 しかしまた変なのが出た。
 今度は身の丈はセイザーと同程度、漆黒のいかにも悪そうな奴だった。
 ------角も生えている。
『また手下を送り込もうという魂胆かぁ、セイザー。
そうはさせんぞぉ』
『また貴様か!時空暴君ティンダロス、いい加減にコーディーの体を返せ!!』
 太ももから拳銃のような武器を取り出し、構えるセイザー。
 青年の胸熱、彼は萌えより燃え派である。

『ふはははは、送り込むのならまあそれでもよかろう。
だがコレを見るがいい』
 宙から巨大なキャノン砲を取り出して構える時空暴君。
 セイザーはそれを見て後ずさった。
『なっ、それはクロスオーヴァー・キャノン!?
あの子も貴様の手に落ちていたのか!!』
『その通りよ、こいつを其の男にぶっ放して、設定過積載の最低系SSオリ主にしてくれるわ!!』

 急に話を振られて困惑する青年、だがしかし、そうはさせんと立ちはだかるセイザー。
 地平線の果てまで届けとばかりに、其の名を叫ぶ。



『インガロォダァァァァァァァ!!』



 土煙を上げ此方に走りくる巨大な車体、前輪を持ち上げ瞬く間に巨大なヒトガタへ姿を変える。
 青年はその大型車に見覚えがあった、己を跳ね飛ばした車であった。
「転生トラックが……変形しただと?……」
 トォゥ、と空を舞うセイザー、其の巨大なヒトガタに貼り付けになると、其処へTの文字があしらわれた装甲が降りた。



『輪廻合体------テンッ・セイザァァァァァァァァァァ』



 拳が飛び出し、セイザーの顔を隠すようにチンガードが降りると、其処に幾多の二次創作を守護する無敵の巨神が爆譚する。
 もしかしたら、君たちの元にもインガローダーは走り来るかもしれないぞ?


『パラダイム・ブレードォォォォォ!』
 地面に輝ける湖面が現れ、テンセイザーが巨大な剣を引き抜いたそのとき、
『おそいわッ!バッドエンド・ブラスターァァァァァァ!!』
 時空暴君の手にある砲が漆黒の光帯を放つ。
『早く!早くその湖に飛び込むんだッ』
『だがしかし!テンセイザー、君は……』
『私に構うな!異世界を頼んだぞ!』
 巨大な剣が黒い光を裂く、だがしかし、飛び込む瞬間ほんのわずかにソレを、青年は浴びてしまった。

------思えばそれが、ミソの付き初めかもしれない。

『------リリカルなのはの世界をッ!!』
『……ぁるェ----!?』

 そして、思いもよらない自身の行き先を聞いて、ずっこけた上に頭から次元の狭間へ突撃することになるのである。







「---------そして、9年の歳月がすぎた、か」
 オリ主、名をアールワン・ディープパープリッシュ・ブルーメタリック・カクテルは海に遠い視線を向けた。
 年月が過ぎ去るのは早いものである。
 あまりに過積載な転生の顛末ゆえ、お袋のまたぐらから這い出た苦痛もそこそこに、
泣くのも忘れてポカーンとして看護士たちを慌てさせたのも遠い過去の話。

 父は無く、母はミッドチルダからの移民系でSMクラブのM嬢で生計を立てている以外は取り立てて目立つところの無い、
そんな身分に自分は生まれ落ちた。
 
 魔法の才も母親が乳飲み子のときあやしていた言葉『将来はBランクぐらいまでいきまちゅかね~あーちゃん』くらいまで
行くとは思っている、だが、それだけだ。

 加えて転生者頼みの綱である『原作知識』も二次創作をざっと見たぐらいの、穴だらけの知識しかない。

 だが何よりも彼を悩ませるのが一種のレアスキルである。
『パンツをかぶると持ち主の経験・特技を自分の者に出来る』というものである。
 あんまりにアレなので、これは母親にも話していない。
 正直母親の職場で同僚の下着をかぶってハイハイを覚えた、とは言い出しがたいものである。

 原作の介入が出来るほどとは、到底言いがたい。
 いまでは暢気に小学校に通いながら母親相手に主夫業などして過ごしているだけだ。
 コレではいけないと考えてはいるのだが……。

「------------------正直、彼女達は強い。
自分が座れるイスはシリーズ通してのライバル的存在、ぐらいだと思うんだがなぁ……」
 この作品の主人公達は、幾多の悲しい出来事にも膝を屈せず、幾人もの友人達とそれを切り開いて行ける。
 助けが必要も無い、眩しい者達ばかりなのだ。
 自分がここにいる必要など、これっぽっちも見つからないのである。
 友は、あの巨神はどうして自分をこの世界に遣ったのだろう。
 つま弾き感が満載だ、自身の名前もバイクだし。







 そんなことをつらつらと考えながら後ろを振り向いた其のときである。
 俯きながらブランコを小さくこいでいる幼女を発見した。
 特徴的な栗色のツーテール、高町なのはである。

「アレが……魔王かッ……」

 無意識のうちに固唾を飲んでしまったが、幸い今の彼女からはプレッシャーなどかけらも感じぬ。
 と、いうか目に見えて落ち込んでいた。
(そうか……いまは『ぼっち期』父親は入院中といったところか……
む?高町士郎------使える!!)

 オリ主は駆け出した、腐ってもかつての主人公、高町恭也が使う永全不動八門一派の技ならば、
これから始まる本編の末席にでも食い込める戦闘力を手に入れられるのでは!?

 最後にもう一度振り返り、力ない幼女の姿を目に留める。
 あまりにも切ない其の姿に思うところもあるが、今の彼女に出来ることは、自分にはきっと無い。







------問題は、男のパンツをかぶっても己のレアスキルは発動するかどうか、という所である。

 高町士郎の病室には、いまは誰もいない。
 家族は遅い昼食にでも、戻ったのであろうか?

------幾度か試してみたのはすべて女性の下着、高揚感とともに己が服を脱ぎだした以上ネタ元になったのは『アレ』に違いない。

 いくつもの治療機器につながれた高町家の大黒柱、裏の世界に其の男ありと歌われた高町士郎、
今は血の気のない表情で静かに眠っている。

------だがしかし、所詮は15年前の変態表現、21世紀を生きたヲタク野郎ならばジェンダーの壁ぐらい…

 傍らには家族が用意したであろういくつかの荷物、必ず必要になると確信の上、用意された着替えの中に…

------------かくしてオリ主の手に男のパンツは納まった------------

「……あった……」
 コレをかぶれば、自分はもう平穏な日々には戻れまい。
 けして日の光の射さぬ道を行き、人には唾を吐かれよう。
 なぜならば、男のパンツをかぶってハァハァできたならば、ある意味ヤツ以上の変態なのだから。

 アールワンは高町士郎にしばし頭を下げ、そして意志を固めた。
「逝こう、針の筵の上であろうと、灼熱地獄の道程であろうと……
あの乙女達の前に立ちはだかり、この世界に幾ばくかの彩りでも添えられるならば、
後ろ指を差されよう、嘲笑されよう。
今このときばかりは、高町士郎のパンツよ……私を導いてくれ」

 この友情が主題の世界において------------------
 強敵(とも)と呼ばれることを望んだ、それがオリ主の誓い------------------



「Live Better! (歪みなく生きろ)」



 意を決し、広げたブーメランパンツに顔を突っ込む。
 未体験のフィット感、だがしかし、これが高町士郎のパンツだと頭が認識した其のときであった------

「う、う、うぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぐぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぎぁっぁあぁぁぁおぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁあっぁぁぁぁぁ!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 脳髄を侵食する御神の理念、高町士郎という男の生涯。
 理解不能の苦痛であった。
 そして瞬く間に侵食される、転生前後30年の己の意思------------

 最後に思い出したのは一人ぼっちのさびしそうななのはの姿。
 そうか、父よ。
 行くのだね、さびしそうな娘を救いに。

 己が意思に反して動き出す体、最後の力で笑みを浮かべると、オリ主は意識を手放した。
 男のパンツに隠された、それは男の顔だった。







「臓器活動停滞、四肢も全部複雑骨折しています!!」
「目立った外傷も無いのに……矢沢先生、この子どうしてこんなことに……」

 オリ主はストレッチャーに乗せられて、鳴海総合病院の廊下を行く。
 アールワンは病院に隣接した街路樹の隅で、ボロ雑巾になったところを発見された。
 士郎の寝室で顔からパンツをはがした跡、這うような速さで其処まではこれたのだが。
 正直子供の体で御神の技は反動がきつすぎたらしい。
 再び薄れ行く意識で横を見ると、目の覚めた士郎を中心に高町家全員が抱き合って泣いている姿。

 よかったな、高町なのは……
 だがしかし……

(生涯、お前達家族の下着だけは、かぶるまい!!)

 オリ主は、そう心に誓ったのだった。



[25078] 【無印編一話】かつて死に、甦るべく足掻く侠(おとこ)
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/07 22:22
---------はい、こちらです。
ご足労いただいて恐縮です、バニングスさん。
 警部、保護者の方がお見えになりました」

 光の射さぬ、其処は廃ビルの一室。
 二人、制服姿の警察官が固め、中ではスーツ姿の男女が注意深く中を観察しているところであった。
「中へお通ししてください」
 そしてもう一人其処へ追加、こちらも同じくスーツ姿。
 しかし徹夜続きの彼らに比べ、一目で仕立てが違うと見て取れる逸品。
 だが、何よりも『違う』のは其の身に纏う威圧感であろうか。
 そのはずであろう、呼び立てたのは国内だけでも両の手に治まらぬ有力企業を取りまとめる『バニングス・グループ』の雄、
常人ならば経済新聞の一面でしか姿を見ることのない男である。

 いかめしい男である。
 其の名を、『デヴィッド・バニングス』発言力と行動力だけで経済という怪物を制御出来る数少ない、
本物の侠であった。
「今回は久しぶり、という挨拶ができるね、警部」
「恐縮です、毎度後手に回る事をお詫びいたします」
 深々と頭を下げる官僚、瞼のみで答えるデヴィッド。
 付き合いも長くない、過ごした年代も立場も違う。
 それどころか歴史も価値観も違う、別の国で生まれ育った二人。
 そんな二人の関係を的確に語ろうとするならば、図るに尤もあいまいな、比喩表現に頼るしかない。

 大魚とコバンザメ。
 もちろん大魚とは個人の事である。
 有史以来脈々と続いた『警』という仕事すら、本物の個人を前にすればそれは群れに過ぎぬ。

「それで、お嬢様はご機嫌いかがでしょうか?」
「何かあったのならば、私はここにはおらんよ。
気丈さも娘の物ならかわいさ然りだ、今朝も学友と登校した」
 辺りを見回す丈夫、血の跡もなく、ただ所々に見える傷痕のような斑模様が壁に目立つのみ。
「今回の狗はどのような犯行だ?
若いと聞いている、遊び金ほしさか?」
「はい、拉致したほうは『そうなります』ですが、『お嬢様』を助け出したほうが問題でして……」
「------『善意』か?」
「---はい」
 重々しく目を伏せる二人の男。
 第三国より買い付けた『餌』---娘の影武者---を使い、実の娘を脅かす影を囲う。
 暗に『漁』と呼ばれているその方法が長きの間、この国の子供達を健やかに---犯罪とは無縁なという意味で---
育てる土壌となっている。
 国、など所詮人が作ったシステムに過ぎぬ。
 安全など、蓋を開ければ見るに耐えぬ色をした土嚢で壁を成さねば成り立たず、強者は大なり小なりそれを支える義務を負う、そうあらねばならないのだが……
 国を挙げての罠に、かかってはならないものが罹ったのだ。



 善意は図(はか)れぬ、善意は侮(あなど)れぬ、
そして理(ことわり)や謀(はかりごと)など容易に食い破る牙を持っているのだ。



「------『私のかわいい娘』を助け出したのはどのような男だ?
イケているのか?」
「------イケています、但しムケてはいないかもしれません。
 アールワン・D・B・カクテル、14歳。
おととしの春から天涯孤独の身で、其の頃から様々な厄介事に首を突っ込んでいます」
「それも喜んで、だな?
いわゆる中二病というヤツか」
「パンデミックの大本ですからね。
十四歳にならない人間は居ず、また大概の人間はそれを抜け出せない」
 其の象徴があれです、そう言って白いテープで括られたソレを指差した。



「------下着、だな、女物の。
どうしてコンクリートに突き刺さっているのか……」
「触れぬようにお願いします、人の手で触れるとなぜか柔らかさを取り戻します」




 同様のことが何回かありまして、と言葉を濁す警部。
 1と書かれた紙片が添えられた少年の遺留品、男なら気を取られずにはいられないソレ。
 自己顕示欲を表すには不適切だ、普通は花かカードあたりを残すものであろう。
 斯く言うデヴィッドだって日本で商売を始めたからには印象的な名刺の渡し方ぐらい100通りは身につけている。

 名刺で大根を切るくらいは容易だが、流石にパンツで大根は切れぬ。

 手段も不明なら動機も不明だ。
「不可解だな…其の少年にステディ……ガールフレンド?はいるのか?」
「恋人、とかそういった類の知人は居ないようです。
 ただ厄介ごとに手を貸した女性へ度々下着を要求することが有るようでして……今回のソレも其の時の物でしょう。
 荒事に割り入るときは……もう本当に残したくて残しているだけなのだ、としか思えません」
「------若いな、若々しい」
「---14歳ですから」
 しばしその小さな布切れを眺めていた二人だったが、やがてデヴィッドは何かに気づいたように唸る。

「もちろん其の少年は泳がせておくとして……何か礼をしたいが、彼は報酬はパンツ以外受け取らないのだね?」
「はい、生活費も故人である母親の遺産を切り崩したり……あとは其の仕事の関係から多少の掩護を受けているようですが、
裏のほうからはまったく金銭を受け取らないトラブルバスターですね」
「なるほど……荒事に使うのは銃か?」
 刑事は首を振った。
「光の剣(ビームサーベル)、だそうです。
十中八九違法改造したスタンガン、か何かだと思いますが」
 なるほど、と丈夫は思った。
 其の位メイドロボでも積んでいるご時勢だ、若者が息巻いて振り回すには似合いと思える。
 あるいは剣で、裏で有名な『御神』とも何かつながりがあるやもしれぬ。
 
 何はともあれだ、デヴィッドは懐から携帯電話を取り出すと会社に電話をかけた。
「どちらへ?」
「社へ営業方針の連絡だ、其の少年への意趣返しでもある」
 数秒後、彼は告げた。



「……私だ、各アパレル方面へ連絡。
今期の商品展開は女性下着に注力しろ------そうだ、パンティーよ。
センターにリボン一つなどというつまらない形は市場から一掃するくらい徹底敵にだ、そうだな……。
携帯電話にぶら下げられるくらいファッショナブルにやろう.
バニングスの本気を見せ付けてやれ!!」



「積んだ……」
 今回、警視庁真の目的は『女性下着の流通経路』を使った情報操作であった。
 少なからず警察も弱みを握られている以上、バニングスグループをそれとなく抱き込んで、
 件の少年を囲い込むか、鼻薬の一つでも嗅がせてやる魂胆だったのだが。



------------さて、長々と書き連ねて申し訳ないが、伝えたいことは一つ。
------諸行無常の世の中も、結局善意で回っている。






 不思議な夢を見た其の日も、高町なのはの朝は遅い。
 尤も、一般的な小学生女子の寝起きから見れば及第点であり、パジャマ姿でリビングに下りてくることも無いならば、
行儀も良いといえるだろう。
 誰からも愛される自慢の娘だ、そう高町士郎は思っている。
「おはよう、なのは」
「あ~、お父さんまた新聞読みながらご飯食べてる!」
 などと妻の小言を先んじて言う様など無理に背伸びしている感が見え見えなのだが、素直にソレを折りたたんで脇に寄せる。
 笑いを噛み殺している次女は後から訓練で扱くとして、少々聞き捨てならないニュースがあったのは事実だ。

 この町で誘拐騒ぎがあったのである。
 尤も、彼からすれば取るに足らぬ『ちびっ子ギャング』のバカ騒ぎである、多少の報道管制を差し引いても、
娘を---ひいては家族を---脅かすには足らぬ騒動では有るのだが。
 かわいい娘が傷つく事態があれば、問答無用でぬっ殺してクレル!!

 そんな事を考えていると、長男が声をかけてくる。
「父さん、箸が四本になってるぞ?」
 コレはミステイクだ。
 どうやら力が入りすぎてしまったらしい。
 作りかけの五重の塔(割り箸製、長男の趣味)あたりにへし折れたそのた残骸を放り投げると、
ふと恭也の視線も新聞に向いているのに気がついた。
「なんだ、お前の箸もゆでる前のスパゲティの断面みたいになってるじゃないか恭也?」
「本当だ、父さん木刀もってこよう木刀」
 質実剛健、そして常在戦場。
 頼りになる息子もいる。
「ハイハイ二人とも、そんな獲物(もの)でご飯食べないの。
早くしてね?遅れちゃうわよ?」
「「はーい」」
 はっはっは、お前はそんなに急いで食べなくてもいいぞなのは。
 やがて全員の茶碗が空になる頃、高町士郎は自分のために珈琲を一杯入れるのだ。
 コレも仕事の一貫である、彼は喫茶店のマスターであった。


「ほらなのは、出かける前にご挨拶しないと」
「はーい」
 ……しかし、ごく一般的な中流家庭の自覚がある、我が高町家ではあるが。
「「行って来ます!!」」
 拍手二つ鳴らして神棚に頭を下げる二人。

 どうして家の子供たちは、ずっと自分のパンツを奉っているのだろうか。







 なのは曰く、今日出た課題は紫式部より難解な問題なの、である。
 取り付く島の無さは過去に向かうより遥かに無謀なの、である。

 要するに『将来の夢』を書いて提出しなさい、などといわれたの、である。

 なのははアリサ・バニングスと月村すずかという友人二人と下校中、思考のロッククライミングを続けながら、
学習塾への道のりを歩んでいた。
「だから大丈夫だって、なのはちゃんにしかできないこと、きっとあるよ?
ランジェリーショップの店員とか」
「そうよばかちん。
グラビアとか出したら馬鹿男子も喜ぶわよ?」
「もう!二人とも、わたしだって日がな一日中ぱんつの事考えてるわけじゃないよ」
 流石に怒り出すなのは、だがしかし相手にする二人は呆れを通り越して苦笑い気味だ。
 ランチタイムにも、同じ話題を持ち出したばかりなのだから。
「だってなのは、この前家に来た時だって勝手に人のタンス漁って『いいねいいね~可愛いよ~』とか言いながら
携帯でバシバシ撮影してたじゃない」
「違うもん、その人がどんな『ひととなり』をしているか知るためにはドレッサーを空けて見ろってTVで言ってたんだもん」
「……なのはちゃん、それ多分本棚だと思う」
 果敢に突っ込みを試みるすずかであったが、熱くなった二人は華麗にスルーした。
「へーえ、ちなみに私がどんな人間か、アレでなにかわかったってーの?ええ!?」

 息巻く金髪とは間逆に、何か言いずらそうにもじもじすると、耳を貸せとゼスチアするなのは。
「------意外とダイタン(こそっ)」
「あ、あ、あ、あんたわ~!!」
 キャーとはしゃいで逃げるなのは、頭から湯気を出して追いかけるアリサ。
 溜め息一つ吐くと、すずかはふたりに追いついた、縮地法で。

 だがしかし、不意に歩みを止めるなのは。
 遭えなくランドセルに正面衝突したアリサが鼻をさすりながらあによ、ろうしたのよと聞く。
「声が聞こえる……誰か助けてって」
「声?」


 そして---------物語は幕を開ける。







 男やもめ、と来ればどうしても部屋は荒れ放題になるものだ。
 母が他界してまだ三年というのに、その部屋は様々なものが散乱していた。

 プロテインの缶、脱ぎ散らかされたボンテージ、刀剣類、三叉のローソク台、五輪の書、未開封のTENGAEGG、など。
 床を埋め尽くすほどに侵食された様々な雑貨は等しく住人の人柄を表している。
 彼は無言でダンベルを上げ下げしていた其の手を止め、夕日が沈みかけた窓を見やる。

「そろそろか・・・」

 三年で無造作に伸びすぎた後ろ髪を麻紐で硬く縛り上げ、鋭い眼光を収めた顔は削げ落ちたかのように鋭く。
 すらりと伸びた背に、魔導師としては破格の筋肉をまとった男である。

 侍、というよりは武芸者、ひいては求道者に近い、其の男------オリ主。
 アールワン・D・B・カクテルである。

 ------昨夜・二十と二つに分かれて落ちる流星を見た。
 ---願い事をしてはいけない、凶星の類だ。

 彼は書架から一冊のハードカバーを抜き取り、黄金のスツールに腰を据える。
 半ば引かれたカーテンは其の部屋に濃い陰を作り出し、唯人ならぬ術を操る少年を覆い隠す。
 彼は固く瞼を閉じ、其の書物を開いた。
 唯の書物に見えたソレは、あるいは真に魔導書の類であれば格好がついたやもしれぬ。



 結局頁は唯のアルバムであり、其処に収まっていたのは女性のパンティーであった。
 几帳面にナンバリングされ、どのような事件の報酬であったかメモが添えられている。



「---------良し、幻聴など聞こえてこないな」
 欠けたる其の一ページ、昨夜……なんかこう原作キャラ似の幼女をかどわかしたおにいちゃん(wを成敗しようかという折、
胸元から『私を使えッ!!』とか聞こえたので、全力で床にたたきつけた。
 ザシュッ!とかスパァァァァンとか気の利いた音を響かせ突き刺さったパンツ、すでに何枚目かなど覚えてはいない。
 アールワンが取り貯めたパンツは、すでにアルバムにして4冊目に届いていた。
 逆に言えば、コレだけの下着を被らずに荒事を収めてきた自信の表れともいえる。

 母が事切れる直前まで、この身に焼き付けた魔法の冴え。
 形見のストレージデバイスと様々な暗器を隠し持つ技のみで------本来与えられる力のみで『原作』を乗り切る心は決めた。
 不安故胸元に下着を偲ばせる事は無く、職質されたら一発アウトなどという危機も今日で過去の話。

 良く堪えてきたとオリ主を褒めてやってほしい。
 この数年は、禁煙中に美味そうな葉巻に火を灯される様な日々の連続。
 被るべきパンツを被らずに過ごし、彼はこの二年を戦い抜いてきたのだから。

「さて……今夜あたり魔法少女の誕生か……どのような形で介入を始めるべきか------」
 無意識で手触りの良い一枚を引き剥がし、手で弄びながら今夜もオリ主は自問自答を始めた。


 ---------脳裏に少年の、助けを求める声が響く。
 今宵の其れは、幻聴ではない。



[25078] 【無印編二話】獣・鳳・そして生まれ来る少女
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/02/06 06:33
 夜更け、というほどの時間ではない。
 アールワン・D・B・カクテルは其の身に武装を伴って部屋を出る。

 ロングコートに短杖(ワンド)が一本、足元をショートブーツで固めてはいるが、少し視線を上げれば素足が見える。
 細身のシルエットであった、一見しただけではただの露出侠にしか見えぬ。
 だがしかし、其の外套の内には数で押し寄せる大の男達を数分で悶絶せしめる不思議な道具が山のように仕込まれていた。
 脅威が外見でわかるような獲物は、争いならぬ、裏達との競り合いには火に油をそそぐだけ。



 君だってエロ本は隠すだろう?当然の事だ、君は間違っていない。
 武器などという、後ろめたいものは隠すべきなのだ。


 だがしかし、今はそんな凶器の産物たる武器を包む皮たる其のコートに注目していただきたい。
 裾に、袖に、襟に加えて前合わせの部分に至るまで執拗な『紋様(エングレービング)』が施されたソレ。
 パーツの一つ一つが幻想的な印象を漂わせる、まるでコス・プレイを思わせる上着。
 其の名を『バリアジャケット』という。
 正しく防具だ、激安の殿堂では吊るしていない。
 魔術で編まれたその戦装束を身に纏えるのは魔導を嗜む戦者のみ。
 拳銃弾すら撥ね退ける、むしろ多々の武器よりも、よほど不思議な装束であった。



 さて、行くべき道を早足に歩くアールワンであったが、侵食する世闇を切り裂くように甲高い電子音が鳴った。
 「------------------もしもし?」
 黒電話の受話器のように、其の耳に手にした物を押し当てる。
 其の名を『デバイス』という、魔導の杖である。
 万能にはほど遠い、それどころか外の世界では普及品である『ストレージデバイス』と呼ばれる物であり、
おまけに十年以上の型落ち、挙句とある機能に特化しすぎているため手放しの通話すら取れない不便さである。
 なぜこの『デバイス』をむき出しで持ち歩いているか、其の説明は後述するものであるが……。
「へっへっへ、あっしでゲス、ぼっちゃん」
「---------古着屋、なにかあったのか?」
 あまり進んで聞く気にはならない声である。
 通話の相手は、商業地の片隅で女子の体操服やスクール水着を商う男であった。
 商品は軒並み洗濯されておらず、そのくせパッケージングは執拗、という矛盾した品揃え。
 女物の服を扱っているにもかかわらず、女がそれを買い求めるところは見たことが無い。

 ……なぜだろう?どうしてだと思う?

