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[25829] 【ネタ】銀河凡人物語~僕は門閥貴族でフレーゲル~(原作:銀河英雄伝説)
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/07 09:52
 あなたは生まれ変わりを信じますか?
 僕は信じませんでした。

 とはいってもそこは現代日本で暮らすオタク寄りの一般人。
 会社でのストレスなんかはニコ○動見たり、理想○郷のSS読んだりで解消していたもんだ。

 そんな安上がりなストレス解消法があったから酒もタバコもやらなかったし、風俗なんかも行かなかった。
 女性にもてないし、そのための努力だってしなかった。当然、彼女もいなかった。
 彼女いない暦と童貞暦はイコールで年齢だ。

 そんな人生だったからSSみたいに転生とか憑依とかできたらいいな、とか考えたことは一度や二度ではない。
 とはいっても考えるだけだった。
 もしもの時のため、内政系に必要な知識を蓄えたりもしなかったし、格闘技に手を出したりもしなかった。

 そこまで不満がある生活ではなかったし、友人は片手で数えられるぐらいしかいなかったが、話や趣味の合う連中だった。

 まあ、ここまでいえば分かるだろう。
 何の因果か、僕は一度死んで転生を果たしたのだ。


 さて、この手の転生者だと赤ん坊のときからはっきりした意識があるものだが、僕の場合そうではなかった。
 僕に才能がなかったのかは不明だが、転生したとはっきり自覚したのはこの体が10歳になったときの事だった。

 それまでの僕は年に似合わず賢い子供と言われる程度で、僕自身もかつての人生(この場合は前世だろうか?)を思い出すこともなく過ごしていた。
 SSで見た他の転生者たちが修練などに費やしている貴重な10年間を無駄に費やしてしまったわけである。

 少し言い訳をさせてもらえば、10歳になるまでここがどういう世界で何が起こるかという情報が手に入りにくかった。
 大抵のSSでは生まれた時点、もしくはその暫く後でその世界における有名人に出会ったり、その世界特有の特殊能力を目の当たりにしたり目覚めたりするものだが、そういったことすらなかったのだ。
 まあ、それで前世で一般人であった僕に気がつけといわれても無茶な話だ。

 とはいえ、まったく気がつかなかった僕も間抜けといえば間抜けであった。
 普通であれば小学校へ通っているであろうに、自宅で家庭教師とのマンツーマン、習い事は多岐にわたり礼儀作法やらなにやらもしっかり叩き込まれた。
 さらに言えば自宅は豪華で巨大なるお屋敷であった、しかも洋館である。
 使用人は山ほどおり、食事も豪華のものばかり。

 今から思えば前世と違いすぎるというのに、疑問にすら思わなかったのだ。

 まあ、これが僕の資質であったというわけだろう。
 所謂オリ主には成れそうになかった。


 さて、これ以上過去を悔やんでもどうしようもないので、これからの人生について考える。

 僕が転生を果たした世界はすぐに判明した。
 というより、自分自身が所謂原作キャラということを理解した瞬間に、前世の知識が覚醒したというのが正しいだろう。

 それほどまでに僕の原作における立場はアレだった。

「どうしよう……」

 ヨヒアムなんて名前だから気づかなかったのだ。

「どうしよう……」

 どうして門閥貴族に転生したのであろう。

「どうしよう……」

 よもや優しいオットー伯父さんが、あのブラウンシュバイク公とは思いもしなかった。

「どうしよう……」

 この僕、ヨヒアム・フォン・フレーゲル男爵はいったい、

「どうすればいいんだ?」



 割と、どうしようもなかった。



[25829] 2話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/05 20:00
 この僕、ヨヒアム・フォン・フレーゲルが実は転生者であり、なおかつ原作である銀河英雄伝説の知識をある程度持っていることが判明したのは、10歳の誕生日のときのことであった。

 物心ついてから今まで、僕は何故かブラウンシュバイク本邸で暮らしていた。
 前世知識が覚醒するまで疑問にすら思わなかったが、よく考えれば――よく考えなくてもおかしな話である。

