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きょうの社説 2011年2月6日
◎親善の桜「里帰り」 高峰博士の志を広めたい
世界的化学者、高峰譲吉博士が米国ワシントンに贈った桜が、博士とゆかりの深い横浜
市に「里帰り」することになった。有志らによる「市民の会」が発足し、博士が桜を寄贈してから100年の節目となる2012年までに植樹する。石川、富山両県でも桜の「里帰り」計画が進んでおり、博士ゆかりの桜の輪が広がる。ノーベル賞級の成果を挙げた高峰博士の大きな足跡に比べると、全国的な知名度はまだ まだ低いが、博士を描いた映画「さくら、さくら」の上映を機に再評価の動きが広がっている。今春は続編「TAKAMINE〜アメリカに桜を咲かせた男〜」が日米で同時公開予定で、映画でも描かれる日米親善の桜に込めた博士の平和への強い思いは、今の時代も変わらずに求められている。この桜の子孫が里帰りする石川、富山両県と横浜が絆を深め、博士の志をより広く発信していきたい。 横浜港から桜が送られた横浜市では、商店街関係者や「さくら、さくら」と「TAKA MINE」でメガホンを取った市川徹監督らによって、「里帰りを喜ぶ市民の会」が発足した。米国政府の協力を得て、ワシントン・ポトマック河畔の桜並木から採取し、育てた苗木を横浜の商店街などに植樹する。横浜からも高峰博士の足跡を大いに伝えてほしい。 石川、富山両県でも、ポトマック川の桜「里帰り」プロジェクトによって、2012年 にゆかりの桜の苗木が植樹される予定である。同年にはワシントンの桜祭りで桜寄贈100年の記念行事が計画されており、国内外で高峰博士の功績を見直す機運が高まることを期待する。 映画「さくら、さくら」では、目標に向かう高峰博士の情熱が幅広い層の共感を呼んだ 。続編の「TAKAMINE」は、桜の寄贈を軸にして、日米の懸け橋となった博士の苦闘が描かれる。ロケは石川、富山、横浜、ロサンゼルスなどで行われ、テーマ曲の合唱にこれらの地の子どもたちが参加し、スクリーンの中でもゆかりの地のつながりを深める。不屈の精神で夢の実現を目指し、友好親善に尽力した博士からのメッセージを若い世代に届けたい。
◎欠員の民生委員 奉仕に頼るだけでは心配
石川、富山を含む多くの都道府県で民生委員が欠員になっている。高齢者の所在不明問
題や児童虐待の増加で、「地域の見守り役」である民生委員の役割がクローズアップされ、負担が重くなるに従って、定数割れの傾向も全国的に強まっている。児童委員を兼ねる民生委員は、社会奉仕の精神に支えられる制度であり、活動に当たっ ては交通費などの実費が支給されるだけで、原則無給である。事実上のボランティアとはいえ、公務員と同じく守秘義務が課せられ、役割は増大している。奉仕の精神は民生委員制度の根幹ではあるが、それに頼るばかりでは、なり手不足がますます深刻になるのではないかという心配もぬぐえない。 民主党政権は、市民団体や地域組織、企業などさまざまな主体が協力して社会を支える 「新しい公共」という理念と政策を打ち出している。また、自治体では地域全体で福祉を推進する「地域福祉計画」の策定も進んでいる。こうした状況変化に応じて、民生委員の意義や役割、処遇の在り方を見直す必要もあるのではないか。 民生委員の任期は3年で、昨年12月の改選時での欠員は全国で5355人に上り、0 7年より500人以上増加した。 主な仕事は、高齢者や障害者、生活保護世帯など援護が必要な人たちの相談に乗り、行 政との橋渡し役になることだが、最近は悪質商法や虐待からお年寄り、児童を守る取り組みや、災害に備えた要援護者マップの作成など活動は多様化している。 高齢化による要援護世帯の増加だけでなく、核家族化で民生委員の担当世帯数そのもの が増加傾向にある一方、地域の人間関係の希薄化や個人情報に関する意識の高まりから、民生委員の活動が困難になっていることが欠員の大きな要因に挙げられる。 市町村の個人情報保護条例が、民生委員の活動の壁になっている点も問題である。厚労 省の昨年の調査では、高齢単身世帯の情報を民生委員に提供している自治体は約半数にとどまる。この点は速やかに改める必要がある。
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