チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[24556] 【習作】明日から勇者する。
Name: 義理妹萌◆cdf6ff43 ID:2f6d4925
Date: 2011/02/05 18:22
初めは、夢かと思った。
そして……やっぱり夢だと肯定し続けた。


それが初日の出来事である。
日記にしたら1、2行で終わる。夏休みの宿題に出したら居残り間違いなさそうなぐらいの思い出しかない。
ようするに、一日まるまま現実逃避した。
……。
しかし、そんなのも1日限定。二日目あたりで流石に現実だと悟るのだ。
涙に濡れた枕を背に、自身の置かれた環境と境遇に順応……と、みせかけ三日目にまさかのホームシック。
その後、四日、五日と堕落と惰性のニート生活を送った少年は、六日目で遂に社会復帰を遂げ、七日も経つと完全に“この世界”に慣れきっていたのだった。
人間、一週間もあればどうにでもなると実証されたわけだ。

さっきから何を言っているのか……。

流石に頭のおかしい奴と思われたくないので、さくっと答えを提示してしまうとする。
この七日間は、僕が異世界に飛ばされてから七日間である。


僕は、世界を飛び越えた。


あー、いや、これだと僕が能動的に“こちら”へ来たみたいだ。訂正。
僕は呼び出されたのだ。
被害者である。


時は遡り、一週間前。


その日、僕はいつもどおり学校にいた。
普段と変わりなく授業中に落書きをしたり、惰眠を貪ったり、好きなあの子とデートの妄想などに勤しんだり。
最初はやっぱり遊園地かな~、とか。
それとも水族館かな~、とか……ね。
男子高校生であるならば、一度や二度くらいしたことのあるシュミレーションではないだろうか?
こういうことは、ゆくゆくは役に立つ時が来るのだ……と、思う。
さて、事が起こったのは、時計の長針が30を指してから8、9分程経った頃。そろそろチャイムがなる時分。授業もまとめに差し掛かり「お腹が減ってきたなぁ」だなんて思っていたその時だった。

突然、教室が暗転した。

な、何を言っているかわからねーと思うが、気づけば僕は全く見たこともない場所にいたのだ。
そんな馬鹿な。と、呟く。
僕は教室にいた筈だ。少なくとも、つい今しがたまではそうだった。
ええと、確か科学の授業の最中の出来事だったと記憶している。
なぜなら、そのとき僕がペン回し専用のシャープペンシルを持っていたからだ。僕は、科学の授業中はペン回しの練習をすると決めている。
先生、あなたの教師精神は素晴らしかった……ただ、面白くなかったのだ。

キョロキョロと辺りを見渡す僕。
白を基調とした壁面。
神殿……聖堂か?いや、僕にこれを判別する知識は無い。
剥き出しの柱がいくつか見える。イオニア式か、ドーリア式か。
どうでもいい。
僕は再度辺りを見渡した。
日の光に目が細まる。ええい、鬱陶しい。
周りを囲むは老若男女諸君。仕事はどうした。
くそ、焦った。
何で僕は囲まれているのだ。
見渡し、見渡し、目線を飛ばし。
ふ、と動きが止まった。止まってしまった、というほうが正しいのかもしれない。……が、わざわざそこに頓着する必要も無い。
突然の出来事に慌てふためく僕の目の前には、白髪の少女が一人いた。
「今まで一度も切ったことがないのだろうか?」と思えるほどに伸びた髪をした少女だった。
ふむ、美少女とも言っていい。
どれほどかと言えば、パニック状態だった僕が、瞬間的に硬直してしまうくらいに美少女。
 
