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社説:春場所中止 疑惑根絶に覚悟を示せ

 大相撲の長い歴史に大きな汚点が刻み込まれた。日本相撲協会は6日、臨時理事会を開き、3月13日に大阪府立体育会館で初日を迎える予定だった春場所の中止を決めた。本場所が中止に追い込まれたのは終戦間もない46年夏場所が旧両国国技館の改修の遅れで中止になって以来、65年ぶり。不祥事で中止になるのは初めてのことだ。

 地元大阪市民だけでなく、日本中の大相撲ファンは寂しく、悲しい思いをしていることだろう。だが、協会内に巣くった八百長体質は大相撲の根幹をむしばむものである。大相撲が国民の信頼を取り戻すため、たとえ時間がかかろうとも、協会は徹底した調査を行い、二度と不正工作が介入できない組織に生まれ変わらなければならない。

 放駒理事長は中止を発表する会見で「一人でも故意による無気力相撲をする力士がいては、同じ目線で見られることになる」と八百長相撲の根絶を約束した。しかし、力強い言葉とは裏腹に、疑惑調査が難航している現実もある。

 八百長疑惑については協会が設置した外部識者7人による特別調査委員会が担当しているが、提出された携帯電話や銀行の通帳などの解析には時間がかかる見込みだ。協会として調査委にどれだけの強い権限を与えているのだろうか。強制力を伴う権限を付与しない限り、中途半端な調査に終わりかねない。その意味では、お手軽としか思えない「アンケート調査」で新たな疑惑が浮かび上がるとは思えない。

 今回の八百長疑惑は、野球賭博事件の捜査の過程で警視庁が押収した携帯メールから浮かび上がった。氷山の一角にすぎない可能性があることは以前にも指摘したが、「過去には(八百長は)一切なかった」(放駒理事長)との前提では、疑惑解明が中途半端なものに終わりかねないことを重ねて指摘しておきたい。

 疑惑の力士は特定の「一門」に偏っているのではない。五つの一門すべてから関与者が出ていることから、想像以上に幅広く八百長行為が行われていたのではないかとの疑いを抱かざるを得ない。

 また、「力士は師匠の背中を見て育つ」といわれるが、疑惑が浮上している14人の力士が所属する部屋の師匠の顔ぶれを見ると、協会理事の要職に就いている親方が3人も含まれている。協会が身内に甘い姿勢を見せるようなら相撲界の再生は及びもつかないと心得るべきだ。

 日本固有の文化として誇るべき大相撲が徹底的に身ぎれいになり、手に汗握る真剣勝負の場として再出発を果たす日を待ち望んでいる全国の相撲ファンは少なくない。

毎日新聞 2011年2月7日 2時32分

 

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