2006年10月13日09時14分のアサヒ・コム
		アサヒ・コムBOOK

メインメニューをとばして、本文エリアへ朝日新聞社からアスパラクラブクラブA&A携帯サービスWeb朝日新聞サイトマップ文字拡大・音声

天気住まい就職・転職BOOK健康愛車教育サイエンスデジタルトラベル囲碁将棋社説コラムショッピングbeどらく

ここから本文エリア現在位置asahi.comトップ >  BOOK > ひと・流行・話題記事

ひと・流行・話題

ノーベル文学賞 選考の地を訪ねて〈下〉

2006年10月05日

写真

ホーラス・エングダール氏

写真

村上作品は、英独仏のほかスウェーデン語にも翻訳されている

■「翻訳可能か」…冷酷な原則

 ストックホルムの王宮近くに、観光客の列が続くノーベル博物館がある。今年も、2階のスウェーデンアカデミーで、ノーベル文学賞をホーラス・エングダール代表(57)が発表する。

■広がる主題

 気鋭の比較文学評論家。97年にアカデミー会員になり99年から代表。ノーベル委員会にも属するが、個人としての文学観を聞いた。「現代の作家は、ジョイスやカフカ、プルーストなどのように、革新者の役割を期待されてはいない。新しいものが出てこなければならない、という考えは過去のものになったのです」

 他方で文学の幅が広がり、従来にない形式や主題がでてきた、と分析する。ファンタジーや恋愛物語など文学のエンターテインメント的な役割を、テレビや映画がとってかわった背景がある。

 「『証言文学』と呼ばれるような、旅行記やエッセーが重視されるようになった。始まりは歴史的な犠牲者による証言だ。日本でも広島の原爆被害者の体験談を、大江健三郎氏がまとめた例がある。ホロコーストについても、証言を凝縮した文学は多い。01年受賞者V・S・ナイポール氏の旅行記はアジア・アフリカ地域の視界を広げてくれた。発見し、記録することが、今や文学の役目になった」

 最近、ポーランドのジャーナリスト、カプシチンスキの名前がスウェーデンの予想で取りざたされる。こういう考えが同国の文学関係者に強いのかもしれないが、同じ「傑出した作品」を選ぶにしても、文学も選考する側も時代によって変化する、と感じた。

 00年受賞者の高行健(ガオ・シンジェン)や亡命中国詩人の北島(ベイ・ダオ)、アラブ文学の詩人アドニス、アフリカ文学の86年受賞者ショインカ、アチュベなどは西欧文学の影響が強いという。「同じく西欧文学を取り入れながらも、日本文学は日本人としてのアイデンティティーが確固としており、川端康成にはまったく違った文化を感じます」

 「どんなに文化のグローバル化が進んでも、固有の文化の現実性に変わりはない。重要な文学は、常にローカルなもの。現代文学はいわば二重の背景を持つ。国民文化の伝統、世界文学の伝統、どちらも切り離すことは出来ない」

■奥の奥まで

 よどみなく文学論を展開したが、アカデミー代表の立場からの発言は慎重だ。

 「委員会のメンバーは、5人の候補者の作品をみっちり読む。同じ作家が何度あがってきても、そのたびに読み直し、作家の奥の奥まで理解したか、本当に受賞にふさわしいかと問い返す。繰り返し読むことが選考の核心だ」

 選考のために8年半に約1000冊は読んだという。

 「一番の難問は言語だ。各言語に特有な言葉の意味を、繊細に使った最良の文学は他言語におきかえられない。それなのに、翻訳可能ということが選考の前提条件になる。非常に冷酷な原則だ」

 この冷酷さにさらされる日本文学。今年は、村上春樹氏への期待がふくらみかけている。この2年、ノーベル文学賞と受賞者が重なるチェコのフランツ・カフカ賞に、3月に決まったこともある。

 だが、エングダール代表は「全くの偶然だ。カフカ賞の選考委員は優秀だが、ムラカミ氏が受賞したの?」と受け流す。スウェーデン語に訳された村上作品は03年の「ノルウェイの森」、05年の「アンダーグラウンド」など3冊。「海辺のカフカ」が今月半ばに出る。同代表が日本の現代作家を読んでいるかどうかについてノーコメントだった。

 ストックホルム大日本学科のグニラ・リンドベリー・和田教授は「次の日本人のノーベル文学賞は、早くても大江氏から20年はかかるのではないか」と見ている。

 今年の受賞者は、誰なのか、間もなく明らかになる。(編集委員・由里幸子)


ここから広告です
広告終わり

関連情報


 
ここから検索メニュー

検索 使い方

検索メニュー終わり

朝日新聞サービス

ここから広告です
広告終わり

BOOK おすすめレビュー

売れ筋ランキング 一覧

涼宮ハルヒの分裂

BOOK サイトマップ



powered by amazon.co.jp
▲このページのトップに戻る

asahi.comトップ社会スポーツビジネス暮らし政治国際文化・芸能ENGLISHマイタウン

ニュースの詳細は朝日新聞紙面で。» インターネットで購読申し込み
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
| 朝日新聞社から | サイトポリシー | 個人情報 | 著作権 | リンク| 広告掲載 | お問い合わせ・ヘルプ |
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.