冬来りなば春遠からじ。北の地域ではまだドカ雪との格闘が続くが、南からは梅の開花便り。これから長い列島を時間をかけて春が上りゆく。そのかすかな気配を読み取るのもまた趣がある▲そういえば桜の木々の色合いが変わりつつある。黒っぽかった寒色系の幹や枝がいつのまにか薄茶っぽい暖色系になった。近寄って見ると、かわいらしい花芽があちこちに吹き出し、日々膨らみを増している▲「休眠打破」という言葉がある。前年の夏に形成された桜の花芽がいったんは「休眠」状態となるが、冬の低温にさらされることで、眠りからさめ、開花の準備を始めることである。面白いことに、この低温期間が半端だといい花芽ができない。きっちり一定期間寒さに耐えねば美しい開花は望めないのである▲さて、我が国の政治の春はいかばかりの気配だろうか。開花予想どころか、早々と「3月危機」「4月危機」が喧伝(けんでん)されている。確かに、衆参のねじれを克服する数のメドがたたず、マニフェストの修正という党派としての自己否定を迫られ、しかも、消費税増税という重い課題を背負った菅政権はまだいてつくばかりの厳冬にある▲ただ、桜の例でいえば、大事なのはこの厳しい寒さから逃げずにひたすら耐え抜くことである。むしろ、もろ肌を脱いで寒さに全身をさらしてもいい。そうでもしなければ、これだけの借金に平然としているこの国の休眠状態は打破できないかもしれない▲今年はやや早めに桜が咲く、という。平年より厳しい寒さに覚醒した芽が見事な花をつけるだろう。それに負けず劣らずの開花を政治の世界にも求めたい。
毎日新聞 2011年2月6日 東京朝刊
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