余録

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余録:ロシアではくるみ割り、フランスでは鍛冶屋…

 ロシアではくるみ割り、フランスでは鍛冶屋、オランダでは掛け金式の虫、中国では頭をたたく虫と呼ばれる。ドイツでは跳ねる甲虫、日本では動作を「米つき」に見立てるといえばお分かりだろう▲山形県鶴岡市の温海小学校4年の加藤厚多くんは、ある日学校の畑で草むしり中に黒い小さな虫を見つけた。捕まえるとパチパチ音がする。地面に置いたら、裏返しになった虫が「パチッ」と大きな音を出して跳ね飛んだ。「これは大発見だ」。厚多くんは興奮した▲「コメツキムシ」--この虫の名を知ったのは、調べた本で見つけたからだった。音を出して跳ねる仕組みも見た通りのことが書いてある。その時、厚多くんの頭でひらめいた。「本って、ぼくみたいに何かを発見した人がみんなに教えたくなって書いているんだ」▲第56回青少年読書感想文全国コンクールで厚多くんは毎日新聞社賞に選ばれた。虫好きな厚多くんに先生が「同じ4年生が書いた本だよ」と貸してくれた「雄太昆虫記 ぼくのアシナガバチ研究所日記」(中川雄太著・くもん出版)が面白く、一気に読み終えたのだ▲本は10年以上も前の観察記録だったが、今までたくさんの虫を飼ってきた厚多くんもびっくりするアシナガバチの生態だった。ハチはしょうゆ味が大好きという発見も教わった。虫好きの男の子から10年後の虫好きの男の子へ--驚きや感動が本を通して手渡された▲「虫には不思議な力があるから好き」という厚多くんだ。いつかみんなに教えたい虫の秘密を発見して本にしたいが、最近はサッカー選手になる夢もふくらんで、ちょっと迷っているところだ。

毎日新聞 2011年2月5日 東京朝刊

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