「おお、ヨヒアム。今日は実にめでたき日だな、お前が生まれて実に10年になる」

 原作のブラウンシュバイク公を思えば妙な話だが、僕の誕生日は何故か彼の家族だけで行われる。
 公自身や、夫人なんかの誕生日は派閥の貴族がわんさか集まってのパーティになるのに不思議である。
 その辺りは覚醒前から少し疑問に思っていたものだ。

 さて、僕とこの伯父上の関係であるが、実に良好である。
 理由は単純で、僕がこの年齢の貴族にしては賢かったからだ。
 まあ、原作でもよくわからんレベルで仲がよかったが。

「これならば、将来フレーゲルの……ヨヒアム? どうした――! ――!」

 と、ここで僕の前世知識が覚醒したわけだ。
 僕自身は一瞬の出来事のように感じたわけだが、実際には30分ほど意識を失っていたようである。

 気がついたら自室のベッドに横たわっていた。
 お抱えの医師に加え、心配そうに僕のことを見る伯父夫婦。
 原作から考えれば誰てめぇ状態である。

 まあ、疲れがたまっていた――みたいなことになって伯父上たちが部屋から出て行く。
 その際に、無理はするなよとか言われた。
 正直、夢だと思いたい。



「よし、金髪を殺そう!」

 自室のベッドで気がついてからおよそ3時間。
 原作知識を頼みに、僕はフレーゲル男爵がどうやれば生き残れるか結構必死にシミュレートする。

 よりにもよって原作で死亡するキャラに転生してしまったのである。
 寿命で死ぬならまだしも、錯乱して部下に撃ち殺されるとか、マジ勘弁である。

 尊敬する先人、ヘイ○ンさんのようにラインハルトに付くことも検討したが、立場的に不可能であると断念した。
 運良くラインハルトと友誼を結んでも、今度は逆に伯父上に殺されかねん。

 資産を持ってフェザーンに逃亡する案も、おそらく黒狐にいいように利用されるか、禍になるからと門前払いの可能性が高い。

 同盟まで逃げても、結局先延ばしにしかならなそうだ。

 つまり、この僕、フレーゲル男爵が現状を維持した上で生き残るためには、ラインハルトをどうにか殺さなければならないわけだ。

「幸い、リップシュタット戦役まではかなり記憶が残っている。その後の知識は金髪が死んだら無意味だしな」

 さて、フレーゲル男爵であるが、原作においてはラインハルトに敵愾心を抱き、幾度となく殺そうとしては失敗している。

「たしか、第五次イゼルローン攻略の最中とかなんかのパーティの帰りとかだったか……いや、そのへんはベーなんとか夫人だったか?」

 ぱっと思い出したのがそのふたつ。
 記憶が確かであれば、ラインハルトはかなり九死に一生だったはずだ。

 困ったことに、原作でフレーゲル男爵がラインハルトを殺そうとした事件が思い出せない。

 そして記憶が確かな方も、第五次イゼルローン攻略の時期が分からない上に、原作でラインハルトよりも階級が下であったフレーゲル男爵がその時期に何かできるとは思えなかった。

「となるとあの襲撃事件か……時期は、カ、カ、カリオストロだっけ?」

 カストロプであった。

 原作でキルヒアイスが活躍した後の事件だったはずである。

「あの襲撃に便乗すれば多分やれるな……よし、決まり!」

 死亡キャラに転生したと分かったときにはどうなるかと思ったが、ラインハルトさえいなければどうにでもなることに気がついた。
 アスターテはラインハルトがいないとやばそうだが、殺すのはその後だ。
 アムリッツァは焦土作戦をやれば、ラインハルトじゃなくても大丈夫だろうし。
 その後は、イゼルローンを落とせないんだから膠着状態になる。

「つまり、僕が老衰するまで現状維持になるに違いない! あー、疲れた。寝よ」

 つい数時間前に発生した悩みが解消した僕は、10歳児らしくクタクタになった脳の求めるままに睡眠に入る。

 まあ、所詮10歳児の浅知恵だったわけになるのだが。
 僕はそれに気づくことなく10年以上の時を過ごす。



 話は一気に飛ぶのだが、前世知識が覚醒したからといって出来ることが増えたわけではない。
 故に大したことは出来なかったし、大したことも起こらなかった。

 あれから2年後に他の貴族と同じように幼年士官学校に入ったが、伯父上の威光で相当楽をしたと思う。
 卒業後は伯父上の私兵の所属である。
 伯父上のお零れに預かろうとする取り巻きとともに帝都で門閥貴族らしく暮らし、ミュッケンベルガーのおっさんに引き抜かれるまではイゼルローンまで行ったこともなかったほどだ。

