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検事の自白誘導 全面可視化しか道はない2011年1月23日  このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録

 取り調べを全面的に可視化しない限り冤罪(えんざい)は防げない。それを裏付ける事例がまたしても明るみに出た。
 放火事件で知的障がいのある男性の起訴を大阪地検が取り消した問題で、取り調べを担当した検事が答えを誘導して自白調書を確認していた。裁判員裁判の審理対象事件だったからDVDに録音・録画された。対象外なら、誘導があったとしても真相はやぶの中だったはずだ。
 弁護側が明らかにした取り調べのやりとりによると、検事は「火が広がるのを見たの?」と質問し、男性が「見てない」と答えると「見たでしょ」と畳み掛け、「見た」という返答を引き出した。さらに「人の家に入って、火を付けたんでしょ」と決めつけている。
 相手が状況を正確に理解できないのをいいことに、自身が描いたシナリオに沿って自白を引き出したとすれば、卑劣極まりない。これまで、密室で行われた取り調べで、同様の自白誘導がまかり通っていた可能性がある。
 村木厚子さんの無罪が確定した厚生労働省文書偽造事件と、それに絡む大阪地検特捜部の証拠改ざん隠蔽(いんぺい)事件を機に検察に対する国民の信頼は地に落ちた。実効性に乏しいその場しのぎの改善策で納得するほど国民は愚かではない。
 最高検が昨年12月にまとめた検証報告書は(1)取り調べの一部録音・録画を特捜部が扱う事件にも取り入れる(2)高検検事長が重要事件を指揮する―などの方策を打ち出した。東京、大阪、名古屋各地検にある特捜部は存続を前提としている。危機感に乏しく、「お手盛り」の印象は否めない。
 たとえ取調官が脅したり誘導したりした末に得た供述だったとしても録音・録画されるのが罪を認めた瞬間だけなら、有罪に持ち込む材料として利用されるだけだ。冤罪を生む土壌は消えない。
 信頼を取り戻すには、最低でも全ての事件で全取り調べ過程を可視化することが不可欠だ。その上で、弁護士の立ち会いも認めるべきだ。
 法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」は最高検の報告書など度外視し、金輪際「権力犯罪」の犠牲者を出さないという観点から議論しなければならない。
 民主党は2009年衆院選の政権公約に「取り調べの可視化による冤罪防止」を掲げた。公約をこれ以上空文化させないでほしい。


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