警視庁時代に担当したKKC詐欺事件。
多くの事件記者が、「資金が北朝鮮に流れたのではないか」とか「議員の逮捕はないのか」などの点に着目し、取材を続けていたというのに、私が気になったのは「どうして、人はだまされるんだろう」。
結局、事件記者になりきれなかった事件記者の最後の記事、という感じです。
掲載年月日 1997年07月15日
■KKC詐欺事件 虚構信じる時代の病
■「夢もらった」被害者たち カルト信者、二重写しに
「夢」をお金で買えるとしたら、いくら出せるだろう。私の出会った女性たちは、数百万円で「夢を買った」と言う。1年足らずで1万2000人の会員から370億円を集めた経済革命倶楽部(KKC)詐欺事件の被害者たちだ。
チョビヒゲにべっ甲メガネをかけ、能弁にまくしたてるKKC会長、山本一郎被告(57)を見て「なぜこんな男にだまされたのか」と疑問に思った人は少なくないだろう。オレンジ共済組合は議員バッジを使って7年間で約90億円を集めた。それと比べても1年足らずで370億円の集金は破格だ。「低金利時代ゆえの犯罪」では片付けられないところに、この事件の根深さがある。
被害者の多くは50〜60代の主婦だった。KKCの内部資料から被害者を追跡取材していくと、奇妙な声を聞くことになった。
「損得なしに、KKCには幸せをいただいたと思ってます」と奈良県の主婦(66)は丁寧な言葉遣いだった。身内の紹介で約600万円をつぎ込んだが、金は戻らない。昨年春、KKCが東京都内の高級ホテルで開いたパーティーに奈良から参加した。「有名人もいて夢のようだった。私のような身分でどうしてここにいられるの、って幸せをかみしめた。本当に生まれて初めての経験でした」と振り返る。今でも山本被告を「『悪いヤツ』と思う半面、『でも』と思ってしまう」と語る。
「多少損しても、あの日々は一生残る。今の世の中、夢がないでしょ。損したけど、KKCには夢をもらった」と言ったのは東京都三鷹市の自営業の女性(62)。1200万円の被害に遭った同港区の女性(59)も「山本会長はどん底からはい上がった。彼の話を聞くたびにいつもスカッとした。あんなふうになろうと夢みた」と被告を責めようとはしない。
KKCへの入会理由を聞くと、彼女たちは口をそろえる。「金もうけじゃない。夢よ。世界平和とか海外援助とかKKCは夢がある。損したらその時はその時。あなたもやりなさいよ。楽しいから」
KKCは「現代のおとぎ話」でもある。「100万円を出資すれば315万円になる」というもうけ話を縦糸に、山本被告が巨額の金を集め、海外事業などに約50億円を投資、著書出版や「世界平和賞」なる賞の受賞など、金と名誉を極めていくという筋立てだ。もちろん受賞も投資も、だましの舞台装置にすぎない。だが、なぜか彼女たちは気付かない。カルト教団にマインドコントロールされた信者の姿とどこか二重写しになってくる。
彼女たちの多くは昨年6月、警視庁が強制捜査した後も、KKCを懸命に守ろうとした。会員団結の原動力となり、警察やマスコミに「警察のせいで損した」と抗議の投書やファクスを繰り返し送り付けた。そのためか提出された被害届の数は警視庁の予想を大きく下回った。警察や弁護士に相談しようとした会員には陰湿な圧力を加えている。「私たちを裏切るの?」。KKCの破産を申し立てた原告には、仲間だった女性会員から昼夜を問わず抗議電話がかかった。
捜査幹部も「彼女たちは純粋な被害者といえないだろう。彼女らの法益を守るための捜査と思うとむなしいから、社会の公益を守るためにやるんだ、と部下を鼓舞した」と振り返る。
彼女たちは、強制捜査の後も妙に生き生きしていた。仲間と喫茶店で集っては警察批判を繰り返し、「金を取り戻そう」と話し合う姿は、苦境を友達と乗り越えることを楽しんでいるようだった。彼女たちといま話してみても、だます側に加担したという罪悪感は欠落している。
「被害者は存在しないから詐欺じゃない」。山本被告が何度も言い放った言葉。むちゃくちゃだと思ったが、彼女たちについてはうまく言い当てているのかもしれない。
夢に飢えた時代に、KKCは人々の夢を食べて増殖した。深刻な被害が次々と明るみに出るなか、一部の女性会員たちはKKCというおとぎ話の中で、自分を主人公に仕立てて楽しんでいるようにみえる。なんと救いのない光景だろう。
KKC被害対策弁護団の紀藤正樹弁護士は「日ごろ刺激のない主婦層が主に狙われた」と指摘する。「KKCが宣伝した海外事業や著作出版、有名人との交流、国際協力、これらは庶民の典型的な夢。女性会員たちは、山本被告を通して、自分の夢を実現しようとしたのではないだろうか」
若者や少年の事件を語る時、「現実感覚の喪失」「仮想現実に生きている」といった点が特徴として挙げられる。しかし、彼女たちを見ると「現実より虚構を信じる」病は、あらゆる世代を侵食しているのではないかと考え込んでしまう。
16日には事件の初公判が行われる。法廷で明らかにされるはずの「真実」が、奇妙な病を一掃してくれることを願っている。
紙誌 東京朝刊 掲載ページ 4
面種 解説 面名
版名 写図の有無 有り
著作権の有無 有り 著作権者 毎日新聞社
旧記事ID 19970715M07304 オリジナルフラグ PRESS-DB
修正理由
記事DBレコードNo. K19970715ddm004000073000
