再び大相撲に八百長疑惑が、しかも物証つきで浮上した。昨年の野球賭博事件に関連し、警視庁が押収した現役十両力士と親方の携帯電話に、数十万円で勝ち星の売買が日常的に行われていたことをうかがわせるメールの記録が残っていたことが2日、明らかになった。日本相撲協会は臨時理事会を開催し、特別調査委員会の設立を決定。メールに名前が挙がった幕内豊桜ら12人の力士らから事情を聴いたが、疑惑の解明には至らなかった。
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協会にとって、思わぬ形で八百長の物証が表に出た。野球賭博問題の捜査で警視庁に押収された携帯電話2台のメール数十件には、幕内4人、親方2人ら合計13人の名前があった。
携帯電話は竹縄親方(元幕内春日錦)と現役十両の千代白鵬のもので、メールは2人が昨年3〜6月、十両の清瀬海、三段目の恵那司力士との間で送受信した46通。
銀行の口座番号や「20、30、50、75」などと金額を示したらしい記録のほか、「ここで負けたら帳消しになる」と、星の貸し借りをうかがわせるものもあった。「後(あと)20で利権を譲ります」などの記述もあり、勝ち星の売買をする八百長を強く示唆している。
竹縄親方が昨年3月17日、恵那司に送ったメールには「俺は誰に借りているかな? 貸しは光龍と山本山だけだよね」との記述があったほか、4月16日には清瀬海に「後20で利権を譲りますがどうですか?」と送信。5月23日には清瀬海が竹縄親方に「来場所のことなんですがもらえるならくれませんか? ダメなら20万は返してもらいたいです」と送っていた。
勝ち負けを打ち合わせたとみられるメール通りに決まった取組が昨年3月場所(大阪)と5月場所(東京)で少なくとも計4番あった。
46通の中には金銭のやりとりのほかに「立ち合いは強く当たって流れでお願いします」(5月10日、清瀬海から竹縄親方)などと、具体的な取組の内容を記したものもあった。
携帯電話はいずれも昨年7月、警視庁が野球賭博事件に絡む一斉家宅捜索で押収。警視庁が消去されていたデータを復元した。
警視庁は八百長をしていた可能性があるとみて、警察庁を通じ日本相撲協会を所管する文部科学省に記録の内容を伝えた。文科省から連絡を受けた協会側は放駒理事長(元大関魁傑)、伊藤滋外部理事、吉野準監事、寺澤則忠監事が出向き、八百長の証拠とみられるメールの内容を提示された。その際、公益財団法人化へ向け「こういう問題があると厳しい」と指摘も受けた。
犯罪と直接関係がなく刑事事件としては立件されない見通しだが、社会的な影響は大きい。「週刊現代」を提訴した八百長報道をめぐる民事訴訟では、相手方が証言にのみ基づいていたため、元横綱朝青龍や、北の湖元理事長(元横綱北の湖)が否定できた。今回は物証が、それも公的機関から出た。「過去の八百長はない」という理事長の言葉まで疑わしくなるほどの、大問題に発展した。