「すべての女性社員が、報酬や昇進の面で性差別を受けている」――。東芝が大ピンチだ。米国法人が組織的な女性差別をしているとして、現地で1億ドル(約82億円)の賠償訴訟を起こされた。
訴えたのは、原子力事業の子会社に勤めるエレイン・サイファーズ氏。08年に人事部門マネジャーとして中途採用された。東芝以外でも人事畑で25年間のキャリアを積んだベテランだ。
「東芝にとって厄介なのは、彼女が“人事のプロ”であること。訴状でも、東芝の米国法人の女性幹部の割合が3.4%に過ぎないなど、女性に対する組織的な差別があると指摘。サイファーズ氏の弁護士も『彼女は東芝が組織的な違法行為を犯したことを熟知している』と語っています」(現地メディア関係者)
彼女は現地法人に勤務する女性、過去に勤務した女性の計8000人を代表し、集団代表訴訟に踏み切ることを目指している。請求額は、まだまだ積み上がる恐れもあるのだ。
昨年以降、米国では金融大手ゴールドマン・サックスや小売り大手のウォルマートなど、大企業が女性社員への待遇差別で1億ドル以上の賠償金を請求されるケースが相次いでいる。ただでさえ、北米市場の低迷に苦しむ中、他の日本企業にも性差別訴訟が飛び火すれば、大ダメージとなる。
●気になるのはオバマ政権の国内保護政策
「今回の訴訟には政治的な臭いを感じます」と、米国問題に詳しいジャーナリストの堀田佳男氏はこう言う。
「96年に三菱自動車の米国法人が約300人の女性従業員を代表する集団代表訴訟を起こされ、98年に約48億円の和解金を払うまで猛烈なバッシングが吹き荒れました。米社会は性差別に敏感で、集団訴訟を起こされた企業は、不買運動など激しい非難にさらされます。訴えられた側にも落ち度があるとは思いますが、東芝のダメージを考えれば、訴訟の裏側を邪推したくもなります」
トヨタのリコール騒動の頃、現地メディアでは「次は東芝」と噂された。世界一の自動車の次は、世界一の原子力技術を誇る東芝が、国内産業保護に走るオバマ政権の標的だからだ。
その原子力部門で起きた性差別訴訟――偶然なのか。
(日刊ゲンダイ2011年2月2日掲載)