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[25475] 【ネタ】恋姫 一刀放浪
Name: スポンジぃー◆97802a7e ID:3784297f
Date: 2011/01/17 15:35



※何となく思いつきで書いて見たものです
















トボトボとみすぼらしい格好で歩いてる青年が一人



まるでホームレスかと言わんばかりの汚い格好…ヨレヨレでボロボロの着物を纏って、トボトボと



ヨレヨレのボロボロでトボトボと…。



(…腹ァ、減ったなぁ)


杖をつきながら、黙々と進んでいく青年



(あー…歩けど歩けど人には会わず、進めど進めど場所も分からず…)


腹の虫がきゅ~っと鳴るが、今空腹を満たす物は何も無く、何だが少し泣けてくる。泣かないけども


トボトボとフラフラと危なげに一歩一歩歩いていく

(しっかし、日の本の何処にこんなだだっ広いとこあんだかねぇ)

目を瞑りながら荒野を歩く青年

(こんな事なら握り飯くらい作ってもらやぁ~よかったかねぇ)

そんな事を考えて歩いていると杖にコツンと、石の様な手応えが返ってくる

杖が当たった場所に手で触れてみると、椅子代わりになりそうな大きさの岩があった

よっこらせっと、と岩に腰をかけて休憩を取ることにした

大きなため息を付くと、今までの疲れだろうか、身体に鉛が乗っかった様に重く感じる

誰か通らんかねぇ…と呟とボケーっとして見る




実は彼、迷子である





迷子というのは可笑しいだろうか?



6歳頃に家族と旅行を楽しんでいた時、目の前が眩しい光に覆われたと思ったら



時代を逆行したのだろうか江戸時代に流れ、戦国時代に流れ、遠くは鎌倉、近くは明治時代



時代を転々と渡り歩いていく人を何と言えばいいのだろうか?目的地に付かない事だけを指すならばやはり迷子なのか?


今回は明から密輸商が持ってきた銅鏡なるものを見た瞬間に飛ばされ、旅支度も出来ないまま(いつもの事だが)飛ばされること

になった


ようするに時代を遡り、色々あってボロ屑のような格好になりながらも懸命に生きてたら迷子に…という訳だ


あ~…お米が恋しいな





目を瞑ったまま空を見上げる


こういう時は大概お天道様は晴れてんだろうな

そんな事を考えながら休憩を続ける彼

背負った荷物から三味線を取り出し撥で弦を弾きながら、観客など一人もいない荒野で今の自分の気持ちを歌で表現する。聞く

者が聞けばそれはそれは同情し憐みを呼ぶほど悲しい旋律で、心で泣いている言葉が正に歌に現れたのかもしれない







何故にこの世はこんなに無情…というか何でこうなった…と








実は激動と戦乱の時代の真っ只中に居るとは露とも知らず、演奏を終えのんびりと休憩をする青年であった










休憩もそこそこに再び当てもなくトボトボと歩いていく,歩けど歩けど、人っ子一人おらず…。オレハドコ?ココハダレ?


ふと左目の瞼を開けてみると、目の前には荒野が広がっていた。判ってたけどね…。

再度両目を瞑り風の向くまま気の向くままに歩いていると…



足音が聞こえてきた、距離からして2町程度だろうか?


聞こえてくる音は多数…5人くらいかだろう、足音に…これは剣だろうか?


関わりあいにならない方がいいなと、大きく迂回して避けようと歩みを進めるが


(やれやれ…)


足音はこちらへと近寄って来ていることから、明らかに此方を狙っているんだろう


面倒事は御免なんだが、厄が集まりやすいとでもいうのだろうか?


のんびりしてる時や疲れている時、または困っている時程面倒事がやってくる




足音が慌ただしくなり、此方を囲むように回り込む。進行方向に止まった人物は道を退ける気は無いのだろう

鞘から剣を引き抜く音がする。




何だ?天は俺に七難八苦を与えるつもりか?特に何か乗り越えたい等と考えた事などないぞ

「おい」と声を掛けられるが返事をするにしてもなんて答えればいいのだろうか?

大体昔からこういう事が起こり過ぎなんだよ。疲れて眠りたい時に限って伊賀と甲賀の争いに巻き込まれる事になった時は絶望

感に襲われて腹を切りたくなるし…切らないけれども!?

再度「おい!」と語気を荒くして呼びかけるが此方の心境も読んで欲しい。ある程度人が考えている事を読めないとやっていけれ

んですよ。世の中って奴はね?


