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天声人語

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2011年2月3日(木)付

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 白鵬が勝ち続けていた昨秋、玉ノ井親方(元大関栃東)が日経新聞に寄せたコメントがよかった。「朝青龍は強引な相撲で時に事故のような負け方をしたが、白鵬は『交通ルール』をきちんと守って勝っている」といった解説だった▼幕内で朝青龍に10勝、白鵬にも5勝した実力者ならではの、巧みな例えにうなったものだ。真剣勝負だからこそ「事故」も起きれば、「ルール」の理も意味を持つ。そう信じて、ファンは一喜一憂してきた▼すべての声援や解説をあざ笑う愚である。野球賭博事件で押収された力士の携帯電話に、八百長を思わせるメールが残っていた。星の貸し借りや売買のほか、取り口の打ち合わせまでしていたらしい▼八百長については元力士が証言し、週刊誌が何度も書いてきた。日本相撲協会はそのつど否定し、裁判で多額の賠償を認めさせている。昨日の会見でも、放駒理事長が「過去にはなかったこと」と不自然に強調したが、関取多数が手を染めたとなれば常態化が疑われる▼本職をサボる八百長は、賭博や酒のトラブル以上に罪深い。素行不良にとどまらず、慢性の重病が明るみに出たようなものだ。それも、勝負事の命にかかわる病である。悲しく脱力し、熱戦のあれこれを心でスロー再生しているファンも多かろう▼真剣勝負とは別の「ルール」が存在したのでは、どんなスポーツも成り立たない。「勝つ」以外の意思が土俵に紛れ込んだ時、プロスポーツとしての大相撲は死ぬ。大多数の力士が、おびえではなく怒りに震えていると思いたい。

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