何処までも白い肌。病的に
不純をいっさい感じさせない透き通った目。恐ろしく清い。
そして、綺麗なピンクをした小ぶりの唇が音を紡ぐ。

 
「始めまして、勇し」
「違います」


……。
…………。


「はじ」
「違います。断じて」






さて、わざわざ過去の説明するのも疲れてきた。
話を一週間前へと遡らせてもらうとする。















始めまして“義理妹萌”と申します。
ご覧のとおりふざけた名前ではありますが、自分にはこれといったペンネームというものを持っていないため「好きなこととか書いたらよくね?」と、いうことで自分の嗜好を名にさせていただきました。
読んですぐにわかったと思いますが、初心者です。
非常に拙い文で、更新も遅くなると思われますが、どうぞよろしくお願いします。
次回はもっと書こう……と決心しつつ、失礼します。



[24556] ようこそ勇者様。
Name: 義理妹萌◆cdf6ff43 ID:c188d71b
Date: 2011/02/05 18:22
夏と冬のどっちが好きかと聞かれれば、僕は即座に秋と答えよう。
たとえ二者択一だとしても、その三択目を選択する。
それほどまでに僕の秋への愛は深い。
しかし、今日9月20日月曜日の気候は、そんな僕の意志を覆すほどの不快感だった。
例えるなら、できたばかりのかさぶたを無理やりひっぺがすぐらいの勢い。
……自分でもびっくりするぐらいに下手な例えだ。理系に転職しようかな。
 


天気は晴れ、雲ひとつ無い快晴である。
気温は高い。秋とは思えぬ暑さだ。
体調は快調。
僕は文系である。


 
現在時刻、12時30分。もうすぐ科学の授業が終わるだろう今、同級生達は項垂れ、机に突っ伏していた。
「あ~」だとか「う~」なんて呻きながら汗をダラダラ流している。
見てるこっちも暑苦しい程に。

僕が在籍しているこの高校は、私立でありながら設備が悪い。
よって、このような暑さを誇るイレギュラーな秋に対して全くの無力なのである。
まったく、この暑さの中でどうしたら寝られるんだろう?冷房と暖房設備が完璧な部屋で毎日寝ている僕には無理な芸当だ。
と、いうか三時間目にたらふく睡眠をとったから眠気がまったく無い。
僕は、窓越しにやってくる日光のせいでぼんやりとした頭を授業モードへと切り替えた。無理やりに、といっても遜色ないかもしれない。
黒板へと目を走らせ、表記された文字の読解を始める。

説明しよう。授業モードとは、授業に集中することである。

OK、OK。
なるほど……まったくわからん。
そういえば、科学の授業は一学期以降まともに受けた記憶が無い。
一年の一学期から、現在三年の二学期の今まで。
えーと、まぁいいや、黒板だけでも写そう、理系への道は始まったばかりなのだ。

「……あれ?」

と、思ったら僕の右手にペンは握られていなかった。
握っていた筈のペンは宙を舞っている。
しまった、集中を授業に向けるべきじゃなかった。
何故?
僕の右手は張り詰められた糸のような集中力の上にあったからだ。
指の扱いにおいて最高峰であるいわれる、あの行為。

言わずもがな、ペン回しである。

極限にまで高められた意思の上に成り立つ、手先の芸術。
ペン回シングの最中に意識を削ぐなど、プロペンマワシストの僕には有るまじき失敗だった。
くそぅ。
僕は、体を大きく傾け自分のシャープペンシルの捜索に入った。
……ああ、腰が痛い。
意外とシャープペンシルは直ぐに見つかった。
僕のそれは、木製の床の上にあると、とても目立つ色をしていた。
そのまま、その青色をした棒に手を伸す。
そう遠くにはない、少し無理な姿勢を強いられるだろうが、回収すること自体は造作ないことだ。
本当は、このじゃじゃ馬め、と言いながら愛でるようにペンを拾いたいけど、さすがに教室でそれをするのは気が引ける。
僕は、手をシャープペンシルへと伸ばした。
伸びていき、そして、教室の床を擦る作業に終わった。
……あるぇ?

