2010年12月6日 14時44分 更新:12月7日 12時42分
長崎県の国営諫早湾干拓事業による潮受け堤防閉め切りにより有明海の漁場環境が悪化したとして、長崎や佐賀など沿岸4県の漁業者らが、国を相手に堤防撤去や排水門開門を求めた訴訟の控訴審判決が6日、福岡高裁であった。古賀寛裁判長は「堤防閉め切りによる漁業行使権の侵害状態は違法」と指摘。5年間の排水門開門を命じた1審・佐賀地裁判決を支持し、国側の控訴を棄却した。開門判断を先送りしてきた民主党政権が上告するか、政治判断が焦点になる。
控訴審の最大の争点は開門の是非だった。国側は、開門すれば堤防の防災機能に悪影響があるほか、調整池に海水が混じり干拓農地営農者の農業用水確保が困難になると主張。原告側は潮受け堤防閉め切りによる漁業被害を訴えた。
控訴審判決はまず、干拓事業と漁業被害の因果関係を検討。1審同様、有明海全域については因果関係を認めなかった。しかし諫早湾とその近海に限り、「干潟の消失や潮流の変化などで漁業被害が生じた」と因果関係を認定。1審の漁業者50人に加え9人の漁業被害を認めた。漁業行使権を「生活の基盤に関わる財産的権利」と位置付け「諫早湾における漁獲量の減少を考慮すれば権利侵害の程度は高い」と判断した。
防災機能について「防災上やむを得ないときに閉じれば一定の防災機能は相当程度確保できる」と指摘。国側は、開門の場合に排水対策工事などで600億円以上が必要とも主張したが、判決は「根拠は具体的に示されていない」と一蹴した。
開門に向けた代替工事に必要として3年間猶予し、5年間の排水門開門を命じた。08年6月の1審判決を受け国側は控訴したが、09年9月の政権交代後、民主党政権は開門に前向きな姿勢を示し、政府・与党の事業検討委も今年4月「開門調査が適当」との結論を出すなど開門の機運が高まった。しかし、鳩山内閣総辞職などで開門判断は先送りされ、鹿野道彦農相は来春まとまる環境影響評価(アセスメント)を経て政治判断する方針を示していた。【岸達也】
農地造成と防災を目的に86年に着手。97年4月、長崎県・諫早湾央部を約7キロの潮受け堤防で閉め切り、湾奥部に干拓農地(672ヘクタール)と淡水の調整池(2600ヘクタール)を造成、07年に完成した。総事業費は2533億円。潮受け堤防の300枚近い鉄板が次々に落下した様子は「ギロチン」と形容された。