 さて、その古着屋の風貌や性格を表するならば、だらしのない単なるおっさんであった。
 語尾に『ゲス』と付けるだけある、文字通りのゲス野郎なのだが、実は裏の顔がある。
------------------情報屋である。
 其の男の店は、上っ面も中身の方も相応の品揃えであった。

「いやね、急な話でゲスが、どうも今夜港で世界中の珍しい動物を集めたサーカスが開催されるようなんでゲスよ。
ぼっちゃんは興味があるかと思いまして」
「---------で、招待客は大枚はたいてそれらをペットにしたがってる、と?
残念だが今日は予定が入っていてな、見聞を広めるには良い機会と思うが……」
 動物が嫌いというわけではない、ましてや敷物にされつつある珍獣を思えば傷む心根もある。
 だが今日は駄目だ、魔法少女がはじまるからだ。
「……ところで、その珍しい生き物は二足歩行で上の方が出っ張ったりしていないだろうね?」
「その辺は大丈夫でゲス、ずいぶん心配性ですな」
 その言葉、返してやりたい。
 母親の店で常連客であったゲス野郎、たいしたサディストであったのだが、其の母親が死したる後、
率先して自分の『後援会』なる物を立ち上げた張本人。
 別にオリ主のケツを狙っているわけでもなく、ただおっさん達から金をかき集めてよこすだけ。
 そのくせ頼んだ裏の情報は、危ないものに反比例して話したがらない。
 まあ、其の分二束三文で『うっかり口を滑らせてしまう』ことも多いが。

------------------しかし、それにしてもだ。
どれだけ愛されていたんだ?自分の母親は。

 古着屋は言う。
「……でもね坊ちゃん、どうもそこへ望まれないお客さんが訪れそうなんでゲス」
「ほう、くわしく聞かせていただきたい」
「槙原っていう美人で評判の獣医さんがこの前相談に来たでゲス。
まあ、仕入れなら喜んで受けさせていただいたんですがね……どうもアデリーペンギンの移住先が気になったみたいで」
「話したのか?今日のわくわく大サーカスを!!
フラフープ回しとか面白い催しなんてないだろうに!!」
「ゲス……寧ろまわされるほうでゲス……」
「助かる、すぐに向かう」
 両方めぐって間に合うか、といった時間である。
 まあ、一般人が懸念していた魔道がらみの問題に巻き込まれる恐れはなくなっただけでも、良しとしようか。

「気をつけるでゲス、まあ終わったら店にも顔を見せるでゲスよ。
未亡人の2日ものを擁して待っているでゲス」
「其れはいらんよ……だが報酬は払おう、いくら用意すればいい?」
「坊ちゃんからお金なんてもらえないでゲスよ……ただね、お家のね?
タンスの奥におっかさんのパンツとかあったら何枚か分けてほしいな~なんて」
「ッッ!?全部焼いてしまったといっとろうがフェチズム親父!!」
「無いんでゲスか!?どうしても無いんでゲスか!?
一枚だけでもくれたら、後援会のメンバー車買える額ぐらいポンと出すでゲスよ!?」
 あると確信している声だった、実際あれだ、魔道書の一ページ目を狙ってるような声だった。
「サディストの面汚しどもにヨロシク!!切るぞ!!」



 さて、もちろん情報屋は件の『槙原』なる獣医が、アットホームな寮経営をやっている事を知っているわけであるが……
有り得ざる未来は語らぬが肝要である。







 時をいくらか早廻す。

 黒い影が多い尽くすその槙原動物病院にたった一匹、残されていたユーノ・スクライアは窮地を脱すべく孤軍奮闘していた。
「どういうことだ……ここまで思念をかき集めたら形になってもおかしくないはずなのに……」
『Details are uncertain. (詳細は不確実です。)
It proposes the maintenance of [musukai] and it proposes to wait for the rescue in top priority.
(それはmusukaiの維持を提案します、そして、最優先における救出を待つよう提案します。)』
 胸元のレイジングハートは冷静に少年を促すが、其の義務感からか、あるいは蛮勇とも取れる前進を続ける。
 いかに少年が得意とする結界技術を用いても、いずれこの影に圧されてしまうのは明白。

 ユーノはこの不可解な現象の源を知っている。
 魔法世界においても禁忌とされる危険な遺失物『ロストロギア』の暴走、それを封印すればこの悪夢に似た光景も
沈静化するはずである。
 或いは------あふれかえるエネルギーが次元震と呼ばれる崩壊を起こすのが先か……。

(駄目だ、この世界は優しい人たちばかりだ。
僕の責任で散らばったジュエルシード……全部集めてこの世界を助けないと)

 一つ目のジュエルシード回収の折、力尽きた自分を抱き上げてくれた少女。
 治癒魔法など存在しない世界で懸命に自分を生かそうとしてくれた女医。

 何一つ譲れないものばかり、今一度魔力をこめて結界を強化し、この闇のどこかにある石-------ジュエルシードを探す。

 用事がある、といって自分の頭を優しく撫でた、あの女医がこの場から去っていて良かったと思う。
 彼女まで守りきる力は、病み上がりの自分には無いだろうから。

 そして自分の呼びかけに答えてくれた、魅力的な少女。
 一目でわかるほどの魔力量、助けを求めればこれ以上無い力になってくれるとは思うが。
------------------それは自身の蒙昧であった。
------------------------------------あの笑顔を巻き込むほどに、自分の意思はヤワじゃないッッ!!





 だが、そんな悲痛にして誇り高き意思の持ち主を、世界は見捨てるはずが無い。
 少年に、力強くも暖かい、蒼天のような輝きが声となって届けられる。
(フェレットさん!この中にいるの?助けにきたよ-------今そっちに行くからまってて!)
「駄目だッ、来るなァァァァァァァァ!!」




 脳裏に響く助けを求める声に、高町なのはは今一度家を飛び出した。
 この不思議が、下校時助けたあのフェレットと関係している事はもはや確信の域である。

 然り、たどり着いた其の動物病院は不気味な黒い影に覆われていたのだから。
「------------------------------------あつっ」
 思いよとどけとばかりに中にいるであろうあの小動物に念じると、其の陰に手を伸ばす。
 だが、触れた指先からこの世のものとも思えない熱が返ると、なのははとっさに手をひっこめた。
「……まけない」
 もちろん、其の程度であきらめる少女ではない。
 再び意を決すると、なのはは普段着のスカートの中に、己の手を突っ込んだ。

 少女は知っているのだ、不可思議に対抗する術を。
 パンツには遍く魂が宿り、必ず誰かを守る力を示してくれるものと!!
(持ちこたえて私のパンツ!お父さんのパンツのように私に何かを為せるだけの力をみせて!!)

「とぉぉぉぉぉ・どぉぉぉぉぉぉ・けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!」
 両の拳に己がパンツを握り締め、少女は再び闇に突貫した。







「手錠を外しなさい!一体何をするつもりなの!?」
「------------------ブリィーディング・タイム」

 男達は己のズボンを降ろし始める。
 希少動物の密輸業者達が集まる会合に単身割って入ったはいいものの、案の定捕らえられている槙原愛。
 
 囚われの乙女が行き着く先はどうしてこうも予定調和なのか、そんな哲学を語る暇も与えぬほど、
 捕食者達は下品なパンツをはいていた。

「怖がる事は無いのです、ほぅら、野生の動物達も生まれ来る新たな命を祝福しているのですゥゥゥゥ」

 なんとわかりやすい変態であろう。
 ズボンを足首に下ろしたまま、ヒヨコのように迫り来る多々の男達、スリラー。
 乙女が恐怖に身をよじる様を楽しんでいるのだ。
 もちろん動物達があげるのはブーイングである、猛獣達が体当たりで檻を破壊せんと暴れ回り、
ペンギンは空から抜け出そうと飛んだ、進化したのだ。

 しかし己を戒める鉄球の足かせから脱する術も無く、唸り吼える声がむなしく大気を震わせるのみ。



 だが、よちよち歩きで迫る男達の足元に、気の利いた音を立てコンドームが突き刺さる。
「------------------ダレダッ!!」
 コートの下から垣間見える脛、揺るがさざる絶対領域。
乙女が、暴漢たちが、そして獣達がいっせいに其の姿を仰ぎ見る!!

「魔導師……アールワン・D・B・カクテル」

------------------------------------オリ主である。
------------------------------------------------------今宵は解り辛い変態であった。



「マドウシ……今裏を騒がせている変態の事かッ」
「…………そうか、もうこの世界では魔導師は変態と同義語なのだね……」
 天を仰ぐアールワン、いまだ見ぬ魔法少女達に心中詫びる。
「話は聞いたぞ破廉恥ども。
キャラクタービジネスに飽き足らず本国に『盗物園』を作るそうじゃないか。
子供達を楽しませるべきテーマパークをそのような形で開かせるわけにはいかん」
「ウルサイデース、やっておしまままままままままままーーー!!」

 神速を持ってリーダー格の恥骨に、袖から抜いたバイブレーターを押し付けるアールワン。
 超振動をもって身体の軸たる骨を粉砕したのだ------------------------------------腰が抜けたのである。

「キサマ!」
「何をスル!!」
「こっちの台詞だよ野球セット潰されたいか貴様らァァァァァァァァァァ」
 押し黙る男達、虜になった哀れな獣医の傍により、手錠を破壊する。
------------------魔法の杖にかかれば、こんなものは一瞬だった。

「よりにもよって本編ヒロインより先に『裸(ら)』を晒すとは恥知らずな奴ら、空気読め!!
時間も無いので今回は特別に初手から全力で掛かる事にしよう、『M2X-SS』!!」
『YEAH!!(うん)』

 正眼に其の杖を構えるアールワン、胸板の内側に宿るリンカーコア(魔力の源)に活を入れるように魔術を軌道。
「------------------バルカンソード!!」
『---VulcanSword』



 其の名を『M2X-SS』正式名称『試作型式二番〝ショートストック”』
 ------古き良き古代ベルカのバリバリな剣術とかミッド式で再現できたら面白くね?
 などという思想を『短射程魔力弾の超高速連射』などという力技で再現しようとしたら、湯水の如く魔力を消費する上に、
取り回しやすいようにサイズを小さくしたら部隊が機能する最低限の連携も取れなくなってあぼーんする局員続出。
 おまけに時々暴発もする。

 やがて其の思想は近代ベルカ式へと継承して行くのだが、現存するいくつかは折角作ったからと管理局の倉庫で眠っていた。
それを引っ張り出した母の形見である、さすがM。
 だがしかし、其の威力は低ランクの魔導師にとっては破格、今も獣達の唸り声に負けぬチェーンソーのような、
『アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』という轟音を発て、礼儀知らずを威圧する。

「行くぞ、根性棒の一閃しかと其の目に焼き付けておくがいい」







 やがて、というよりは最速で悪漢たちを成敗したアールワン、だが、時間のロスは大きい。
「ありがとうございました、ほんッ当に、助かりました」
 という槇原先生の心からの御礼も「うん…まぁ…気をつけなさいよ」みたいな心無い相打ちしかうてぬ。

 だがしかし、そんな二人の間に割って入るように1メートルもの巨大な鉄球が打ち下ろされた。

 大きい。冗談のように大きい其の鉄球に恐れおののく槙原愛、文字通り魂消た其の質量に感慨深いアールワン。
やがて、ライオンやベンガルトラをおしのけて、今まで囚われていた其の威容が姿を現す。

 全長4.5メートル、見上げんばかりのゼブラである。
大きさもさることながら、よく見れば体表が『萌え絵』に見えるという奇跡の個体であった。

 シマウマは年を取るとだんだん気性が荒くなり、人間になつく事はほとんど無いといわれている。
そんなある意味超越種が、われらがアールワンに牙を剥いたのだ。



---------ニイィィッ、と。









 そして、高町なのはは満身創痍になりながらもユーノ・スクライアの元へたどり着く。
 外にパンツを弾き出されたゆえ、ぼろぼろになった手でやさしく、其の小さな体を抱き上げる。
「フェレットさん、大丈夫?」
 ユーノの瞳から熱い涙がこぼれる。
 巻き込んでしまった、という自責の念ではなく、ただひたすらに安心する抱擁であった。

 だがしかし、そんな感動の再開を無粋にも邪魔する黒い影は、今も尚二人と一機を飲み込もうと其の支配圏を広げつつあった。

『Mastering and [musukai] cannot be maintained. (習得とmusukaiを維持できません。)
Please present the breakthrough plan promptly. (至急、突破計画を提示してください。)』
 二人に告げるレイジングハート、宙に浮かぶ首飾りを見て、驚くなのは。
フェレットは首飾りに向かって一つ頷くと、勇敢な少女のほうを見た。

「僕の名前はユーノ・スクライア、君の名前は?」
「た、高町なのはです」
 加えて抱きしめていたフェレットまで人語を話し始め、目を白黒させる。
「わかった、なのは。
僕達に力を貸してほしいんだ、君にはきっと、すごい魔法の才能がある」
 もはや迷いは無い、こうなってしまった以上全員が力を合わせなければ生きて帰ること、ままならぬからである。
「ま、魔法!?」
 宙を浮いていた首飾りがなのはの手のひらに収まる。

「僕は結界の維持に回る。
念話で機能譲渡のキーワードを伝えるから、なのはは頭に浮かんだ言葉を口にして!」
「念話!?頭の中に聞こえたあの声の事!?」
「さっきの君の声は僕にも届いていた。
きっと上手く行くはずさ!!」

 大の字で飛翔するフェレット、僅かながら闇の帳を押し返す。



「我、使命を受けし者なり。
 契約の下、その力を解き放て。
 風は空に、星は天に。
 そして、不屈の心はこの胸に。
 この手に魔法を。
 レイジングハート、セット・アップ!」

 心に響く、その一字一句を唱えると、掲げた宝玉がまばゆい光を放つ。

「バリアジャケットを、君の身を守る服を考えて!!
何者にも負けず、どんな敵や苦難にも屈しない、戦うための其の服を!!」

『stand by ready.
 set up.』



 かくして、次元世界が97の番号で呼ぶ地に、桃光の魔王が誕生する。
愛すべき家族が手放しで褒めた、自身の学校の制服をベースに、己が垣間見た奇跡の象徴を伴った、
其れは一見完璧な---------



「うわぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!!!!!
どうして頭の上にパンツを被っているんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」



「それは…………かっこいいからだよ」
『It is perfect (それは完全です)』

 君の良く知る兜(ヘルム)のように、ツーテール間にあるつむじをクロッチ部分で覆い隠すような。
 少女の頭頂部を、彼女が思い描く至高のパンツが飾っていた。







「ユーノ君、次はどうすればいいの?」
「…………………うん。
相当威力の高い砲撃魔法でも使えれば、この暗闇を強引に吹き飛ばすことが出来るんだけど……」
ほんとに大丈夫かなぁ、みたいな視線でなのはの方を見るユーノ・スクライア。



---------さて、ここで外のほうに目を向けてみよう。



 ガツッ!ガツッ!と鉄球をたたきつける鈍い音がする。
 オリ主を背にした巨大な馬は、足にくくりつけられたその武器で果敢に黒い影へ攻撃を仕掛けるも、
不可視の壁に阻まれ、踏み入ることが出来ない。
(さて、コレは一体どうしたものか……あの二人ならば万一の事はあるまいが。
危機的な状況であることに変わりは無い、早く救出しなければ……)
 其の影は槇原動物病院を覆い、今はもはや繭のような形をとっている。
 コートの中にある魔封じの術では、ちと手に負えない半実体状態である。

 だが、其のとき、アールワンの耳に例の幻聴が聞こえた。

『わたしをつかえ……』
「む!こんな時にまたしても幻聴がッ!!」

 耳を押さえようとも脳裏に響くその声に、出所を探ると視界の端に小さな、ボロボロの布切れが見えた。



『わたしをつかえ…………なのッ!!!!』
「うあああああぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁっぁ!?!?!?!?!?」



 全意識、全神経、全身体が全力で拒絶した。
 何という運命のいたずらか、其処にはほぼ原形をとどめてはいないが、
かろうじて女児の下着と思われる物が転がっていたのである。

 片隅で膝を抱えてガタガタ震えだすオリ主を、まあ落ち着けと鼻面で小突くシマウマ。
 恐る恐る拾い上げてみると、勝手にロングコートの構成が、文字通り吹き飛んだ。
(バリアジャケットが、きかない!?)
 マルチタスクの半分がエラーを吐いた、こんなものを被ったら、自分の頭部は原型を留め無いのではないかとすら思える。



---------だがしかし、放り出されたパンツは泥だらけになりながら尚、主人の帰りを待ち続ける。
しばしソレを眺めると、己の全魔力を腕にこめ、其の布切れを掴みあげる。



「出来る限り遠くへ離れてくれ、余波が危険だ」
 其の声はすでに取り乱してはいなかった、己の認めた主を乗せ、巨大な馬は黒い繭を背に歩き始める。
 やがて、厳重に施工した結界の外周部にまでたどり着くと…………

「---------お前の」
 アールワンは高々と片足を上げ---------
「---------主人を」
 魔力と筋力を全開まで振り絞り---------
「---------守ってくれ!!」



 ---------投擲した。



 空気と音の壁を軽々と飛び越えロケットのように加速する其の小さな布切れは天と地を切り裂くが如く桃色の玉光を
放ち其の魂とこめられた願いを形にせんと鳳の型の様に広がりつつ世界を抱きとめるかのような雄雄しい翼から幾枚もの
羽を飛び散らせ触れたものを片端から浄化の炎で焼き清めつつ純粋さを秘めた翡翠色の瞳が邪悪の権化たる其の黒い繭を
一瞥し更なる加速を伴いながら一度錐揉みし後はただひたすらまっすぐにただまっすぐに……

 ---------着弾した。
 ---------今、世界に音と光が帰って来る。

 正しき物の価値を、正しく理解できるがゆえに放てる一撃であった。



 そして、キノコ雲を切り裂いて飛んだジュエルシードを、追う桃色の光。



「封印すべきは忌まわしき器、ジュエルシードッ!」
「リリカルマジカル。
 ジュエルシード、シリアル21。
 ---------封印!」
『sealing---------receipt number XXI.』

 今ここに、二つ目の凶星が封印された。







「うわ、町がめちゃくちゃになってるよ、コレどうしようユーノ君!?」
「……うん大丈夫、結界が張ってあるから時間がたてば元に戻るっていうか!!
誰が張ったの!?そしてだれがやったの!?」

 何がなんだかわからぬうちに二つ目のジュエルシードを封印できた二人。
其処へ、ズシン、ズシンと腹に響くような音が近づいてくる。

「やぁ---------なんだか大変だったようではないか、二人とも」
 大丈夫か?とはるか頭上から声をかけられる。
 ここで、改めて息のあった二人と一機は心を同じくした。



((馬に乗ってるゥゥゥゥ!?))



 いや、寧ろ馬と解った二人の方が少数派かも知れぬ。
 荒縄を轡にし、鞍の変わりに膨らませたビニール製の尻を乗せ、鬣を収めるように槙原愛のパンツを被せられた威容。
 其の主たるオリ主が一つ、指を鳴らすと時間が巻き戻るかのように風景が戻ってゆく。
「あ、あなたがこの結界を張ったんですか?」
「いかにも其の通りだ。
独学でね、あまり上手ではないのだが……」
「あ、あなたも魔術師なんですか?」
「……そういう君の、バリアジャケットも良く似合うじゃないか。
だが、頭の其れはいただけないな」

 見ず知らずの人間に、己の価値観を否定されてむくれるなのは、だがしかし、

「乙女のパンツは秘められてこそ価値がある---------恋心のようにね」

 パンツの価値を語る其の目は、きっと自分と同じ色をしていた。

「私、高町なのは。
私立聖祥大学付属小学校3年生です!」
「そうか……アールワン・ディープパープリッシュ・ブルーメタリック・カクテルだ」
 故に、少女は名前の交換をするのだ、君たちならきっと其の価値を知っている。

「ユーノ・スクライアです。
じゃ、じゃあ、さっき見た惨状もあなたの仕業ですか!?」
 警戒心をむき出しにして、ユーノは二つ目の質問を浴びせた。
 だが、其れを聞いたアールワンは悲しそうに目を伏せると、重々しくも否定した。



「---------あれは、高町がやった---------結局の所……」
 きびすを返してその場を去るアールワン。
 また遭おう、と言葉を残して。



 ---------わたしやってない、やってないよと困惑の声が夜の街に響く。







 そして、家の前で兄にしかられている高町なのはを高台でながめつつ、アールワンはこれからに思いをはせる。
 思いがけないことの連続であったが、無事騒乱の第一歩を歩み始めた魔法少女。
 そして心優しい少年も、快く其の家族として迎えられることだろう。
 これから様々な困難がお互いを待ち受けていようが、必ず乗り切ろう、強敵(とも)よ---------。



「さあ、行くぞ雄範誅(おぱんちゅ)号、今日も市街を夜回りだッ!!」
---------ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッッッッツ!!!!!!!



