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社説:ミャンマー新体制 民主化には程遠い

 ミャンマーの大統領にテインセイン首相が選出された。新体制の下、半世紀続いた軍主導の政権から衣替えし、形のうえでは民政へと移行する。だが、軍が政治に強い影響力を持つ構造に変わりはなく、民主化には程遠いと言わざるを得ない。

 テインセイン氏は軍籍を離脱したとはいえ、軍事政権でナンバー4に位置し、トップのタンシュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長の側近として、軍による政治支配を担った人物である。国会議席の8割以上を軍の翼賛勢力が占め、正副大統領と上下両院議長がすべて親軍政党出身という現実とも併せ、ミャンマー政府が言う「民主化」と受け取るのは無理がある。

 軍政下で権力を集中したタンシュエ氏は元首の座には就かないものの軍を掌握しながら事実上の院政を敷くとみられている。国内外に「民政移管」をアピールするのであれば、潔く引退するのが筋だろう。

 軍事政権は「民主化プロセス」と称して、長期間かけて新憲法を制定し、総選挙を実施した。だが内実は国会に軍人枠を確保したり、民主化運動指導者のアウンサンスーチーさんを選挙から排除するなど、親軍派による国会支配を確保するための地ならしだった。その総仕上げが大統領選出と新政権の発足である。

 強引な手法に対し、スーチーさん率いる旧最大野党「国民民主連盟」(NLD)は、民主的ではないとして昨年11月の総選挙には参加せず、軍政主導の新体制づくりを批判してきた。国内では厳しい監視網や検閲体制が敷かれ、国民の政治的自由や言論の自由は封じられたままだ。

 軍事政権は総選挙後、スーチーさんの自宅軟禁を7年半ぶりに解除した。しかし、スーチーさんは政治活動を事実上禁じられ、政権側には対話の姿勢もうかがえない。新政権が民主化勢力や少数民族と対話を開始し、本格的な国民和解の道を探らなければ民主化の道筋はつかない。

 ミャンマーも一員である東南アジア諸国連合(ASEAN)は総選挙実施を一定の前進と評価し、欧米による対ミャンマー経済制裁の解除を求める構えだ。一方、米政府高官が制裁解除は「時期尚早」との見解を示すなど、欧米諸国がミャンマーの現状を見る目は依然厳しい。

 ミャンマーに対しては、軍事政権の後ろ盾となってきた中国が影響力を強める一方、日本の発言力は低下気味だ。しかし、ミャンマーの民主化が進まなければアジア全体の協力や交流も停滞する。欧米と価値観を共有し、ASEANとも太いパイプを持つ日本は、国際世論をまとめ、ミャンマーに民主化を促す役割を積極的に担うべきだ。

毎日新聞 2011年2月5日 2時30分

 

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