「この『女(アマ)』ッ!!」と剣を振り上げ


同時に右手で掴んでいた杖の柄を引き抜く

一瞬何かが擦ったと思えるような鞘走りの音と共に横薙ぎに走る閃光

空中に描かれた一文字の線、振り上げた手を下ろす事無いまま首と腕の切断部から血がヌルリと流れ落ち、何が起きたか首を傾

げ様とした折に転がる頭と腕を見る事ができただろうか。

横薙ぎの斬撃をそのままに半歩、身体が旋回させ二人目の腹に刃を添え、右手から左手に瞬時に持ち替え、引き抜くかの様に線

を走らせる。

勢いを殺さずくるりと回るように右へ一歩、二歩、そして半歩目で大地を踏み込み、三人目を逆袈裟に切り裂く

振り抜きつつ、後ろに飛び退り、逆手に持つは、杖から引き抜かれた刀、長年愛用して来た刃毀れも知らない鋭さに定評のある

相棒である、折れるたびに買いなおしているが仕込んでいる杖はずっと同じ物だ

というか仕込杖舐めんな、反りが無くて切り難いわ!

と思いつつも背中から4人目にぶつかる、逆手に持った獲物をついでに腹部に地面と水平に突き刺し、前進と同時に真横に引き裂

きながら獲物を右手に持ち替え、二人目の時点で地面に垂直に立っていた鞘の部分、杖が傾き始めたか否や、左手で掴み、瞬時

に刀を収めて最後の五人目に向き直る


目の前で何が起きたか理解できていないのか呆然と立っている男に

「この近くに村か街ってある?」

と尋ねると


「え・・・ああ・・・あちらに」


片目を開き、男が指を差した方向を確認する。あっさりと返事が返ってきたのは少し予想外だったが…。


一瞬腕がぶれると同時に5人目の男が骨が砕ける鈍い音と共に空へと舞う


一生物を噛めなくなるように男の顎を砕いた杖を持ち、男が差した方向へと足を運ぶ


襲いかかってきた男達の頭に巻いてある黄色い布が宙を舞いヒラヒラと天へ上がっていき、暫くすると地に落ちた


この迷子の少年


名は『北郷一刀』という



[25475] 【ネタ】恋姫 一刀放浪
Name: スポンジぃー◆97802a7e ID:3784297f
Date: 2011/01/20 02:35



右手で刀を逆手に持ち相手の脇を潜り抜けながら腹を裂く

相手の背後に抜けるや否や背中から腹部中央に刃を突き刺す、背後から近づく気配に身体を旋回、刀を引き抜きながら向き直る貫かれた腹部を抑え、呻くように膝を折り、倒れ込む前に刀を横薙ぎに一閃 背後から近寄っていた相手が足を止め、武器を放り出し首を抑えるが、抑えた手の指の合間を血がとめどなく溢れていく。刀を振り切り、手の中で刀をクルリと回し、横合いから突進の勢いを乗せた槍が此方の顔面へと突き出される。

首を傾げるようにして槍の穂先が顔のすぐ横を通り過ぎる音を聞きながら、そのまま膝を追ってしゃがみ込む、その半瞬遅れて首があった場所に風を切る音と共に刃が走る。立つと同時に槍を突き出してきた者の下顎から刃を差しこみ、後頭部へと抜けた際に血飛沫が舞い、地面に赤い華を咲かせる前に膝裏を蹴り飛ばし、倒れていく身体、その顔に差し込まれた刀の柄を握り、身体を横へと回す。地面を踏み、鋭い呼気と共に刀を引き抜き、その勢いのまま、反対側。剣を振るってきた者、その首を狙って一条の閃光が走る。危険を察知したか、敵も線が走ってくる方向に剣を構えて防御する。


















甲高い金属音が空に鳴り響く





















急に視界がくるくると変わりだす


「ぁぇ…?」


空気が抜ける様な声を出した『モノ』は空へと昇り、放物線を描いて墜ちていった

音は鳴り響く事無く、『剣ごと』相手の首を跳ね飛ばし、切断面から血を噴き出し倒れ伏す


刀と逆の手に握っていた傘をさし、降りかかってくる赤い雨を受けつつ、ヒュンと刀を振り、血糊を飛び散らし、傘の『取っ手』へと刀を仕舞い、歩きだす。道端に置いてある杖を拾い、うんざりと深い溜息を付く