「あれ、え?」
「『あれ?』……じゃないだろうこの野郎」

突然のことに半ば無意識に目線をあげると、僕のシャープペンシルが見知らない手に握られていた。
ゴツゴツとした手だ。
やめろぉ、僕のペンに触れるんじゃない。

「ほら、授業中だぞ。授業ってのは勉強する時間だ、お前みたいにペンを何十分も回す時間じゃない」
「あ~、すみません癖でして」

ずいぶんとヘラヘラした声だ。
生意気な。
と思ったら僕の声でした。
僕はひったくる様に差し出されたペンを受け取る。

「っていうか先生、それなら寝ているこいつ等も説教してやってくださいよ」
「寝ている奴らは夜遅くまで受験勉強して疲れているんだよ。……と、先生は信じている」
「確信無いじゃないですか。それなら僕だって勉強ぐらいしてますよ。あー!あー!眠いなぁ!ちくしょー!」
「……なぁ、吾妻君。最近の教職員は辛いと思わないか?ちょっと叱ったら直ぐに責められるんだぞ?最近の保護者は怖いぞぉ?きっと俺も直に禿げていくだろう」
「え、まぁ……心中は察ししますケド」

勝手に禿の話にシフトされた件について。

「そう言ってくれるのはお前だけだよ吾妻。最近は子供も冷たいしよぉ……女子なんて何をやったってセクハラだってうるさいし」
「はぁ、僕にはイマイチわかりませんが」
「お前、馬鹿野朗。女なんてみんな猫被ってんだよ。ちょっと目を離してみろ、陰口ばっかり言ってるぜ?」

この人は女性に対して何かあったのだろうか?
すごい気になる。

「なに勝手に人のイメージ壊してくれるんだこの野朗。そんなこと聞きたくなかった」
「ちなみにそこで寝てる佐藤も昨日お前の悪口言ってた」
「それは本当に聞きたくなかった!」

中年は、僕の反応に満足気に頷く。死ね。夜道で刺されてくれ。
ちょっと待って、僕はちょっと前まで佐藤さんとのデートプランを考えていたんだぞ?
この可愛らしく寝息をたてている佐藤が?いいや、そんな筈はない。
思い起こせ……。
遊園地のコーヒーカップで楽しげに遊ぶ彼女、水族館で鮫を見て興奮する無邪気な彼女。……が邪悪に笑った。
うわぁぁあん。ちくしょぉぉおっ。
僕の初恋がまさかこんなおっさんにぶち壊されるとは思わなんだ。

「なんだ?お前佐藤の事好きだったのか。あー佐藤可愛いよなぁ、まぁ俺が言うと犯罪くさくなるわけだが」

もうあんたのせいで僕の中にいる佐藤は真っ黒だよ。
始終イビルな笑みをうかべてるよ。

「ところで可愛いと言えば俺の娘なんだけど」
「なんですか先生、無駄話ですか?するんなら聞きますけど平常点くださいよ。もう科学の成績が欠点ギリギリでして」
「いや、お前は平常点を全部やってギリギリだよ」
「うそぉぉぉぉぉぉぉお!?」

もう科学なんて嫌いだ。
大嫌いだ。
授業放棄だ。
 
 

 

日の光に目を眇める
日差しが眩しい。
窓際は暑い。
地球温暖化もいい加減して欲しいところだ。
こんな暑さだから実感は無いけれど、今はもう秋。
受験はもう直に始まる。
時間なんて、本当にもうちょっとしかない。
だというのに、僕はこんな調子でいいのだろうか?
最近よく思う。
僕はもう高三だ。
クラスの連中は、今こそ寝ているけれどたぶん家では勉強しているに違いない。
先生はあんな調子で言っていたけど、あの人もそのことに関してはわかっているんだろう。
それに対して僕はどうだ?
……どうとも言えない。
まったくやっていないわけでもないけど、特別に勉強に打ち込んでいる部類に入ってはいないだろう。
…………こんなんでいいのかな?
別に世の中を悲観しているわけじゃないけれど、人生の素晴らしさなんてまったく見出せる気がしない。
いっそのこと旅にでもでるか?
……なんちゃって。
自分で自分に苦笑。
 


ゴーン、と鐘が鳴った。
 


「はぁ、やっとおわったぁー」

いつもは落書きでもしながら過ごす授業がやけに長く感じられた。
やれやれと一息ついて、僕は席を立った。
立とうと……した。

は?

