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社説:ムバラク大統領 「カオス」収拾へ決断を

 エジプトと米国の友好関係がぎくしゃくしてきた。ムバラク大統領は米テレビとの会見で、自分の早期辞任を求めるオバマ米大統領に「エジプトの文化を知らない」と反論したことを明らかにした。辞任すればイスラム原理主義のムスリム同胞団が取って代わり、カオス(混とん)になる。エジプトがイランのようになってもいいのかと開き直った形だ。

 未曽有の反大統領運動に直面するムバラク氏は必死だろう。だが、発言には注意すべきである。反大統領運動の背後にムスリム同胞団がいるとの見方には首をかしげるばかりだ。エジプトで盛り上がる民衆運動の中心は、どう見てもイスラム組織ではない。職を求め、日々の生活に苦しむ庶民たちだ。ムバラク氏の目には、そうは映らないのか。

 なるほど約30年のムバラク政権下で抑圧されていた同胞団の発言力は今後、増すかもしれない。だが、同胞団は反大統領各派と連携を保っており、イラン型の革命をめざしているわけではない。カオスというなら今のエジプトこそカオスであり、その責任はムバラク氏にある。

 エジプトでは4日、「追放の金曜日」と銘打って大規模な反大統領集会が開かれたが、群衆は移動を規制され、反ムバラクのスローガンを叫んで気勢を上げることしかできない。軍がムバラク体制を守っている形だが、では軍がムバラク氏を支持しているかというと、これもはっきりしない。明らかにこう着状態だ。

 米紙によれば、米政府はスレイマン副大統領を中心とする暫定政権を作り、ムバラク氏を象徴的な存在とすることを検討している。先行きは不透明だが、ムバラク氏が9月の任期満了まで務める方針に固執すれば、エジプト情勢は収まるまい。中東の不安定化は世界経済にも重大な影響を与える。エジプトの庶民の生活苦が募るのも痛々しい。「カオス」を収拾・回避すべく、ムバラク氏は速やかな辞任を決断してほしい。

 エジプト政府の改革への意思が本物なら、国にまつわる暗いイメージを一掃すべきである。ジャーナリストへの襲撃などが横行しているのは、由々しき問題だ。先月26日から今月4日までに世界各国のジャーナリスト計101人が襲撃や拘束の対象になり、死者も出たという。こうした状況はムバラク政権の信用をますます失わせるだけだ。

 またシャフィク首相は、いわゆる大統領支持派の反大統領派襲撃について謝罪したが、支持派の中には警察官の身分証明書を持つ者もいたという。ジャーナリストの襲撃、拘束に関与したとの情報もある。そもそも大統領支持派とは何なのか、その実体も明らかにしてほしい。

毎日新聞 2011年2月6日 2時31分

 

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