(後で水で流さないとな)と傘を畳みつつ地面と垂直に立て、柄に左の掌を乗せて口を開く



「―――まだやんのかい?」




言葉と同時に周囲を囲っている男たちが一斉に襲い掛かってくる


再び溜息を付き、傘から刀を引き出し、正面から向かってくる敵に向かって投げつける


投げた、と言っても敵から見れば左手がぶれた様にしか見えなかっただろう。胸に突き立った刃を見て呆然とし、向かって来ていた何人かは、その歩みを止めていた

(反りがねぇし、かなり短いから、真っ直ぐには抜き易いが、居合にゃむかないな~。傘だしよ。)

と、柄が抜けた傘を見ながら右手に持った杖を握り締める

胸に刀を生やした男は思い出したかのように口元から一筋血を流し、倒れ伏す

その間に迫りくる敵はそれぞれの獲物を振り上げ、突き出し、背後より此方を仕留めようと向かってくる。

背面より振り下ろされるのは4つの剣に左右から突き出される槍


槍を突き出した者達の視界から急に目標が消え、代わりに移ったのはそれぞれ渾身の力で突き出した槍の先端が迫ってくる映像


その一瞬前に、背後から襲ってきた相手から見れば瞬きにも似た瞬間だろう、何時の間にか相手が此方へと向いていたのは。

姿勢は低く、片足を此方へと前に出すように足を開き、腰の辺りで杖を握り締めている見たこともない構え、何時の間に剣を抜いたかは知らないが、間に合う事は無いと、剣を振り下ろす。




殺った




無我夢中で振り下ろした四つの斬撃は目の前のボロを纏った相手を切り伏せているだろうと4人が相手を見る


顔を上げたと時同じくして槍を持った男が倒れ伏す









目の前には








傷一つ負っていない相手の姿があった


相手がボソリと、しかし、確実に男達の耳に入る声で口を開く











「――――命乞い何ざ、すんじゃねぇぞ」













聞いた者は身震いするか萎縮するかのようなドスの利いた声で呟く

相手を貫く様な鋭い視線を向け











先に得物抜いて切りかかったなぁ―――。














くるくると空に舞っていた刃が地に突き立つ







その数は4つ。男達の得物は根元から『切断』されていた














―――――――そっちだかんな。















閃光と共に描かれた一文字






一太刀で4つの首を跳ね飛ばし、杖へと刀を戻す。その一連の動作は不思議と美しさを醸し出していた





背後へと向き直り傘を持ち直す






再び降り注いでくる真っ赤な雨に、濡れるのを厭うかのように傘をさす







背は高く、身体は細く、肌は色素が足りないかのような薄い肌色、そして髪は―――――真っ白な長い髪を後ろに紐で括り束ね

ている。見る者が見れば女子かどうかと戸惑う程


それに不釣り合いなほどボロボロな衣服を身に纏って、血の雨を傘をさしながら歩く姿は、何処か扇情的で艶っぽく見せる


この場に居た者にとっては『おぞましい』程に


恐怖に耐え切れず我先にと走って逃げていく男達、その足音を聞きながら、もう危険は無いかと、投げた刀を回収しに行く


瞑りっぱなしだった目を片方だけ開き、空を仰ぎ見る








まさしく蒼天 今日も地上を照り続けるお天道様に澄み渡る様な蒼い空


その下におびただしい程の死体の山を作り、死体は揃いも揃って黄色い布を頭に巻いている


ふと何人いるのか気になったが、百ぐらい切ってから数えてないので数えたらそれなりの数だろう



(こんな風に人を『上手く』斬れるのならもっと早く上手くなりたかったけどな)と自嘲する





「―――そんな事口にしたら、怒るよなぁ。」





遠い昔、右も左も判らない童を引き取り、育て上げてくれたもう一人の親であった人







…その最後の句を思い出す






「五月雨は 露か涙か 不如帰 我が名をあげよ 雲の上まで」




脇に差した刀が揺れる



この刀の銘は『長光』。『大般若長光』



形見として授かった、命を懸けるに値する刀である












感慨にふけりながら思い出にでも耽ろうかなと思った矢先にグウ~~~っと腹の虫が鳴く







思い出しかの様にげっそりとした顔になるこの男「北郷一刀」という






























今だ此処が何処かも判らずふらふらと、荒野を歩きつつ村を目指す









この時代に飛ばされて実に、まだ6時間程しか経っていないのである

何をしていたかって?戦ってました。延々と

黄色い布を巻いた男達が次から次から襲いかかって来てようやく一段落ついた所です。



最初の布巻き盗賊団(仮)に襲われた際に入手した情報によれば、この方向に村か何かがあるらしい

大体5里ほど歩いた筈だがまともな人間を見た事が無い


(まさか、さっきからぶった切ってんのがこの時代の村人で、余所者に対して襲い掛かって生活してる…なんて事は無いよな)