 およそ馬のいななきと取れないような声を挙げ、高台の端に鉄球を叩きつけ、
今日からオリ主の輩となった雄範誅(おぱんちゅ)号は反動で空を翔る。



[25078] 【無印編三話】破綻・そして揺るがぬ日常へ
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/07 22:27
「---------今日は大変だったね、ユーノ君」
「そうだね、なのは」

 ベッドの上に倒れこむなのは、一頻り家族にしかられた後、肩の上にのっていたフェレットに話題が上ると、
桃子に見つかったユーノは彼女にもみくちゃにされた。
 もう、なのはが『飼いたい』と言い出す前に手放さないほどの勢いだった。
 或いは、ジュエルシードを手に入れるべく戦っていたときのほうが、気は楽であったかも知れぬ。

「なのは、疲れているならそのままで聞いてね」
 そしてユーノは経緯の説明を始める、あの影はこことは違う次元世界の古代遺産であり、願いをゆがんだ形でかなえる
恐れのある危険な代物であること。
 魔力を回復させてまた一人で捜索する旨を伝えると、なのはは自分も手伝うと言い始めた。

「だめだよ、今も味わったと思うけど、コレは危険な事なんだ」
「ならなおさら私も行くよ、一人ぼっちは寂しいもん」

 消して揺るがぬ意思の瞳である。
 しぶしぶ、といった形で其れを承諾するユーノ。

「---------じゃあ、もう一つ懸念があるんだけど。
あの時会った馬に乗った魔導師の話……」
「あ、ぱんつさんだね?」
「ぱ、ぱんつさん!?」

 とんでも愛称に驚くユーノ、なのはは元気一杯にうなづく。
「今度会ったらあの人にも事情を説明して、一緒に探してもらおうよユーノ君。
ぱんつを愛する人はきっとすごくいい人だから」
「な、なのは……この世界ではその、パンツはとても重要な物なのかい?宗教的にとか……」
「?ううん、ぱんつはぱんつだよ?
ただ昔助けてもらったことがあるの、ぱんつに」
「!?」
 さらなる超展開、魔法の無い世界ではパンツが力を持つのだろうか。
「まあ、アリサちゃんやすずかちゃんも私にぱんつみせてくれないしなぁ……うまく説明できないや。
とにかくユーノ君、今日はもう寝よう?
 私のベッド広いから隣入ってもいいよ?」
「いやいや、そんないいよ!?
僕はその辺のカーペットでの端で丸まってるから!」
 屋根もあるしね、と首をふるユーノ、しかし其の回答ではなのはを満足させるには至らない。

「それじゃあ、この篭を使うとして……ユーノ君、私のぱんつ使ってもいいよ?」
 机の上にある小物を纏めた篭をひっくり返し、タンスから丸めた己の下着をえいえいっと詰め込み始める。
 ---------寝床作りである。

「な、なのは!そんなところに寝たら寝具メーカーに怒られちゃうよ!!」
「え~、でも床じゃ体痛くしちゃうしなぁ……」

 ついに、ユーノはなのはと床を共にする覚悟を決めた。
---------『焼き芋』の複線である。







 深夜の神社の境内で、地獄の番犬に似た、三つ首の狗を相手にオリ主は苦戦していた。
 空を飛ぶわ火を吐くわ、である。
 懸念していた覚醒の早さに加え、明らかに原作より強化されたジュエルシード・モンスター。
 雄範誅(おぱんちゅ)号との挟撃を持ってしても、死角の無さに手を焼く。

 其の時である。
 7…8…9つの電撃が矢継ぎ早に落ちる、音と光に翻弄される狗獣。

「---------いまだッ!」

 アールワンは懐から封印用の凶器を取り出した。
 T●NGA・USモデル、人の見解を持って『神の穴』と評される、世界の欲望を受け止めるためだけに生み出された品。
 幾多の平行世界において、大容量を誇るこの型は紛争地帯の軍事境界線に設置され、見事其の矛を収めた逸品であった。

「封印!!」
 エアホールに指を添え、スポンと獣の表皮からジュエルシードを吸いだす。
 不気味な蠢動を続けたジュエルシードも、十を数えるうちにまったりと落ち着く。
 危ないところであった、アールワンは木の上にいる子狐に親指を立てた。
『くぉん』と小さく鳴き声をあげ、森の奥に去ってゆく。

「やはり聞き知った原作とはかけ離れている。
更なる惨事を生む前に、何か手を打たなくては……」
 一先ずは高町との会合を、そして聞きしフェイト・テスタロッサとの邂逅を果たさねばならぬ。

 オリ主は愛馬に跨り、夜の街へ繰り出す。
 どうにも幼女が夜歩きできぬ様であって困る、暴走族の集会、違法アダルトビデオの勧誘。
 潰しても潰しても筍のように生えてきて困る。
「---------はて、この作品の海鳴という町はここまで物騒であったか?」

 ズシン、ズシンと重い音を発て山を降りる雄範誅(おぱんちゅ)号、其の威容を垣間見た子犬は、
目覚めて早々意識を失った。







 其の日、いつもの通りにアリサ嬢を迎えにあがるバニングス家おかかえ運転手、鮫島は、
急に薄暗くなった風景をいぶかしみ、対向車線に目を遣った。

 馬がいた、それも巨大な体躯にパンツを被り、足に巨大な鉄球を括りつけた縞馬(?)である。
 其れを駆る騎士は年若い、彼はふと気がついた。
(あの少年はもしや、御館様が仰っていたアールワン殿ではあるまいか!?)

 近今、少年少女を襲う犯罪者が急増する折、娘の身辺に気をつけろとの忠告の上、
見かけたら屋敷に案内せよ、恩人だとの命を受けた相手である。
 パンツを愛する、いまどき珍しい紳士であると。
 その風評も、馬をみれば納得である。

 彼の駆るリムジンのバックミラーには、お嬢様の作った交通安全のお守りがぶら下がっていた。
 うれしかった、目立つところに下げられるよう、使えないバックミラーを送迎車に増設するほどに。
 そして、鑑みるにあの少年が愛馬にパンツを被せるところを見ると、きっとアレは、相応の意味があるのに違いない。

 だが、其の時である。
 其の巨大な馬の眼光が、チカリチカリと輝いた。
 加えて鼻息がぶもうぶもうと息巻く轟音、間違いない。
「---------煽ら(パッシングさ)れている!?」
 老骨に火が入る、かつてカーレーサーであった鮫島、よもや軽車両(には到底見えないが)に負けるわけには行かぬ。
 たとえ高速走行に向かぬ車であっても、己には運転手としての意地があるのだ。
「感謝しますぞ少年……よもや公道で朽ち果てるはずであったこの私を燃え上がらせてくれる……
御礼にお目にかけましょう、この私が培った送迎最速理論をッ!!」

 目の前の信号機(シグナル)が蒼に変わる。
 鮫島はクラッチを離し、猛然とアクセルを踏み込んだ。



 ---------そしてこの地に踏み込むまでに、何度の攻防があったであろうか、
この峠道は、バニングス家の私有地である。
 鮫島自体たまの休暇で訪れるいわば庭、まさかこのコースで自分をここまで追い詰めるレーサーがいたとは!!
「---------ミラージュドリフト!!」
 己が限界値---------すなわち人類の限界---------2フレームの速度を持ってブレーキング、
そして怒涛のカウンターステア、長大な全車長をもって反対車線をふさぐ必殺のドリフト走行に、
流石に追い抜かれまいと不適に笑う、だがしかし……
「---------三次元走法だとッ!?」
 馬であるからには当たり前なのだが、ひょいとその黒塗りの車を飛び越えて行く巨馬。
 お前の技はそんなものか?と鼻で笑われる感覚。
 強敵であった、だがしかし……
(解ってはおりますが---------私が一番でございます!!)
 温存していた最後のブースト、峠道ゆえ封じられた其のレバーを手にかける。

 眼下に見える私立聖祥大学付属小学校、このコースであれば空中を飛び出してもたどり着けよう。
「バニングスブーストッ!!」
 車高が沈み、後輪から噴射口が、ディフューザーが飛び出した驚異のリムジン、ゴールへ向け空へ飛び出す。


 だがしかし、敵もさるもの……その巨体からは信じられぬ速度で鉄球ごと其の体をきりもみさせ、
鉄球の反動で竜巻の様を見せ其の後を追う!!

 零の領域を超え宙へ飛び出した二つの弾丸、チェッカーがはためくのは果たしてどちらのマシンか!?



 




「おそいわね、鮫島……なにやってんのかしら」
 きょうは習い事も休み、三人で帰ろうとアリサ・すずか・そして高町なのはの三人は、校門の前にいた。
 どうにも最近物騒だから、と送り迎えを要求された手前、三人でのって帰ろうという話であるが、
運転中ならば携帯も通じまい。
「まあまあアリサちゃん。
きっと安全運転で来てるんだよ、ゆっくりまとうよ」
 そんなすずかに一つ謝ると、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
 だが其の時である。

「なんだあれ!?」
「UFO?UFOなのか!?」
 なんだか校庭が騒がしい、其の声に従い空を見上げた三人、そこへ、
バニングス家のリムジンが落着した、猛烈なホイルスピンで巨大な四葉のクローバーを描く。

「---------いぃぃぃぃよっしゃっぁぁぁぁぁぁぁぁああぁあああっぁああ!!!!」
 運転席から飛び出した鮫島、腰の辺りで拳を握り締め天を仰ぐ。
 遅れて屋上あたりへ竜巻が落着する轟音、なにごとかとおののく小学生達。

 アリサの上履きが飛んだ、見事鮫島の痴態に命中。
「ちょっと鮫島!?あんたなにやってんの!!」
「おお……お嬢様、申し訳ございません、お待たせさせぬよう急いで参ったのですが」
「空から来ることないでしょ!!」
 なのはの目からしても完璧な紳士であった鮫島が怒られるというめずらしい光景にどう止めようか悩む二人。
さに有らん、其の騒動にはなのはが昨晩であった其の男が絡んでいるのだから。

「おい、何だよあれ……」
「でっかいぞ……怪獣か!?」
 事如く屋上のほうを指差し誰何する上級生達、下級生は逃げ出した。
 其の指にいざなわれ、3人が改めて上を見た其のときだった。

「「---------馬ァ!?」」
「ぱんつさん!!」

 軽い身のこなしで4階相当を飛び降りる雄範誅(おぱんちゅ)号---------そしてオリ主。
アールワン・D・B・カクテルその人である。







「それでね、それでね---------今ユーノ君もうちにいるの」
「なるほど……彼の傷はもう癒えたかね?」
「うん、回復魔法っていうので朝には直ったみたい」

 土煙を上げて舞い降りたオリ主は鮫島と固い握手を交わすと、騒がせた旨を周囲にわび、
アリサやすずかと2・3言葉を交わしてからなのはと共に通学路を帰った。
 いつもより高い視線---------飛行魔法とはまた違う周囲の視線を一手に受けながらの岐路は、
少女にとって新鮮な感動であったらしい。
 道中アーモンドチョコレートなど分け合いながら、どこかゆっくり話が出来る場所がないか、と問えば、
なのはは父の店である『翠屋』へ案内した。



「店の前に停めて置いても大丈夫なものか……高町、駐車場はあるかね?」
「ちょっとまって、いまお父さんに聞いてくる……大丈夫だって
 翠屋従業員一同、驚きを持っての来店である。
 客もそろって『デカッ!?』と顔に書いてある、オリ主の愛馬。
 ただ一人桃子だけがにんじんを持って歓迎していた。

 やがて正気を取り戻した士郎と恭也、可愛い娘が男を連れてきた、と察したとたんに店は危険地帯に変わる。
「---------お客さん、ご注文は?」
 美由紀を押しのけて、店主じきじきに注文をとりに来る。
「私には珈琲……いや、キャラメルミルクを頼む。
ここの甘味は絶品と聞いたが、生憎寝起きでね、味が解るかどうか」
 第三期のキーアイテム、ぜひ一度口にしたかったアールワン。
 これでけっこうミーハーである。
「丁寧にお作りしますよ、ところで、うちの娘とはどういった関係で?」
 娘に感づかれないよう笑顔ではあったが、内心殺気バリバリである。
 だがしかし、うちのオリ主はそこらにいる凡百のオリ主とは一味違う。
 しかと士郎の目を見て、告げてやった。
「さて、今はただの知り合い……だと思うがね。
ひとたび窮地に落ちれば手を貸すにはやぶさかでもない---------何と呼ぶべきだろうか?」
 士郎は恭也に目配せをする、首を振る息子、油断無く飛針を探っている様子だが、
隠したアールワンの手元では、ピンクローターが危険な螺旋運動を描いている。
 ピンクローター!?危険なものには変わりないのだが……
「お客さん、よろしければ名前を伺っても?」
「---------アールワン・D・B・カクテル、偉大な先輩にあえて光栄だ、今後ともヨロシク」

 くわ!と士郎の目が開かれる。
 デヴィット氏と幾多の情報網から名前だけは聞いた、今裏を騒がせているトラブルバスター。
 駆け抜ける思春期、変態ともトイボックスとも称される戦士、パンツの騎士なる異名もあった。
 そういえばそうだな、馬にものってるしな!!

「もう、おとうさんばっかりお話してズルイ。
なのはのお客さんなんだよ?」
「---------ん、ああ、すまないな、なのは。
なのはも同じものでいいかい?すぐに作ってくるからね」
 厨房に引っ込む士郎、待ち構えていた息子と抑えた声で話す。
「父さん、あの男何者だ?隙がまったく無い」
「ああ、今裏を騒がせている少年だ、いいものではある。
女子供には特に優しいらしいが……なぜ家のなのはと……?」
「何かトラブルに巻き込まれている、ということか?」
「或いは巻き込まれつつある……ということなのか」
 額を寄せ合い内緒話をする男二人を尻目に、美由紀は注文の品を作り始めた。
---------オリ主、地味に命の危機である。







「ごめんね、お父さん男の人初めてつれてくるから珍しいみたい」
「なに、人柄のよさそうな父上だ。
---------それに頼もしくもある」

 アールワンにとっては数年来の再会になる、あの時は病院で眠ってたのを垣間見ただけだ。
 会話をしてみてなんとも癒えない感慨深さを感じたのも事実だが、いざというときにはなのはに、
御神の援護も期待できるだろう。
 ひとまず目的の一つは達したわけだが、流石に込み合っているとはいえここで魔導の話ははばかられるな。
「おまたせしましたーご注文のキャラメルミルクでーす。
何々なのはー、彼氏できたの?やるじゃーん」
 美由紀が興味津々と言った感じで会話に割って入ってくる。
 年のころは自分と同じくらいか?名前から聞いて外国人であるのは確かだが……
ちなみにアールワン、私服である。
 黒地のタイを締めたタータンチェックのシャツにジーンズ、馬に乗っていなければごく普通のカジュアルだ。
 そして無造作にくくられた後ろ髪、日本人らしからぬ紺色が入った髪。
 多少険が入ってはいるがごくごくオリ主的な外見だった、風貌もまずまずである。
「ちがうよーもう、あっちいってー」

 妙にうれしそうななのは、まあ、つれてきたヤツが人気者なのでうれしいだけなのであろうが、
ここでお友達発言とかされてしまうと彼の本懐にもかかわる話になる。
 今の回答はまあ、及第点であった。

「さて、今後の話になるのでね、すまないが結界を張らせてもらう。
向こうには音が聞こえなくなるが、特に危険は無いよ?」
「へーすごい、さすが魔法」
「君はもう、魔法に興味深々のようだね」
---------小声で話すと、空間を切り取る。

「さて、これでよし。
ユーノ君と念話はできるかな?」
「大丈夫、今日も学校で一杯お話したの」
「授業中にかい?イケない御譲ちゃんだ」
 軽く小突くと、舌を出すなのは、ごめんなさいとは言うものの、まったく懲りていない様子。
「さて、道中でも話したが……ユーノ、私はすでに一つ、ジュエルシードを封印している」
『え!本当ですか?ぜひ返してください、其れは危険な……』
「解かっている、解かっている。
すでに封印処理を施しているからさし当たって心配は無いよ」
 懐でごそごそと……ん、取れんななどとつぶやきつつ、其れをなのはの前に示して見せた。
「ほんとにジュエルシードだ……でも何でヌルヌルしてるの?」
「……ん?汗をかいたからな」
 寧ろ今、冷や汗をかいた。

「それでだ、二人とも。
---------私は時空管理局と敵対している、いずれ追ってくるであろう彼らと合流するまで、
君たちに力を貸すこともやぶさかではない」
『え!管理局と戦ってるんですか!?
もしかして時空犯罪者……』
「こらこら、人聞きの悪いことを言うものではない。
今はまだ、この世界で魔法を使って悪いやつを懲らしめているだけの小物さ。
いずれおロープを頂戴することにはなろうが……今はただの現地住民だよ?」
 寧ろおロープを差し上げる気、満々だった
 念話越しの会談は続く。
「其のとき君たちは彼らに保護を頼むとして……私の事は話さないと誓うかい?」
「大丈夫です!」
『ええと……善処します。
---------あ、なのは、管理局は悪い人たちじゃないからね!?警察みたいなところだし』
「其の通り。
彼らの多くは善意のおまわりさんだが、残念ながらその偉い人達とは、馬が合わないのさ」
 ヲヲヲッと雄範誅(おぱんちゅ)号が嘶く、通行人びっくり。

「それでだ、このジュエルシードを引き渡すにあたり、一つ君達と取引をしたい」
『悪いことじゃないなら』
 即答しそうななのはに割り込み、ユーノがいう。
 寧ろ其の返事のほうを待っていた、とアールワンは喜んだ。
「共闘するに当たって、君達の本気、見せてもらいたい。
---------なのは、先ほど君の学校で、僅かながらコレの気配を感じた。
------------------夜、君達だけで封印処理してもらいたい」
 覚醒するかギリギリの時間だが、周りに人がいるとまずいからな。
 ニヤリと笑ってアールワンは言う。

「『やります!!』」
「---------よろしい、其れまで私が見張っていよう」
 グッとカップの中身を飲み干すと、オリ主は席を立つ。
 すでに結界は解かれていた。







 布石は打った、焚きつけられたなのははすでに、全力で事に当たるだろう。
 戦いは意志が強いものが勝つ、此度は原石たる其れに積もった埃をぬぐってやったに過ぎぬ。
 アールワンは、もちろん彼女達が勝者になることを、確信していた。

 そして今、自身はそんな彼女の姉に負けそうになっているのだ。
---------吐きてぇ、超吐き出してぇ。
 あらゆるSSに差にあらず、自身に振りかぶった胃腸への恐慌に、やはり高町家はオリ主に取って鬼門なのだと、
そう実感したのであった。



[25078] 【無印編四話】愛に目掛け地に落ちた太陽~決意の証明~
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/07 22:39
「うう、夜の学校ってこわいなぁ……」
「がんばってなのは、魔力反応はすぐ近くだよ」
「うん、そうだね。
お化けとかでても魔法でやっつけちゃうんだから!!
いくよ、ユーノ君」

 夜の学校を散策するなのは、自分の机の中から17番のジュエルシードが出てきてびっくりするまであと少し。
 学校の校門前で、ちょっとしたいたずらが発覚するのを、アールワンは今か今かと待ち続けている。
「---------赦せ高町、プールは鬼門なのでな」

 先んじて海鳴のプールへ足を運び、回収したものである。
 なぜか付いて来たサディスト親父集団が水着女子を備え付けのステージへ担ぎ上げ、歌を歌わせるという
カオス極まりない状況を呼んだ。

 まあ、おまけにスナック感覚で下着ドロをとっ捕まえておいたゆえ、社会的収支はプラスのはずである。
「ぱんつさーん、ジュエルシードとってきたよ~」
「ていうか、これも貴方が回収したものでしょう?
---------ねっとりしてるし」
「さて、拭いたつもりだったが、存外あっさりとばれてしまうものだな。
では、コレと一緒にデバイスにしまいたまえ」
『I feel the sense of resistance. (私は抵抗感覚を感じます)』
「我慢したまえ、いずれ気持ちよくなる。
ところで高町、其の愛称は何とかならないものか?」
「私の事も名前でよんでくれたら考えるよ?」

 先の一個と合わせて二つを受け渡し、合計四つのジュエルシードを回収したなのはと、
アールワンは今後について打ち合わせを始めた。
「では、これからの捜索なのだが。
君は放課後から門限までの間、ユーノは昼間、そして私は深夜のほうを引き受けよう」
「あ~、ユーノ君だけは名前でよんでる、ズルイ」
「--------スクライアは部族名だろう?君の事を『日本人』と呼ぶようなものだ」
「……其れでいきましょう。
手際を考えればどうやらそちらは効率もいいみたいですし。
但し悪用はしないでくださいね」
 釘を刺すフェレット、解かっていると二人の手の中にアーモンドチョコレートを落とすオリ主。

「……またアーモンドチョコだ。
好きなんですか?」
「仕事柄よく貰うのでね、余ってるんだ。
ところでユーノ、ここ数日は彼女に魔法を教えてあげるように。
見たところ高町は私よりもはるかに魔力量が多い、手に負えぬときは寧ろ彼女のほうが立ち回りやすかろう」
「わはりまひた……もきゅもきゅ……しはらくはひゃんと魔法を使えるようにとっくんします」
 小さな体では一口大のチョコレートも苦戦する相手である、食って万全になれ。
「ああそれと、休日はしっかり休むように。
学校にもちゃんと出て、授業はしっかり受けるようにな」
「そういえば、ぱんつさんの学校は?」
「大検を受けて、今はそちらに通っている」
 ろくに出席していないがね、と付け足しながらオリ主はその場を後にする。







 そして、魔力を探りながら夜の街を巡回するアールワン。
 やがて目的の二人が柄の悪い男達に絡まれているのを発見。

「なあなあ譲ちゃんたちィ、女二人でこの辺歩き回るのあぶないんでねぇの?」
「俺達みたいなヤツらに声かけられちまうよ?」

 金髪の幼女、そして野生的な赤い髪を持つミドルティーンの少女である。
 姉妹のような二人であったが姉のほうはともかくとして、小さいほうをあの男達はどうしようというのか。
 どうこうするつもりなのだろう、変態め赦さん。
 そんな事を考えたときだった、幼女が金属片を取り出したのは。
 アールワンは懐からコンドームを取り出し、手首のスナップだけでそちらに投擲。

「まかせときなフェイト、こんな奴らにデバイスを抜くまでも無いよ」
「……でもアルフ、数が多いし、二人でやれば一瞬で終わるよ」
「アアン!!俺達が早漏だって言いてぇのかガキァァァァァァァァァァァ!
--------今夜は寝かさねえゾ」
 悪漢、見当違いの逆ギレ。
 
 しかし、フェイトは手にした其れの今までとは違う感触にいぶかしむ。
「……なんだろう、コレ」
 カラフルなビニールで包装された、ペタンとした其れ。
 己がデバイスを気づかぬ内に弾かれ、手にした其れを検分する。
--------その場にいた者たちの顔色が変わった。
「捨てなフェイト、其れの意味を知るのはまだ早いよ!」
「うわァァァァァァァァァァ!
--------コッ、コンドームじゃねぇか!?」
 幼女からその包みをひったくると、悪漢たちは封を破り、呼吸の続く限り膨らませ始める。
 でかでかと書かれた『Guilty』の文字が、悪漢たちの視界に広がる。
「--------コンドームじゃねえか!!!!」
 風船だったのか、とフェイトが理解した瞬間、彼女の武器が其の風船の上に落ち、
ボヨンと跳ね返って少女の手の中に入る。
『Then, it is not possible to transform. (その時、変形するのは、可能ではありません。)』
「うん、間違ってごめんねバルディッシュ」
 自身の愛機を指先で撫でる、其の時である。

「ハウァ!!」
 一番奥にいる悪漢が悲鳴をあげた。
 何事かと其の男のほうを見る群れ、そしてフェイトとアルフは、彼の存在に気がつくのである。
「まさか!」
「--------テメェは!!」

「いかにも-------アールワン・D・B・カクテルだ」
 オリ主である……男の腰パンに躊躇無く手を差し込み、臀部の最奥にある穴へ指を突っ込み、
 屈強な男を文字通り指一本で制する様、変態的。
 男であろうとノンケであろうと、構わずに食っちまう様、容赦なし。

「ヘッ!てめえがヒーロー気取りのアールワンかッ!」
「テメェをしばき倒せば俺達がこの町の頭(ヘッド)を名乗れるってもんだぜ」
 刃物を取り出そうとする悪漢たちだがしかし……。
「--------ほう」
 自分の名前が小悪党達にまで知れ渡っていることを知ると、さらに深く、男のパンツに腕を差し込む。
「私を、どうにかできるつもりかね」
「ば、バカヤロウ息巻くんじゃねぇよお前ら……手が…手首がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 悲鳴を上げる悪漢、脂汗を流し、無意識にガタガタと奥歯がなる。

 どうにかされてしまうと恐れをなし、逃げて行く悪漢達。
 最後の一人も尻を抑えて、命からがらその場から離れて行く。







「--------君、すまないが其処の自販機で水を買ってきてくれないか?
手を洗いたいのでね」
 アルフは、あっという間に男達をいなしたオリ主に請われ、意識を取り戻した。

「あ、アンタ一体何者なんだい?
その……容赦が無いじゃないか……」
「アルフ--------魔力を感じる、その人は魔導師だ」
 再び武装しようとバルディッシュを構えるフェイト、アールワンは其れを手で制した。
 フェイトをかばって後ずさるアルフ。
「名前は先も言ったとおり、ただの街の掃除屋だ。
そしてなるほど、自身は魔導師でもある--------ところで水を買ってきてくれないか?」
「どうして魔導師がこんなところにいるの?--------管理局の人間!?」
「其れは否、君も無闇やたらに魔法を使うと彼らに嗅ぎ付けられる、気をつけるがいい。
隠遁生活の先達から忠告だ--------そして水を買ってきてくれないか?」

 男は自分と同じく管理局の目を逃れる現地の魔導師であった。
 其れを知るとフェイトの表情から険がはがれ、肩から力が抜ける。
 加えて、なんという達人であろうか、いかに相手は非魔導師とはいえ、腰元を手で触れるだけで、
屈強な男が悶絶したのであろう。
 何と言う魔法か、とても興味がある。

「あの、知っているようですが、私達も管理局の目を盗んで『あるもの』を探しているんです。
良かったら協力してくれませんか?」
 土地勘もあろう、現地の協力者がいれば母のいいつけも進むであろうし、
何よりも---危機とはいえまいが---自分達を救ってくれた其の男は、頼りがいがありそうである。
 そして近づいて行こうとするフェイトを羽交い絞めにして食い止めるアルフ、
其の男は、こう、なんか危険だと。
「--------天から降りそそいだ厄債の種、ジュエルシードの事かな?」
「知っているんですか!」
「すでに二度、暴走体となってこの世界を脅かしている。
其れを管理していた少年が、現地の協力者と退けたがね」
 まだ、この街にも魔導師がいた、其れも自分と同じジュエルシードの捜索者が。