 さて、ラインハルトであるが、10歳のときに殺すと決めた上に元々嫌いなキャラではなかったため、僕は彼に構わなかった。
 そのため原作でのフレーゲル男爵のかわりをコルプト子爵の弟が務めたようである。
 子爵の弟とその取り巻きがラインハルトにかまうのに出くわすたびに、僕の取り巻き立ちが便乗しようとするのが多少鬱陶しかったが、

「まったく、寵姫の弟にかまう暇があったら、庶民からいかに搾り取るか考えるのが貴族でしょうに」

 そういうようなことを言うと、僕の取り巻きたちは一斉に僕を支持した。
 本心では便乗したかったのであろうが、僕がしないのでそれに従う。
 伯父上のお気に入りである僕に従うことで、将来の利権を見据えている筋金入りの門閥貴族の子弟たちだ、恐ろしくこういった空気を読むのが聡い。

 そのくせラインハルトの実力は一切認めないからな、見たいものしか見ないんだろうけど。
 そういう僕も今では立派な門閥貴族の一員である。
 ここで言い訳をさせてもらえれば、10歳までに貴族としての下地が出来すぎたとしか言いようがない。

 正直、尊敬するヘ○インさんがあそこまで庶民体質を維持できたのが信じられないくらい、門閥貴族は居心地がよい!

 ラインハルトを殺す理由が、生き残るためからこの生活を維持するために変わったぐらいだ。



 そんなこんなのうちに、ラインハルトは戦果を上げ昇進を重ね、僕も戦場に出ぬまま階級だけが上がっていった。



 帝国暦486年3月、ブラウンシュヴァイク公爵の私邸において門閥貴族の親睦パーティーが行われた。



[25829] 3話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/05 20:01
 今夜は伯父上の私邸でパーティー。
 僕は椅子にある黒いカバンを確認した直後に会場を抜け出した。

「どうした? そんなに慌てて」

 慌てた素振を見せたつもりはなかったのだが、僕の行動に気づいてついてきたのは、かのアーダルベルト・フォン・ファーレンハイトさんである。
 尊敬する○ヘインさんをリスペクトした僕は、この人とお近づきになることに一応成功していた。

 貧乏とはいえ貴族であるから伯父上も特に言われることもなく、貧乏だから奢るといえば結構な割合で付き合ってくれる。
 が、多分金づるとしか見られていないと思う。
 取り巻きなんかといるときに遭遇すると、かなり冷ややかな目で見られるし。

 それでもこの人にはごまをする。
 ラインハルトの暗殺に失敗した場合、頼りになるのはこの人とメルカッツさんだけなのだ。

「いえ、ちょっと風に当たりたくなっただけ」

 と言ったところで、屋敷が爆発した。

「何事か!」

 ファーレンハイトさんは腕を上げ爆風を顔から遮るが、僕は無様にも腰を抜かしてすっころんでいた。
 実に間一髪である。

 その後、伯父上たちは無事救出され、クロプシュトック侯が犯人であるということが判明した。
 事件は覚えていたが、誰がやったかは忘れていたので、結構ぎりぎりだったかもしれない。
 ラインハルトが巻き込まれていたと知ったのは後日、うまく誘導すれば殺せたかも~と考えたが、たぶん巻き込まれて僕だけ死んでいた気がした。
 多分、これが正解だろう。

 さて、犯人は判ったものの、肝心のウィルヘルム・フォン・クロプシュトック侯爵は領地に逃走してしまい討伐軍が編成される事となった。



 僕は今艦橋にいる。

 何故こんなことになったかといえば、先の爆破テロ事件にて腰を抜かしてまごついている所を、避難してきた多くの衆目の目に晒してしまったことにある。
 そんな醜態を晒してしまった僕に、伯父上はコケにされたこともあって激怒。
 アンスバッハさんのとりなしもむなしく、僕は討伐軍の先陣に任命されてしまったのだ。
 ちなみにファーレンハイトさんは頼んでもついてきてくれなかった。