自分の考えにゲンナリしながら荷物を背負って歩き始める



腹の虫を宥めながら歩いていると、足音とは違うが、それでも聞きなれた音が響いてくる



(…馬か)


嫌な予感がヒシヒシと伝わってくるが、気にしない事にする


関わり合いになるから面倒事になるのだ。つまり無視を決め込めば、相手は諦めて退散していくに違いない。嫌な時に悪い事が起こりやすいかもしれないが、此処まで頻度が多かった事などそうそうないぞ。そろそろ品切れだろう。そうだろう、そうだと言え、いや、言ってください頼むから!明日から仏様には必ず御祈りしますから!…出会いに関係する仏様ってあったっけ?
いやいや待てよ、一通り書物で読んだし勉強したし…ああ!何か、あの世から嫌な視線を感じる気がする!?



変な理由で冷や汗をかきながら考えが違う方向へ傾いていく一刀


彼の予感はよく当たるのか馬は間違いなく彼の背後から向かって来ていた




いやいやいやいやいやいやいや…気のせい気のせい、もしくは気が触れた所為…お?何か面白く使えそうだな、この切り返し




そんな事を考えていると背後から何処か高圧的な声で


「そこのお前」


と、背後から声が掛ってくる


声色は女だろう、三頭の馬に、馬鹿でかい得物の音、もう一つのガサガサとする音から察するに弓か


(はぁん…女が馬鹿でかい得物を持ってるなんてな…。いや、珍しくもないか)


そんな事を思いながらも歩みを止めて声がした方向に向く














―――――事もなく、幾分か速度を上げて逃g…進んでいく一刀。







「なっ、おい貴様!!」


後ろから此方を追いかけてくる


(無視無視無視無視無視無視無視)


面倒事が起こりそうな気配が最高潮に達している気がする


ちなみに、他人がいたらその気配は間違いではないが、逃げる事で上昇している事に気づいた方がいいと注意しそうだが、そんな奴は居らん。


「こら、無視をするな!!」


馬を此方の真横に付けて呼びかけて来る女性


他の二人も後ろから此方に付いてきているようだ


そもそも相手が馬に乗ってる時点で走って逃げる事など不可能だが…。


声を無視してさらに歩もうとする


「こいつ…!!」


馬から降りて此方の前へと回り込み道を塞ぐ女性


仕方なく歩くのをやめて顔だけ向ける


「散々無視しおって…!!覚悟は出来ているんだろうな…?」


妙に殺気立った女性に本日何回目かの溜息をこっそり付くと背後から声が飛んでくる


「姉者、話を聞きたいのであって、相手を斬る為に声を掛けたのではないぞ?そこの方も、無視を決め込まなくても取って食ったりはせぬよ。少々尋ねたいことがあるだけだ。」

多少憮然としながら後ろへと向き直り、声がした方に顔を向ける

目の前で仁王立ちしている女性よりかは、後ろの方が面倒が無さそうだと思いながら聞き返す


「…何か…用でしょうか?」


「うむ、ここより少し離れた場所で黄巾党の賊の骸が転々としてあってな。その骸の先に貴殿が歩いていたので、何か知ら「存じません」…っと」


語句を強くして言葉を重ねるように封じて


「ご用件が其れだけならば私はこれで失礼をし「待ちなさい」…何でしょうか」


身を翻して去ろうとするが

もう一人の女性がこちらへと声を掛ける


「少し気になったのだけれど、貴方、目が見えていないのかしら?」

「…その質問に何か意味でも?」


「貴様、無礼で「よい」…!!」

歯軋りが聞こえ、視線で人を撃ち殺すのかと言うぐらい睨みが強くなるのを背後で感じる

「少し気になっただけよ。目を瞑りながらあれだけ真っ直ぐ歩ける人も珍しいと思って」

「…見えない訳じゃありませんが、必要な時以外目を開けないもんで」

「へぇ、必要な時ね。どんな時かしら」

「その質問に何か意味「興味本位よ」…ぐっ」


苦手だ…何か知らんが、答えなくてもいい事をペラペラ喋ってしまう…いや、喋らされてるんだな

(どこぞの将軍様みたいな…威圧感なのかね?)