という声さえ出ない。
出せない。

先生?

思わず近くにいるであろう科学担当の教師にかけようとしたけれど、何も起きなかった。
そういえば、うちのチャイムの音と違うような?
瞬間、そこには何も無くなっていた。
何も聞こえず、何も見えない。なにも匂わなければ、あの鬱陶しいまでの暑さも感じない。
だだ、暗闇の中だ。
いや、暗闇というものすらない。
目を瞑ったあの感じに似ている。


教室が暗転した。


暗転して、

「お気づきになられましたか?」

そこには少女が立っていた。
 
 
 








 
 

~『明日から勇者やる』はじまり~
 
 
 
 
 





 
 

………………。
ビークルビークル。
落ち着け僕。
落ちつくんだ…『素数』を数えて落ちつくんだ…『素数』は1と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字…僕に勇気を与えてくれる。2…3…5…7…11…13…17…19。
……よし、まだ思考が不可能になるほど混乱はしていないみたいだ。
まずは、あたりを見渡そう。
白を基調とした壁面だ。
よくテレビで見る外国の建物のよう。
もちろん、僕にはここがどういう建物かなんで判断しようがないけれど。
あの柱は、確か世界史の資料集でみたイオニア式だ。……ドーリア式だっけ?
知ったことじゃない。
僕は再度辺りを見渡した。
綺麗に整列した人達が見える。
司祭服のようなものを着たおじいちゃんから、腰に剣なんて差しちゃっている強面のお兄さん達。
おまけに露出度が半端じゃない美人さんたちまで。
よく観察してみれば、顔に動揺こそ見えるものの、あらかじめ準備していたような落ち着きが見えた。
というか、何で僕は囲まれているのだろう?
依然として僕の目の前には、白髪の少女が一人いる。
「今まで一度も切ったことがないのだろうか?」と思えるほどに伸びた髪の少女で、素晴らしく美少女。
僕が、瞬間的に硬直してしまうくらいに美少女。
 
肌は病的に白く、恐ろしく澄んだ瞳。
そして、その手には何故か杖が握られていた。
何?魔法少女なの?そうなの?
っていうか僕の足元に光るこれは魔法陣かナニかですか?
………………。
…………。
……ははっ、なんだこのファンタジー展開。
SSだった面白かったのに、自分の事となるとまったく全然面白くない。
ああもう、混乱し過ぎて混乱できない。
とりあえず、ドッキリじゃないのはわかる。
今の僕の現状は手がかかりすぎ、だなんて言葉じゃ解決できないレベルだからだ。
となると僕はアレなわけか?
アレ、か。
 

「始めまして、勇し」
「違います」

勇者として召喚されたのか。
なんだよ、この展開。
流れが早すぎるぞ。
ついていけない。
もし、僕がこんな内容のSSをみたら、「この……ド低脳がァーーッ」と荒らしてやるところだ。
笑えない。
笑っているのは目の前の少女だ。
全部わかってますよ?なんて笑みを浮かべている。

「はじ」
「違います。断じて」

……。

「まるで勇者のような貴方」
「比喩表現使っても違う」
「勇者です貴方は」
「倒置法を使ったら納得すると思ったか」
「貴方を勇者です」
「洗脳探偵っ!?」
「貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者貴方は勇者」
「ゲシュタルト崩壊される気だよこの子!こえー!!」
「貴方は勇者だっ!」
「断定されたっ!?」

