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天声人語

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2011年2月4日(金)付

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 なんの自慢にもならないが、花粉症との付き合いは長い。病名も知らぬ学生時代から、春先はティッシュを放せなかった。スギ花粉に身構える「同志」は増える一方で、一説では国民の3割ともいわれる。戦いの時が近づいた▼九州などを除き、飛散量は平年より多めらしい。環境省の予測では、少なかった去年と比べ東京が5倍、大阪が12倍、名古屋は24倍。花粉を蓄える雄花が、昨夏の好天と猛暑でよく育ったためだ。要らぬ置き土産である▼炎夏から厳冬への「時のメリハリ」に劣らず、西高東低の気圧配置もくっきりしている。日本海側が大雪と苦闘する間に、東京地方の乾燥注意報は35日出っぱなしとなった。記録が残る中では、史上2位のカラカラ続きだという▼きのうは四季の節目らしく、全国的に春の予告編を思わせる日和だった。〈寒天に春きざさむと限りなき空の深どにコバルトを増す〉岡山巌。一様に冬晴れと表現されてきた空の青が、心持ち深みを携え、立春である▼先頃、近所の桜並木で花芽の観察会があった。地元の樹木医さんによると、スギ花粉の「豊作」と同じ理由で、今年の花木は総じて期待できる。晩秋から紅白で楽しませてくれたサザンカも、花のつきはいいそうだ。ここからの気温が高いほど、桜は開花を急ぐ▼道端のジンチョウゲが、赤紫のつぼみをびっしりつけていた。こちらが寒空を見上げて一喜一憂しているうちに、地上の命はそれぞれの見せ場へと支度を整えている。律義な自然、止まらぬ季節を思うと、鼻がむずむずしてきた。

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