大分県は江戸時代には８つの藩に分かれていた。飛び地や天領地も多く、幕末期は15の領地に分断されている。当時の地図を見ると、まさにモザイク模様だ。各地に特色ある文化が育ったが県全体として、まとまりがないともいわれた。
▼知事だった平松守彦さんが30年前に広めた「一村一品」は、その県の弱点を逆手にとる運動だった。地域ごとに特産品を競わせ、個性に磨きをかける。関サバ、カボス、豊後牛、麦焼酎などが全国的な銘柄として成長していった。だが、最も成功した大分発のブランドは「一村一品」という政策自体かもしれない。
▼昔の成功にあやかろうという官僚の発想だろうか。最近、霞が関で「一社一村」という言葉を耳にする。一つの企業が一つの農村を支援するという意味らしい。自動車のディーラー網で、お米や野菜を売る。社員と家族が田植えや稲刈りを手伝う。優良な事例を役所が表彰する。そんなアイデアが出ているという。
▼企業は困惑顔だ。貿易を自由化すれば、輸出企業が恩恵を受けるのは事実。市場開放の影響を受ける農家への支援も必要だ。とはいえ、市場競争を目指しているのに、市場の道理に合わないコストを負わされるのではたまらない。仲良しごっこの運動では、競争を重んじた元祖「一村一品」のブランドに傷がつく。
大分県、幕末期、地図、春秋
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