周りには、先程から一変して呆然とした老若男女がいた。
 
 
 
 
 
 
 











まず最初に、申し訳ありませんでした。
まさか二話目にしてこの投稿速度。
実はリアルで……いえ、言い訳はよしておきましょう。
一応私は冬休み中ですので、次の投稿は早くできるはずです。……たぶん。
なるべく早く書きます。
では、貴重なお時間をいただき、また、お目を通していただき、ありがとうございました



[24556] よくわかる解説。
Name: 義理妹萌◆cdf6ff43 ID:2f6d4925
Date: 2011/02/05 18:22
僕は根っからの現代人だ。
携帯電話を携帯しているし、勿論使えるし、携帯の形態をぱかっと変形させることも出来る。
趣味はペン回しとネットサーフィン。
電化製品だってちょちょいのちょい。
昔の人は手こずっていたであろう事だってそれを駆使して華麗にこなしてみせるぜ。
ただ、逆を言えば、それがなければ何もできない今時の少年でしかない。
ハイテク機器が無ければまともな生活ができず、それが無い一日なんて想像も出来ない。
僕は現代の技術が行き渡っていない土地には住みたくない……実際にそこで暮らしている人には悪いけれど、住めっこない。

話を聞かせてもらったところ、残念ながら僕がいまいるここはそういう世界らしい。




この世界に着いて二日目、僕はどこかも知れぬ建物の、どこにあたるかわからない一室にいた。
昨日?昨日はずっと寝てたよ。ハハハ。
真っ青な壁をした、広いか広くないか境目をつけにくい洋室。洋室と僕が思うのは、床がフローリングでできていることからくるのだけれど、本当はどうかわからない。わからないので、とりあえずそう判断させてもらう。
席が二つ向かい合っているだけの青い部屋。
目がおかしくなりそうだ……はぁ。

「それで、僕が勇者だって話なんだけどさ、まぁ仮にそうだとしても何が目的なわけさ。先に言っておくけど僕は弱いぞ?」
「仮に、ではありません勇者さま。貴方は勇者なのです。天地が引っ繰り返っても、空から槍が降ろうとも、市民が総出で非難しようとも、もしも私が男の子だったとしても、貴方はまごうことなく勇者さまなのですわ。それに、勇者さまが強かろうと弱かろうと何の問題がありましょう?ふふっ、勇者さまは可笑しなことを言いなさる」
「……こっちの勇者とそっちの勇者じゃ違いがあるみたいだ。僕が知る勇者はスライムから魔王まで幅広く殺し合いをする連中で、正義の道を進む、勧善懲悪の話に出てくる主人公のことを指すんだよ」

それが全てゲームの話ということは、当然伏せておく。
そもそも今の僕の状況がゲームの話みたいなものなんだろうけど、考えたくない。
あれはゲームの話で、現実とは違う。僕の人生とはリンクしない。
そう考えないと、本当に鬱になってしまいそうだ。
僕はこれから冒険なんてしないし、聖剣なんて取りに行かない。命がけのバトルもしなければ、どこぞの姫を救いに行くなんてイベントもこなさない。勇者なんてなるなんてまっぴらごめんだ。
そんな英雄になるのは夢の中や妄想内だけでいい。
早く帰りたい、早く帰らせてくれ。
だから僕は勇者になることを否定し続けて、拒否する。

