米国で6年前にベストセラーになったシカゴ大学の経済学者、S・レビット教授らの本には相撲の八百長の分析がある。3万以上の取組データから7勝7敗と8勝6敗の力士の千秋楽の対戦を調べたのだ(邦訳「ヤバい経済学」東洋経済新報社)▲過去の対戦結果から7勝7敗の力士が勝つ確率を計算すると48・7%で5割を下回る。だが実際の勝率は79・6%と8割近かった。むろん勝ち越しをかけて懸命だったからとも解釈できる。ただ面白いのはその2人が次の場所で勝ち越しのかからぬ対戦をした場合だ▲前回、7勝7敗だった力士は40%しか勝っていない。さらにその次の対戦は約50%と、確率的な“正常値”に近づいている。気鋭の若手経済学者ならずとも、星の貸し借りがあったと推測ができる。同著は過去の八百長の告発事例もこの確率論で検証してみせていた▲「星を借りてるよね」「ダメなら20万は返して」「立ち合いは強く当たって流れでお願いします」。こんな力士のメールが発覚しては、これまで相撲協会がくり返してきた八百長の否定はいったい何だったのかとしらける。無気力相撲どころか気力充実の熱演である▲携帯電話での八百長をうかがわせるメールにかかわっていたのは幕内力士をふくむ13人という。いよいよ存亡の土俵際に追い込まれた相撲協会は真相の徹底的究明を約束したが、泣きたい気分なのは相撲ファンの方である▲レビット教授らは、過去に八百長疑惑が浮上した際の次の場所では力士の勝率の異常が急に解消したことも皮肉交じりに書いている。異国の学者に舞台裏を見透かされた「国技」が情けない。
毎日新聞 2011年2月3日 東京朝刊
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