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[25827] 【習作】心臓がなくなったならば、もう一つを使えばいい。<オリジナル>
Name: にく◆e51d9fa2 ID:8c9c54fb
Date: 2011/02/05 00:00


失くしてしまった。何処に在るのだろうか?早く見付けないと夜が来てしまう。そうなったらきっと見つけられないし、お母さんを心配させちゃうよ。
駆けずり回って汚してしまったお気に入りの洋服。気にはなったが、それよりも大切な物があった。お母さんから貰った大事な大事なブレスレット。
先月の誕生日にお願いして買ってもらった私の宝物。ずっと腕に付けていたけど、遊ぶときに汚れてしまうのが嫌で何処かに置いた……はずなんだけど。
一緒に遊んだ友達は、もう居ない。時間をちゃんと守るおさげの友達は、大きな時計の長い針が真っ直ぐ上を向いたと同じ時に、家へ帰ってしまった。
黒い髪を左右に括った友達は、少しだけ一緒に探してくれたけど、見つからなくてすぐに帰ってしまった。
しょうがないと思う。きっと家に帰ることが遅くなってしまうと、両親に怒られてしまうんだろう。私にもそんなことが前にあったから、何となくそう思った。
それからは、一人きり。知らない誰かたちも、何時の間にか帰ってしまっていた。長い針と短い針が一直線になる。……その日の風は少し冷たくて、何だかとても悲しくなった。
公園のベンチにはない、水を飲む場所にもない、滑り台の上だってブランコの上にもない。……どこにあるの?
一歩一歩地面を確かめながら、公園の隅から隅へと歩いて行く。それでも、まだ見つからない。なんだか自分のしていることが、すごく苦しくなってきた。
早く家に帰ってお母さんに会いたいのに、見付けないと帰られない。

「なあ、なにしてるんだ?服汚れてるぞ?……うわ、泥付いてるよ勿体無い。高そうな服なのに」
「……へう?」

夕焼けの中、地面を懸命に探っていた私の前から声が聴こえた。声の口調からきっと男の子だ。
突然声を掛けられた私はびっくりして、びくびくしながら少しだけ私より背の高い男の子を見た。知らない顔。……だれ?

「だから、どうしたって聞いてるんだよ。なんか探してるのか?」
「……なんで?」
「なんでって、さっきから必死なんだもんお前。見てられないよ。……何探してる?」
「えっと……」

知らない男の子が私に構ってくる。どうしよう、家族でも友達でもない知らない誰か。そんな人になんて答えればいいの。

「……いい」

私は何故だか怖くなって、男の子の言葉を断った。そして、早く私の前から消えちゃえばいい、なんて酷いことを考えてしまう。なんて私は悪い子なんだろう。
少し男の子の顔が変わった。ちょっとだけ怖い。そんな顔から逃げたくて、私はまた下を向いてブレスレットを探すふりをした。
黒い影は動かない。きっと私がそんなことを思ったから怒ったんだ。……早く家に帰ってよ。

「何を探しているのかだけでも、教えてくれないか。そうしたら、帰るよ」

そんな言葉を聞いて、男の子に早く帰って欲しくて私は正直に答えた。

「ブレスレット」
「どんな?」
「赤い、綺麗な石がついてる。……お母さんから貰った宝物……なの」

思えばその一言こそ余計だったのかもしれない。

「……そう」

ぽつりと呟くと、砂を踏む足音と一緒に影が離れて行く。私は小さく息を吐いた。ああ、安心した、きっと男の子は家に帰ったんだ、そう思って今度こそちゃんと地面を探し始める。
既に何度も確認した場所を、まだ探していないところがあるかもしれないと思って、もう一度見る。それでも、探し物は何処にもない。



