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社説:鉄鋼大型合併 攻めの経営の連鎖を

 久々の大型合併計画が明らかになった。鉄鋼国内最大手の新日本製鉄と3位の住友金属工業が経営統合を目指す方針を発表した。実現すれば、粗鋼の生産能力で世界2位に浮上するという。

 国内市場が縮小する中、新興国など成長が見込まれる海外で競争上、優位に立つには統合が避けられなかった。両社は来年10月を統合時期に掲げているが、スピード感が足りないのではないか。大幅な前倒しを目指すくらいの勢いで進めてほしい。

 鉄鋼業は大規模な製鉄所を抱える装置産業である。今後は、国内からの輸出だけでなく、急速に拡大する海外市場での生産を迫られることになろう。その際、巨額の設備投資が必要になるが、共同で製鉄所を建設すれば効率的だ。

 一方、中国、インド、ブラジルなど新興国の経済発展に伴う需要増を受け、資源価格の高騰が続きそうだ。新日鉄は、原料となる鉄鉱石や石炭の価格上昇を背景に、今年度の業績予想を下方修正したばかりである。仕入れの価格交渉を有利に進めるうえで、企業の規模がものをいう。

 地球規模で激烈な価格競争を余儀なくされているのは鉄鋼メーカーの主要顧客である自動車や電機も同じだ。少しでも製品を安く買いたい顧客と販売価格交渉を行う上でも、規模は大きい方が発言力が増す。

 世界の鉄鋼業界では再編を通した巨大化が進んできた。日本では2002年に川崎製鉄とNKKが経営統合し、国内2位のJFEが誕生したが、その後は大型再編の実現を見なかった。

 ただ、経営を統合すれば競争力が一気に向上するというものでもない。2社が個々の利益保護にこだわり続けるようなら、統合交渉さえスムーズに進まないだろう。条件などをめぐって2社が主張を譲らず、統合計画が破談になる例も最近、相次いだ。統合にこぎつけても、一体化がなかなか進まず、出身母体に配慮した役員人事など、メリットが現れるまで何年もかかるというのが日本における合併・統合の課題だった。

 鉄鋼2社の経営陣には、もはやそういう時代ではないことを強く認識し、グローバルな発想で統合後の企業像を描いてほしい。

 日本で経営統合や戦略的提携による競争力強化を迫られているのは鉄鋼産業ばかりではない。また、統合の相手を国内企業に限定する必要もないだろう。

 景気低迷の長期化により、多くの日本企業がリスクを取ることを避け、現状維持の経営に逃げ込みがちになっていた。今回の大型統合に刺激され、攻めの経営に転じる“活気の連鎖”を期待したい。

毎日新聞 2011年2月4日 2時31分

 

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