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【震災と企業 逆境を乗り越えて】(3)オリバーソース 空白2年半を新生と考え…“熟成”再び
「トンカツソース」の生みの親として名高いオリバーソース(神戸市中央区)は、震災で創業の地・兵庫区にあった本社や工場7棟のうち3棟を焼失した。残り4棟も使用不能となり、壊滅的な被害を受けた。
駆けつけた社長の道満(どうまん)雅彦(58)は目の前で燃える建物に、不思議と何の感慨もなかったという。ただ、恐ろしく熱かったことだけが記憶にある。
2カ月半後に事業を再開したが、そこに追い打ちをかける事態が起こる。周辺が区画整理特別地域に指定されたのだ。同社が立ち退かなければ整理事業が進まない状況に陥った。地域の復興を妨げるわけにはいかない。道満は、創業の地を捨てることを決断した。
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新天地に選んだのがポートアイランド。第2期の用地では進出第1号で、当時はまだ道すらない。生産を開始したのが震災から2年半後の平成9年7月。文字通り“第2の創業”が始まった。
「何もかも失ったが、この神戸でもう一度やってやる。そんな思いにあふれていた」と道満は振り返る。だが、現実は甘くはなかった。2年半のブランクは大きく、他社に一度明け渡したスーパーの棚は容易に戻ってこなかった。
苦境を乗り切ることができたのは、社員の底力だった。新天地で何から何まで新しくなり、古い会社だったがゆえの制約が一切なくなった。それが新しい力を生んだ。
震災前と同じ商品は1つもない。ラベルも容器も刷新した。商品すべてに「神戸」の冠をつけた。年間売り上げの1.5倍の借金を背負ってのスタートだったが、業績は右肩上がりで伸びていった。
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震災で焼け残った1つのタンクがある。そこには高級ソース「クライマックス」が貯蔵され、震災後10年にその3分の1を使って商品を企画した。長期熟成で独特の味と香りに生まれ変わっていた。昨年は同様に15年で発売、ともに利益はすべて震災遺児施設に寄付した。残る3分の1は静かに20年を待っている。
毎年1月17日。その「クライマックス」と同じ商品名の長期熟成ソースを仕込むセレモニーが行われる。発売は3年後の1月17日。震災で1人亡くなった社員があの焼け残ったソースの製造担当で、これには弔いの思いもある。
「あのとき、会社は完全に生まれ変わった」。道満はそう思う。そしてこの苦境を「むちゃくちゃおもしろかった」という。
創業者の祖父から数えて道満は3代目。「普通なら敷かれた路線を歩いていた。でも、震災のおかげで創業のおもしろさを経験できた。ドラマの主人公を演じられたんです」
「『会社を生まれ変わらせよ』。そういう天の意思だったのかもしれない」とすら思う。
(文中敬称略)
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