気が付けば街灯だけが、私を照らしてくれていた。夜になった公園はさっきよりもずっと寂しくて怖い。暗闇の奥にお化けがいて、今すぐに私を連れて行ってしまうのではないか、そんな想像が浮かんでは消える。
こんなに辛いことはもう放り出して、さっさとあの温かな家に帰ってしまっても許されるのではないだろうか。
……だって私はこんなにも頑張って探した。それで見つからなかったんだ。仕方ないよ。
それでも、たぶん私は怒られる。
大切にしなさいと言われて渡された誕生日の思い出、夜になる前には家に帰って来るという約束。私は二つも破ってしまったんだ。……しょうがないと思う。
そんなことを、ずっと頭の中で考えていたけど、どうしても足は公園の出口に向かうことが出来ない。
それは何だかとても卑怯なことに思えたから。……まだ頑張っている人を見捨てて、私だけ諦めるなんて、そんなことをしたら本当に私は悪い子になってしまうのだ。
……みんな居なくなってしまった寂しい公園には、まだ一人だけ居た。あの後、男の子は帰ったりしていなかったのだ。
別に話をすることもしなかったし、私はその様子を時々遠くから見ているだけ。そんな私のことを気にすることもなく男の子は、私の目からみても熱心に辺りを探しまわっていた。
何をしていのか?……そんなこと言うまでも無かった。
たったあれだけの会話で、男の子は見知らぬ私の為に頑張ってくれている。私は後ろめたい気持ちと、少しだけ温かい気持ちになった。
私一人であったら、きっと見つからないと諦めて、家に帰ってしまっていただろう。でも、一緒に探している人が居るだけで、何故か探し続けることが出来た。それは、一人じゃないという安心があったからもしれない。
……けど、もういい。こんなに探したのに見つからないんだ。もしかしたら、誰かが持って行ってしまったのかもしれない。
そうだったら、いくら探しても絶対に見つかるわけがない。私はもう帰りたい。きっと男の子だって家に帰りたいはず。
うん、決めた。諦めよう。そして、怒られよう。男の子を巻き込んでしまったことを謝って、もう探さなくていいって言おう。
そう思って顔を上げ、街灯に照らされながら、植木の中を探っている影を背負った体に
向かって、私はその気持ちを伝えようと足を向けようとした。

「あった!」

突然、今までの静かな空気を破る嬉しそうな大声を上げ、男の子は夜空に向かって腕を突き上げた。
私は何があったのかが分からなくて、歩き出そうとした体勢のまま固まってしまった。腕を突き上げたまま男の子はこっちに駆けて来る。
そして、傍まで来るとその泥が付いて黒くなった手を私に向けて突き出して、開いた。その手の平には街灯を反射する赤い輝き。

「……あっ!私のブレスレット!」

男の子の手の中にあったのは、何時まで経っても見つからなかった私の宝物。そして、男の子はきらきらと輝く眼で此方を見ている。
……大切な宝物が見つかって私はとても嬉しかった。でも、それ以上に嬉しそうに喜んでいる目の前の男の子が何だか可笑しくて私はくすくすと笑ってしまう。
きょとんとした顔で大きな瞳をくりくりさせた後、男の子は私につられるように声を出して笑い始めた。
重なり合う笑い声。その時私は初めて彼の顔をちゃんと見た。からからと笑う彼は純粋な心を見せ、私にそれはとても眩しく思えた。

夜が深くなり私達をさらっていこうとするけれど、二人笑いあった街灯下のベンチはその時、色鮮やかに、鮮明に私の記憶に根付いた。
これは私達の出会いの記録。きっと彼は忘れている大切な大切な始まりの日。







「あは!何それ、おもしろい!ねぇ、それってどうやってるの?キミってなに、人間じゃないの?
 うーん、化け物にしては……残念だけど弱過ぎる。人間にしては……しぶと過ぎるし。ねぇ、こういうのって何て呼べばいいのかな?教えてよ」

少女の腕が霞むたびに鮮血が宙を飛び、空を彩り、瞬きの間に消えていく。人口の灯りに照らされて、態とらしく輝く液体は如何にも現実味が欠ける。
安っぽい例えで、そう、テレビ画面の向こう側。フィルターを一枚挟んで世界を脳に取り込む様な違和感だらけの現実感。

「あらら?目がいっちゃてるよ。もしもーし。生きてる?死んでない?……頭だけ普通なんて冗談やめてよね、あほらしい。
 化け物が化け物やんなくてどうすんの。特異なのは体だけ、性能は屑以下。うーん、くだらない。
 超人は超人らしくしないと、面目立たないよ。はったりでもいいから、根性見せなさい。それじゃ、ガキも夢見れないよ」