「残念ながら私はそちらに加担している、残念ながら君達の力にはなれそうも無いな。
尤も少年の協力者、桃光の魔導師は優しい子だ--------ひょっとしたら君達の力になってくれるかもしれないが」



「……ならば、ここで貴方を倒しておきます」
「ほう、面白い」
 今度こそ一触即発、三度バリアジャケットを纏おうとデバイスを翳すフェイト。
 アールワンは右手を前に、左手は胸元からはさみのような、銀色の器具を取り出した。
 先端はペリカンの嘴に似ている。
「私は君達があの魔具を求める訳、御身に聞かせてもらうとしよう。
そして水を--------」



 これ以上まかりならぬと、アルフはフェイトを引っつかんで空へ逃げる。
「アルフ!どうして!」
「どうしても駄目なんだ、アイツとは渡り合っても分かり合ってもいけないよ!!
とても、危険なんだ、道徳的にね!!」
 己の使い魔がここまで血相を変えるとは、いかなる強敵か!?
 アールワン・D・B・カクテル、道徳的に恐ろしい敵よ、フェイトは其の名をしかとその身に刻み込んだ。







 そのようにして数度、昼と夜がめぐる。
 予想より早く海鳴の町に着いていたフェイト、彼女を出し抜いてジュエルシードを集めるのは、
うろ覚えの原作知識ではどうにも無理であった。
 もちろん魔法教育に専念してもらっているなのは・ユーノ組にしても成果は無く、しかしあせる事はさせぬ。
 予定など立てると足元を掬われそうで怖いが、次の暴走体は『木』、原作でも町に大きな被害を出した難敵。
 本来なら惨状を見た少女が、信念たる『不屈』に目覚める、いわば試練の時であるが……。

 アールワンは愛馬から降り、サッカーに興じる少年達を眺めていた。
 本日は日曜である、言いつけどおり万全の体調管理を施されたなのはが、小さな体を目一杯使って
少年達を応援している。
 果報者達め、勝利と青春を勝ち得るが良い。
 そんな事を思いつつ、どうしても視線はゴール前、キーパーを務める少年に向かってしまう。

 --------おそらく、彼がジュエルシードを持っている。
 気になるあの子に其れを渡したとき、この町を悪夢が襲うのであろうが……
(--------どうして其れを取り上げられよう)
 オリ主は、其の小さな愛を育むことしか出来ぬ、騒動がひとたび起これば、迅速に救い出せばよい。

 もちろん、受け渡しの際なのはが気がついたならば、そして声をかけたならば其れまでなのだ。
 人其れを、まる投げと呼ぶ。



 翠屋JFC、試合後半にして最大のピンチ。
 相手チームはフォワード、ミッドフィルダー共に陣地へ深く切り込み、ゴール前で組み体操の様な動きを見せた。
 はるか上空から放たれる三人同時の蹴撃、吹き飛ばされる翠屋ディフェンダー陣。
--------だがしかし、コート上に響くゴールキーパーの剛声、気合と共に少年の手がゴール一杯に膨れ上がり、
 敵チーム必殺のシュートをしかと受け止める。

 後は攻勢に殉ずるのみ、遠く、遠くへと蹴り飛ばされたボールは反撃に転じる翠屋攻勢陣へわたり、
 尤も前衛へ位置取っていた少年が利き足を振りかぶると、地面が爆ぜ、其処から四匹のペンギンが姿を現す。

 それらはボールと共に見事な編隊飛行を見せ、やがて相手のゴールへ共に突き刺さる。
 凍りつくゴールネットの前で膝を付く相手キーパー--------そこで試合終了のホイッスル。

--------翠屋JFCの勝利である。



「やったねお父さん、勝ったよ」
「ああ……無理を言ってみんなに応援に来てもらってよかったよ、アリサちゃんもすずかちゃんもありがとう」
「いえ、どういたしまして。
--------たまには観戦と応援だけっていうのも楽しいです」
 笑いながらすずかが言う。
 自身が試合に出ていたら、まあ、ここまでの接戦にはならなかったろうという自信が見て取れる。

「……ていうか、サッカーってこんなアクロバティックな競技だったっけ?」
「ブラジルの人とかと違って、日本人は基礎体力が低いから。
どうしても技に頼るしかないんだよ、ね?お父さん」
「そうだよなのは。
お父さんも足腰を痛めていなければまだネオサイクロンが撃てたものだが……」
 残念そうに士郎が言う。
「……どうしたのアリサちゃん?」
 不審気を感じ取ったのか、すずかがアリサの顔を覗き込む。
 そういえば彼女も先週のドッジボールの試合の際、ボールを餅のように伸ばしてから放っていた。
 小学生の球技とは、きっとそういうものなのだろう。

「さあ、みんな集合だ。
--------ウチの店で祝勝会をやるぞ!!」







 そして、欠食児童たちの腹に程よく桃子謹製の菓子が詰まった頃、先の試合でファインセーブを見せたキーパーが、
鞄から『ソレ』を取り出し、気になるマネージャーの少女へ走り寄って行く。

(今の……ひょっとしてジュエルシードの気配!?)
(なのは、どうしたの)

 なのはは念話でユーノに今感じた感情を伝えようとしたが、俺が知っている俺に任せろする前に、
残念ながらアリサに念話を遮られてしまう。

「ねえ、時折アンタとユーノじっと見詰め合ってるんだけどさ、どうも怪しくない?」
「そうだね、ひょっとしてユーノ君、普通のフェレットじゃないとか?」
 なのはは焦った、このままではユーノが魔法の世界の住人(住獣?)であることがばれてしまう。
「そ、そんなこと無いよ?
ユーノ君は一寸……いや、だいぶお利口なだけのただのフェレットだよ?」
「キューキュー」
 相槌を打つように何度も頷くフェレット。
「それは解かるけどさ……じゃあなんか芸を見せてよ」
「わ、解かったよ、い~よ、見せてあげるの。
----------------ユーノ君」
 なのははポケットからボーダー柄の下着を取り出し、相棒に命じた。
「--------縞パン」
「キュッ!!」
 一際太い横断線と一体化するユーノ、見事な横一文字。
 それを微妙な表情で見つめる親友二人、やっとの思いで感想を言葉にした。
「……よ、よく出来たね~えらいね~」
「……ていうか、なんか粗相をしたように見えるんだけど」
 二人の手がそっとユーノをパンツの上からどける、所在なさげ彼は、机の上にあるスティックシュガーを数え始めた。

「まぁ、いいわ。
この前家の鮫島と峠を攻めた馬みたいな珍獣も世界にはいるわけだし……」
「そういえば、あの人今日来てたね。
なのはちゃんのシマウマの王子様」
--------なのはの顔色が変わった。
 彼が、アールワンが姿を現したならば、其処にジュエルシードが絡んでいる事は明白。
 だが、アリサはその態度の急変を別の意味でとってしまった。

「ねえ、なのは?
ひょっとしてこれからあのエグダチ(EXILEのメンバーのような、総じて強面でお友達に成り難いタイプ)と、
待ち合わせてデートとか……」
「ち、違うよ!!
パンツさんとはただのパン友(パンツに一過言ある、総じてお友達に成りえない変態)だもん」
「パンツさん……でもこの前一緒に学校から帰ってたよね?」
「雄範誅(おぱんちゅ)号と一緒だったでしょ!?
ユーノ君に何食べさせたら乗って歩けるくらいまで成長するか質問してただけだよ!!」
(なん……だと……!?)
「「それ馬ァ!?」」
 驚愕するフェレット、巨馬の名前に総ツッコミな二人。
 話を聞いてまんじりともしない士郎や恭也を踏まえて、ぐだぐだのまま祝勝会はお開きとなった。







 --------かくして、海鳴の町に巨木が出現する。
 --------しかも町を覆いつくすほどに枝葉を広げた、想像し得ない規模の、である。

「コレは……予想以上だな……」
 根が張られた市街地は、さながら大地震に見舞われたかのような有様であった。
 救急車が通る隙間も無いほど捲れあがったアスファルトの上を、巧みな轡さばきで進むオリ主。
 雄範誅(おぱんちゅ)号の背に乗せ一人、また一人比較的安全な場所へ被災者を運んで行く。

 誰かの鳴き声、どこからか響く爆発音。
 天高く、其れこそ電離層に届くか、という位置で開いた枝葉は、空を夜のように暗く埋め尽くしていた。
「--------パンツさん!!」
 月光のように頭上を照らす桃色の光、高町なのはの到着。
 しばらくの間、店の前で友人が見張っていた手前、到着が遅れた。
 尤も、この騒ぎが起こって間もなく、二人は家族が迎えに来たのだが、
 今度は、自身の家族が武器を携えて店を飛び出した、なのはは最後発、桃子の目を盗んでの出発となったのだ。

「ごめんなさい、今回のジュエルシードの発現、私気づいていたんです!
もっと早くあの子達に声をかけていれば、こんなことになるはずじゃ……」
「--------いい、皆まで言うな!!」
 愛馬から飛び降りたアールワン、なのはとユーノに視線を合わせ、言い聞かせる。
 落ち着いて、ゆっくりと、しかし力強く。
「自分も先程、サッカーをしていた少年達からジュエルシードの反応を感じ取っていた。
持ち主を絞り込めず、取り上げることもままならず放置していたのは自分も同じだ。
今はただ、我々に出来ることを成し遂げよう。
ユーノ、一つ問いたいが、ジュエルシードとは人間が発動させればここまで巨大になるものなのか!?」
「はい、人間が発動させたとき、ジュエルシードはもっとも危険なんです。
でも、ここまで酷い状況になるなんて……自分もあのロストロギアを、甘く見ていたかもしれない」

 アールワンはぐっとユーノの頭を抑えつけた、どうも自虐に走る少年少女が多すぎる。
「とにかくだ、私は引き続き被災者を救援して回る。
二人は核たるジュエルシードを見つけて、其れを封印してもらいたい。
こうまで高く伸びてしまっては、さしもの雄範誅(おぱんちゅ)号とて飛び上がれぬ」
「わかりました……なのは、この前教えたワイドエリアサーチ、できるね?」
 一つ頷くと、頭上高く舞い上がる白いバリアジャケットの魔導師。
 デバイスを巨木へ突きつけ、力強く宣言する。



「町を破壊し根を広げるジュエルシードモンスター、人の子として決して赦せません!
この額のパンツにかけて、今、この場で封印します!!」
「--------oh……」
 微妙なキメ台詞が解き放たれてしまった、オリ主は場違いにも額に手を当てる。







「--------なのは、察知したかい?
この向こうに、核になっている二人がいるよ」
 肩のユーノが声をかけると、なのはは射抜かんばかりの瞳で大樹を見つめ、一つ呼吸を整えると、デバイスを構えた。
「行くよ、レイジングハート……シュ-ティングモ-ドッ!」
『Shooting Mode』
 形を変える愛杖、己が魔力を集中させ生涯に初、天地を揺るがす砲撃魔法を解き放つ!!
「ディバイィィィィィン・バスタァァァァァァァァァァァァッッッ!!」

 着弾、しかし其の一撃をもってしてもありえぬほどの威容を誇る此度の暴走体には、深く傷をつけるだけで核には届かぬ。
 人知れず奥歯をかむオリ主、さらに、容易には信じられぬ異変が巨木に起こった。

 ドーム上に光り輝くユグドラシルの文様、見ただけで肌をあわ立たせる其の威容。
 其れに留まらず、少女が傷をつけた大樹の表面から、膨大な量の軍勢があふれ出したのだ。



「--------木人(ぼくじん)だとッ!?」


 推定十万、丸太を組み合わせたような不恰好なその人型が、いっせいに逃げ遅れた人々を襲い始める。
--------乳に、尻に、太ももに、或いはサラリーマンのスラックスに備えられた社会の窓を降ろし始める。
----------------近年の小学生は、早熟であった。

「くっ……ショートストックゥゥゥゥ!!」
 オリ主は剣を抜き、今まさに夫人に襲い掛かろうとする不貞の輩に切りかかった。






「父さん、コレは一体ッ!?」
「解からん、だが来るぞ!構えろ!!」
「「応ッ」」

 御神の剣士が三人の前に立ちふさがったのは木彫りの熊、力任せに手にしたシャケを振り回し、行く手をさえぎる。
 敗北は無かろう、誰もが知る裏の兵、しかし問題は其の姿を其の娘が、頭上の魔術師が垣間見てしまった事だ。

「あ……あぁ……」
「なのは、なのはしっかりして!!」
 自らが魔法を放った場所からあふれ出る怪物、今尚罪無き人へ襲い掛かるおびただしい数の威容
 --------少女の心の中を抗えぬ恐慌が襲った。



「全て…………全て焼き尽くしてやるッツ!!!!!!」



 いくつもの光弾と光帯が、何度と無く闇を切り裂く、果たしてそれらが通る先は次々と浄化されてゆくが……
「危険だ、なのは!こんな大規模攻撃魔法、続けて撃ったらリンカーコアが持たないよ!!」
「あぁ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
 そんな出鱈目な攻撃を繰り返して幾つ時が分けたのか、やがて主の危険を察したレイジングハート、
全ての強制停止をかけ、ゆっくりと其の身を地面に降ろして行く。

「なのは、ごめんよなのは……こんなことに巻き込んだ僕を、いくらでも恨んでくれていい」
 この地に下りて再び、フェレットの小さな瞳から涙があふれ出た。



 だがしかし、二人の体は硬い地面に触れることは無い。
 地面に落着する前、そっと、黒と金色のバリアジャケットに身を包んだ少女に抱きとめられた。
「--------あなたは一体……」
「アルフ、この二人を安全な場所まで運んで。
あなたは、回復魔法、できる?
起きたらその娘に伝えてほしいんだ、よくがんばったねって。
----------------ここから先は、私が引き受けるから」


「フェイト、本当に手を出すのかい?
いっちゃなんだけど、あれは本当にやばいよ?」
「ジュエルシードがあるんだ、あそこに、確実に一個。
--------それにこんな状況を見捨てたら、きっとお母さんも赦してくれないよ」

 連れの、おそらくは使い魔であろう女になのはを引き渡すと、迅雷の魔導師は戦斧を振りかざし、巨木へ歩を進める。
 ユーノは其の後姿を見つめながら、3人目の魔導師の出現に声を奪われつつも、一刻も早い事態の終結を願う。







「おお、おおなんということか……」
 迅速に救い出したはずの女性、其の口元から赤い線が一筋、引かれていた。
 アールワンは其の女性を抱き起こす、名も知らぬただのOLである。
 だが、そんな彼女はオリ主の眼前で、木人の性的暴行から逃れんと自ら舌を噛んだのだ。
 --------何と言う勇気、誇るべき貞淑である。
 
 オリ主は己を恥じた、一刻前の日和見思考が紛れも無く今、ここにいる女を見殺しにしようとしている。
 すまぬ、すまぬと心中詫びながら、不出来な回復魔法を掛け続けた。

 そのときである、ぐったりと力を失った其の女の下腹から、心打つ幻聴が響いたのは。


『--------私は、貴方が抱きとめている女性がまとうパンツであります。
彼女は故郷を離れ、勤めて初めての給金で私を買い求めここぞというときは常に傍に置きました。
やがて結ばれるであろう恋人との、初めての褥の折にも私は其処に居りました。

貴方、名も知らぬ優しく力強い貴方、私は口惜しいのです。
やっと手にした幸福の最中このような不可解に身をおかれ、
虫の息をしている主が置かれている状況が、たまらなく悔しいのです。
この薄い我が身にたぎる憤りを感じましょうか、怒りを感じましょうか?
--------私は仇を獲りたいのです、他ならぬ私と貴方で、仇が獲りたいのです』

 辛抱たまらず、オリ主は女のプリーツスカートをたくし上げた。
--------黒地に艶やかなレースで縁取りをされた、勝負パンツである。
 たちまちアールワンの瞳から熱いものがあふれ出て、其の姿が滲んだ。

(私が戻してやる--------お前を、幸福を取り戻した主の元へ、私が必ず戻してやる。
だから今は、今はお前の力を借り受けよう!!)



「--------雄範誅(おぱんちゅ)号、彼女を安全な所へ運んでくれ」
 するり、女の腰からパンツを抜き取り、愛馬の背に其の身を預ける、
雄範誅(おぱんちゅ)号、オリ主へ向けて貴様はどうするかと瞳で問う。
「--------私は、一線を超えるッ!!」

 今にして思う、どうして自分は2年もの間、パンツを被らなかったのか。
 有るべき物を有るべきところへ、為すべきことから背を向けて過ごしてきたのか、と。
 そんな恥も後悔も、今この瞬間で終わり。
 この勝負パンツを広げ、さあ、顔をつっこもう----------------



「--------ニート証券ッッっっっっっっ!!」



 顔面を覆う温もりと、たちまち広がるフィット感。
混然が一体となり、今、変身を迎える衝撃のカウントダウン--------
1(パン!)・2(ツー!)・3(スリー!)



「ふぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 オリ主を中心に、白と黒の魔力光が爆裂した。
 身にまとうロングコートがたちまちひび割れ--------
「クロス・アウッッッッ(脱衣)!!」
 服(バリアジャケット)など着ていられるか、とばかりにものすごい勢いで周囲に弾け飛ぶ。

 やがて其処に頭上と腰、すなわち天地に二つのパンツを纏うオリ主が身を表すわけだが、
--------解かっているだろう、諸君。
----------------此度の変身はここで終わらぬ。

「オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォヴァァァァァァアァァッァァァァ・ドルァイヴッ!!!!」
--------自身のパンツの裾を引き、引手は天に、弓手は地に拳を突き出す。
 そして胸の中央、自身のリンカーコアを引き締めるようにゴムの部分を交差させ、肩にかけるスタンダードVフォーム。
 腕を、足を幻獣の血で描かれた魔導式が網タイツのように彩り、その目から質量炎を噴いた。

 パンツに温もりが残っているうちは、其の威力数倍に跳ね上がる。
 原作三期高町なのはにおけるブラスターモードに匹敵する其の名も高出力『オーバードライブ』モード。



 さあ諸君、完璧だ、そしてただただ満足である。
 今ここに、愛に目掛け地に落ちた太陽------------------------



「……へんたい、だ」
 おぼろげながら意識を取り戻した名も知らぬ女性、しかし彼は彼女を一瞥すると、其の意を否定する。

「変態ではない--------私は変態仮面だ!!」



 オリ主、アールワン・D・B・カクテル、改め『変態仮面』は女に背を向けて、眼前の死地へ一歩を踏み出す。
 敵は半数を失ったとて、推定十万を下らない『魔導木人』の群れ。
 懲伏するは果たして、いかなる『変態秘奥義』か----------------



[25078] 【無印編五話】あなた自身の手で、それを手に入れたとき
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/01/07 22:43
「へ……へんたいだッ!?」
 どうしようお母さん、とうろたえるフェイト・テスタロッサに、我等が変身ヒーローは否定の名乗りを上げる。
「変態ではない--------変態仮面だ」

 先へ先へと歩を進める金色の魔法少女に追いついた『変態仮面』は、すっと天を指差し、告げる。
「君は空を行きたまえ、疾風迅雷の魔導師、地上を群れる不恰好どもは--------私が相手をしよう」
「ッ!?無茶だ、あれだけの数を前にして、強行突破なんてできるはずが……」
「相手にするから無茶なのだ、調教すればよい。
--------私には秘策がある、任せておきたまえ」

 ふわり、とフェイトは空へ身を窶す、しかし背後から来た謎の怪人はいかにしてこの数を裁くのか?
 今尚凶行に及ぶ奴らを赦すまいと、迅速をもって解体しながら駆け抜けた道。
 食い止める術があるならば、ぜひこの目で見たい。
 あっという間に木人にかこまれる変態仮面、少女は固唾を飲んだ。







 町に巣食う群れ、わらわらと周囲に集まる木人たちを尻目に、変態仮面は深く息を吸い込んだ。
--------ミッド式捕縛魔法、ロープバインドを展開。
 唯一、今までのバインドと違うのは、其れが目視するのが難しいほど極細の物であるだけだ。
 蜘蛛の巣状に、町全体に広がった其れは木人たちの手に、そして足に結わえられてゆく。

 しかし、そのようなか細い糸で狂える軍勢を食い止めること、ままならぬ。
 なおも人々に襲い掛かる、巨木から生まれし悪鬼、魔導木人 
 迫り来る其の勢いに、展開したバインドは今にも切れそうである。
 だがしかし、クロッチ部分の下に隠れた変態仮面の表情は、笑みの形を変えはしない。

(難しいことではない、不可能でもない。
--------ただパンツに身を任せ、其の力を再現すれば良い)



 そして、彼は腕を横に広げ、手首を返す。
 軸足にもう片方の足を絡ませ、意識の集中と共に自身の一物を見やる。
 それはKING OF POPの構え。
--------名も知らぬ、今身に纏う勝負パンツの持ち主は、故・ジャクソン氏のファンであった。

 あたりに漂う不穏な気配を感じ取った木人達は、つと其の足を止めた。
 今だ、変態仮面は顔を上げ、世界に其の技其の名を示す。








「変態秘奥義--------ミッド式操身術・熱狂☆楽園パレードッ!!」







 燃え上がる其の瞳に魅入られた木人が、たちまち変態仮面の背後に列を成した。
 結わえられた糸はマリオネットのそれであったか、人々を襲っていた巨木の手下、
 瞬く間に2列、3列とそこへ加えられて行く。

 やがて魔手から逃れた罪無き人々が、其の存在に気づく。
 整然と並んだ木人の前に立つ、かつて居た、最も新しい変身ヒーローに。



「--------Let's Dance!!」
 くわッ、と見開かれる炎を宿した瞳、見据えるは怪異の中心、巨木型ジュエルシード・モンスター。
 十万の奪い取った仲間をを引き連れ、今ここに変態的進軍の第一歩を踏み出すのだ。





 くまなく空を覆う巨木の枝葉、しかしはるか上空で一陣の風が吹き、陽光が一瞬、変態仮面の元へ差し込む。
 まるでスポットライトのように、奇しくも其れは構えを解き、彼が新たなポーズを執った瞬間である。






 狂気と混乱だけが渦巻いていた海鳴の町あまねく全てに--------
『--------ヲ・〇・ニー! ちょw先にイくなって♪
 んでヲ・〇・ニー 女装ドン ポコ〇ィン・ヴィジョン♪』
--------福音が響き渡った。





 背後に燦然と並び立つ木人たちが、一糸乱れぬ動きで前方に位置取る変態仮面のポーズを模写する、
やがて軽やかに二つのハンド・パーカッションを打ち鳴らし、一斉に其の一歩を踏み出す。
 微かなどよめきがいずれ大きな熱狂に変わり、傷ついた人々が歓声を上げた。

 何と言う統制、前に陣取る其の男の手が、足が、そして腰が唸りを上げるたびに、背後の木人達が一部の乱れも無く、
狂いも一瞬の迷いも無く揃い、怪しく舞う。
 まさにカーニバル、アニマル達のバーニング・ラヴ。
 見る者の正気をみるみる吹き飛ばし、地獄のエンターテイメント、其の最前線に御招待である。


--------そこらに居る、ただ手先の器用な男も、料理上手なご夫人も、
あるいはテレビに移っている有名人も、逃れられぬ妖しい魅力を伴って、まだまだ暗黒舞踏は続く。







「すごい、バインドの初歩の初歩なのに、其れを使ってあんな芸当が出来るなんて」

 上空に位置するフェイト・テスタロッサは其の勇壮な進軍を余すところ無く一望できた。
 尤も幸運な観客の一人である。

 突然に現れたその変態仮面は、少女に助力を申し入れ、瞬く間に絶望のふちにある町に笑顔を取り戻した。
 あるいは其の動き、とりわけあの胸騒ぎの腰つきに重要な秘密が有るのやも知れぬ。
 だがしかし、彼女の耳に無粋なローター音が止まる。
 TVの中継ヘリの音だ、少女は再び空から巨木へ迫る。

--------視線はあの、きゅっと締まった尻にいささかの興味と執着を残しながらも。






「--------イェア!!」
 いま、先頭集団は道の中ほどまでに差し掛かり、最も激しいフレーズとダンスを始めたところである。
 心細くも絶望を一人嘆きながら過ごしていた人々も今や心を一つにし、
目の前でイカれたヤり方を実践する変態仮面を支持していた。



--------なんという、素晴らしいファンタジー!!