 初陣が内乱とか、それってどうなのとか思うが、部下の不安はうなぎ上りだろう。
 対する僕はそれほど不安でもなかったりする。
 いくらか冷静になった伯父上が戦闘技術顧問を派遣してくれたのである。

 いわずと知れた後の双璧である。

「少将はこれが初陣でしたな?」

 ロイエンタールさんが相方に、おい馬鹿とかつっこまれながらふてぶてしく聞いてくる。

「そうだね」

 僕としてはもう少しフレンドリーにしてくれてもと思うも、素直に答える。
 が、彼は少々面食らったようで、ほぅとか呟いている。

「では、いかがしますか?」

 続いて、まったくこいつはみたいな顔したミッターマイヤーさんが聞いてきた。
 同格の少将で二人のほうが先任で経験もあるのに敬語を使ってくれる。
 ほんと、これだから門閥貴族はやめられない。

「全部、任せる。編成も作戦も運用も」

 僕がそういうと、流石に二人ともギョッとする。
 ふふふ、かの双璧を驚かせた数少ない門閥貴族になるに違いない、とか僕がしょーもないことを妄想していると、

「よろしいのですか?」

 と、ロイエンタールさんがその金銀妖瞳に怪しい色を湛えて僕を見る。

「うん。その代わり、勝っても戦果は僕のものになる」

 僕にそのケはありませんよーとの意思を込め、彼にそう言うと、

「では、負けた場合は我等の責任ですかな?」

 相方さんのつっこみが入った。

「……お二人が指揮して負けるとは思えませんが、その場合は僕が責任を負いますよ?」

 正直、お前らは何を言っているんだ的な想いを感じながら僕が答えると、二人が唖然とした顔でこちらを見た。
 やば、この二人に驚かれるとかマジええ感じすぎる。
 そんな、ええ感じにニヤニヤしていたら、いつの間にかにクロプシュトック領に着いてしまったようだ。

 当然、二人は僕がニヤニヤしているうちに仕事を済ましていた、流石だ。
 いや、当たり前か。

 戦力比は敵5000に対し、僕ら先陣は2000。
 伯父上の本体が8000を率いて進軍中とはいえ、原作であれだけグダグダだったのだ、先陣は散々な目にあったのだろう。

 しかし、この先陣を実質率いるのはかの双璧である。
 どっちが言ったか忘れたが、3時間でけりをつけると言っていたのだ、是非実行してもらいたい。

 ふと気がつくとミッターマイヤーさんがいない。
 ロイエンタールさんに相方さんの行方を聞くと、どうやら分艦隊を指揮するようだ。
 まあ、どうでもいいが手早く済ましてくれるに越したことはない。

「よろしいですか?」

 どうやら戦闘準備が整ったようだ、ロイエンタールさんが僕に促す。
 演説だ。
 これが僕は苦手である。
 どうもそれっぽい文章が思い浮かばないのだ。
 とはいえ、これが仕事である。
 全艦艇に回線を開かせ、

「これより、皇帝陛下と帝国に仇なす反逆者を討つ。いかに逆賊どもが群れを成そうと我軍の正義がそれを打ち破るであろう! 勝利すべき策はすでになっている。各指揮官の指示に従えば、勝利など容易い!」

 それっぽい檄を飛ばした。
 ロイエンタールさんが普通にうなずいたので、まあ滑らなかったようである。

 交戦域に入る直前、彼がこちらを見た。
 僕は彼の意思を多分正確に読み取ったと思うので、うなずく。

「ファイエル!」

 直後に号令。
 正しく読み取ったようだ。



 戦闘は僕の予想より1時間早く、2時間でけりがついた。



[25829] 4話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/07 09:53
 双璧の活躍により、原作では1週間かかった戦闘が2時間で終了し、僕率いる討伐軍先陣は惑星を封鎖し本隊の到着を待っていた。

 略奪はしないの? と貴族士官に言われたが、しないよと答える。
 言ったほうは不満顔だが、双璧さんはちょっと感心した顔をしている。
 ふふふ、そんな顔で見られると調子乗っちゃうよ?