夢見心地な気分なのに感覚は中途半端だ。熱い。体が燃えるように熱い。血流はまるで灼熱のマグマのように滾っている。
今年の冬の空気って、こんなにも凍える寒さだっただろうか。外皮が凍りついて感覚は彼方にいってしまおうとするが、内と外との境界線で激しく鬩ぎ合う温度差が、そんなことを許してはくれない。
けれども、俺が感じられるのはそんな身体の温度だけで、俺という個人は酷く曖昧でどんな形であったのかさえも不鮮明になってしまっていた。
視線の先には煌びやかな無数の星。手を伸ばして掴もうとして腕を上げたが、どうしてだろうか。この腕はちっとも俺の視界には映らない。
あれ、俺の腕がおかしいのか?感覚が鈍いけど確かに命令を伝えた筈なんだけどな。ぎちぎちと悲鳴ばかりを上げる首を無理矢理傾けて、視線を右側に向ける。
明滅を繰り返す視界の中映り込んだ光景を見て、やっと壊れた頭で理解した。動かない理由、それはとても簡単なことであった。こんなことは子供だって分かる。
……はは、そりゃ無理だったな、どうりで動かないわけだ。これじゃあ、仕方ないよな。
それはとても深い色をしていた。どうせなら全部真っ赤に染め上げたらいいのに。中途半端は気に入らない。
傍らにできた赤い水溜りの中にはちょっと変わった物体が横たわっていて、俺にとってそれがひどく見慣れた物で安心してしまう。……いつもと違いちょっとだけ中身も見えてしまっているが。
まったく……無いものをどうやって動かせばいいのだろうか。中心の白円を包み込んでいる毒々しい赤色。絡み合う様に出鱈目に捏ね繰りあわされた、常人には理解し難い前衛芸術。
もう一回横に切ったら、きっと同じような模様が見えるんだろうな。それを想像すると、吐き気がするほど楽しくて、きっと口は曲がっているのだろう。
あれを創った者は、世界で一番の気狂いだ。救いを求めるように五つの指先は手の平を空に向け開かれていた。

「これ、開発局にまわしたらお金くれないか……。絶対珍しい生き物だと思うんだけど。でも、あそこはケチだからくれるかどうかも分かんないし。
 お金欲しいのよね私。如何にかふんだくってやりたいんだけど。ねえ、そこんとこ如何思う?……ってかさ、さっきから何も喋んないよねキミ。
 私だけ口動かしてたらさ、馬鹿みたいじゃん。他人から見たら、何独りごと言ってるのこいつって感じじゃん。
 痛い!とかさ。うわあああ!とかさ。俺は不死身だ死なん!とかさ。何でもいいから言ってよ、つまんない。……寂しくて死んじゃうぞ?」

これから帰って見たいテレビがあったんだけど、間に合うだろうか。体の中身は全部鉛で出来ていて、立ち上がる事さえ億劫だ。
でも……そうだな、別にいいか。そこまでして見たいものでもなかったし。それよりも今は此処でこうやって空を見上げている方が、とっても大切なことに思える。
昔は夜空の月を父親と共に見上げて眺めたはずなんだけど、その光景が思い出せない。とても綺麗だった印象だけは残っているんだ。でも、そこまでしか出てこない。
その先の美麗であろう映像は、霞みかかって不鮮明。そのことが悔しくて、躍起になって思いだそうとするが何時まで経っても霧は晴れない。
原因はきっと……今宵の空に月が無いからだろう。空には無限の星が浮かんでいるのに、それだけでは物足りなく感じてしまう。
やはり、この夜空の支配者はあの静謐な天体こそが相応しい。

「ってうわ!?本当に凄いなキミ。腕が生えたよ、生えた。……違うな、転移?逆行?蘇生?再構築?
 っあれ?……私がうわっ、とか言っちゃったじゃん。駄目だなー。調子狂うね、まったく。
 こんなに驚かせてくれたのは、あの糞化物が人間三人丸呑みしたとき以来かな?あれは驚いたねー。雑魚だったけど」
 
だから、俺がその輝きを捕まえてやろう。持ち主が恋しくなって戻って来た片腕を、今度こそちゃんと空へと突き上げてみせる。
手の平と一番大きな輝きが重なった瞬間、俺はその手を握り潰した。そして、流星が煌めく。
次の瞬間、再び別れを告げ鮮赤の雨を俺に振らせた裏切り者は、元の赤い地に還ってしまった。
ああ、どうやら俺にはあの光輝とは無縁のようだ。視界を遮るように赤が瞳を濡らす。

「さて、そろそろ終わりにしようか。一人芝居も飽きちゃった。いつまでも無為なことに付き合ってるほどこっちも暇じゃないんだよね、実は。
 さすがに、不滅の不死身って訳でもないでしょうに。心臓、でも潰せばさすがに塵になってくれるよね。取り敢えず銀の杭でも喰らってみようか?定番でしょ?」

俺にはあの光輝は決して掴めないと気付いたとき、俺の胸を嵐のような寂寥が襲ってきた。その事実が脳裏を覆ったとき、俺は堪え切れなくなった。零れてしまう心。

「……い」

「……うん?……なに?何を言ったの?ふふっ、教えなさい」

「い……た……い」

「あはははははははははははは。痛い!痛いんだ!そりゃ痛いよね!?うんうん、大切だよね痛覚は。あんなに壊そうとしたのに、シカトするんだもん。
でも、良かった。キミにも痛みはあったんだ!?そうだね、それはとても大切なものだよ。とても幸運なことだ、痛みを思い出したことは。
痛みの無い生なんてないでしょ?生きているから苦痛を浴びられるんだ。それを失くしてしまったら、もう終わってるよそんな存在」

