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2011年2月5日(土)付

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予算修正―前例にとらわれぬ審議で

衆院予算委員会の序盤の論戦が終わった。税と社会保障の一体改革や、民主党のマニフェスト(政権公約)の見直しが主な論点となったが、新年度予算案そのものをめぐる議論はこれからが本番だ。[記事全文]

大雪―「過疎災害」を絆で防ごう

この冬、日本海側を記録的な大雪が襲っている。1月の積雪は、観測37地点で深さの最大値を更新した。研究者は「雪の降り方が変わってきた」と指摘する。クリスマスの福島・会津、[記事全文]

予算修正―前例にとらわれぬ審議で

 衆院予算委員会の序盤の論戦が終わった。税と社会保障の一体改革や、民主党のマニフェスト(政権公約)の見直しが主な論点となったが、新年度予算案そのものをめぐる議論はこれからが本番だ。

 最大の焦点は、衆院の議決が優先する予算案本体というより、両院の可決が必要な予算関連法案の成否にある。

 民主、国民新の与党は、参院で過半数を持たず、衆院で再可決できる3分の2以上の議席もない。野党の協力が全く得られなければ、予算の執行に欠かせない関連法案は成立せず、経済社会に大きな混乱が起きかねない。

 赤字国債を発行するための特例公債法案が成立しなければ、40兆円の巨額の歳入欠陥が生じる。

 子ども手当法案が成立しなければ、児童手当が復活するが、次回6月の支給には間に合いそうにない。

 税制改正関連法案が成立しなければ、これまで続けてきた減税が失効し牛肉などの輸入関税が高くなったり、中小企業や株式に対する課税が強化されたりする。

 そうした国民生活に対する影響への危機意識が、与野党ともいささか薄いように見えるのはどうしたことか。

 政府・与党は、人々の暮らしへの打撃を考えれば、野党も関連法案の成立阻止を貫き通すことはできまいとみているのかもしれない。自民党は関連法案を「人質」に、解散総選挙を迫る首相への圧力を一層強める気配である。

 しかし、いまそんな政治的な駆け引きに気を取られている場合だろうか。与野党は妥協の道を探る努力をすぐにでも始めるべきである。

 歩み寄りを具体化する方法として、今後の予算案審議の進め方を一から見直してはどうか。

 例えば、各党の代表が順番に立ち、質問を繰り返す今のやり方を改める。子ども手当などの子育て支援、農家への戸別所得補償などの農業政策など、その都度テーマを決め、一問一答形式ではなく政治家同士の討論をする。

 かつて衆院憲法調査会はテーマごとに四つの小委員会を設け、自由討議で議論を深めた。参考にしたい先例だ。

 修正案も小委員会で練り上げればよい。国会の外の幹部協議で妥協点を探るよりは明朗な手続きとなる。

 また予算案と関連法案を別々でなく一体のものとして予算委で議論する。採決の前提として終盤にアリバイ的に開いてきた公聴会を早い段階で設け、民間の多様な意見をその後の審議に反映させる。そんな工夫もあっていい。

 野党が政府提出法案をすべて阻む力を持ち、それゆえ重い責任も「分有」する中で、与野党がどう妥協するか。

 前例のない予算案審議に臨むには、まさに前例のない国会論戦の進め方を編み出さなければならない。

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大雪―「過疎災害」を絆で防ごう

 この冬、日本海側を記録的な大雪が襲っている。1月の積雪は、観測37地点で深さの最大値を更新した。

 研究者は「雪の降り方が変わってきた」と指摘する。クリスマスの福島・会津、暮れの山陰、今週初めの北陸。雪雲が急激に発達し、短時間に大量の雪が降る「集中豪雪」が目立つ。一方で、来る日も来る日も降り続いた新潟や東北では、沈み込むような重たい雪が家々にのしかかっている。

 日本では1980年代末ごろから、暖冬少雪の傾向になったと言われる。ところが近年は、年により変動が大きいのが特徴だ。地球規模の大気や海水の流れの変化も指摘されている。

 雪異変は、そこで暮らす人々に深刻な被害をもたらしている。

 今月3日までの雪による死者は全国で96人。05〜06年の「平成18年豪雪」に次ぐペースだ。3人に2人は65歳以上で、雪下ろしや除雪作業中の事故が大半を占める。ふだんはあまり降らない県での死傷者も目立つ。

 雪国は、過疎・高齢化が進む地域でもある。若者が出てゆく中、体力の衰えたお年寄りが雪と格闘せざるを得ない。少雪続きで、雪下ろし経験の継承もとぎれがちだ。業者を頼もうにも、今季は道路除雪で手が回らない。

 独り住まいも増えている。屋根で発作を起こしたり、雪に落ちたまま発見が遅れたり。誰かと一緒に作業していたら救えたであろう死が少なくない。ここにも孤族の国の悲劇がある。

 過疎地に残された弱者を自然異変が直撃するのは、雪に限らない。自助が難しくなった人たちのため、公助や共助をどう築き直すか。「過疎災害」対策の大きな課題である。

 各地の自治体は、雪処理の担い手を地域で融通して確保する仕組みづくりを進めてきた。町内会や社会福祉協議会などが連携し、近隣が合同で除雪する日を設けたり、町内で手の空いた人を募ったりしている。地区ごとのコーディネーターの役割も重要だ。

 だが、場所によってはそれも追いつかない。受け入れ態勢を整え、地域外の人、たとえば都会の若者に手伝ってもらう試みも、始まっている。

 長岡技術科学大(新潟県)の上村靖司(かみむら・せいじ)准教授が始めたのが「越後雪かき道場」だ。週末ごと、不慣れなボランティアらに雪かきの技能を指南し、困っている豪雪集落につなぐ。5年目に入り、開催地は年々広がる。

 高所の作業はできないが、家周りの除雪や、高齢者の単独作業にさせないなど、大きな助けになるという。「都会の人との交流は、地域活性化の効果もある」と上村さん。

 今冬の雪を、支え合う「絆」を整える契機にできないか。元日の鳥取、国道で立ち往生した車を、沿道の住人が温かく励ましたことを思い出す。

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