「「「「「「「「「「「「「「「--------新潟ァァァァァァァァァァァァァァァァ」」」」」」」」」」」」」」」
 老若男女、原作キャラもモブキャラも拳を振り上げて激しくやれ、其の鼓動を感じるならば。






 系統樹の文様が歪み、不規則なオーロラを移す海鳴の空の下へ視点を移してみよう。


--------真っ暗な部屋で一人、車椅子の手入れをしていたとある少女は、突如暗闇に覆われた町に不安を隠せず、
電気が生きている事に感謝しながらTVを点けた。

 上空からの映像だろう、自分の良く知る町の道路、主要6車線一杯を使って踊り狂う一団を捕らえている。
 胸が熱くなる光景だった、知らず少女は其の動かぬ足に力をこめ、立ち上がると拳を握り締めた。
 奇跡だ、手にしていたグリスが車椅子のギアレバー全体に零れ落ちる、今彼女を取り巻く世界はヤバい状況である。



--------この事件の黒幕であるプレシア・テスタロッサは、娘を失った事実に人生が狂ってゆくのを心配しながら
ナニ(彼女が言う人形にジュエルシードを回収させている現状)の進展状況を見る。
------管理外世界では、パンツを被った変態が木人を引きつれ踊り狂っているところだ。
 知らず彼女の心が高ぶって行く様子を見てほしい。
 彼女は今『時の庭園』に居る、少しずつ起こり得る悲しい出来事が修正さえて行くその様を--------




 自販機の隙間でその隊列を見送っている高町家の剣士三人。
 見るからにMPが減らされそうな其の光景に声を失う。
 バラバラにした熊の木彫りを踏みつけながら、巨木へなおも向かう其の怪異、訳がわからぬ。
「どういうことだ父さん、パンツへの人格憑依は御神の秘術じゃなかったのか!?」
--------そして、息子の言い分も、訳がわからぬ。




 やがて、ユーノの声で目が覚めた高町なのはは其の光景を垣間見ることになる。
見知らぬ赤い髪の女の腕の中、眼下に広がる人々の笑顔を、そして先頭に居る謎のパンツを被った男。
 彼女は思った、間違いない、あれはパンツの妖精だ。
 自分と世界の危機を救いに来てくれた者と!!

(--------やはりパンツは最高なの!!)

 しかし、其の驚異を悟ったか、巨木は変態仮面に向け幾つもの触手を差し向けた!
 危ない、と叫ぶユーノ。
 しかし其の男は股間の袋から取り出した剣の柄のようなものを振りかぶる。
『オォォォォォォォウゥゥゥゥゥ……イエェェェェェェェェ……』と低く唸りをあげるその魔力鞭が振り下ろされる度、
変態仮面の背後に無数の『こけし』が山と積まれて行く。
「Oh……ナニィ!?……」
ユーノの驚愕も尤もである。

--------やがて、其の集団は巨木の根元にたどりついた。
ついに、諸悪の根源にたどり着いたのだ!!






 まるで組み体操のように階段の形を成し、積み重なる木人。
 其の上をまるでロックスターのように駆け上がる変態仮面、先程なのはが砲撃を打ち込んだ場所に張り付く。

 深く穴を穿たれながらもいまだ内を見せぬ強度を持つ樹木を前に、変態仮面に打つ手はあるのか?
 もちろんである、秘奥義は一つではない。

 木の表面に張り付いた変態仮面はすばやい動きで天地逆になると、世界に吼えた。





「変態秘奥義--------純情ウッドペッカァァァァァァァァァァァッ!!」





 速度を為して猛然と、己の一物を木の表面に打ち付ける、速く、まだ速く、まだまだ速く!!
 そのシェイクヒップが音速を超え始めるとソニックブームを生み出し、木の表面に改めて深く穴を開け始めた。
「--------oh!yes!!・oh!yes!!・oh!yes!!oh!yes!!・oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!
oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!
oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!oh!yes!!
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 そして、此度ジュエルシードに取り込まれた二人の少年少女が顔を見せる。
 変態仮面は彼らにまだ息があることを確認し、安堵すると、

--------ダメ押しとばかりに彼らに『純情袋』を叩き付けた。




 そして、時を同じくして。
 フェイト・テスタロッサが、ジュエルシードを要して抜け出そうとしたマペットを、一刀の元に切り捨て、封印する。
 木が、そして根を張っていた町全体が光に覆われ、軍勢とともにその粒が天に帰ってゆく。

--------騒動の終わり。
「フェイト、あの子たちは危なくないところにおいておいたけど、良かったのかい?」
「うん、ありがとうアルフ」
 一つ目のジュエルシードをバルディッシュで封印すると、使い魔と共に拠点への岐路に着く。

「それにしても、これからのジュエルシード捜索は事になりそうだね。
私達とは別に、ジュエルシードを捜索している魔術師二人とその使い魔、ダメ押しにさっきの変態か……」
「--------でもね、アルフ。
一つだけ解かったことがあるんだ」

 この世界の強者は、あまねくパンツを頭に被っていると、少女は今日知ったのだ。







 そして、ビルの屋上で。
 取り戻した青空を眺めている其の男の横に、高町なのはとユーノ・スクライアは舞い降りた。
 何と言う威容、たくましい背中、隆々とした腕--------そして顔面のパンツ。

 やり遂げた、という声色で、変態仮面は呟いた。
「………………成敗」

--------男の股間から、少年と少女の体が、はみ出していた--------







 そして、幾ばくかの時が過ぎ去った頃。
 雄範誅(おぱんちゅ)号と共に高所から病院の一室を見やるオリ主、アールワンD・B・カクテル、
愛する男と熱い抱擁を交わす名も知らぬ女の姿を確認すると、顔をほころばせた。

 懐から洗濯をし、しっかりとアイロンをかけた彼女の勝負パンツを取り出し、
手首のスナップを利かせてそちらのほうへ投げる。
 ヒュッ、と気の利いた音を発てて、帰るべき場所に飛ぶパンツ。

--------オリ主の背後には、大きな爪あとを残しながらなお、日常を取り戻した海鳴の町が在る。



[25078] 【A’s編一話】危険な邂逅(地)
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/02/06 06:36
 ここは24時間営業のサウナつき公衆浴場。
 土方の兄ちゃんから泊り込みのサラリーマンまで、今日という日を戦い抜いた男達が汗を流す場所である。

 さて、上記のような書き方をすれば特に問題の無い施設に思えるだろうが、どんな場所にも影が出来る。
 たった今サウナを覗きこんでみれば解かる、恐るべき自体が。

「ところでオレの金〇を見てくれこいつをどう思う?」
「--------す、すごく大きいです」
「うれしいこといってくれるじゃないの」
 見たところ営業か何かだろうか、好青年がガテン系の『ウホッ!いい男!!』に絡まれていた。

 もちろん好青年、そっち方面の嗜好はない。
 ハッテン場に迷い込んでしまったのだろう、明日からは連休で、朝には女友達と会う予定があった。
 素直にネカフェのシャワーで我慢しておけといいたい。

 だが後悔先に立たず、どうしてこの施設、リラクゼーションルームにバラの花が活けてあるのか、
誰かが割って入らなければ、間もなく彼の体でその理由を明らかにすることであろう。



 --------だがしかし、そろそろ本作品の構成に慣れてきただろう諸氏諸君。
 --------大胆にして神出鬼没なあの男はもちろん、そこにいるのである。 



「--------我が目を盗み、如何様にしてノンケの男を『やらないか?』する所存か」



 ヒーターのほど近くに居る少年、顔面を覆っていたタオルを引き剥がす。
 アールワン・D・B・カクテル、オリ主である。
 夜回りの合間には身だしなみを忘れない男であった。

「おっとボクぅ、お兄さんはショタ趣味はないんだぜ?
 青少年保護法に引っかかっちまうからな、速くお家にかえんな?」
「紳士を気取っても貴様の淫行罪は捨て置けぬ。
--------下がっていたまえ青年、垣間見ただけで痔になること必須のバトルが始まるぞ」

 灼熱のサウナが熱帯雨林の様相を見せ、今ここに二人の森の妖精、
 赤さんなし、容赦なしのパンツなしレスリングを始める。
 血相を変えて好青年が木製のドアを押し開き、ヒゲ面のデバガメを押しのけ脱兎の如く逃げ出した。



 だが諸君、忘れてもらっては困る。
 --------これが『リリカルなのは』の二次創作だということを。







 詳しい経緯はもちろん割愛する。
 安心して続きを読んでいただきたい。

 ケツの穴にエネマグラを突っ込まれ、水風呂に沈んだ『ウホッ!いい男!!』を背に、
手早く湯上りのシャワーを浴びるとアールワンは脱衣所に進む。
 固く絞ったタオルを股座から背中にかけて『スパァーーーン』と叩き付け、
 コインドライヤーに十円玉を三枚叩き込み、乾いた髪を後頭部で縛る。

 ロビーでは先程の好青年がアールワンを待っていた。
「あの……だいじょうぶだったかい?」
「ああ、この程度の事は日常茶飯事だ。
--------くれるのかい?なかなか意味深な飲み物だね?」
 差し出された『いちご牛乳』の紙キャップを中指一本で落とし込む。
 一口飲むと、背中越しに青年に手を振った。

 ソファーに座ると正面には、大型だがいかにも年代物のテレビがある。
 いまや画面の大きさよりも横から見て薄さを品評する時代である。

 今日はいろいろな出来事があった。
 アールワンは一日の出来事を振り返った。
 どうにもこうにも悪党と差し向かうことが多すぎる。
 やはり、何か大きな因果の乱れがあるのではないか?こんな考えに至るとは自身もなかなかオリ主じみてきた。

 自虐的な気分をいっそ楽しみながら、彼が改めて牛乳瓶を咥えた--------しかし其の時であった。



「--------今週の列島大震撼第一位『地方都市謎の地盤沈下!其のとき現れたパンツのヒーロー!!』」



 報道番組の若手アナウンサー男、テレビの中でフリップを立ち上げる。
 変態仮面の中の人は口から『うぼぁ~』とピンク色の液体を吐き出した。
 血も混じっている。

 全国ネット、夜のゴールデンタイムPM10:00、二位の政治関連を突き放してお茶の間をお騒がせする自分。
 木人と共に踊り狂うパンツを被った変態英雄。
--------やめろ、動画に注釈を入れないでくれ、頭のところに矢印を貼り付けるんじゃない。

 オリ主は頭からバスタオルをかぶった、画面の中にパンツを借り受けたOLが其の状況と心境をセキララに語る。
 素敵でしたといわれても困る、あれは君のジャクソンエネルギーがやった、結局のところ。
 テロップに彼は『変態仮面』と名乗っていました、とか白抜きかっこ→『』つきで自分のアバターを紹介している。
--------もう駄目だ、今となりのオヤジがこらえきれずに吹いた。


 筆舌に尽くしがたい己が蛮行、いかにして多々作品のオリ主たちに顔向けが出来よう。
 
 いたたたまれずに席を立つアールワン、スピーカーが背中から『バイオテロ説』と『はた迷惑なアトラクション』と、
『映画か何かの撮影説』の論争三つどもえをお知らせする。
 世界は何とかなりそうだ、しかし自分の心境はどうにかなりそうだった。







 さて、オリ主が肩を落として今夜は早めに寝ようした数時間後、繁華街を歩くフェイト・テスタロッサ。
--------魔法少女である。

 今彼女を悩ませているのは母の探し物であるジュエルシードの捜索が七割、自身とは別の捜索者について二割。

 いまだ傷痕が深く残る先日の激闘を繰り広げた場所、急ピッチで道路の復旧を始めている男達。
--------なぜか其の中の男、一人は尻が浮き気味なのは疑問に残るが……
 まあそれはそれとして、目の前ではなんか長蛇の列が出来ていた。

 先をたどってみると、彼女は知る由も無いがバニングス系列のショッピングモール。
 中のテナントにはもちろんアパレルのショップも入っている。

「はい、お嬢さんで最後ですね」
 おそらくそこのスタッフであろう女性がチラシと小さな紙片を手渡してきた。
 どうやら並んでいると勘違いされてしまったようだ。
 背後に居た女性達があからさまにがっかりした顔でその場を去っていくと、なんだか申し訳ない様な気分にされた。

(こうなったら、なに売ってるかわからないけど、買うしかないよね……)
 懐にあるクレジットカードの感触を確かめながら、チラシに目を向けた其の時である。



 フェイトの脳裏に電流走る!ついでに大気にも電流走る!!
--------彼女の思考の一割は、もちろんパンツで出来ていた。







 さて、本日はすずかの家でお茶会な高町なのはに視点を移そう。
 アールワンも呼ぼうという考えであったのだが、残念ながら断られてしまった。
 仕事とは関係の無い場所で、かの『パンツの妖精』について語らいたかったものだ。
 と、言うわけで心、ここにあらずであるのだが……。

「そういえば、すずかがお茶を入れてくれるなんて珍しいわね?
--------メイドさんたちはどうしたの?」
「ん、なんかね、お昼過ぎくらいから調子悪いみたいなの。
しきりに『お医者さんをよんで』ってうわ言呟いてるし、今お姉ちゃんが傍にいるんだけど」
「それはまあ、二人もそうだけど恭也さんも気の毒よね。
折角恋人に会いに来たのに」
「どうせならうら若い乙女三人とお茶していてもいいのにね」
 なかなか言うわね、とアリサがすずかを肘で小突く。



 そんな二人の会話にすら上の空ななのは、アリサがしぼんだツーテールの片方をえい、と持ち上げると再起動。



「あっ、やめてアリサちゃん。
--------左の房は理性の象徴だから」
「じゃあ右は情熱なのね?両方引っ張ったら体が黄金に輝くのかしら?」
 なの心(ごころ)明鏡止水、けれど其の身は烈火の如し。
 しかたがない、とアリサは足元のバッグから、対なのは攻略用新兵器を取り出す。
 どちらかといえば中高生向きの情報誌、ちなみにまだ発売されていない号である。

「パパの会社がね、今度大々的に女性下着を開発する事になったの。
いろんなファッション誌とタイアップもしててね、ほら、N〇CORAもぶち抜き20ページ」
「--------ッッッスゲー!!」
 およそ魔法少女に有るまじき発声を赦してあげてほしい、頭のてっぺんどころか右の尻尾から直に出た声だ。

 見開きでバニングス系のティーンズ向けブランド、ショーツの新作がズラリ。
 食い入るように眺めたなのは、オーソドックスなレース、シルクといった高級素材。
 果ては着色カーボンやレアメタルなどの異種素材を盛り込んだ一品まである。

「たしか今日、この町の店で先行販売イベントやるっていってたわ。
先日のパンツマン騒ぎが追い風になって、結構込み合ってるみたい」
 もちろん来る途中で垣間見た程度の情報である。
 今この時点では、えらい騒ぎだ。

 なのはは脳内貯金箱をバックナックルで叩き壊し、其の手はエア電卓を叩き始めた。
 再びしおれる右の房。
「おみせ、がんばらなきゃだめだなぁ……」
「ちょっと、何枚買うつもりなのよ?」
「一枚だけだよ?
このPRAM素材の……」
「なんでそんなもんパンツに織り込むんだウチのパパは……」

(デバイスだ……なのは、レイジングハートと人機一体になるつもりだ……)
 猫に追いかけられたまま、すっかり忘れられているユーノ驚愕。

「へぇ……この下着の選び方って参考になるなぁ」
「そしてすずかは誰に見せるつもりだッ!?」
 時折突っ込みをはさみながら、お茶会はなおも続く。



 だがしかし、なぜユーノ・スクライアは鉄壁のぬこ包囲網を突破できたのか。
 彼らは主たちを守るようにずらりと並び、じっと森のほうを見つめている。 






「ごめんね、恭也。
せっかくお誘いしたのに……」
「いや、仕方が無いさ。
ところで大丈夫なのか?ノエルとファリンは」
 月村家地下、忍と恭也、秘密基地での会話である。
「なんかずっと先生を呼べ先生を呼べって繰り返してるのよ。
自動人形なんだから、医者呼んでも意味無いのにねぇ……」
「やはり故障か?
もしかしてブラックボックスの奥とか……」
「--------とりあえず異常はないんだけど、案外金星あたりから変な電波受信してるんじゃないかしら」
「おいおい、変なこというなよ」
 二人の困惑をよそに、ノエルとファリンの唇は同じセンテンスを壊れたレコードのように繰り返す。
 時折体をびくんびくんと蠢動させながら。



『てんて……を呼……』
『……危険なぶ…き……てんが……』








 さて、視点を屋敷の外へ移してみよう。
 通行人が度肝を抜かれるその大型軽車両、交差点を前にして遠慮なしに威容を見せ付ける。

 左目がチッカチッカと明滅し、背後では尻尾が左へむけてビシッ!ビシッ!と指し示められて居る。
 そして軽快に頑丈な歯を打ち鳴らす様、言わずと知れた雄範誅(おぱんちゅ)号であった。
 ちなみに、此度の奇行はウインカーである。
 戦車ですら搭載しているそれを、どうして軽車両とはいえ無碍に出来ようか。

(さて……買い物をしていたら少々遅くなってしまったな)

 物思いにはせるアールワン・D・B・カクテル、手綱をにぎりコレから訪れる月村邸への道筋を辿る。
 だがしかし、其の時腰に携えていたデバイスが軽快な曲を奏で始めた。
 --------着信である、ちなみに着メロは『YAT○A!』であった。

「ヘロウ?アイムアールワン、ハウドゥユードゥ」
「あ、ぼっちゃん?
あっしでやんすよ」
 愛馬を路肩に寄せ、通話に出るとあまり聞きたくは無い声。
 古着屋である。
「いかがしたか?また何か荒事でも……」
「いやなに、われらが坊ちゃんが世間に目に物見せたって事で今みんなで飲んでるでゲスよ!」
「--------一応聞くが……『目に物』とは」
「いやだな~ぼっちゃんしらばっくれちゃって!
もちろん先日ぼっちゃんがパンツ被って路上クラブシーンを圧席した例の事件でゲス」
「アレハOLノぱんつガヤッタ、結局ノトコロ」
 ぶっつ!!と通話を切るオリ主、やはり見るものが見ればばれてしまう物か?その正体が。
 それにしても、週末とはいえ自分の痴態をダシに女子会ならぬ親父会とは……。

 再び鳴るデバイスに、生きているなら幸運だとはいえない心境で再び応じる。
「--------ほどほどにしておきたまえ古着屋。
残念ながら今日も予定があるので、酒会に参戦するわけには……」
「いやいやぼっちゃん、今度はあっしでヤンス」
「動画屋……君もか」
 特殊なビデオやDVDを商う其の男、もちろん知古の関係である。
 近年はインターネット・サイトの監視や、彼の店は仕事の窓口であることから、
後援会の中でも比較的顔を合わせることが多い。
「ぼっちゃん、今のところお仕事の依頼は入っていないでヤンスが、気をつけるでヤンス。
先日店のカウンター横のアダルトグッズコーナーが軒並み荒らされたでヤンスよ」
「窃盗かね?お盛んなカップルも居たものだ」
「いや、それが盗まれたのは様々なコスプレの類でやんして……
激安の殿堂でも扱っている以上そう買いづらいものでもないと思うんでヤンスけど……
なんかすごく、悪事のにおいがするでヤンス」
「--------ご忠告痛み入る、街中をそんな格好で歩いている乙女が居たら声をかけてみよう」
 ひょっとしたらおっさんかも知れないがな、とオリ主は不敵に笑う。
「いやいや、どんな格好でもぼっちゃんにはかなわないでヤンス!
この前のフィーヴァーはもちろんハイレゾで押さえてあるゆえ……」
「うpするなよ!絶対にうpするなよ!!」
 あらためて通話を切る、襲い来る頭痛に眉間を揉む。

(--------高町に会うのが怖くなってきた)
 再び歩きだす雄範誅(おぱんちゅ)号、其の足音と同じくらい、アールワンの足取りは重かった。







 さて、もちろん乙女たちのお茶会を邪魔せぬよう、月村家へは忍び込む算段である。
 気合一発、愛馬の腹を蹴ると空高く舞い上がり、百烈の勢いで蹄を繰り出す雄範誅(おぱんちゅ)号。
--------警報機やカメラ、或いは様々なトラップをその鉄球で叩き壊し、其れが落着する音に紛れ着地。
 『ズシン』という音が一つであったことから其の手際、察していただきたい。

 だがしかし、出迎えは居た。
 それは予想していた二人のメイドではなく、小さな子猫。
--------本来ならば魔珠に飲まれ、巨猫になるはずの愛らしい者である。

 ふむ、とオリ主は一人安心、どうやら怪異には間に合ったらしい。
 懐からアーモンドチョコを一粒取り出すと、手のひらに載せ其の美人さんに差し出す。
 くんくんと匂いを嗅ぎ、やがて咥え、格闘する。
--------幾ばくか、彼の心は癒された。
 元来オリ主は猫好きである、自身の名前も『アールニャン』でありたいと思ったほどにだ。

 やがてその子猫は彼を見つめ、踵を返す、どうやら自分を先導したいようだ。
 アールワンはもう一粒アーモンドチョコを取り出すと、背後に投げる。
 其の口で『ガシッ』と受け止める雄範誅(おぱんちゅ)号、巨馬は主に言い聞かされた怪獣大決戦をせずにすむと察し、
その場で兵(つわもの)を待つことに決めたのだ。



--------だがしかし、先導された先にすでに怪異はいた。
--------見ろよ執務官、なんかスゲエ面白いことになってるぞ!?



「ニョーホホホホ、この力があれば『闇の書』などおそるるに足らずニャ。
--------早速あの小娘に引導を渡してくれるニャン♪」



 よりにもよってリーゼロッテである。
 あの混迷を極める第二期最大のトリックスターが口元に手の甲を当て高笑いとは!
 加えてその格好たるや、ブルマにスク水、加えて真ピンク色のパンプスなど古典的萌え表現を原液まで煮詰めたような……。

(コレは、見ておれぬ……)

 オリ主は泣きそうな表情で首を振ると、取り出したヴァイヴを足元に装着。
 巨大な肉球グローブでシャドウを始めるリーゼロッテへ奇襲、レディ・ロックオン・ファイア。
 繰り出すのは別に秘奥義でもなんでもない、ただの力技だ。

「--------お前の出番はまだ先だ!お前の出番はまだ先だ!!」
「ぎにゃー、一体なんにゃ~!!」

 其の名も、良い子が真似してはいけない禁忌の格闘技。
--------電気アンマである、スカートめくりに次ぐ絶滅危惧技が一つ、オリ主古典には古典で対抗する。
 電源不要のエレキ技、シビれる股間に衝撃波。
 魔力を通したツールで威力は二倍、いや三倍にまで膨れ上がる其れを食らえば、いかな相手もたちまち昇天。

 それゆえに、一度猛攻の手を(足だが)休めたアールワンは、ロッテに問うた。
「--------そんな装備で大丈夫か?」
「--------大丈夫だ、問題ない」
 問題ないなら問題ない、再び蠢動するオリ主の足、大蛇のようにのた打ち回る二人のシルエット。

 遠い平行世界のどこかで、別のオリ主がサムズアップする幻視。
--------ありがとう、愛してる。
--------私もお前を愛してる。

 やがて、リーゼロッテが甘い声をあげて失神、どうでもいいが諸君。
 私はこのSSを『18禁板』でうpせずとももいいのであろうか?

 



  
「--------まずいな、感づかれたか」
 にわかに屋敷が騒ぎ出す、先の声を聞かれたやも知れぬ。
 くわえてこちらに近づく魔力反応が二つ、一つはこの場でビクンビクンしている者と似通った奴だ。
 コレは遺憾である、このようなオモシロ怪人を原作キャラと顔合わせさせてはパラドックスが巻き起こる。

 苦渋の決断であった、二人まとめてこの敷地から叩き出す術、この身には無し。
 ならばこそ……

(パンツの力を借りるよりほかあるまい!!)

 力尽きたリーゼロッテの腰元からパンツを剥ぎ取り、カッ!と広げる。
 まだ暖かくて、なぜかぐっしょりしていた。



「--------ヴィドヘルツル!!」



 オリ主が顔を突っ込むと、たちまち魔道外道が身体をかけ廻る。
 混然が一体となり、今、変身を迎える衝撃のカウントダウン--------
 1(パン!)・2(ツー!)・3(スリー!)



「ふぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 はじけ飛ぶロングコート、かつて無いバンプアップ。
其の衝撃波を浴びたリーゼロッテ、僅かに意識を取り戻し、其の姿に驚愕。
「--------へ、へんたいだ……」

「変態ではない--------変態仮面だ!!」

--------今ここに再び、愛に目掛け地に落ちた太陽!!

 其の威光と己のパンツを被っているという事実に、再び意識を手放したロッテ。
 くわえて、彼女と似通った魔力が、森に舞い降りる。
 好都合である、我等が変態仮面は早速今回魅せる『変態秘奥義』の準備を始めた。






「おーいロッテー、どこいったー」
 やがて片割を見つけ出したリーゼアリア、諸氏には説明不要と思うが、
この二人は双子の使い魔、現在海鳴の地で静かに進行しているとある『魔導事件』の深奥たる少女を監視している。

 今日はなぜかローテーションが崩れ、不思議に思っていたのだが、
相方は妙な格好をして『人様の庭で棒立ち』し、『放心』していた。

「おい、どうしたロッテ。
何で、そんな変な……格好を……して」
 だがしかし、アリアはロッテに近づくと、足元に妙な弾力を感じた。
 不穏な其れを垣間見る、時としていやな予感ほど、現実は容易にそれを上回る。


「--------それは私のヘヴィマインⅤだ」
「----------------にゃ、にゃ~~~!?」



 OH!やっちまった、とんだ地雷を踏んでしまった。
 アリアの足は地面に埋まった、自分の片割よりもひどい格好をした謎の男にのせられている。
 見ればロッテの足は、地面に埋まったそのパンツを被った男のブラジル水着的な着衣に絡め取られ、
そして自身の足はそいつの股間にあるセントリーガン的な部分を踏んでいるのだ。

「き、きもちわる……」
「おっと、イけない」

 ものすごい勢いで足を離そうとするロッテ、其れを掴んだ変態仮面、彼女の足も己の体に固定する。
--------まるで、スキーの金具のように。

「やあ、穴があったら入りたい心境であったが、出会いがしらに足コキされるとは思わなんだ。
時には地面に埋まってみるものだねリーゼアリア」
「な、なぜ私の名前を……!?」
「さて、説明するのはもう少し先だ、とりあえず今日は二人で快適な空の旅を楽しみたまえ。
……アテンションプリーズ、お客様、左右をご確認ください」

 つられて左右を見るアリア、横の木がものすごい後ろに反ってる。
 加えて其の先端には、硬くバインドの縄がくくりつけられているのだ。
(コレは……弓だ、とてつもなく巨大な弩弓だ!?)
 其の通りである、変態仮面は高らかに其の技、其の名を告げるのだ。



「--------変態秘奥義『絶頂・Wバッケンレコード』!!」



--------テイク☆オフ♪

 にゃっ!と子猫が前方を指し示した瞬間、カタパルト的に射出される三人。
 30メートルほど水平飛行をした変態仮面、逃れようと膝を曲げるロッテとアリア。
 流石は双子、息のあった動きで屈伸を魅せるとシュパァァァァァァァァと大空へ浪漫飛行。

 スキー板の様相を見せる変態仮面の背中から、魔力光が輝き空に巨大なV字を描く。
 スタンダードVフォーム、それで揚力を稼ぐつもりか変態仮面。
 ライト兄弟もびっくりの空中散歩、しかしそれだけではK点は越えてもY家へは届くまい!

 いや違う、あれを見ろ!変態秘奥義の奥は深い。
 変態仮面は足首の辺りから三角錐の形できりもみ回転、あれはなんだ、其の中央に何かが見える。

--------甥っ子だッ!!
 二人が甥っ子のように可愛がっている『クロノ・ハラオウン』がさわやかな笑顔で此方に手を振っている!
 コイツの出番ももう少し先だぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!

 これが『マジカルV』!『マジカルV』!!リーゼ姉妹、見事な変態ジャンプで某家の壁に、今。
----------------着・弾!!







 ものすごい音がしたので、車椅子に乗った少女は恐る恐るベランダを覗き込んだ。
「猫がうまっとるゥゥゥゥゥゥゥ!?」
 隕石でもぶち当たったのかとおもったが、クレーターの出来た壁には二匹の猫が突っ込んでいた。
 ビシッときれいな『気を付け』の姿勢で、等間隔にだ。
 少女は猫の尻尾を持つと、コンセントのように力いっぱい引っこ抜く。

--------ソクラテス曰く、借りた鶏を、必ず返すように。
----------------収めるモノを、収めるべき場所へ。



[25078] 【無印編六話】危険な邂逅(天)
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Date: 2011/01/19 14:35
 其の日の午後、フェイト・テスタロッサはご機嫌であった。
「--------すごい……エリアサーチの精度が2割近く上がってる……」
『It is a situation in which the resource was added. (それはリソースが加えられた状況です。)』
 バルディッシュの返答も心なしか嬉しそうである。
 ジュエルシードの反応を察知し、彼女は空から月村の敷地へ向かっているところであったが……

 お察しであろう、諸君。
--------現在、彼女は頭にパンツを被っていた。

 前回高町なのはが所望していた『PRAM素材混入型パンツ』とは、本来PC用次世代メモリー向けに研究されていた、
電気信号で固体と液体をいったりきたり出来る代物。
 魔導師が身に纏うことでシナプスと感応し、デバイスに外付けの記録装置を搭載したも同様。
 魔法式をリザーブし、操作性2割り増しである。
 侮りがたし、バニングスの本気、侮りがたしパンツ。

 しかし、捕らえていたはずの反応が瞬時に途切れ、少女の顔に困惑が奔る。
「ジュエルシードが移動した?急ごう、バルディッシュ」

 ぐっしょりしたりパリッとしたり、せわしないパンツを頭上に携え、フェイトは戦場へ向かう。
 そこに生涯の親友との出会いが待ち受けているとも知らず。







 そして、つつがなくお茶会を進行していたなのは・アリサ・すずかの仲良し三人組。
 頭上から『キャー』と『ニャー』の中間あたりの声が聞こえたような気がする。

--------仰ぎ見れば、天空を超高速で移動するV字型の光。
「あれ、何だろう?
心神の飛行テストかな?」
「心神は前進翼じゃないでしょう?多分ロシアのヴェルクートじゃない?」
「それじゃ領空侵犯だよアリサちゃん」
 空自のF-X問題に溜め息を付く乙女二人、しかし、其の瞬間。

--------じっと森の辺りをにらみつけていた猫が一斉に突撃を始めた。
----------------事態を生還していたユーノもそれに続く。

「あっ、ユーノ君!?」
『森の奥でなにか起こってるみたいだ、できればなのはもついてきて!!』
「いってきなさいなのは。
またユ-ノが襲われたら大変だから」

 ジャストタイミングで合いの手を入れてくれたアリサに感謝しながら、後を追うなのは。
 そこに生涯の親友との出会いが待ち受けているとも知らず。 






 はたして、森の奥で何か起こったような痕跡は、発見された。
 地を走る30メートルほどの跡。
 バインド魔法が電線のように張られた木。

 総じて考えてみるに……
(--------さっぱり解からない)
 某アスキーアートのような表情をするフェレット。

「ゆーのく~ん!!」
 やがてなのはが呼ぶ声が聞こえた。
 途中転びながらも急ぎ駆けつけた魔法少女を振り返り、魔法が使われた痕跡を前足で示す。
「なにかが起こったことは確かなんだけど……アールワンの仕業かな……」
「うん……多分ぱんつさんだね」
 訳のわからないことの出所は、九割がたオリ主のせい。
 この年にして世界のことわりを理解し始めている二人。
 とおくで彼の愛馬がヲヲヲヲヲヲヲヲッッッッ!!と嘶く声を聞き、其れは確信に変わった。

「まあ、あの人のことだから何事も無いと思うけど」
「多分、またジュエルシードを確保してくれたんだね」
 なんだかんだいって頼りにはなる男なのである。



--------だがしかし、ソコへ強襲する強大な魔法反応。
--------誰何する間もなく空から現れる黒い人影。
 オリ主の置き土産たるバインドに『あうっ!』とおなかから突っ込んでぼよ~んと彼方へ弾き飛ばされる。



 気持ち悪い三秒間の沈黙、やがて先の暴走体の事件の際出遭った少女である、と思い当たったユーノ。
「なのは、いそいでセットアップして!!
ひょっとしたら戦いになるかも!!」
「へ!?う、うん」
 黒い魔法少女が再びたどり着く頃には、すっかり迎撃準備は整っていた。







 やがて対峙する魔法少女二人、上空より油断無く二人を見据えるフェイト・テスタロッサ。
 一足先にジュエルシードを確保したのであろう、其の白い魔法使い、強敵である。
 以前巨木を相手取った際、乱発していた砲撃魔法を鑑みるに、単純な火力は相手のほうが上。
 加えて先に設置されていたトラップ、彼女のものか其の使い間のものかは知らぬが、戦略眼も高い。

 しかし、彼女がいかなる強敵であろうとも。
--------其の手にジュエルシードが渡ったのであれば、奪い取るしか道は無いのであった。

 そしてユーノに促されるまま、戦闘態勢を取った高町なのはであったが……。
 やがて来た少女の存在に心奪われていた。
 美しい少女であった、長い金髪、其れを際立たせる黒いバリアジャケット。
--------そして頭頂部に携える黒いパンツ!パンツ!!
 嗚呼、それは先程羨望のまなざしを雑誌に向けていたバニングス・ブランドの新作。
 一分の隙も無く被りこなす其の姿は、次世代のパンティ・ファッションリーダーとなる器であった。

 だがしかし、解せぬ。
 それほどのパンツを被りしも何故、目の前の少女は悲しそうな目をしているのか。

 先手を取ったのはなのはが先であった。
 両の腕を大の字に広げ、威風堂々と名乗る。
「--------私、高町なのは九歳ッッッ!!」
「そしてぼくはユーノ・スクライア。
--------まずは先日助けてくれたこと、御礼を言わせて貰います」
 え?あの娘私を助けてくれたの?と相棒を見やるなのは。
 そして、予期せぬ感謝に若干怯んだ黒い魔法少女であったが、一度頭を振ると獲物を構えなおす。
「私の名前を教える必要性は感じられません。
先程、ここにあったジュエルシードはどこですか?
答えなければ……」
 にわかに訪れる剣呑な空気、だがしかし、其れを吹き飛ばすかのように周囲に結界が張り巡らされた。



「--------此処だッッッ!!」


 スパァァァァァンと気の聞いた音をたてて、二人の間に叩きつけられる紙皿。
 なんと其の上には勢いよく叩きつけられたにもかかわらず形崩れせずふるふると揺れるプリンが二つ。
 片方のカラメル・ソースの上にはさくらんぼが。
 そしてもう片方には双方が所望する『ジュエルシード』が、添えられていた。

「あ、あなたは……」
「もしや!!」

--------アールワン・D・B・カクテル、オリ主である。
 何とかぎりぎり間に合った、Y家から神速を伴い、駆けつけたる其の男。

 白き魔導師にとっては心強い仲間であり、黒き魔法使いにとっては『恐るべき敵』であった。
--------今はまだ。

 おくれて結界の中に轟と風が巻き起こり、木の葉と猫が舞い踊る。
 フェイトは猫達を一匹一匹怪我をせぬようにキャッチすると、そっと地面に降ろして行く。
 もちろん、それほどの突風に見舞われながらもプリンは無事であった。
 土一つ、まみれてはおらぬ。

「久しいな、黒き魔導師。
どうやらあれから精力的に、厄際の種を集めて回っているようだね?」
「アールワン・D・B・カクテル……ここのジュエルシードは貴方が持っていったのですか?
しかもあまつさえ……その……おやつの添え物に使うなんて」
「前述はイエスだ、具体的には多感な十四歳をからかい回す性悪な泥棒猫が持っていたのでね。
取り返した次第、そして後述も又……今日の私にとってこのロストロギアは、デザートに過ぎぬ」
 なんだって!とおどろくユーノ。
 そのフェレットを見やると、オリ主は告げたものだ。
「先の暴走事件……矛を収めたのは其方のお嬢さんであろう?
われわれには彼女に借りが有るのだよ?だがしかし、このアイテムが危険なものであることは事実。
この地に舞い降りたジュエルシードがひとつでない以上、
私としては、其方にこのロストロギアを所持するだけの覚悟があるか、見定めたい」
「戦えというのか?二人に……でも先の事件は変態仮面が」
「そんなヤツは知らぬ!!」
 フェレットを黙殺させると、アールワンは紙皿を取り上げ、プラスティックのスプーンを二つ取り出した。
 導かれるまま、其れを受け取ると食べ始める二人の魔法少女。
 食って万全になれということだろうか、まろやかでおいしかった。







--------やがて紙皿に残されるジュエルシード……そしてチェリー。
 男とフェレットと猫達が見守る中、距離をとって再び合間見える二人。



「なのは……気をつけて!その娘は強敵だよ!!」
「大丈夫だよユーノ君、ジュエルシードは渡さないからね!!」
 すッ……と右手を上げるオリ主、誰もが固唾を飲む瞬間。
 アールワンはくわッ!!と目を見開くと、勝負の号砲を叫び、其の手を振り下ろす。

「魔法の使用に制限なし--------勝負は『騎馬戦』始めぃッッッ!!」



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「なのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 魔法少女二人、まずはシールドなしの全速力を持ってぶつかり合う。
 互いの獲物が翻り、其の頭上からパンツを叩き落とさんと息巻く。
「えいえいっ!!」
「あ、駄目……ぱんつはダメ……ていうかそのぱんつほしい、ほしいのッッッ!!」
--------激闘である。



「どうした、ユーノ?
そんなガンプラのポリキャップがなくなった様な顔をして」
「うん……そんな大惨事にならなくてほっとしているところさ」



 やがて、シールドでフェイトを押し返したなのは、防戦の構え。
 対するフェイトはそのシールドを破らんと果敢な接近戦を試みる。
 徐々に削られて行くなのはのシールド、時折シューターを飛ばして牽制するものの、
少女の機動力に圧倒され、一つとて捉えぬことが出来ぬ。

(いかんな……やはり高町に思い切りが無い。
とっさの機転で騎馬戦勝負に持ち込んだからよかったものの、下手をすれば気絶どころではない騒ぎになったぞ)
 まあ、何故フェイトもパンツを被っていたか、ふとした疑問を棚に置き、オリ主黙考。

 だがしかし、どうやら黒い魔導師は手を抜かれていると判断したらしい。
 間合いを離すとデバイスを可変させる。
「……貴方の得意としている魔法は、砲撃魔法でしょう?
此方も砲撃で対抗します、馴れ合う暇はありませんから」
「な、そんなことしたらケガしちゃう!!」
「もとより私は戦いをしているつもりです……そして、其れを避けようとする意気地なし相手なら……
尚の事、私の名前を教えるつもりはありません。
バルディッシュ……サンダースマッシャーを」

 そして、この挑発はなのはに効いた、其れはもうてきめんに。
 元よりあった高町家の血が沸騰し、湯が沸くほどに熱を滾らせる。
「……そう、わかったよ。
貴方とお友達になるには真っ向勝負あるのみなんだね。
遠慮無しに一発大きいのを見せてあげる!!」
 わきの下できゅっこきゅっことレイジングハートを磨き、構えなおす。
 思考は危険なほどにヒートしているが、レイジングハートいわく『36.8℃、平熱です』といっている限りは、
 まあ大丈夫だろう。







--------大丈夫でないのは地上に居る面々である。
 予期せぬ砲撃魔法のぶつかり合い、顔面が蒼白になったユーノ、オリ主は猫達を次々懐に非難させる。
「あ、こら暴れるな!
ふはは、鍛え抜かれた我が肉体に爪などという非力な攻撃は……いかん、大胸筋の先端突起はらめぇ!!」
 もこもこもこもこもこもこ、躍動するロングコート。
 上半身を左右に『ふん……ふん!』と捻ると筒のようなシルエットを取り戻す。
 暗器術の応用である。
「どうしようアールワン、このままじゃやっぱり大惨事だ!!」
「ユーノ……此方も大惨事だ。
--------コートの中で猫達がアーモンドチョコレートを食い荒らし始めた。
--------パンツの中までヌルヌルだ……」
「もう!前から疑問に思ってたけどそのバリアジャケットの下裸なの?
パンツ一丁なの!ねえ!?」

 やがて詠唱が終わり、双方共にパンツごと相手を焼き尽くさんばかりのごんぶとビームを放つしだいだ。
『Thunder smasher』
『Divine Buster』
 二つの機械音声がこの世の破滅をお知らせする。
 だがしかし、そこで勇気ある一人の少年が二人の間へ飛び出した。

「きゅ……キューーーーーーーーーー!!!!」
「な、ユーノ!!無茶だやめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 割って入ったフェレットが、身を挺して二つの光を空へ弾く。
--------日が落ち始めた空が、少年の笑顔を映し出す。







「ユーノくん!ユーノくんしっかりして!!」
「離れて……今回復魔法をかけるから」
 非殺傷設定とはいえ、昏倒間違いなしの一撃を防ぎきったユーノ、ドサリと地面に落ちる。
「ははは……ダメだよ二人とも、喧嘩で熱くなりすぎちゃ……」
「いや、だから私は戦いを……」
 そして、我等がオリ主は三人を見下ろすと其の手にある紅い球体をフェレットに差し出した。

「--------よくやった。
童貞野郎にしてはなかなかのガッツだった、コイツはお前のものだ」
「いや、その、僕としてはジュエルシードのほうがいいかな、と」
 ぱくり、ガクッ。

 チェリーを咥え、意識を失うユーノ・スクライア。
 回復魔法をかけ終わると、フェイトがアールワンの方を向く。

「持って行くがいい。
勝負は引き分けだが、此方が一対一に割って入ったのだから」
「ありがとう……そしてごめんなさい。
これからも、ジュエルシードを集めるなら私は其のたびに立ちはだかります」
 なのはとオリ主、顔を見合わせて頷きあう。
 少女の名前も、其の目的も、全て次の邂逅までお預けというわけだ。



「まけちゃったね……ぱんつさん」
「どうやら、覚悟のほうは向こうが上だな。
次に出合う前に、近接戦闘への対処を検討したまえ、いっそ体当たりで弾き飛ばしてでも得意な間合いで戦うのだ」
 飛び去って行くもう一人の魔法少女を見送りながら、オリ主となのはは踵を返す。
 再戦に胸を滾らせながら……。







「おそいわね、ユーノ見つからないのかしら……」
「ウチの子達も返ってこないし……」

 アリサとすずか、それに調子を取り戻したメイド二人と恭也、忍はなのはの帰りを待っていた。
 もうすぐ日が暮れようかという時間である。

 だがしかし、其処へどどどどどどどどどという重い音と振動が響き渡り。
『ハイヤァァァァァァァ!!』という声と共に、ツートーンの巨体が森から飛び出した。



「「「「「「「馬ァァァァァァァァァ!?」」」」」」」



 オリ主となのは、そして傷ついたフェレットを携えて、月村家に雄範誅(おぱんちゅ)号登場。
 やがてスタリ、地面に降り立ったアールワンとなのは。

 なのはは友人達の下へ駆け寄り、アールワンは庭へ向かってロングコートの前をはだける。
 総計30匹近い猫がびっくりどっきりにゃにゃにゃにゃにゃと飛び出した。

「ごめんねみんな、ユーノ君と猫達の喧嘩止めてたら遅くなっちゃった」
「ちょ……ユーノ大丈夫だった?」
「ごめんね?ウチの子達が……」

 どうやら心配させてしまったようだ、とアールワン、一人反省しながらさめきった紅茶を飲み干す。
 アリサのカップだろうが躊躇はせぬ。

「あの……よろしければ淹れ直しますが……」
「いえ、お気遣い無くメイドさん」
「私が気にするわっ!!」



 そして、謎の珍入者を確認すると忍は恭也を問いただした。
「ねえ、あの子誰?なのはちゃんの知り合い!?」
「ああ、アールワン・D・B・カクテルというらしい。
親父も警戒している要注意人物らしいが……」
「アールワン、聞いたことがあるわ。
今海鳴を騒がす凄腕のトラブルバスター……暁のコマシとも投擲者とも呼ばれる変態だって」

 やがてアールワン、懐に入れたままの包みに気がつくとなのはにそれを渡す。
「そういえば君のパンツを爆発させた後、弁償するのを忘れていたね。
コレはそのときの詫びと礼の品、遠慮なく受け取りたまえ」
 健闘賞だよ、と念話で伝える。
 バニングスのショッピングモール印が入った物であった。

「こ、これは新作ぱんつ!!
ありがとう、これほしかったの!!」
「--------良い」
 感激に身を躍らせるなのはを手で制し、へぇーパンツってばくはつするんだぁーと微妙な表情をする二人を共に、
温かく見守るオリ主。
(妹にパンツをプレゼントするだと!?)
 そしてさらに危険度を増す恭也の視線。

 だがしかし、そんな折アールワンの腰元から『丸腰だから最強だ』、とのフレーズが聞こえた。
「……で、でかい携帯電話だな」
「貴方の一物には負ける」
 そんな事を恭也に返しつつ、愛機を耳へ押し付けた。

「ヘロウ……アイムアールワン」
 聞きなれた声が焦りを含んでいる、本日二度目の『古着屋』からの電話。



『ぼっちゃん!大変でゲス!
--------ついに……遂に『龍(ロン)』が動き始めたでゲス!!』



[25078] 【無印編七話】転ずる運命、各々が役割
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Date: 2011/02/06 06:35
 人買い、それは有史以前から延々と続く社会の暗部。
 戦争の理由も労働力を手に入れるため、という時代もまた、長かった。

--------かつての話である、とは言いがたい。
 テクノロジーの進んだ20世紀、又21世紀における現代にも、その事業は形を変え存えている。
 国が企業に変わっただけだ。

 さて、ここは日本海のほぼ中心、其の船の名前は『いんふぇるの』号。
 見てくれは豪華客船である、だがしかし4階構造の内装は上下2階で大きく異なっていた。
 上二階は社交場、スポーツジム、あきれ返るほどの広さを持つ寝室、プールまである。
 だが下2階は調教施設、牢屋、いも洗い式のシャワー程度しかない。

 もうお分かりだろう、足の付く可能性の低い海上。
 その船は動く奴隷市場である、積荷以外の上船者は富豪層、所有者は『龍(ロン)』という組織であった。
--------では、何故過去形で話しているか、その理由を皆に知らしめたい。



「しかし、栄光の『龍(ロン)』も人材斡旋業に格下げか」
「いうな、支部は壊滅、人員はバラバラ。
とにかく今は再構成のために資金が要るんだそうだ」
 ダークスーツに身を固めた男二人、けして上品とはいえない風貌。
 華やかに着飾った紳士婦人を横目に己が境遇を嘆いた。

 街のチンピラから数え切れない悪行を重ね、裏世界の栄光である組織の構成員にこぎつけた矢先、
--------小太刀を携えた謎の男が主要な人物をこぞって始末した。
 どんな組織も上が倒れたら苦しむのは下っ端である。
 やったのは香港国際警防隊とも『御神』という謎の組織とも言われているが……。
 まあ、そんなことはこの二人にまったく関係が無い。

 さて、パーティードレスと悪趣味なマスケラで顔を隠したオークションの参加者達は、
今夜のメインイベントが始まるのを今や遅しと待っているわけだ。

 しかしわかっているだろう諸君、退路の無い海上、チンピラとはいえ数十倍の数を誇る戦闘員。
 背後にあるのは壊滅したとはいえ裏世界では最大の犯罪組織という状況でも。
 あの男は果敢に介入するのである。



 轟音と共にシャンデリアが落ちた、運の無い参加者が巻き添えに潰されたがなに、構う事はない。
 明かりの消えた大会場に降り注ぐ月光、其れを弾いて色とりどりに降り注ぐ避妊具の雨。
 そしてシャンデリアをクッション代わりに降り立つ其の男、12歳。