「すらいむ?聞いたことはありませんが、ええ、勇者さまの言う通りですわ」
「そんなニコニコと話しても僕の意見は変わらないぜ?なんだ、こっちの勇者は武闘派じゃないのか、とりあえず安心したよ。なる気全く無いけどさ」
「いえ、私は勇者さまの言うとおり悪と戦う戦士が勇者だと」
「……は?」
「ですから、人畜有害を屠り、迷える人々を先導し、正義の道を突き進む者。それが勇者なのでございます」
「そ、それじゃあ話が違うじゃないか!僕は喧嘩に勝ったことないし、1つ下の妹にすら負けるんだぞ?そんな僕が、君等が言う人畜有害とやらに勝てる筈ないだろ」
「いえ、違いません。ええと、では少し訂正させてもらいますわね。私たちは勇者に力を求めます。しかし、勇者にそれが必要かと言えば、別にそんなもの必要ないのです。私たちはその為に従者を用意致しますわ。勇者さまが死なないように、勇者さまが傷つかないように彼らが剣となり盾となってくれることでしょう」
「後ろで突っ立てる奴を守りたくなるもんか。少なくとも僕は嫌だ」
「あ~、う~ん。申し訳ありません。別に勇者さまが戦わない、と言っているわけではありません。私って説明が下手でして、話す順序を間違えたのかしら?」

少女は顎に一指し指を持っていって困った顔を作った。
妙に様になってるのがなんか癪だなぁ。

「ああ、もう。混乱してきたよ」
「では、これからは回答形式といたしましょう。ええ、それがいいですわ」

続いて両手を合わせて右頬へ。
わざわざリアクションが大げさな。

「じゃあ、僕はどうやったら帰れるの?」
「何をしたら、と言わないということはこの世界で何か成し得る気は無いということですか。……まぁいいです。勇者さまはお帰りになられません。どこかの民間伝承にでしたらそのような話もあるのでしょうが、少なくとも、こちらには勇者さまを帰らせる手立てはございませんわ」
「……勇者の地位は?」
「ふふ、いきなり話がとびましたね。質問の答えは、そうですねぇ、働き次第というところでしょうか?この国に有益とあらばそれなりの権限も手に入るでしょう。しかし、最初からというわけにはいきせんね。せいぜい食べ物と住むところに困らない程度ですわ。他所の国では、召喚当日に姫をよこせと言った勇者が不敬罪により牢で過ごす事になったと聞きます」
「……ここではそれが当たり前なのでしょうか?」
「勇者さま、別に改まらなくとも私に貴方様をどうこうする力などありませんよ?」

じゃあそんな脅しみたいなこと言わないでほしい。
少女はそんな僕を見てにこぉ、と笑った。
う~ん、なんだかいいようにされてる気がする。
しかし、帰る方法が無いとは困った。
本当ならもっと探りを入れるところなんだろうけど、僕にはそれを聞き出すトーク力も無いわけで。
いや、勿論あきらめるわけじゃないけれど、この子からその情報が得られないと思ったのだ。
はてさて、どうしましょう?

「どうです?落ち着いてきましたか?」
「落ち着かな過ぎて落ち着けない」
「?」

ふ、どうやらお子様にこのジョークは通じないらしい。
やれやれだぜ。

「青色は人の心を鎮めると言われておりますから、如何かと」
「ああ、ここの壁ね。度の越しすぎはいけないよ」
「そうですか、申し訳ありません。と、悲しそうな顔を浮かべるのでお許しください」
「そんな作為的なものが許せんわ」
「ごめ~ん、ネッ!」
「ああ、もう許さん。絶対に許さんぞ」
「む。私の大人のお友達の方はこれで大抵解決したのですが」
「そんなお友達とは今すぐ縁を切りなさいっ!」
「どうでしょう?」
「どうと言われても、どうでしょう!?」