「諸君、我々は倍以上の敵を相手に完勝といっていいほどの戦果を得た。しかし、明日到着する本隊はどうだ? これで我らがクロプシュトックまで占拠してしまえば、彼らの不満は留まることをしないだろう」

 僕はドヤ顔でそう言った。
 ふふふ……あれ? なんかミッターマイヤーさん怒ってる?

「では、地上が降伏し、投降を求めても本隊が無視する場合はいかがするのか!」

 あれ? えーと、えーと……

「伯父上しだいですな」

 いい案が浮かばなかったので、伯父上に丸投げ。
 すると、予想通りミッターマイヤーさんが失望の眼差しを浮かべる。

 いやー無理っすよ、無理無理。
 僕は所詮、少将ですよー?

 ロイエンタールさんが相方の肩をたたいて頭を振った。
 そんな大げさなリアクションとらなくてもいいじゃないですかー。
 泣いちゃいますよ、僕。

 そんな僕を尻目に、双璧は艦橋から去っていった。

 このときほど、僕は真面目に昇進しておけばよかったと思ったことはなかった。




「ロイエンタール、俺は悔しい! あのような男を一瞬でも認めてしまったことが!」

「そこまで憤慨することか? あの男の立場で我等の裁量を認め、あの場で我等に激昂しないだけでも大したものだろう。まあ、下衆には変わらんが」




 翌日、伯父上率いる本隊8000が到着した。

 倍以上の敵を撃破した僕を、伯父上は表向き褒めてくれたけど、内心は面白くなさそうだ。
 そんなもんだよな~僕でも逆の立場ならちょっとムカつくしね。
 でも、地上を占拠していないことを伝えると、あっさり機嫌を直してくれた。

 さて、本隊が来る前に思い出したんだけど、ここたしか、ミッターマイヤーさんがやらかすとこだった。
 いや、やらかすのは昔ラインハルトに絡んでたコルプト子爵の弟だけど。

 一応、親戚だしね。
 死なれると目覚め悪いし。

 幸いにして双璧二人は部屋に引っ込んで出てきてないので、このまま先陣2000は封鎖を続けると伯父上に伝える。
 すると、部下が不満を漏らす。
 まあ、我慢してほしい。
 変わりに全員昇進約束させたから。

 そんなわけで、僕に実があったんだかなかったんだか、いまいち判断がつかないクロプシュトック事件は終結した。
 世紀末化した本隊が、地上を地獄絵図に変えたらしいが、僕は怖いので見ていない。

 帝都に帰還したら中将に昇進した。
 双璧は昇進しなかったが、部下たちの大半は昇進した。




 あくる日、ファーレンハイトさんが尋ねてきた。
 中将昇進のお祝いらしい。

「まあ、金はお前持ちだが」

 うん、分かってた。
 分かってたから。
 泣いてないよ。

 その席で伯父上の元帥府の参謀長になっていた僕は、ファーレンハイトさんをスカウトした。
 彼はしばし迷っていたようだが、

「まあ、卿に奢って貰いやすくなるわけだ。よかろう」

 そう快諾してくれた。
 一応僕、階級上だよ? よかろうって……

 その後、双璧さんとかもスカウトに行ったけど普通に断られた。

 シュトライトさんとか、フェルナーさんとかいるからいいもん!




 そんなこんなで昇進前と変わったような変わらないような日々、5月も半ばを過ぎたころだった。




 ジークフリート・キルヒアイスが死んで、翌日ベーネミュンデ侯爵夫人が死んだ。



[25829] 5話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/05 20:05
 キルヒアイスが死んだ。

 訳が分からない。

 なんでベーネミュンデ侯爵夫人が、ここでしゃしゃり出てくるの?