「危険な目に逢えば開くのかしらね?」

少しだけ空気がピリッと張り詰める

(ああ、この女)

「春蘭」

「はっ!!」

(性格が悪い…)












「斬りなさい」













声が終わるか否か











北郷一刀




蒼天広がるこの荒野にて




後の三国の舞台、その英傑の一人との接触を果たす







[25475] 【ネタ】恋姫 一刀放浪
Name: スポンジぃー◆97802a7e ID:3784297f
Date: 2011/02/05 00:15





「斬りなさい」






その一言が発せられた瞬間、身体が動いた

いや、動かされたのだろう

今迄の比ではない程の剥き出しの敵意、此方の事を殺したいと強烈な殺気を叩きつけられる

重荷を背負わされたかの様に、身体に重圧が圧し掛かり、冷や汗がぶわりと出て来る

歯を食いしばり、圧力に負けぬと柄を握り、退かぬと足は大地を踏みしめる

微かに震える身体は、自らの意志によって抑え込む

これ程強烈な殺気は、如何程ぶりか?少なくとも数年は味わった事が無い

だが、自らの死を連想させる程ではない

思い出すのは浅葱色の羽織りにダンダラ模様…そして『誠』の一文字

四方を狼に囲まれ、退路は無く 手には刀一振り

じわりじわりと殺気と共に近づいてくるのは、確かな死だった

あの絶望感に比べれば、どうという事もないだろう

(壬生の狼に比べりゃあ…)

腕では助からない状況を幾度も経験して来た。其の度に何とか生き残ってきた

幾度も死を覚悟し、其れを乗り越えてきた










一つの目的がある









その為に生きている











その為に歩んでいる

















数十年、字にすればほとほと短い年数だ。だが、その年数を掛けて振り続けた刃、その程度の殺気で





(この、『一』振りの『刀』――――――)





ぶつけられた殺意を流し、全感覚を持って相手を捉える








(―――――簡単には折れんぜ?)




ほぼ同時に響く轟音に似た踏み込みが、砂塵を巻き上げ宙を舞う


「ううぅぅっらあぁッ!!!!!!」


裂帛の気合と共に上段から振り下ろされる剣

霞む程の速度で繰り出される一撃は此方を真っ二つに裂き、荒野に骸を作るのには十分な威力があり

生半可な防御など意味を成さないだろう

刀で防いだとしても、上段の一撃、抑え込まれ絶命するまでの時間稼ぎにしかならない

防御等意味が無いだろう

ましてや、握力や腕力に自信がある訳でもない 潰されるのが落ちだろう

避けるにしても、踏みこんでしまった今、半身を捻ったとしても致命傷は免れないだろう

身のこなしには自信はあるが、其れがこの場で発揮できるとは考えにくい

ならば、斬るか?

相討つ覚悟で行けば、斬れはするだろう…此方が無事で済むとは思えないが

そんな傷を負った状態で生き残れるような場ではないだろう




詰みか?




聞かれればそうでもないと答えれる


「―――――ッ!!!」


鋭い呼気と共に握った拳を振り抜く




















狙いは、正面

























では無く脳天へと迫りくる剣












甲高い金属音と飛び散る火花

半瞬遅れて地面へと叩きつけられる剣

金属製の小手で剣の腹を殴ると同時に捻った身体の数mm先を通り過ぎ、剣速により巻き起こった風が、衝撃の様に身体を叩く

拳に伝わる衝撃が痛みを訴えて来るが、其れを無視し、振るった拳と逆の手で杖を握り締め、刃を抜き放ちつつ相手の首筋を狙う





ぞわりと背筋を過ぎる悪寒に斬撃を中断し、飛び退く様に横転






寸前までいた場所に何かが突き立つ音がする




乾いた大地に突き刺さったのは矢か?