てん、てん、てん……無音タイム。
ふぅ、なんてため息が重なる。

「落ち着きましたか?」
「疲れた」

でも、この少女が僕をリラックスさせようと気遣ってくれているのはよくわかった。
こういうのを有難迷惑というのだ。
だから、気持ちだけ貰っておくとする。

「ここの勇者の仕事は?できるだけ細かく」
「質問タイム再開ですね?わかりました。勇者の仕事といえども様々ありますから、まずは大きく二つに分けさせてもらいます」
「その心は?」
「国内の仕事と国外のものの二つですわ」
「国外?国内ならまだ予想がつくけど。援助活動とか?」
「いえ、他所の国のことは自分で解決して貰えないと困ります。国外の仕事、と言っても実質能動的にすることはありませんのでご安心を。することと言えば、防衛となりますので」
「戦えっていうんじゃないんだろ?昨日あの場所で軍事関係っぽい人が見えたし。こういうのはちょっと薄情だけど、血生臭いことはその人たちの専門分野だ」
「否定はしません。彼らもそれでお金をもらっているわけですからね。勇者さまは国外に対しての抑止力になってもらいます。できるだけ善行をしてください。でき得る限りプラスのイメージを手に入れてもらいます。同情でもかまいませんが。もし、そんな善い勇者さまが敵国の手にかかって死んでしまうとしましょう。どう思いますか?」
「僕は死にたくない」
「ええ、その通りです我が国の民は、哀れ死んでしまった勇者さまのために立ち上がってくれるでしょう」
「人の意見に耳を傾けようよぉ」

でも、まぁ理屈はわかった。
本当にそうなる確証あるのか、なんでそうなる予想があるのかはわからないが(たぶん、過去にあったのだろう)勝手に自分の国の都合で呼び出された人が、なんの義理も無い自分の国の為に働き、そしてその国の都合で死んでしまう。なんて理不尽な話なんだろう。その境遇にいる僕不憫すぎ。
そして、それは他所の国にも通用する。可哀想な勇者を、こともあろうに自国の者が手にかけるなんて聞こえの良い話である筈がない。それも内外問わず。
国の民は自分の国の判断に失望し、外からの評判も悪くなる。
当然、その他色々な要因によります。なんだろうけど。

「では次に、国内の主な仕事を言います。と、その前に」
「なるよ、勇者」
「ほほう、突然どうしたので?」
「選択肢が無くなり過ぎた。話を聞けば聞くほど勇者以外の選択がないよ」
「ええ、そうですね。もし勇者さまがこの話を降りたとすれば、まず城を追い出されることになるでしょう」
「地位について聞いたとき、働き次第って言ったよね。それってつまり働かない奴は要らないってことだよ。しかも姫を下さいって言っただけで投獄とか冗談。たんにそこの王様が大のつく馬鹿親だっただけなのかもしれないし、王政じゃそれが当たり前なのかもしれないけど、うわっ……勇者の価値、低すぎ……?って話だ。さっきの事についても、前代の勇者がその善い勇者だったのなら僕に同情の余地は無い。どうやら勇者召喚なんて芸当何度もやっている国らしいし、召喚自体に罪悪感はないみたいだ。僕が勇者なんかしませんだなんて言ったら『ああ、今回の勇者はハズレだなぁ』なんて思われるんだろうぜ?」
「随分と悲観的ですね」
「結局のところどうなのさ」
「今回の勇者は随分と聡明でいらっしゃる」

それが答えかよ。

「国内の仕事について聞かせてくれ」
「マモノ退治をして頂きます。でき得るならその上、マオウも」
「魔物に魔王ね。」
「いえ、マモノ、マオウです」
「……ごめん、アクセント以外に違いがわからない」
「ああそのことでしたら。勇者さま、言葉については何か違和感がありませんか?」
「っ!」

言われて初めて気付くなんて不覚だった。
何で僕は違う世界で、違う言語体系を使っているはずの世界で会話が成り立つのか。
喉に手をやる。

「大丈夫ですよ、お体には何もしていません」
「じゃあ、どうして」
「魔法陣がありましたでしょう?あそこに仕掛けがありまして、詳しい話をしても恐らくはわからないと思いますので、簡単に解説を。要するに翻訳機能をですね、陣に組み込ませております。陣の7割はこの国の言の葉の訳で埋まっていると言っても過言ではありません。一般常識の方も書き込むことができればこの場における説明も要らないのですが、何分量が量ですし、ほぼ不変の言語と違い、融通もききませんから」