 僕は混乱の極致にいる。



 まあ、僕がどんな状況であろうと時間は進む。
 僕も混乱しているが、今帝国で誰が一番苦悩しているかなんて言わずもがな。

 一月もたったころには、僕にとってキルヒアイスの死は半ばどうでもよいことととなっていた。

 問題はラインハルトを殺す一番のポイントと考えていた、ベーネミュンデ侯爵夫人の襲撃事件が終わってしまったことにある。
 もはや前世知識は意味のないものと成りつつある。
 この愚を繰り返さぬためにも、原因を探らねばと決意した僕は部下のフェルナー君に襲撃事件現場の状況を調べさせた。

 原因は結構単純なことだった。
 所謂ミッターマイヤー暗殺事件が発生しなかったことにより、双璧がまだラインハルトに忠誠を誓っていなかったのだ。

 よって、襲撃を二人が支えきれず、グリューネワルト伯爵夫人を庇ってキルヒアイスが死んだ。
 ということであった。

 最早、ラインハルトの暗殺は不可能だろう。

 僕にはリップシュタット戦役で勝利するしか生き残る道がないというわけだ。



 さて、伯父上の元帥府であるが、伯父上自身はほとんど元帥府に顔を出さない。
 よって縁故で参謀長に命じられた僕が運営しなくてはならないわけである。

 この状況下で僕自身にある程度の人事が可能であることに一筋の希望を見出す。
 最悪の場合が現実となった今、優秀な将官を集める以外に道はない。
 が、先日、双璧に断られたのを皮切りに、原作における一級線の指揮官で元帥府入りを承諾してくれたのはファーレンハイトさんだけ!

 ミュラーさんにまで断られるとか、ドンだけ人望ないんだ僕は……

 シューマッハさんとか、シュトライトさんとか、フェルナーさんとかに丸投げしたり手伝ってもらったりしながら元帥府の運営に四苦八苦していると、ラインハルトは艦隊を率いてオーディンを離れた。
 時期的に第4次ティアマト会戦かな?
 何とか死なないかなぁ。

 本格的に尻に火がついてきた僕は、フェルナーさんに頼んでスカウトに失敗した人たちの動向を調べてもらった。
 断られた理由が分かれば、その辺を直せば元帥府入りしてくれるかもしれない。

 そう思っていたときが僕にもありました。

 断られた理由は簡単だった。

 大半は伯父上の元帥府なのに本人が来ないで、使い走りの甥が来るのが気に入らないというもの。
 僕にはどうしようもない理由である。

 あとフェルナーさんが言うには、これは跡付けの理由であるらしい。
 本音は門閥貴族が嫌いだから入りたくないようだ。

 流石、有能だけど問題児な連中である。

 何の進展もないまま、僕は第4次ティアマト会戦の結果を聞くこととなった。

 普通に勝ったらしい。
 あれ? おかしくない?
 確か、原作だとラインハルト無双じゃなかったっけ?

「ふむ、噂のミューゼル大将も振るわなかったようだな」

「まあ、ミュッケンベルガー元帥に嫌われておりますからな。今回も囮にされたようです」

 ファーレンハイトさんとシューマッハさんが帰還した艦隊のリスト見て、こんなこと言ってるよ?
 いや確かに死んでほしいけど、こう前世知識と隔離していくと不安しか起きないよ。

 正直、前世知識が役に立ったのってテロ回避のときだけじゃ……

 もしかして、今回のこれはキスヒアイスが死んだからか?
 そうなると僕が双璧にやらかしたことをしなかったことが遠因かー!

 僕にもようやく理解できた。
 所謂改変系SSにおける最大の敵、バタフライ効果!

 そして、どうしようもないことも理解できた。
 大概の最強系オリ主でさえどうにもならない敵である、僕程度がどうこうして防げるもんじゃない……

 どうにもならない事実が判明したため、僕は元帥府の運営に一層打ち込むことで忘れることにした。



 そうこうしているうちに、遠征艦隊が帰ってきた。
 4割未帰還と半端無い被害に加え、ラインハルト艦隊も3割の損害を出すなど、僕の行く先を示すかのような燦々たる有様だ。

 ラインハルトは昇進しなかった。
 故にローエングラム伯爵家の継承も起こらなかった。

 そしてラインハルトと双璧が絡むことなく年が開け、帝国暦487年。



 原作開始の年である。



[25829] 6話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/07 09:54
 帝国暦487年、ラインハルト・フォン・ミューゼル大将は20000の艦隊を率い、同盟領へと侵攻した。