笑い声が聴こえる。とても楽しそうな愉悦に浸っている、……嫌な笑い声。耳障りだ、気持ちが悪い、死んでしまえ。

「でもねー。今更そんなこと言われても止められないんだよね。言ったでしょ?私も暇じゃないの。不確定要素は排除しないと」

消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ……。

この世界にお前は要らない。

「――――何?……ええ。それは絶対なの?……別に構わないわ。あなたがそう命令するなら、私はそれに従うだけ。……それだけ?りょーかい」

無意味の思念と、倒錯する現実が途方もなく僕を惑わせる。夢と現の境界はつまりそこに痛みがあるかないかだろ。ならばこれは夢に違いない。
かつんと澄んだ虚無の空へと響き渡る金属と金属とが打ちつけ合う音。それは存命の祝福の鐘音か、それとも剥奪の始まりの詩なのか。

「おめでとう。キミは救われました。でも、これは幸運なんかじゃないの。……救われたと思っていても、実は救われていませんでした、なんて話よくあるでしょ?
 ―――――キミ、死んだ方が良かったかもね」

長い長い終焉の転機はそして、幕はあっさりと降りた。
紡ぎ手を見失った宵の舞台には、襤褸屑の残骸が一つの孤独に浸って悲哀に沈むのみ。

寒い。手足の末端まで凍りついてしまったかの様に動かない。壊れてしまったようだ。けれどもこの胸の中心。心臓は一層に鼓動を挙げる。
穴が開いたような温かさが只管胸を暖める。……理解した。この亀裂こそが身体を異常へと導いているのかもしれない。だから思う。
独りぼっちの夜は怖い。よくある独白じゃないが、まるで世界に自分一人みたいな感覚に陥ってしまうから……寂しいのだ。
自分が世界に取り残されたんじゃない、自分が違う世界を創ってしまった気持ちになるのだ。
俺はそんなことを望んじゃいない。だから……はやく帰ろう。母さんが家で待っている。今日は遅くなった。きっと、夕飯も食べずに待っているのだろう。
そんな拗ねた顔しないでくれ、すぐに帰るから……さ。父さんだってもう帰って来ているのだろう。二人で俺を待つ姿が浮かぶ。
だから急いで、帰ろう。

……明滅する過去と現在。遥か遥か昔の何処かの家の誰かの悲劇。

仄暗い部屋の片隅。膝を抱えた迷妄な糞餓鬼。泣き喚いて自傷して、一人の朝を繰り返す。誰かの声を遮って、殻の中に閉じ籠って悲哀の波に溺れてばかりだ。
哀哭に疲れ果てて、涙は枯れ果てて、喉を潰し、故人の悲劇に押し潰されて見上げた空にふと気付く。
“泣く必要なんてない”
至極単純で、理由にすらなっていないただの妄想。けれどもその迷夢に救われた。それはただ同類を蔑視した限りない自己防備でしかない。
だって、この世界には誰よりも孤独が其処にあったのだ。空を押し潰すように輝く月は何よりも高貴で、他者を何も寄せ付けない。
最初から頂点に漂う覇者に競うものは何もなく、故に他は同類ではない。だからこそ唯一であるが為に孤独だった。―――その孤独に勘違いの共属意識を抱いた愚か者一人。

……そんなのものは妄想。だって、あの人達はもう居ないのだから。……なんだ、結局、俺は……一人じゃないか。


「やれやれ、やるだけやって後は放置。優秀なのは歓迎すべきことですが、それが一辺倒なのでは此方の業務が増えてしまいますね。
 取り敢えず、彼をこの様な道端に就寝させたままでは些かばつが悪い。特殊存在だが、今回の件には恐らく無関係でしょう。けれど、無縁と決めつけるは些か早計か。
……しかし、まるで餓鬼だ。あれでは説教なんて……聞いてくれないでしょうね。……はぁ。
まあ、彼女の暴走でこんなにも面白いモノと出会えたのですから、結果だけは受け入れましょう」










「どうして、一緒に探してくれたの?」

その時の彼の顔は今でも覚えている。

「だって、家に帰りたくなかったんだもん。……母さんと喧嘩した」

酷く寂しそうで、そのことをとても恐がっていたその顔を。

でも、私はそんな二人の親子喧嘩に助けられた。

宝物をまた失くさないように大事に抱えて、家に帰った私は母親に抱き締められて叱られた。

きっと、彼もあの後母親に抱き締められたのだろう。ほら、母親って温かいもんだもの。


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