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多くの事件記者が、「資金が北朝鮮に流れたのではないか」とか「議員の逮捕はないのか」などの点に着目し、取材を続けていたというのに、私が気になったのは「どうして、人はだまされるんだろう」。
結局、事件記者になりきれなかった事件記者の最後の記事、という感じです。
掲載年月日 1997年07月15日
■KKC詐欺事件 虚構信じる時代の病
■「夢もらった」被害者たち カルト信者、二重写しに
「夢」をお金で買えるとしたら、いくら出せるだろう。私の出会った女性たちは、数百万円で「夢を買った」と言う。1年足らずで1万2000人の会員から370億円を集めた経済革命倶楽部(KKC)詐欺事件の被害者たちだ。
チョビヒゲにべっ甲メガネをかけ、能弁にまくしたてるKKC会長、山本一郎被告(57)を見て「なぜこんな男にだまされたのか」と疑問に思った人は少なくないだろう。オレンジ共済組合は議員バッジを使って7年間で約90億円を集めた。それと比べても1年足らずで370億円の集金は破格だ。「低金利時代ゆえの犯罪」では片付けられないところに、この事件の根深さがある。
被害者の多くは50〜60代の主婦だった。KKCの内部資料から被害者を追跡取材していくと、奇妙な声を聞くことになった。
「損得なしに、KKCには幸せをいただいたと思ってます」と奈良県の主婦(66)は丁寧な言葉遣いだった。身内の紹介で約600万円をつぎ込んだが、金は戻らない。昨年春、KKCが東京都内の高級ホテルで開いたパーティーに奈良から参加した。「有名人もいて夢のようだった。私のような身分でどうしてここにいられるの、って幸せをかみしめた。本当に生まれて初めての経験でした」と振り返る。今でも山本被告を「『悪いヤツ』と思う半面、『でも』と思ってしまう」と語る。
「多少損しても、あの日々は一生残る。今の世の中、夢がないでしょ。損したけど、KKCには夢をもらった」と言ったのは東京都三鷹市の自営業の女性(62)。1200万円の被害に遭った同港区の女性(59)も「山本会長はどん底からはい上がった。彼の話を聞くたびにいつもスカッとした。あんなふうになろうと夢みた」と被告を責めようとはしない。
KKCへの入会理由を聞くと、彼女たちは口をそろえる。「金もうけじゃない。夢よ。世界平和とか海外援助とかKKCは夢がある。損したらその時はその時。あなたもやりなさいよ。楽しいから」
KKCは「現代のおとぎ話」でもある。「100万円を出資すれば315万円になる」というもうけ話を縦糸に、山本被告が巨額の金を集め、海外事業などに約50億円を投資、著書出版や「世界平和賞」なる賞の受賞など、金と名誉を極めていくという筋立てだ。もちろん受賞も投資も、だましの舞台装置にすぎない。だが、なぜか彼女たちは気付かない。カルト教団にマインドコントロールされた信者の姿とどこか二重写しになってくる。
彼女たちの多くは昨年6月、警視庁が強制捜査した後も、KKCを懸命に守ろうとした。会員団結の原動力となり、警察やマスコミに「警察のせいで損した」と抗議の投書やファクスを繰り返し送り付けた。そのためか提出された被害届の数は警視庁の予想を大きく下回った。警察や弁護士に相談しようとした会員には陰湿な圧力を加えている。「私たちを裏切るの?」。KKCの破産を申し立てた原告には、仲間だった女性会員から昼夜を問わず抗議電話がかかった。
捜査幹部も「彼女たちは純粋な被害者といえないだろう。彼女らの法益を守るための捜査と思うとむなしいから、社会の公益を守るためにやるんだ、と部下を鼓舞した」と振り返る。
彼女たちは、強制捜査の後も妙に生き生きしていた。仲間と喫茶店で集っては警察批判を繰り返し、「金を取り戻そう」と話し合う姿は、苦境を友達と乗り越えることを楽しんでいるようだった。彼女たちといま話してみても、だます側に加担したという罪悪感は欠落している。
「被害者は存在しないから詐欺じゃない」。山本被告が何度も言い放った言葉。むちゃくちゃだと思ったが、彼女たちについてはうまく言い当てているのかもしれない。
夢に飢えた時代に、KKCは人々の夢を食べて増殖した。深刻な被害が次々と明るみに出るなか、一部の女性会員たちはKKCというおとぎ話の中で、自分を主人公に仕立てて楽しんでいるようにみえる。なんと救いのない光景だろう。
KKC被害対策弁護団の紀藤正樹弁護士は「日ごろ刺激のない主婦層が主に狙われた」と指摘する。「KKCが宣伝した海外事業や著作出版、有名人との交流、国際協力、これらは庶民の典型的な夢。女性会員たちは、山本被告を通して、自分の夢を実現しようとしたのではないだろうか」
若者や少年の事件を語る時、「現実感覚の喪失」「仮想現実に生きている」といった点が特徴として挙げられる。しかし、彼女たちを見ると「現実より虚構を信じる」病は、あらゆる世代を侵食しているのではないかと考え込んでしまう。
16日には事件の初公判が行われる。法廷で明らかにされるはずの「真実」が、奇妙な病を一掃してくれることを願っている。
紙誌 東京朝刊 掲載ページ 4
面種 解説 面名
版名 写図の有無 有り
著作権の有無 有り 著作権者 毎日新聞社
旧記事ID 19970715M07304 オリジナルフラグ PRESS-DB
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