「星を見ているのか?」

 いえ、今までの人生を考えています。
 ファーレンハイトさんの言葉に、僕は頭を振った。

「どうしてこうなった……」

 僕は今、アスターテ星域にいます。




 昨年で急速に原作と隔離した歴史により、この先の出来事が一切読めなくなった僕は、来るべきリップシュタット戦役に備え、ファーレンハイトさんと一緒に艦隊の整備に勤しんでいた。
 ファーレンハイトさんの艦隊5000に、伯父上の私兵が30000。
 これがブラウンシュバイク元帥府の戦力である。

 が、現状、まともに戦力になるのはファーレンハイトさんの艦隊のみである。
 伯父上の私兵は贔屓目にも見るべきところがない、烏合の衆そのものだ。

 これを来るべき日までに、何とか運用できるレベルに持っていくのが目標だ。



 年明けと共に、帝国軍上層部と伯父上らが忙しく動き始め、ラインハルトの出兵が決定していた。
 この機にラインハルトを亡き者にせんとの動きである。

 関係ないね、と僕は艦隊整備に力を入れていたのだが、シューマッハさんの一報を聞いて飛び上がらんほどに驚いた。




叛乱軍討伐艦隊:20000

ラインハルト艦隊:10000

・参謀長:メックリンガー准将

・幕僚:ロイエンタール少将
    ミッターマイヤー少将

メルカッツ分艦隊:5000

フレーゲル分艦隊:5000



「どういうことなの?」

 僕は伯父上の元帥府の参謀長ではなっかったですか?
 それが艦隊を率いるとかどうなってんの?
 というかコレ、ラインハルトを亡き者にとか言ってる割りに、かなりガチな編成じゃありません? 僕を除いてだけど。

「どうやら、ブラウンシュバイク公は本気でミューゼル大将を殺しにかかったようだな」

 えー? ファーレンハイトさん。どういうこと?

 どうやらこういうことらしい。
 ミュッケンベルガーのおっさんは、前回の戦いでラインハルトに翳りが見えたと捉え、戦力の減ったラインハルト艦隊に融通の利かないメルカッツさんを加え、失点の追加を目論んだようだ。
 対する伯父上は、それを手緩いと断定。追加で僕に私兵を率いさせ、ラインハルトを戦死に追い込みたい考えみたいだ。

 いやいやいや……意味が分からない。
 伯父上の中で、僕はどんだけ使える提督になっていますか?
 僕死んじゃいますよー?

 まあ、伯父上に限らず僕ら門閥貴族は同盟なんて見てないもんね。

「さて、どうする? 正直、卿の力ではどうにもならんと思うが」

「お願い、付いてきて!」

 ファーレンハイトさんの意地悪な問いかけに、僕は即答する。
 ブライドとかよりも命が大事だ。

「……まあ、よかろう。が、タダという訳にはいかんな」

「帰還後、一ヶ月おごりで!」

「ふむ、決まりだな」

 そんな僕とファーレンハイトさんのやり取りを、シューマッハさんが見ていた。




(安いなー)




 さて、侵攻した僕ら20000の艦隊を待ち構えていたのは、40000の叛乱軍。

 こんなところだけ、呆れるぐらいに原作どおりである。

「旗艦より召集がかかったぞ」

 ファーレンハイトさんが言う。
 同盟が倍の戦力を繰り出してきたため、艦橋には悲観的な空気が漂っている。
 無理を言って、分艦隊の中核1000はファーレンハイトさんの艦隊から出してもらったのだが、それでもこの空気である。

「普通なら撤退だね」

「その知らせかもしれんぞ?」

 前世知識からないと知っている僕が言うと、ラインハルトの立場的にありえんと言わんばかりにファーレンハイトさんが笑った。




 メルカッツさんの発言より始まった議論の場、というよりラインハルトの独演会は30分ほどで終わりを告げる。

 ここ最近、ラインハルトを直に見てなかったけど、こんなヤバいオーラみたいのでてたか?
 僕みたいな凡人、ちょいと呼吸に難が出るほど気圧されるんですが。

 ……ひょっとして、覚醒してる?



 作戦は3方から迫る叛乱軍を、各個撃破することに決定した。



[25829] 7話
Name: タナカ◆68fc5ba6 ID:85f33da0
Date: 2011/02/07 09:58
 作戦に何か感じたのか、ファーレンハイトさんが勝手に先鋒を申し出てしまった。

 なんだこれ? 歴史の修正力とかいうやつか?



