【カイロ樋口直樹】エジプト各地で続く大規模な反政府デモや治安の悪化に伴い、同国経済が少なくとも31億ドル(約2550億円)の損失を被ったことが4日、フランスの大手金融機関「クレディ・アグリコル」の調査で明らかになった。AP通信が報じた。実質失業率が20%を超えるといわれるエジプトで、新たな経済打撃は一般市民の生活に重くのしかかり、事態の早期正常化を求める声が高まっている。
エジプトでは先月25日の反政府デモの発生に伴い、銀行や株式市場が業務を停止したほか、多くの民間企業や商店も営業を控えている。基幹産業の観光分野でも、スレイマン副大統領は3日、「先月25日以来、100万人の観光客がエジプトを去った」と述べた。経済への打撃は、1日当たり少なくとも3億1000万ドルに及ぶ。
こうした事態に対処するため、ラドワン財務相は4日、50億エジプトポンド(約700億円)の補償基金を設けたことを明らかにした。一連の騒乱で破壊された事務所や商店、車などの所有者に一定額の補償を行うほか、失業手当の充実なども図るという。銀行と株式市場は6日以降、順次業務を再開する見通しだ。
カイロ近郊ギザの女性会社員、メドハトさん(23)は「いくつかのスーパーでは油や砂糖、コメなど生活必需品の便乗値上げが起きて、顧客の怒りを買っている」と話す。
別の男性年金生活者、メダニさん(61)は「大型スーパーは略奪を恐れて営業していない。日払いの労働者などは、仕事が無くてパンも買えずにいる」と話した。
2人ともムバラク大統領の今期限りの引退を歓迎しながらも、即時辞任を求める抗議デモの長期化を心配している。「デモはもうたくさん」(メドハトさん)、「日常生活に戻るべき時だ」(メダニさん)との思いは、一般市民の間で日に日に強まっている。
毎日新聞 2011年2月5日 21時25分(最終更新 2月6日 1時02分)