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2011年2月4日(金)付

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鉄鋼大合併―世界仕様の再編の始まり

日本の産業の土台ともいえる鉄鋼メーカーの大合併が浮上した。粗鋼生産量で国内トップの新日本製鉄と3位の住友金属工業が来年秋を目標に合併を検討する、と発表した。それぞれの強[記事全文]

新燃岳噴火―降灰の町の住民に支援を

宮崎・鹿児島県境にあり、火山が連なる霧島連山の中央部に位置する新燃岳(しんもえだけ)の活動が活発化し、爆発的な噴火を繰り返している。もくもくと上がる黒い噴煙に自然のエネルギーと脅威を改めて実[記事全文]

鉄鋼大合併―世界仕様の再編の始まり

 日本の産業の土台ともいえる鉄鋼メーカーの大合併が浮上した。粗鋼生産量で国内トップの新日本製鉄と3位の住友金属工業が来年秋を目標に合併を検討する、と発表した。

 それぞれの強みがある技術を持ち寄り、生産を効率化すれば、より高品質な鉄を、より安く加工産業に供給することが可能となる。日本経済の再生を支援する効果も期待できよう。

 これは買収からの企業防衛や、経営不振で肩を寄せ合うような守りの統合策ではない。「グローバル市場に積極的に投資する」(宗岡正二・新日鉄社長)という攻めの発想だ。高い成長が続く新興国での現地生産で需要に対応できるうえ、地球温暖化対策や競争力強化のための新技術開発に向けた巨額投資もしやすくなる。

 実現への最大のハードルとなるのが独占禁止法である。公正取引委員会が、国内市場の占有率に重きを置いて審査するなら判断は微妙になろう。8年前に資本提携した両社が統合へ進むのをためらってきたのは、その点にあるとの見方も産業界にある。

 41年前の新日鉄誕生では公取委から競争制限の恐れがあると勧告され、結局、他社に設備を譲って合併を実現した。だが今は当時と環境が全く違う。

 今回の合併が実現しても生産量は首位のアルセロール・ミッタルのほぼ半分。品質でしのぎを削る韓国のポスコを圧倒する規模にもならない。

 なによりも、新日鉄が誕生したころの国内市場は高度成長の末に経済規模で自由世界第2位となったばかりだった。ところが、今の日本はこの20年間で名目成長率はほぼゼロ。中国に世界第2位の経済大国の座も譲った。

 菅政権が「国を開く」と自由貿易協定の拡大に本腰を入れる背景にも、世界経済の中の日本の位置づけが様変わりしたという事情がある。

 グローバルな市場での競争が生き残りを左右する大きな要因となった以上、世界戦略として統合を考える企業は今後増えていくはずだ。

 ライバル企業の巨大化だけでなく、資源価格の高騰も、新日鉄と住友金属の合併へと背中を押した要因である。石炭や鉄鉱石など海外の資源会社の寡占化も進んでおり、価格交渉力を確保できる規模の大きさも必要となっているという現実がある。

 こうした環境の激変を考えれば、公取委は両社の合併を認めるべきだろう。新時代に対応した新たな審査指針をつくり、同様の統合を模索するグローバル企業に対しても、それを明確に示してほしい。

 もちろん、巨大な鉄鋼メーカーの誕生が、国内市場で生きている多くの中堅・中小メーカーの不利益とならないよう目を光らせ続けるのも、公取委の大事な仕事である。

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新燃岳噴火―降灰の町の住民に支援を

 宮崎・鹿児島県境にあり、火山が連なる霧島連山の中央部に位置する新燃岳(しんもえだけ)の活動が活発化し、爆発的な噴火を繰り返している。もくもくと上がる黒い噴煙に自然のエネルギーと脅威を改めて実感させられる。

 鹿児島地方気象台によると、地下のマグマが上昇して噴き出す「マグマ噴火」はこの火山では、記録に残る江戸時代の「享保噴火」以来、約300年ぶりだ。一日も早い終息を祈りたい。

 噴煙は上空2千〜3千メートルに達し、火口周辺の市や町に火山灰や小さな噴石が大量に降り注ぐ。車が路面の火山灰を巻き上げると数十メートル先が見えなくなるほどだ。斜面では雪道のようにタイヤが滑る。

 新燃岳から東へ約10キロ離れた宮崎県高原町では、住民約350人が避難する事態になっている。県や地元の市町はこれまで通り、住民の安全確保を最優先に対策をとってもらいたい。

 高原町は畜産の町だ。約560戸が肉牛など約1万頭を飼育している。昨年、隣の都城市で口蹄疫(こうていえき)感染が確認されたときは、町のほぼ全域で一時、家畜の搬出が制限され、ようやく牛を出荷できるようになったばかりだ。

 「今年はいい年に、と思っていた。どうして宮崎ばかり……」。塩入桃子さん(43)は、約1300頭の牛を夫と飼育する。降り積もる火山灰や小さな噴石の雨が牛に影響を与えないか。不安を隠せない。

 高原町の避難勧告区域に住む養鶏農家の宮本敏郎さん(31)は、鶏舎で6万羽のブロイラーを飼育する。県内で鳥インフルエンザが相次ぎ、自らの鶏舎で発生させまいと、消毒用石灰を散布して注意を払ってきた。

 だが噴火のために、鶏舎のまわりの石灰が見えないくらいに、火山灰が5センチも積もった。噴火と鳥インフルとの両面の闘いを強いられている。「天災だからあきらめるしかない」と宮本さんは話している。

 宮崎県が被っている経済的損害は甚大である。政府は支援の手をいかに差し伸べるか知恵を絞ってほしい。

 新燃岳は活発な噴火活動を続けてきた。1716年の享保噴火は断続的におき、収まるまで1年半かかった。この間、60人以上の死傷者と600棟以上の焼失家屋などを出した。

 降り積もった大量の火山灰が雨で流されて土石流が発生する恐れもある。火山の噴出物による二次災害も含めた対策を総合的に考える必要がある。

 長崎県の雲仙・普賢岳では、噴火から約7カ月後に火砕流による大惨事がおきている。自然の猛威の前に人知は遠く及ばない。この事実をあらためてかみしめたい。

 噴火がいつまで続くかわからない。長期戦を覚悟し、その備えと、地元の人たちを支える仕組みを整えたい。

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