何そのハイテク。
超欲しい。そしてそれで英語覚えるわ。
つまり、僕の中でマモノ、マオウ、魔王を翻訳した結果齟齬が生まれた、と。
これはちょっと注意が必要だ。

「あー、ごめんマモノマオウの話の続きをどーぞ」
「いえ、もっと早めにこの話をすべきでした。ごめ~ん、」
「そのネタはもういい」
「……そうですか。といってもマモノとマオウの説明は私からはできません、長くなりますし、専門ではないので。ちなみに先ほど言った違いとは、マモノ、マオウは人に害為す敵、魔王とはこの国と統治する、魔法の国の王。勇者さまは前者、マモノとマオウと戦い、この障害を排除して頂きます」
「でも戦いはできない」
「ええ、ですので護衛を……という話はしましたね。勇者さま、マモノを倒せる者は少なく、しかも倒せる者といえども国の為に働く者などほとんどいないのが現状です。ですから勇者さまをおよびしたのです。言ってしまえば、国の為だけに都合よく動かせる者が勇者さまであるわけですね。勿論、その方がもとからマモノを倒し得る力を持っている筈もありません。では勇者さま、マモノを倒す為に、純粋な力や技術以外にどんな術があるかわかりますか?」
「それは、」
「そう!マモノをそのまま武器として使うのです。正確にはそのマモノの一部を!」
「答えさせる気なかったろ」
「ええ」

そろそろ僕の涙をこらえるゲージが弾けとびそうだ。

「じゃあ次。僕の格好について違和感は?肌がどうとか、そういう差別的なものがあれば知りたい」
「いえ、肌の色に関しての差別などは特にありませんね。でも……」
「でも?」
「黒髪は頂けませんね。この国ではまだ軽いほうですが、他所では恨まれ具合が凄まじいらしいです」

え?僕駄目じゃん。
つい、放心してしまう。流石に無いわ~。黒髪で差別は無いわ~、と。
これは、大きすぎる。
召喚された、見知らぬ土地で待っていたのがまさかの差別とは。
ちょっと、突然すぎて、ショックで、体に重さが無くなった感じ。頭を支えきれない。ふらふらする。
そんな僕に、ソプラノの声がかかった。

「私からもひとつ、よろしいでしょうか?」
「え……なにさ?」
「私についてどう思いますか?貴方の日常を崩し、己の都合だけで友人や家族と引き離した私が憎いですか?」
「そりゃあね」

今更何を言うのかと思う。
何をいまさら謝っているのかと。
そんな気持ちがあったのなら、だったらなんで僕をこんな目に合わせたのだ。
正直、嫌い。
……でも。

「でも、僕の質問に正直に答えてくれたり、味方でいてくれようとするところは、すごく有難い。だから、君のことは好きでいたいと思うよ。笑っていてくれるとうれしい」
「ふふ、今回の勇者さまはキザでいらっしゃる」

自分でも思う。

「じゃあ僕も最後に。僕を召喚して、第一印象はどうだった?」
「あちゃ~」
「ああ、そうかよ」

OKやってやる。勇者に必要なのは環境適応能力だ。
スポンジみたいにその世界の知識を取り入れて、利用して敵に勝つのが勇者だ。
英雄にはならない。ヘラの供物にはならないさ。
僕は勇者になる。今はなれない。僕はそんな器ではないから。
でも、今日なれなくとも明日から勇者だ。
明日できることは明日やる。僕が日本から持ち込んだ生き方だ。
だから、明日から勇者になろうと思う。






























お久しぶりです。
「え?こいつだれだよ」と思うでしょう。
申し訳ありません。
一ヶ月と少しぶりの投稿となりました。
たぶん、またちょびちょびとのろまな更新になると思いますが、お付き合いしていただければ幸いです。
それではまた。
貴重なお時間をありがとうございました。


感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.00436806678772