 アールワン・D・B・カクテル--------若き日のオリ主である。



「--------う、撃てうてぇ!!」
 黒服の男達が携えたサブマシンガンが、弾幕を生み出した。
 だがしかし、いかなる魔法を用いたのか(実際に魔法だが)軍隊を持って殲滅せしめるほどの鉛弾を弾き、
其の子供は輝ける剣を振りかぶった。
「--------あんたとおいらのぴらみっどぉぉぉぉぉ……どちらがデカいかさあ勝負ぅぅぅ……
古代の王様みまもってぇぇぇ……訳ありあいつにゃまけらんない」
 悪夢の幕開けであった。
 よくわからない鼻歌混じりに次々と、戦いの意識あるなしにかかわらず目に付く人を切り捨てて行く子供。
 たいした力も入っている風にはみえないが、大の男も福福しい女も次々と昏倒してゆく。
「--------アイツが20歳(はたち)で俺19……年齢的にはいい勝負ゥゥゥ……
経験値だけが物言うかァ……ヤツの顔からは読めないぜッ!!」
 ほかの人間をものともせず放たれた対戦車砲の弾頭を切り飛ばし、オリ主は尚も凶刃を振り下ろす。
 やがて『アッーーーーーーーーーーーーーーー』という轟音も聞こえなくなる頃には、其処に立っているものは一人もいない。

 人一人通れるか、といった狭い通路を少年が行く。
 木製の粗末な閂を一つ一つ上げて行くたびに、血の気の無い哀れな女、子供、時々美少年が其の後姿を見る。
「そうして勝負がついたのさ……鼻先僅かでオレの負け……
砕かれたオレのプライドに……突き刺さるヤツのピラミッド……」
 薄暗い通路に響き渡るオリ主の『ピラミッド行進曲』
 やがてとらわれた哀れな人々が脱出ボートへ駆け出した。

 そして船首、夜の海に浮かぶ『洗濯屋』のバン、其のヘッドライトを確認すると、飛び込もうとした其の時、
銃声が響き、凶弾が若きオリ主の頬を掠め飛んだ。
「このまま逃げ切れると思うなよ小僧、『龍(ロン)』を相手にして生きて帰れると思うな……」
 背後に、ところどころ焼け焦げたタキシード姿の偉丈夫が銃を構えていた。
 おそらくこの夜会の責任者であろう、醜く顔をゆがめた其の姿を見てアールワンは溜め息をついた。
「もうすぐ『あの組織』とも渡りが付く……ここで失点を貰うわけにはいかねえんだよ!!
 てめぇあの『御神』の手のものだろうが、首の一つでも貰わなきゃ示しがつかねぇ!!」

 息む男の懐に、まさしく『御神』の神速を用いて飛び込むと、手にした凶器を突き立てる。
--------バイブレーターであった。
 男達が面白半分で女に突き立ててきた其の獲物、今宵は自身の骨格をバラバラにするとは。
 あっけにとられ倒れこむ男、やがてアールワンは懐から新たな武器を取り出した。

「幾年月日は流れゆきぃぃぃ……気づけば真っ赤なちゃんちゃんこォォォォォォォォォォ……
まッだまッだイけるぜピラミッドォォォォォ!!!!!!ヤツより大きなピラミッドォォォォォ!!!!!!!」
「い、一体何がどうなって……搾乳機だと!?
そんなもので何をするつもりだ!?やめて、止めてくれ!!
どんな情報でも吐くから、オレの息子にそんなものをつけないでくれぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!」

 海に転々と浮かぶ救命艇から響く歓喜の声。
 そして甲板からも響く歓喜の声。
 やがて船首像よろしく吊るされた全裸の男、股間からぶら下げたタンクの中身、其の量にご注目ください。
「----------------オレの勝ち……」
 ロープで救命艇を牽引した洗濯屋のバンから、クラクションが響き渡った。

----------------2年前の出来事である。








「--------ールワンくん……アールワン君!?
おきてください、ユーノ君の検診おわりましたよ?」
 どうやら夢を見ていたようだ。
 しかもよりによって煉獄号の惨劇、世界中のあらゆる警察組織が恐れおののいた事件を。
 あの時の自分は若かった、加減知らずに息巻いていた頃だ。
「ああ、大丈夫です槇原女医--------ちゃんと認知しますから……」
「もう、なのはちゃんと仲良くなってると思ったら、お相手はユーノ君だったのね?」
「キュ、キュゥゥゥゥゥッ!?」
 全身で否定するフェレット、其れを見て笑う二人。

 ここは新築された『スーパー槇原動物病院』謎の怪異で全壊した施設を改修した槇原愛の新しい根城。
 なのはの強い要望によりユーノは今日ここで、先日受けた傷の具合を見てもらっていたのであった。
 アールワンは其の付き添いである。
「--------ああ、ありがとう」
 珈琲の入ったマグカップを携えた盆を持ち、よちよちやってくるペンギンに礼を言う。
 進化したのだ、こういった動物を保護する施設も併設している。
「ちなみに、雄範誅(おぱんちゅ)号は健康そのもの。
とりあえず鉄球は磨いておいたから」
「ああ、すまないね、この前ガソリンスタンドでジェット洗体してもらったんだが、錆びていなかったかい?」
「そっちも大丈夫、でも蹄はそろそろ交換しなきゃかしら?」
 顎に人差し指を添え、考える槇原女医。
 アールワンは珈琲を飲み干すと、地下格納庫に向かう。
「夏蹄は出来るだけ丈夫なものを頼む、高価でもいいが4足そろえておいてくれ。
それでは行こうかユーノ」
「なにかあったら又来てねユーノ君。
そういえば今日、なのはちゃんはどうしたの?」

 小さな疑問に、アールワンは不敵な笑みで答えたものだ。
「どうにも……友人たちと温泉旅行の前に必殺技の特訓だそうだよ?」







 父の車に積んだ地図から、なのはは其の場所を探り当てた。
 父が、兄弟が長期休暇を迎えると出かけてゆく山篭りの修行の地。
 県外であったが、飛行魔法を使えば何とか日帰りで行けそうな辺境であった。

 古ぼけたコテージ、丈夫なワイヤーで吊るされた丸太、幾つもの罠。
 加えて断崖絶壁にでかでかと刻まれた『御神』の文字。
 永全不動八門一派の秘密特訓場、力と技のテーマパークである。

「--------とぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 そして日が傾きかけた頃、其の地に場違いな少女の掛け声と、さらに不釣合いな轟音が響く。
 そして、岩肌にでかでかと刻みつけられたハート型のクレーターを見て、なのはは満足げに頷いた。
「完成したね、レイジングハート」
『It is perfect.
It registered certainly new magic.
(それは完全です。確かに、それは新しい魔法を登録しました。)』
「ありがと。
さて、そろそろ帰らないと温泉にまにあわないや」
『Slowly. (ゆっくり。)』
「うん!!」
 ナップザックに荷物を纏めて行くなのは。
 だがしかし、何者かの視線を感じ、手を止めた。
「--------誰?」
 深く生い茂る森の奥、やがて音も立てず、其の気配は消えた。
 しばしいぶかしむなのはであったが、山賊であろうともここに金目のものは置いていらぬ。
 やがて、でかでかとした『御神(はぁと)』と書かれた文字に見送られ、その場を去るのである。






 ズシンズシン、ズルズルと雄範誅(おぱんちゅ)号は今日も車道を行く。
 背には主と、珍しくフェレットが一緒であった。
『じゃあ、やっぱりアールワンはこないんだね?明日の温泉旅行』
『誘われはしたのだがね……もれなくおっさん達がついてきそうな気配だったからな。
まあ、高町家の面々は私が来てはくつろげまいよ』
 念話での会話、内容はやはり翌日の温泉旅行についての話題である。
 ちなみに、なのはにかぎらずバニングスグループの御頭首からもお声がかかった。
 アールワンが行くなら自分も来ると。
 最近とみに忙しいバニングスグループであるゆえ、おこがましいと断りを入れたが、
それについてはアリサからもお冠を受けそうである。
 なおさら行かぬ。

(もっとも、どうしても手に入れねばならぬものがあるのでな。
別行動で其の温泉宿にはいかねばならぬが……)
『たのしみだなぁ、あれだよね?
温泉って卵がゆでてあったり、お饅頭がゆでてあったりするんだよね?』
『--------サルに襲われるなよ?
----------------それとローマ人に気をつけろ?』
「うん、わかった。
なのはも最近無理させちゃってるから、骨休めしてくれるといいんだけど……」
 夕日に向けて帰路を行く。
 やがて言葉が途切れた頃、アールワンは唐突に、静かな声音でユーノに告げた。

「……なあ、ユーノ」
「なに?どうしたのアールワン?」
「--------『龍(ロン)』という組織に、気をつけろ」







 さて、翌日。
 高町・バニングス・月村の家族混合温泉ツアーはそれぞれの車に分乗し、目的地である温泉宿に向かっている頃である。

 問題は、その海鳴温泉という旅館で起こっていた。
 女将と仲居、そして20代くらいの女性十数名が何事か言い争っているのだ。
「そんなこといってもこまります、当旅館にはご家族連れも泊まってらっしゃいますので……」
「そうはいってもこっちも仕事なんです!!
まして呼んだ相手が相手なんで、これで行かなかったら私達どんな目にあうか……」

 --------事の顛末はこうだ。



 暴力団関係者が集団でこの旅館に来泊した挙句、よりにもよって朝っぱらからデリヘルを呼びました。
 以上です。




 両集団共に、ほとほと困り果てる状況、だがしかし。
 その場に駆けつける一人の女性、高そうな服につりあわぬ、気弱そうな女性である、巨乳ではあったが。
「リーダーリーダー!
大丈夫です、例の店に私のパンツ、おいてきましたから!!」
 手にした1ダースのアーモンドチョコレートを見せ付ける。
 だがしかし、あきれたように溜め息をつくとリーダーと呼ばれた女性は彼女に向けて怒鳴り散らした。
「あんたねぇ、そんな都市伝説真に受けて!
きてくれるわけないし、こんな問題解決……出来る……わけが……」

 はたして、何故彼女の叱責が尻すぼみになったのか。
 懸命な諸氏諸君、もうお分かりであろう。
 気の弱そうな女性が捧げ持つそのアーモンドチョコレートの山に、
気の聞いた音を立ててコンドームが突き刺さったからである。

「嘘……」
「まさかまさか……」
 リーダーと呼ばれた女性、なれた手さばきで其の封を開くとルージュの引かれた唇にあて、力いっぱい膨らませた。
 たちまち眼前に広がる『Guilty』の文字、噂に聞いたとおりである。
 紳士(wとも一緒にプリクラをとったら幸福が舞い込むとも噂されたあの少年。
 まさか自分のぱんつで現れてくれるとは、と気弱そうな女性はなんか、こう、感極まった様子だ。

「え、マジ!?
ほんとに来てくれたの!!」
「キャー!どこどこ!?」
 と騒ぎ始める女性人に、温泉旅館のスタッフは困惑然りだ。
 だがしかし、スパーンと布団部屋の戸が開き、ドサリとその物体が倒れこんできた。
「「「「「簀巻きィ?」」」」

 否、其の恵方巻きのような物体からにゅっと顔を出す其の男。
 アールワン・D・B・カクテル--------オリ主である。
 今年の恵方は南南東、みんなは予約したか?
 某コンビニのあれは結構美味い。

「やれやれ、きちんとした組織に加盟せず、小遣い稼ぎをしているからこのような問題が起こる。
--------ほどほどにしておきたまえ諸君」
 恵方巻きかと思ったら、実はカリフォルニアロールでした。
 噂どおりの黒いロングコートを身に纏い、ごろごろと女達の前に転がってくるオリ主。
 楊貴妃の史実をなぞった訳でもあるまいが、まあ不法侵入していたのだ。
「そ、そんなこといわずに助けてください!!」
「わかっているさ、もうじき懇意にしている家族がここへ泊まりに来るのでね。
女将、すまないが泊まっているヤーさん達には自主的にチェックアウトしてもらうぞ」
「はい、其れはいいのですが……そのTV、何に使うおつもりですか?」
 百円入れたら10分映る、絶滅危惧的な例の備品。
 行楽地にはつきもののケーブルテレビなのだが、今の子供達にはきっとわかるまい。









 詳しい経緯は割愛する。
 はたして愉快な原作キャラたちがたどり着く頃には、上記の騒ぎは収まっていた。

 荷物を降ろし、早速ひとっぷろ浴びようという子供達に囲まれて、ユーノは生涯最大の岐路に立たされていた。
「ねーそんな事いわずにユーノ君もいっしょにはいろーよぉー」
『いやなのは、ボク男だから、士郎さんたちと一緒に入るよ!』
 まあ要するに例のアレだ。
 ここで女湯に連れ込まれると淫獣指定されるお決まりのイベントである。
「キューキュー!!(助けて!アールワン)」
「なのはー、まだユーノむずがってるの~!?」
「全然問題ないのにねぇ?」
 じたばたとあばれるフェレット、もう一緒に入る気満々の乙女達。
 だがしかし、哀れな小動物の助けをもとめる声を、神は見放したりはしないのである。



「あ!あ!暴れ馬だァァァァァァァァァァァァァ!!!!」



 腰にタオルを巻いただけの男が、脱衣所から飛び出してきた。
 続けて奥から響く『ヲヲヲォォォォォォォッッ!!』という泣き声。
 しばし呆然とする3人、やがてなのはの腕から抜け出したユーノ、
「キュッ!」と凛々しく敬礼して、男子浴場へ向かって行く。
「ねえなのは、ユーノ大丈夫かな……」
「うん、大丈夫だよ。
ユーノ君と雄範誅(おぱんちゅ)号、仲いいから」
 ひらひらと手ぬぐいを振るすずか、やがて三人は女湯へ向かって行くのである。









「なあとうさん、サルと一緒に温泉に入るのは聞いたことがあるが、流石に馬とは……」
「ああ、さすがにあれだ、ないな」
 浮かべた手桶に張った湯に浸かるフェレット。
 きちんとタオルを頭に載せ、ぶふぉぁぁぁぁぁぁぁぁと鼻息をつく痛馬。
 やがて、手元にあった盆を士郎の下に押し出す、蹄で。
 ぬる燗である、飲め!ということらしい。
「ああ、これはどうも」
 まあ、最近娘にちょっかいを出す男の馬なワケだが、雄範誅(おぱんちゅ)号とは直接面識の無い士郎。
 あの男は誘いを断ったという話だし、多分プライベートなんだろうなと考える。
 そして恭也は恭也で(風呂に入るからには頭のパンツや鞍?をはずしても、鉄球は外さないのか……)
などと考えていた。











--------女風呂の描写は、ご自由にご想像ください。











 やがて、ほこほこに茹で上がった幼女三人を、マッサージチェアに跨りながら確認したアールワン。
 彼女らはもうじきやってくる黒の魔導師、その使い魔であるアルフに絡まれる予定である。
(今後の企みを授受すべく、アルフのパンツを手に入れる機会はこの今のみ……)
 彼は懐からデリヘル嬢のパンツを取り出した。
 まだ暖かい、正直持ち合わせのパンツを湯気で温める算段であったが、機会に恵まれたといえるだろう。
 このパンツを被れば、オーバードライブ・モードで秘奥義を繰り出せるというものである。

 さて、ご自身のブログで『女性キャラが多いのでやりづらそうだ』とのご指摘をいただいた某氏。
 お心遣い有難うございます、ですがご心配には及びません。
 当SSのオリ主はイけます、ヤります--------むしろやらねばならぬ!!


「--------それでわちいてんをはぢぬるッ!!」


 温泉宿の粛々とした空気が一体になり、鼻腔に広がる開放感。
 日本人の魂が呼び起こされ、今、変身を迎える衝撃のカウントダウン--------
 1(パン!)・2(ツー!)・3(スリー!)

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」







「久しぶりだね、この前はうちの子をアレしてくれちゃって……」
 やがて、謎の女性に値踏みされた3人一同。
 すずかはなのはに知り合いか?と問うが、おそらく魔法関係の事なのでうかつに話せない。
 果敢に食って掛かるアリサであったが、謎の凄みに追い込まれて上手く切り替えせぬ。
 やがて「ごめんごめん、人違いだったわ」とその場を離れる其の女。
 だがしかし『石集めはあきらめてお家で遊んでなさい……さもないと、ガブッといくよ』
 と殺気混じりの念話をいただいた。
 なのはの胸に言い難い気持ちが巻き起こる。
 今の女、ユーノから話に聞いた、あの黒い魔導師の使い魔ではなかろうか?
 かつて大木騒ぎの際、自身を助けてくれたという。
 何故、今そのような不穏な気を自分に放つのか、やはり彼女達とわかりあうことは出来ないのか……

 そんな不安を掻き消す、男の宣言が休憩所に響く。
「--------そうとも、そこのお嬢さん。
----------------用があるのは私の『ウホッ!巻き』では、ないのかな?」
 その場を去ろうとしたアルフ、ものすごいイヤな予感がして辺りを見回す。
 番台の後ろ、自販機の陰、休憩所のおっさんの顔を一人ひとり見回しながら辺りをうろつく。
 もちろん3人も周りを見回し始める、なのはにいたっては早くも喜色が浮かんでいる。
 ……やがてほっと安堵の溜め息をつくと再びその場を後にしようとするアルフ。
 無性にのどが渇いたので一杯やろうかと売店に足を向けた其の時。

 そいつはフードコートの端にある、バカでかいバ〇ワイザーのビニール風船の上にいた。
「--------変態仮面、参上!!」
「う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 なにごとかと駆けつけた3人、さっきまで要らぬ喧嘩をふっかけられた女性がしりもちをついているのを発見。
「あ、あんたはうわさのパンツマン!!」
「血行仮面!!(血行のよさそうな人の意)」
「--------パンツの妖精さん!!」
 ははははは、と半裸の怪人は笑い、少女の熱い視線にさわやかに答えて見せた。
「残念ながら、皆ハズレだ。
ワンスモア----------------変態仮面、参上!!」
 フロントラットスプラットで答える変態仮面、一寸前進したので『ウホッ!巻き』がアルフの鼻先に当たりそうだ。
 と、いうわけで、ガタガタ震えているアルフを見下ろすと、其の男はいう。
「いたいけな少女を捕まえていわれの無い中傷を向けるとは、女の喧嘩は恐ろしいというが、
男とはいえ割って入らなければならぬ道理。
この私の『ウホッ!巻き』其の口にねじ込んで黙らせてくれようか!」
 腰をつきだす変態仮面、首を引いて交わすアルフ。
 黙らせてくれようか!黙らせてくれようか!としばし牽制が続く。

「あ~変態仮面、なんか気の毒になってきたからもういいわ」
「それよりも変態仮面さんのお話聞かせてほしいの!!」
 ははは、勘弁してほしいなぁ『OHANASI』か、などと腰が引けた変態仮面。
 其の隙を突いて、アルフは彼の股座から這い出たものだ、一寸涙目で威嚇してくる。

「おや、どうも彼女はまだ諸君とヤル気みたいだぞ?」
「……いや、どう見ても今の標的はアンタでしょうに」
「さて、遺恨を残すわけにはいくまい、どうかな?
ここは一つ、卓球で勝負、というのは?」

--------変態仮面は股間からピンポン玉を取り出した。
 何故たくさんの穴が開いているのか、そして両脇から何故皮ヒモがついているのか。
 そして平成不況はいつ終わるか、国債のランクが下がってしまったが取り返しがつくのか。
 様々な謎を孕みつつ、彼らは卓球台に移動するのである。









 チーム分けはアリサ・すずか、対するはアルフ一人である。
 なのはがアルフに『はいろうか?』と進言したが頑なに断った次第だ、ハンデのつもりらしい。
 尤も、二人はあさっての方向を向き『……チッ』と舌打ちをしたものだが。

 はたして、サーブ権はすずかの元に渡った。
「--------ダークネス・ムーン・ブレイクッッッ!!」
 あたりが夜に包まれて、超超高所から打ち込まれるその剛速球、小学生の本気である。
 だがしかし……。
「あまいよっ!!」
 相手も然る者、驚異の動体視力で危なげなく其の魔球を打ち返すと、ポカーンとしているアリサの前をワンバウンド。
 不規則な回転に加え、ボールの紐のおかげであさっての方向に飛んで行くプラスチックの弾。

 嗚呼、だがしかし其れは変態仮面の思うつぼ、半裸の男が高く宙を舞い……
「----------------ボンバー♪」
 その球と、股間の丸が合体したではないか。





「変体秘奥義『魔球・卓球台のピーンボール』
この動きを見切れるか!?アルフゥゥゥゥ!!!!」





 まるで隕石のようにアルフ側のコートへ飛び込んだ変態仮面。
 極端なエビ反りで腹と股間をあらわにした逆アルマジロの形を取ったその男、
何度打ち返してもひたすらにアルフ側のコートをバウンドして、其の凶器を顔面に押し付けようと迫り来る!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああッッ!!??」
 さらに加速を続けるナックルボール、野球であれば3金バッターアウトであろうが、コレは卓球。
 完全な球体、いわばビスケット・オリ主とも言うべき形態でありながら、
アルフの視界に飛び込んでくるのはただひたすらに股間、股間の袋のみ。
--------この男、お仕置きする気満々である。

 だがしかし、そこへ何組ものご家族連れが集まり始めた。
「お父さんお父さん!変態仮面が卓球になってるぅぅぅ!」
「ほ、本当だ、コレはすごい!
お母さん、おひねり投げようおひねり」
 其の動きを大道芸か何かと勘違いしたのか、次々と投げ込まれるおひねり。
 変態仮面は次々飛来するそのおひねりを確認し、其の頭脳に変態的ひらめきが起こった。

「----------------分身」
 瞬時に飛来するおひねりを自身の股間に見立てフェイクシルエットを展開。
 股間ばっかり見せ付けられていたアルフ、驚異の分身攻撃に脳の理解が追いつかぬ。
 十や二十ではきかぬ変体魔球の応酬、遂に、一斉に彼女の体に激突した。
「そして間髪いれずに『悶絶地獄車』ッ!!」
「ギャーぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
 アルフと共に二度三度地面をバウンドし、時折横にあるビリヤードの用具を巻き込みながら、
やがて『パリィィィン』と窓を割って変態仮面は外へ飛び出した。











 血相を変えて外へ飛び出した3人とギャラリー。
 中庭で待ち受けていたのは、1メートル半ほどの真っ黒な球体である。
 どうやら中庭でも高速回転を続け、黒土を巻き込んで、雪だるまかフン転がし式にこの土玉となったようである。
「…………」
「…………」
「…………」
 ものすごい歓声が響く中、なのはとアリサとすずかはおそるおそるその球体に近づいた。
 --------そのときである。

 ガシャンッ!!とものすごい音がして球体の左右が開いた。
 ビリヤードのキューを用いたフレームがしつらえており、右には整然と並んだおひねりが。
 そして左側にはアルフが着ていた浴衣とパンツが吊るされていたのであった。

 アリサは球体の中を覗き込む、やはりいた変態仮面。
 半裸の其の男はグッと親指を立てると、アリサに向かって言った。
「--------成敗!」
「……ねえ、あのお姉さんは?」
「----------------成敗!!」
「あの人は!どこへ!!やったのッ!?」
「------------------------成敗ッ!!!!」

 やがて再び、ハッチがガシャンと閉まり。
--------完全に魔球と化した変態仮面はコロコロと山を下っていくのであった。










「あ、アルフゥゥゥゥ!?
--------なんで、どうしてハダカで転送されてきたの!?」
 マンションの一室で困惑する黒い魔導師、宿敵との再戦は、近い。



[25078] 【無印編第八話】ほんとうのかいぶつ
Name: str◆87c5f11c ID:8b00ffdf
Date: 2011/02/06 08:56
 さて、場面は温泉旅館の一室。
 すっかり日も暮れて遊びつかれた子供達は就寝の時間である。
 穏やかな寝息をたてているすずかとは対照的に、うなされているアリサ。
--------可哀想にどんな悪夢を見ていることであろう。

 さて、そんな友人達を背に、高町なのははユーノ・スクライアと今晩も念話で作戦会議。
 お題目はここに来る前、アールワンに聞かされた『龍(ロン)』という組織についてである・

『……と、いうわけで、どうやらアールワンは捜索の時間が大幅に削られそうなんだ』
『龍(ロン)か……聞いたことあるよ。
昔お父さんがひどい怪我をさせられたのも其の組織だって言うし……美沙斗お母さんが壊滅させたって聞いていたのになぁ』
『?なのは、誰それ』
『うん、私のお姉ちゃんの本当のお母さん……っていうか生んだ人。
今香港にいるんだけど、優しい人だよ?
お姉ちゃんも私も、みんなあの人が好き』
 