「ほう、あの艦隊を実質的に率いているのはファーレンハイト少将か……」

「ああ、あの男は部下をうまく扱う程度の才覚は持っている」

「……」



 僕がラインハルトの威風に気圧されている間に、フレーゲル分艦隊は先鋒に決まってしまった。

 分艦隊旗艦ダルムシュタットに戻るなり、ファーレンハイトさんは張り切って部下に指示を出している。
 基本的に戦場で僕に出来ることはない。
 邪魔をしないのが一番だ。

 なんだか原作通り展開が進むと、逆に不安になってくるな。
 帝国艦隊は覚醒ラインハルトの作戦通り、正面から接近していた叛乱軍に先制攻撃を仕掛けることに成功した。




「ファイエル!」

 ファーレンハイトさんの号令と共に、先鋒5000の一斉攻撃がおよそ12000の敵軍に降り注いだ。
 僕は例によって提督席でそれを眺めているだけだ。

「……ホント、半年前とは雲泥の差だ」

 この半年間ファーレンハイトさんと共に行った、伯父上の私兵の訓練を思い出し、僕は感慨に耽る。
 本当、訓練開始当初はどうしようもなかったものだ。

 勝手な判断で攻撃するわ、移動するわで、命令は無視するもの! とでも考えている様な連中ばかり。
 それをファーレンハイトさんの指示の元、僕が伯父上の威光をちらつかせながらバシバシ指導していく。

 かなりの数の貴族士官に恨まれた自覚はある。
 が、結局彼らも、僕と同じで伯父上の権勢にぶら下がっている子爵以下のボンボンたちだ。
 伯父上のお気に入りである僕に逆らうような気迫のあるやつはいなかった。

 そして、ファーレンハイトさんが兵士たちの支持を集めたことは言うまでもない。
 うん、そうなるよね。



 さて、僕が回想に耽っているうちに、叛乱軍の組織的抵抗は見られなくなっていた。
 ファーレンハイトさんの指示で旗艦に通信を繋ぐと、ちょうどメルカッツさんが掃討戦の具申をしているところであった。

 覚醒ラインハルトは原作と同じくそれを却下し、即座に次の艦隊へと進軍を開始するよう命令を出した。
 次の先鋒はメルカッツさん。双璧は最後の締めを務めるのかな? たしか原作ではここで無双していた気がしたけど。

 その命令を聞いていたファーレンハイトさんは実に楽しそうだった。

 なんで?




 そんなこんなで4時間後、時計回りに迂回した帝国艦隊は叛乱軍の後背を取ることに成功していた。

 老練なメルカッツさんの分艦隊の一糸乱れぬ行動!
 凄いと、見とれるしかない。
 伯父上の私兵30000全てがあの行動を取れれば、リップシュタットでも多少安心できるのに……

「あ……」

「これは、なんと……」

 そういや反転迎撃はここか。

 叛乱軍の全艦艇が回頭する。
 結果、無防備な艦艇側面がさらけ出される。

 それを見逃す帝国軍指揮官はこの場にいなかった。

 戦闘に要した時間は、先の艦隊撃破にかかった時間のおよそ半分。
 こちらの被害は言うまでもなかった。



 帝国艦隊には戦勝ムードすら漂っていた。

 残る叛乱軍の艦隊は戦闘前の三分の一。
 純粋な数で見ても、負ける要素はまず無いだろう。

 しかし僕はそんな気分にはなれなかった。



 ヤン・ウェンリーである。



 この僕、フレーゲル男爵がヤンというチートと関わることなど、原作を考えればあろうはずも無いため、今の今まで存在を忘れていた。

「……何も考え付かない」

 とはいえ、ヤンの存在を思い出したとはいえ、僕がそれに対して何が出来るのか考えもつかない。
 尊敬するヘイン○さんですら倒せなかったチート・オブ・チートである。
 いったい僕に何が出来るというのか。

 そんな僕の苦悩をあざ笑うかのように、帝国艦隊は叛乱軍と正面から対峙している。

 うん。何をしても、もう遅いよね。


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