国際学力テスト:「学校で読書」効果 日本の読解力改善

2010年12月8日 1時9分

 経済協力開発機構(OECD)が3年ごとに実施する国際学力テスト(PISA)で、日本の生徒の「学力低下」に初めて歯止めがかかった。背景には学校での読書活動や「考えさせて発表させる」授業の推進など、地道な取り組みがありそうだ。ただし、都市として初参加した中国・上海が全項目でトップに立つなど、他のアジア参加国・地域が軒並み日本を上回る好成績を収めており、安心できない状況だ。【井上俊樹、遠藤拓】

 成績が急落した03年のPISA結果を受け、文部科学省は05年に読解力強化の指導方針を打ち出した。

 福島県喜多方市立第一小は、3年前から「PISA型読解力」の育成を重視した授業をしている。05年から3年間、文科省の学力向上研究の指定校になり、基礎学力の向上を図ってきた。だが、考えをまとめたり、発表する力が弱く、それを育むために独自に「PISA型」授業を取り入れた。

 例えば5年生の国語。10月から計16時間かけて、「先生の1日」など身近な題材を基にビデオ映像を制作してきた。テレビニュースの制作現場についての文章を読んだ上で、グループになって企画書をまとめ、取材、編集会議を経て映像を仕上げていく。テキストを読んで自分の考えをまとめ、分かりやすく表現する、というPISA型読解力を養うのが狙いだ。

 PISA型授業導入の中心になった田中純教諭(48)は「知識を問う問題には強いのに文章題が苦手だった。そこで、例えば教師が問題を口頭で伝えることで、聞かれていることの状況を頭の中でイメージしながら解く訓練もした」と話す。

 毎週末の宿題として与えていた作文も、新聞記事を読ませて記事についての意見を書かせるなど、常に自分の意見や考えを述べさせるようにした。朝の読書活動も継続中だ。その結果、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果が大幅に向上したという。

 このようなPISAを意識した授業の研修は、各自治体の教育委員会が積極的に実施している。

 09年のPISAで、日本の読解力の順位は上昇した。OECD内の順位に限れば、00年の8位から03年は12位に下がり、06年も12位だったが、今回は過去最高の5位に。しかもレベル2以下の下位層が減り、逆にレベル4以上の上位層が増えたのは将来への明るい材料だ。文科省は学校側の実践を評価するが、中でも大きな要因に挙げるのが読書習慣の改善だ。ベネッセ教育研究開発センターの鎌田恵太郎主席研究員は「この10年ほど学校が読書活動に力を入れるようになったことが大きい」という。

 同省の調査では、02年に小学校で72%、中学校で60%だった朝の一斉読書活動の実施率は、08年にそれぞれ89%と81%に増えた。PISAでも「趣味で読書をすることはない」という日本の生徒の回答は、00年調査の55%から44%に減少。一方、小説や物語を読む日本の生徒の読解力の平均点は548点で、読まない生徒(501点)を大きく上回っている。

 鎌田研究員は入試の変化も指摘する。年々増加する公立の中高一貫校の適性検査は、読解力を確かめるPISA型の問題が多い。「良くも悪くも入試が変われば授業は変わる」と話している。

 ◇アジア内では地位低下

 参加国全体ではトップクラスと言える日本の学力も、アジア内での地位は相対的に低下している。上海だけでなく、同じく初参加のシンガポールのほか香港にも全分野で上位を許し、韓国には読解力と数学で後れを取った。

 シンガポールは小学校段階から能力別に分ける徹底したエリート教育で知られ、香港は大学の国際評価が高く、受験競争もし烈だ。中国・韓国の教育事情にも詳しい大阪府教育委員の陰山英男・立命館大教授は「このままではアジアの中での地盤沈下は避けられない」と危機感を隠さない。

 文科省の科学技術政策研究所が国内の代表的な研究者や有識者ら約420人を対象に毎年実施しているアンケートでは、09年度の段階で「日本の科学技術の水準や産業の国際競争力が5年後(14年度)にアジア諸国と同等になる」という見方が示された。

 アンケート調査委員会のメンバーの一人、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの吉本陽子主任研究員は「人材と国の競争力はリンクしており、日本の競争力に赤信号がともりつつある」と話している。

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