社説

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社説:読書感想文 活字から育つ生きる力

 一冊の本との出会いで今までにない視界が心に広がる。青少年期にそうした体験を持つ人は幸いだ。

 <私の中に、新しい私が誕生した瞬間だった>

 北海道教育大学付属釧路小学校6年、高原楓奈(ふうな)さんは「ジロジロ見ないで--“普通の顔”を喪(うしな)った9人の物語」(扶桑社)を読んでの感想文をこう結んだ。

 高原さんは顔のあざを取る手術をしても再発のため入院を繰り返し、好奇の視線を受けてきた。顔に苦難を負った人たちが積極的に生きる姿を描くこの本を読み<大きな壁を乗り越えた人の強さと美しさ、自信に満ちた人生の確かな歩み>を見る。彼女は<患者の心の痛みまでも分かる医師>という将来の目標を持つ。

 この作品は第56回青少年読書感想文全国コンクール(全国学校図書館協議会、毎日新聞社主催)で内閣総理大臣賞に選ばれた。今回は456万8000余りの応募があり、入選表彰式が4日、東京で行われる。

 毎回、その作品群にみずみずしい感性や自由な発想、想像力を見、教えられる。読書はそうした若い力を引き出すことでもある。

 毎日新聞が全国学校図書館協議会の協力でまとめた昨年の学校読書調査によると、1カ月間に小学生が読んだ本が10.0冊、中学生が4.2冊、高校生は1.9冊だった。いずれも前年比で増え、中学生は過去最高、小学生も2位の記録だ。

 「朝の10分読書」など、小学校から読書を習慣づける取り組みが全国の先生たちの力で定着した成果とみられる。子供の活字離れという状況は改まりつつあるといえるだろう。

 また、昨年、読解力をみる経済協力開発機構(OECD)の国際学力テスト(PISA)で日本の成績が上昇傾向を見せた。これも、読書好きの子供が増えたことが背景の一つに挙げられた。

 だが、課題も多い。OECD平均と比べると読書に消極的な傾向がまだ見られる。今回PISAでトップになった中国・上海では毎日31分以上読書するのが56.1%で、日本の30.4%とは大きな開きがある。

 学校の読書も、子供たちに差異があり、中には興味を持てずページをめくるだけの子もいるという指摘がある。このため、本の選び方や指導法をもっと工夫したり、図書館の本や資料を積極的に活用した「調べ学習」へ発展させようとしている所もある。

 11年度から本格実施となる新学習指導要領は、すべての教科で言語活動を重視している。読み、心を動かされ、整理して自分の考えをまとめ、表現する読書は、そうした学習の土台になる。そこに伸びる芽を着実に育てたい。

毎日新聞 2011年2月4日 2時30分

 

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