 月明かりに照らされて微笑むなのは、其の笑顔を見て、ユーノは今まで心のうちに秘めていた思いを口にした。
『なのは、やっぱりここからは僕一人でジュエルシードを探すよ。
これ以上皆に迷惑はかけられない』
『--------だめだよユーノ君、こんなところで終わったらずっと気になっちゃうし。
それにね?はじめはユーノ君のお手伝いのつもりだったけど、
いまならちゃんと自分の意思でジュエルシードを集めたいって、そう思うんだ。
あの黒い女の子のことも気になるし』

 其の発言を聞き、改めて少女の意志の強さを確認したユーノ。
 今度は別の覚悟を決めて、再び思いを口にする。

『じゃあさ、なのは。
こんどあの黒い魔術師にあったら、なんとしてもジュエルシードを求める訳を聞き出そう。
--------もしその理由が相当のものだったら、今まで集めたジュエルシードを渡してもいい』

『だって、コレはユーノ君が探しててたものでしょ!?』
『だからだよ、一応管理局に引き渡す予定ではいたけど、ボクとしては暴走の危険が無くなればそれでいい。
全部封印処理できて、この世界から危険が無くなれば、ベストではないけれどベターな選択だと思う。
問題はあの子が、コレが願望をかなえる『失敗作』のロストロギアであるとしっかり認識しているかどうか……それと、
ひょっとしたらなのは、君がこのジュエルシードを探す暇も無いほどの危険にさらされている、ということだ』
 息を呑むなのは、ユーノは続けて言う。
『ボクも今までたくさんの盗掘団や犯罪組織に狙われてきたけれど、総じて彼らは無下に出来ないほど危険な存在だ。
この世界の犯罪組織については良くわからないけれど、きっと君の想像をはるかに超えた悪質な手段を使ってくる。
--------もし、その『龍(ロン)』が君のお父さんを狙っているとしたら、君は人質に取られるかもしれない。
----------------それにね、僕がここに来る前に乗っていた船は、爆発したんだ。
ジュエルシードを持ち出すので精一杯だったから、僕はどんなヤツがそんな事をしたのかわからない。
だからね、もしこのロストロギアを狙うのがあの黒い魔導師だけじゃなく、
僕の世界の魔道犯罪組織だったとしたら……僕だけでは君を守りきれないかもしれない』



 二人は視線を合わせ、深く頷いた。
 仲間を増やすのだ、あの黒い魔導師と友達に成るのだと。
 事件の渦中に放り込まれた二人が、明日を迎えるために。



 そんな時、アールワンからの念話が二人の頭の中に届く。
--------其のあたりの河川からジュエルシードの反応がある、二人で封印してほしい、と。







 同じ頃、ジュエルシードの反応を察知した件の黒い魔導師、フェイト・テスタロッサは飛行魔法にて現場へ向かっていた。
 だがしかし、心はマンションにおいてきた彼女のパートナーを心配している。

 フル・フロンタルな姿で転送されてきた彼女は泣きながらクローゼットをあけ、適当な服を着ると、
其の服を着たまま頭からシャワーをあびて、ガタガタ震えていた。
 いかにフェイトが何があったのか聞き出そうにも、ただ弱弱しく首を振るばかり。

 だがしかし、バルディッシュが探し当てたものの反応を察知し、当のアルフも『行け』というのであれば行かねばならぬ。
--------帰りには、彼女の好物であるドッグフードを買って帰ろうと思う。



 やがて、反応があったという川辺にたどり着く。
 辺りを見回してみるが、特に変わったものは……否、程なくして見つかった。

 およそ1メートル強ほどの黒い球。
 次元航行艦の緊急用脱出ポッドにも似た其の黒い球体は、月光と少女の顔を映すほどに艶やかで、
横からはぱかんとハッチが口をあけている。
(なんでこんなものが……ていうかコレ何?)
 導かれるままに其の中に入ってみる、なんだかなかなか落ち着く狭さ。

 だがしかし、フェイトがその押入れ感に浸っていると、横合いから何者かが球体を覗き込んだ。
 なのはである、先日激闘を繰り広げたあの白い魔導師だ。
 中に居るのが何者か確認したなのはは『ぱぁぁぁぁぁぁ』と顔に喜色を浮かべ。
 反対に見つかったフェイトは『かぁぁぁぁぁ』と、見る見る羞恥で顔を赤らめる。

「あけて!ここあけて!私とお話しようよぉ!!」
「いや~!私を見ないで私を見ないで!!」
 ガシャン、と閉じられたハッチの部分をレイジングハートで殴打するも、一向に出てこないフェイト。
 むぅ、とむくれるなのは、大玉ころがしの要領で川の中にその土球を川の中へ運び出す。

 程なくして、桃太郎の桃のように、真ん中からひび割れる土製の黒い球。
 土ゆえに浸水には弱い。
 真ん中に体育座りしているフェイトがあらわになり、やがて彼女は魔力光を伴って空へ浮かび上がる。

「……どうやら貴方も、ここにあるジュエルシードに用があるようですね、白い魔導師」
(--------流したッ!?)
 ごまかせるのかと困惑するユーノ、再び自己紹介するなのは。
 宿命の対決、第二ラウンドの始まりである。






 もちろん先手を取ったのはフェイト・テスタロッサ。
 魔力弾の乱打からなのはの間合いに入るとハーケンフォームの刃をなぎ払う。
 対するなのは、飛び交う魔力弾をでんぐり返しで交わし、凶器の柄をレイジングハートで受け止める。

「どうして……いきなり攻撃する……のッ!!」
「--------この場にあるジュエルシードは一つ、貴方を倒して私が物にする。
先日はついその場に興じてしまいましたが、貴方と私が合間見えるならば、其処には戦闘有るのみッ!!」

 カチンときた。
 そのヤカン振りはなのはの友人たるアリサを凌駕する短絡思考、この身この言葉が受け入れられなくば、
まずは彼女の言うとおり、力でねじ伏せてからのOHANASIあるのみ!!
--------3期の有名なあのシーン、下地はこうして作られて行く。

 思考を高速で走らせあたりに五つのディバインスフィアを形成、放たれる無数の高速弾に手間取るフェイト。
 飛行魔法で間合いを離すと、彼女のはるか頭上で愛機を構えるなのは。

「--------ねえ、あの日の続きをしようよ……。
勝ったら貴方がこのロストロギアを探している理由と……何よりお名前、きかせてもらうの。」
 ゾクゾクする声音、視線を後ろに流すと此方を見下ろす白い魔導師。
 九歳には出来過ぎなツラ、凶器を此方に向け挑みかかる好敵手。
 其の姿を見てフェイトの、闘争心が暖まった。
 ガタガタ震えるのは川辺で見ているユーノだけである。

「--------打ちぬけ、轟雷」『Thunder Smasher』
「ディバイィィーン」『Buster』

 再びカチ合う大砲撃、一瞬蒸発する川の水。
 フェレットが額に手を当て、頭上を見上げる。

 果たして今度は気合の差か、徐々に黒い魔導師の砲撃を押しのけて迫る桃色の光。
 やがて、なのはの一撃がフェイトに辿りつき、着弾と共に大爆発を起こす。

「やった!?」
「あぶないなのは!!
--------うしろだっ!!」

 確かに、誰もが打ち倒したと思っただろう。
 だがしかし、なのはの砲撃が届く其の刹那、魔法による超高速飛行で離脱したフェイトが愛機をハーケンフォームに
可変させ、なのはに襲い掛かるのである。
 戦闘において、己が得意の間合いで挑むのが道理。
 ならばこそ、もはや油断のかけらも無いフェイトであるならば、なのはに近接戦闘を仕掛けるのはまた、道理なのである。



--------だがしかし、其の戦の巧みに挑もうとするなのはもまた無策ではない。
----------------パン友足るオリ主の意向を鑑みて生み出された其の技を見せるときがきた!

 黒の魔導師が其の鎌を振り下ろす瞬間、レイジングハートに走るなのはの意思!
 ドキッ☆砲撃魔術師の新必殺魔法!!



「プロミネンスッッッ!」『peach』



 大きく振りかぶったフェイトのみぞおちになのはの尻が叩きつけられる。
 カウンターを含む加速度の威力と打撃魔法特有の『ズシン』という衝撃の中に、
『もにゅん』という弾力とずっしりと確かな質量が感じ取れる。

(--------ヒップ・アタックッッッ!?)
 わずか一秒の間にも満たぬ自身に降りかかった其の技、其の身を弾頭として放たれる巨弾。
--------其の名も速射零距離砲撃魔法『プロミネンスピーチ』
 拳や足では届かぬ己が近接戦における必殺の一撃を、彼女は自身の体ごとぶち当たる事で完成させたのだ。

 何と言う威力か!何と言うまロさか!? 
 吹き飛ばされながらフェイトは其の感触を反芻する、もう、意識せざるを得まい。
 飽くまで食らっていたい、もう毎晩枕にして寝たい。

 吹き飛ばされながらも笑顔を見せずにはいられない、太陽にも似た其れは、友情の重さであった。







 やがて河川敷に大きく穿たれたハート型のクレーター。
 其の中心に駆け寄ったなのはとユーノ、なんかすごく幸せそうな顔で手足をぴくぴくさせているフェイトを抱き起こす。
「さあ、私勝ったよ!高町なのはだよ!!
--------早速お名前を聞かせてもらうの」
「うぅ……フェイト、フェイト・テスタロッサ」
 回復魔法をかけながらユーノも問う。
「じゃあフェイトさん、どうしてジュエルシードを集めているか白状してもらおうか!?」
 どうしてこのフェレットがドヤ顔をしているのか、諸君としては其れも問い詰めたいところであろう。
「……わ、わからない、でもどうしても集めなきゃ……」
「「わからない!?」」

 予想外の返答に顔を見合わせる二人、しかし事切れる前に呟いた『おかあさんが……』という一言にユーノが頷く。
 一時探すだけで落ちていたジュエルシードも発見され、レイジングハートの中に格納していた分も含めて、
 フェイトの愛機、バルディッシュに差し出した。
 あわせて6つ、彼女の分も合わせれば8つになる。
『Thank youing, is it good?(youingして、感謝してください、そして、それは良いですか?)』
 主に代わり、自身の持つ全てのジュエルシードを提供しようとするなのはに向けて、其の意思を問うバルディッシュ。
 ユーノはひょい、と手を上げて告げた。
「今はまだ貸すだけだ、ただ、彼女は信用できそうだから。
彼女のお母さんが何を求めているか、其れが解かったら取り戻しに行くかもね?」
「--------あ、そろそろ日が昇っちゃうよ。
フェイトちゃんも旅館の部屋に運んだほうがいいかなぁ」
 バルディッシュはなのはの言葉にもう一度礼を言うと、じきに目を覚ますのですぐに家に帰ると告げた。



 今まで集めた全てのジュエルシードを手放しながらも、何かそれ以上の大切なものを得た気持ちで、
なのはは友人達が眠る部屋へ帰る。
 そしてもぞもぞとアリサの布団に潜り込むと、蹴り起こされるまで彼女の浴衣に頭を突っ込んで、短い睡眠を取るのだった。







「おにいちゃん、まだおきてる?」
「ん?起きてるよ。
--------なんか用か?」

 さて、なのはとフェイトが激闘を繰り広げていた頃、ここはとある一般家庭の一室である。

「ごめんねこんな時間に(夜這いとかそういう意味で)本当にごめんね、
今日、ご飯作れなくて……何か食べた?」
「ん、ああ、大丈夫だよ、オレはオレで適当に済ませたから」
 世間一般から見れば仲の良い兄と妹の会話。
 丑三つ時を過ぎているという時間帯を除けば、まあごくありふれた風景である。

「別におにいちゃんにご飯作るのイヤにになったとかそんなんじゃないの
--------どっちかっていうと……」
「どうした?いつも作ってくれて感謝してるさ」
「ぐふふ--------ううん、なんでもない。
何も言ってないよ、本当だよ?……本当になんでもないから(w……」
 妙にどぎまぎした会話、いつもの妹ではない雰囲気が言葉尻の端々から感じられる。
「あ、そうだ!お昼のお弁当はどうだった?
いつもと味付けを変えてみたんだけど(隠し味というか寧ろ混入的な意味で)」
「ん、普通に美味かった」
「そっかぁ、よかったぁ。
食べられなかったらどうしようって思ってたんだけど……
ところでなんか、こう体にへんなところ無い?カァァァァァって熱くなったりとか」
 なにか料理の腕が鈍るような心配事でもあるのかと問うが、どこか無理の有る笑顔で妹は言う。
「も~、そんなこと気にしないでいいよ、ところで家族同士って萌えるよ……燃えるよ、ね?」
 兄、やはり何か気になる。
 こんな時間に部屋に押しかけられてする会話ではない。

「ところでおにいちゃん、さっき洗濯しようとして見つけたんだけど……」
 床に投げ捨てられる一枚のパンツ、パサ、という乾いた音が何か……部屋の空気を致命的にひび割れさせる感触。



「この下着--------お兄ちゃんのじゃないよね?誰の?」



 洗濯機に入れるわけ無いじゃないか!?
 ちゃんと国語辞典にはさんで押しパンティにしていたのに!永年保存するはずだったのに!?
「あ、ああすまん。
クラスメイトともみ合ってたらすりむいちまってな、借りたんだ」
 うそは言っていない、だがどうして発見されてしまったのか、血の付いたパンツを見つけたら、まあ気持ち悪いだろう。
「え!!お兄ちゃん怪我したの?
そのときに借りたって、其の女の人頭大丈夫なの?どうしてハンカチじゃないの?」
「え、イヤ……だから普通にズリ……すりムケただけだって、心配するなよ」
「いや、答えになってないけど、あのパンツについてた血……お兄ちゃんのだったんだ。
--------そんなのわかるわけないんだけど、こんなことなら血の付いたところだけ切り取ってから捨てればよかった」

「!?……ナンダッテ?」
「あ、ううんなんでもないよ!ただの世迷言だから。
そういえば最近おにいちゃんめちゃくちゃ帰りが遅いよね……図書室(という名の大〇屋書店)で勉強?」
「ん!?ああ、イヤちょっとな、制服でそんなとこ行くわけないんだが……お前も知っているだろう、アイツとちょっと」
 逆に後ろめたい放課後を問い詰められて焦る兄。
「知ってる……そっか、お兄ちゃん、昔は私の妄言もちゃんと聞いてくれてたのに……最近はあまり聞いてくれないよね。
アニメのカップリング論争も参加してくれなくなったし……戦争(コミケ)に行くのも」
 不穏な空気が部屋一杯に膨れ上がった。
 何故だ、何故妹はこんなに影を背負っている!?

「--------でもあの人ってなんか普通人っぽいよね!?、
あんな人と話してたらお兄ちゃん正しい日本人じゃなくなっちゃうよ!?」
「いや、何も其処まで言うほどの事では……ていうかお前の正しい日本人感が超知りたい。」



「あんな人!どうせヲタク(わたし)達の価値観なんてなんにもわかってないんだからっ!!」


 言葉をさえぎられ、ベッドサイドのチェストがいきなり叩き割られた。
--------妹が手にしていた包丁が一閃したのだ。
 しかし何故妹はそんな物騒なものを振りかざしているのか、そして刃に付いた赤い物の正体は!?
 兄、急に巻き起こった惨劇に理性が追いついていない。
 というか妹の事がさっぱりわからない。
「お兄ちゃんの事を世界で一番解かっているのはあたしなの!
シャドウファックのとき名前を呟いていいのも!わたし!--------あ、ごめんなんか恥ずかしくなってきたかも……」
「い、いやそれはいいから……そんな物騒なものしまえよ?
どうしたんだよなんかおかしいぞ!?
--------俺なんかしたか?」
「ああああああああ!!……おにいちゃん寝取られたアアアアアァァァッッッ!!」

 ばれている、あからさまにばれている、放課後夕日の差し込む体育用具室で行われている青春の1ページ。
 この兄、幼馴染が自身に好意を持っていることに気づいたのも最近なら、妹が同じようで、
少し違う思いを抱いていることを知ったのも、彼女と『そういう関係』になった後のことである。
 致命的な鈍さ、だが後悔先に立たず。
--------この様な状況に至ってからではもう遅い!

「いや、お前には報告しようと思ったけど、なんか切り出しずらくてさぁ……」
「ふぅ~ん、お兄ちゃんリア充になっちゃったんだぁ~、それはよかった、ねッッッ!!」

 妹、兄に向けて手にした凶器を振りかざす。
 恋心に気づけなかった兄、やがて秘められた熱情は憤怒と嫉妬の炎と化して彼に襲い掛かるのだ。
 嗚呼なんという悲恋、誰も救われるもののいない今宵の惨劇。





--------いや、今回の前振りはことのほか長くなって申し訳ない。
 行き過ぎた兄妹喧嘩、昼ドラも裸足で逃げ出すほどの愛憎劇にすら『あの男』は割って入るのである。





 スパァァァン、と気の利いた音を立てて飛来したおひねりが、妹の持つ包丁の刃を両断する。
「--------誰ッ!?」
 誰何する妹、月光を背に向かいのマンション、其の屋上に立つロングコート姿の男。
 傍らにはなんか気の弱そうな少女が、ボロボロになった浴衣を羽織って震えている。



 アールワン・D・B・カクテル--------オリ主である。
 急な呼び出しにも即対応なトラブルバスターであった。



「きゃっ!?」
 絶妙なスナップから放たれる謎の小袋80ぷくろが瞬く間に妹を埋め尽くし、やがて傍らの少女を伴って、
兄の部屋へ飛んでくるアールワン。
「--------兄くん(仮名)」
「----------------あんなヤツさん(仮名)」
 ひしと抱き合う二人の男女、成立したばかりの初々しいカップルを横目にすると、オリ主は再び妹と相対した。

「あんなヤツさん(仮名)アイツ、この前クラスで噂になってた『パンツの騎士』だよな?
どうしてここに……」
「うん、なんかいやな予感がしたから、例のお店にパンツを置いてきたの。
本当に駆けつけてくれるなんて……」
 注視すると、あんなヤツさん(仮)のおなかの辺りに刺し傷があり、浴衣の帯が巻きつけられている。
 血がにじんでいた、どうやら止っているようだが……。

「其の年で刃傷沙汰に巻き込まれるとはほとほとツいていないようだな、兄くん(仮)
--------だがしかし、度を過ぎた鈍感さは其の身ならず他人すら傷つけることと心得よッ!!」

 正体不明の正義の味方が口を開くと、おひねりの山からズボッと手が生えた。
「何で……どうして私のジャマするの?
アナタは恋する女の子の見方だって、みんな言ってるのにぃ!!」
「いかにも、自分は風評にそぐわぬキューピット振りである。
故に貴様のゆがんだ思慕の情を矯正しに出向いた次第……愛とは尽くすだけに有らず。
 故に尽くした分だけ報われる、男が振り向いてくれるなどという甘くゆがんだファンタジーが貴様の胸に巣食っているならば」

 アールワン、コートの胸元から蜂蜜とホイップクリームを取り出し、妹のほうに突きつけた。
「--------まずは『そげぶ』してくれようッ!!」







 またしてもトンだ時間を食ってしまった。
 眼下で今、明かりの落とされた兄くん(仮)の部屋、一時間に渡り繰り広げられた戦いと言葉のドッチボールの末。
--------今頃3人仲良く、描写を憚られるスイーツwを食べさせっこしていることだろう。

「ハヴ・ア・グッナイト、ブロス&ラヴァーズ--------爆発しろ」
 踵を返す雄範誅(おぱんちゅ)号、それにしても得るものの無い戦いであった。

 そんな事を思いつつ、妹のパンティーをコートのポケットに偲ばせるちゃっかりしたオリ主。
 彼が今夜向かうのは、かつての惨劇の地だ。







「ほう、どうやら私が一番乗りのようだな」
 海上に浮かぶ『いんふぇるの』号、かつて破廉恥な宴を開いていた大会場。
 今は天井の大穴こそそのままであるが、きれいに片付けられただ、広いだけの空間となっていたが。
 特筆すべきは、謎の装置がステージ上に添えつけられ、水面を縦にしたようなゲートが開いている事だ。

 眉唾だと思っていた、ダークスーツが似合わないチンピラ二人、話通り中から人が現れたときは、
自分の頭はどうにかなってしまったのかと思ったほどだ。

--------ちなみにこの二人、二年前の『煉獄号の惨劇』の生還者である。

「ようこそ、97管轄外世界へ。
我々龍(ロン)は異世界の皆様を歓迎いたします」
「『すばらしき実包の会』代表のセコイアだ。
諸君が日ごろ扱っている質量兵器は我々も実に興味がある、此方こそよろしく頼む」

 一応龍(ロン)の代表である男が、現れた恰幅のいい男と握手をする。
 始めてみる異世界人の風貌は、こちらの白人と大して変わりは無い。
 まあ、股間に重機関銃をはさんでいる以外は。

「まあ、密売でしたら此方に話を通してもらわないと困りますわ。
一番乗りは譲りましたが、ビジネスチャンスは逃しませんの」
 続けてゲートから目を見張るような美人が『滑走』してきた。
 武器や薬物の密輸で次元世界を又に駆けてきたこの女、名をヴィクトリア。
 『宮廷舎』の幹部である。
 足元にソロバンを履いていなければお近づきになりたいと、世の男は誰もが思うだろう。

「やれやれ、2年も先延ばしにされたゆえ、彼の『公僕』からは担がれたと思っていたのだが。
何にせよこうして新たなチャンスの第一歩を踏み出せて良かったよ」
「まことに申し訳ありません、此方としても予想外の事態が続出しまして……」
 額に浮いた汗をぬぐう龍(ロン)の代表者。
 だがしかし、頭上から響く甲高い笑い声が彼の救いと相成った。
「--------あはは、そうでもないよおじさん。
僕なんか2年前……闇の航路が開いたときからキチンと準備してきたもの。
其処にいる二人が悠長に待っていただけさ」
「なっ!?小僧!!」
「いつの間に抜け駆けしていたのかしら、坊や?」

 上を見上げたダークスーツのチンピラ二人、今度こそ声を失う。
 年のころは13・4くらいの少年が、トランプか何かで出来たマントをはためかせ、宙を浮いていた。

「符術結社『トラッシュ』の次元世界代表プレーヤー、ロードスターさ、よろしくね」
 あっけに取られた男達と握手する謎の少年、魔法世界の存在を決定的に意識付ける。

--------こうして、97管轄外世界に悪名高い魔道結社の幹部達が終結することとなった。
 まず狙うのはこの世界における島国『日本』
 強国でありながら、危機感の薄い其処からならば、一年とたたずこの世界を征服する足がかりになりえる。



「ところで、後ろに並んでいる料理はこの世界のものかね?」
「なかなかおいしそうじゃない?食べていい?たべていい?」
 はて、気が付くと其の大広間にはクロスが敷かれた大きなテーブル、様々な料理が並んでいた。
「は?はい、どうぞどうぞ」
 気軽に進める龍(ロン)の代表者であったが、黒服たちは(俺達あんなもの用意したか?)(さあ?)などといぶかしむ。

 気が付けば20卓ほどに備えられた料理の数々。
 後から後からゲートから出てくる異世界人たちも、気色蔓延に有り付いた。

 だがしかし、その場に響く笑い声、誰もが手を止め其の出所を探る。
「--------どうやら次元世界のお歴々、テーブルマナーがなっていないようだな?
その『変態秘料理』で使うのはナイフやフォーク、はてはチョップスティックなどで口に運ぶものではない」
「「「「だれだッ!?」」」」

 ダークスーツの男達、またかよと頭を抱える。
 今日本を騒がせるあのスーパーヒーロー、尻を抑えてとっとと逃げ出したほうが勝ちだ。

 やがて目を疑うほどの巨大な馬が、カートを前足で押しながら登場。
 ぱか、と銀色のフードを取ると、其処には巨大な皿の上でセクシーポーズを取る変態仮面がいた。
 無論、果物や飴細工などで神々しく彩られていたが、

--------デザートではない、寧ろメインディッシュである。

 噴出す次元世界人、吐き出す次元世界人を尻目に、変態仮面は目をくわッと見開いて告げたものだ。



「--------welcome!(ようこそ!)」


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