斬りなさいという言葉で、前衛との一騎討ちと思ったのだが、どうやら違うようだ

『斬りなさい』は『始末しなさい』という意味だったかと、どうでもいい考えが浮かび、瞬時に消え失せる



踏み込みの音と共に風を裂きながら突き進む異物は、此方へと直進してくる

十二分に速度を帯びた一撃だ

相当な重量武器であるだろう、大剣を此処までの速度で操る腕は相当なモノだろう




此方も直進する相手に向かい一歩踏み込み























―――――踏み込む足が霞む
















打撃音が響くと同時に相手の掌から真横に弾き飛ばされる得物

驚愕に身を固くするのを気配で感じながら、両の手で杖の両端を持ち、相手へと腕を伸ばす

杖から抜け掛けた刃を、相手の首筋へと突き出しながら







相手の視点では、己に向かい一歩踏み込む此方の姿を確認した後、突如姿がブレた様に見えた後、接近されたと同時に剣を打ち払われた事しか認識できなかったであろう

行った事は、踏み込む速度を上げ、剣の柄を狙って杖を打ちつけ更に踏み込むと同時に、仕込み杖から刃を少しばかり抜きつつ突き出しただけである





只、その速度は段違いに速い








これは術でも何でもない、奇襲の為だけに編み出したモノ



多人数を相手にするならば、最初の一撃しか有効ではなく、二度、三度と使う度に警戒されて、最終的には見切られるだろう。

脚力と体捌きのみで編み出した単なる小手先の技

だが、小手先と言えど、初見の者に対しては脅威だろう

地が縮んだ様だ。と言うのは大袈裟ではあるが、それでもその速度には眼を疑うだろう






ただ――――、















ギチッと歯が軋む程噛締めながら、脚から這い上がってくる激痛に耐えて身体を支える


踏み込んだ際の衝撃からか、足首が悲鳴をあげるかのように、痛みを危険信号として頭へと送り続ける


足を限界以上まで使用した際に掛る負担を考えれば無理もないが…

こんな芸当を平然とやってのけれる者がいたらご教授願いたいものだ。


















痛みを無視しながら1秒にも満たない時間、静止したが、手には未だに肉が食い込む感触が来ない






相手の踏み込んだ速度から言えば、既に首を両断している筈だ

踏み込みが足らなかったか?

即座に判断し、刃を完全に抜き放ち、今の状態から出せる最高の速度で前方を袈裟切り

銀色の閃光が走った様にしか見えない一撃を繰り出す











(……)












宙を斬る感触しか無く、今迄あった気配が完全に消え失せていた











(……?)









訝しげに渋々片目を開き、周囲を見回すも、人等何処にも見当たらず、ましてや馬もいない





「……狐にでも化かされたか?」






こんな荒野に狐もいないかと溜息を付く

今迄争っていた連中が突如として失せる事なんて、体験した事は無かったが…

大きな溜息をつき、一歩踏み出す

ズキリとする足の痛みに歯噛みしながら、ある程度回復しないと歩くのはキツイと判断し、傘をさして、先程見つけた丁度よく座れそうな岩に腰を下ろす









厄介事が続く予感がひしひしと伝わってくる。日が傾く前に村へ寄りたかったのだが、其処で重要な問題に気付く
















「…金が無くても止まれるのかな?」











先程までの異常事態よりも真剣に悩む一刀であった










ふと、嫌な視線を感じて宙を見上げるように顔を上げ、片目を開ける








そこにはうんざりする位に蒼天が広がっていた…。



過敏になってるのかなと首を傾げながらも、荷物を確認しながら痛み止めがあった筈だとガサゴソと荷を探る

そろそろ我慢できなくなる程脚が痛む筈である、その前に何とか探しておかなければと荷物を漁り、じわじわとくる痛みに耐えながら早く早くと焦りからくる冷や汗
を流しながら、探し続ける





結局見つからなかった







「ちっくしょ…あだっ、いだだだだだだだだあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」










































その彼を見下ろす白い衣を身に纏った青年、此方へと視線を向けた時は、少々驚いたがどうやら気付かれてはいないようだ。
掌…その指の間に挟んだ札…火が灯り、灰へと散っていく札を見詰めながら呟く

「彼から聞いた情報とかなり相違がありますね…。」

聞いた話では、この外史へと紛れ込んだ異物は何の武術に秀でている訳でもない只の人間との話だったが…

その時、頭上を過ぎて大地へと星が流れていく。流れていく方向を見詰めながら「あれは…」と呟く

「なる程、あちらが連絡にあった…しかし、妙ですね」

再び地上を見下ろして、岩に座り込んでいる人物を見る

彼はどうやって此処に紛れ込んできたのだろうか?

早急に異物を取り除く為の術を仕込んでいたのだが、彼は其れに打ち勝った。本物と遜色のない実力の傀儡だったのだが。

「まぁ、いいでしょう。まだ時は幾らでもあるのですから」

五指を開き宙へと舞う3枚の札、その燃え尽きようとしている其々の札に僅かに見える書かれた文字












一つは「孟徳」一つは「元譲」一つは「妙才」と書かれていた









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