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天声人語

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2011年2月5日(土)付

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 寒がりが3階建てアパートに入るなら、暖かい2階がお勧めだ。その暖はしかし、上下に人が住む面倒と引き換えになる。天井の物音には、遠慮がちに苦情を言うか、我慢するか。ではこちらもと騒げば、床下から文句が来る▼部課長の心労を引くまでもなく、とかく「真ん中」は難しい。産業界なら、上から仕入れて下に売る、原料と最終製品をつなぐ素材メーカーである。板挟みの悲哀を減じるには、大きくなるのも手だ▼鉄鋼首位の新日本製鉄と3位の住友金属工業が、来年秋に合併したいと発表した。鉄鉱石や石炭を商う川上の企業は巨大化で勢いを増し、川下の客、自動車や家電業界の物言いもきつい。上に暴れられ、下からねじ込まれての「2階」の決断であろう▼新日鉄は車づくりに欠かせぬ特殊鋼板などに強く、住金は油送に使う継ぎ目なし鋼管が得意。板と管の技を持ち寄り、国内の消耗戦を脱して、世界2位クラスの規模で新市場に挑む。いわば「日本代表」の戦略らしい▼関門は、国内市場の寡占に目を光らせる公正取引委員会だ。合併話が持ち上がるたび、公取は厳しくシェアを吟味し、「オールジャパン」を排してきた。今回は国際競争や国益をにらんで、大所高所の計らいが望まれる▼産業のワールドカップを戦える日本企業は、業界ごとに1社か2社。不出場の分野も増えよう。それゆえ世界で勝ち進める「鉄の結束」は大切だが、日本での雇用や納税に資すればこその応援だ。企業に国籍があるなら、どの階の住人だろうが、その限りで意味がある。

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