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社説:八百長相撲疑惑 過去を含め徹底究明を

 相撲界の野球賭博問題がようやく収束に向かい始めた矢先、今度は幕内、十両力士や現役親方ら13人を巻き込んだ大がかりな八百長疑惑が発覚した。大麻事件や野球賭博は、不心得な一部の力士や親方らが犯罪行為に手を染めた事件だった。だが、今回の八百長相撲疑惑は、取り締まる法律こそないものの、大相撲への信頼を根底から揺るがす最大級の不祥事である。

 これまでも八百長疑惑は何度も週刊誌などで指摘されながら裏付ける証拠が示されず、うやむやに処理されてきた。だが、今回は携帯メールという証拠が残った。

 証拠となったメールは、野球賭博事件に絡んで警視庁が押収した十両力士らの携帯電話の消去済みメールを解析して明らかになった。金銭で勝ち星を売買していたとみられる記録のほか、「最後はすくい投げあたりがベスト」など具体的な取り口まで記述されているという。

 こうまであっけらかんと八百長行為が語られていることに驚く。力士間で日常的に八百長をめぐるやりとりが行われていたのではないか。しかも押収された携帯は日本相撲協会員のごく一部のものであり、今回の発覚が氷山の一角の可能性もある。

 八百長相撲は土俵上の2人の力士の心の持ちようで、証拠の残りにくい行為だ。協会は「無気力相撲」には目を光らせてきたが、八百長相撲の存在は全面否定し、ここ数年、露骨なまでに強硬な姿勢をとり続けてきた。週刊誌の「八百長疑惑」報道に対し、数千万円から数億円に上る高額な賠償を求める裁判を起こし、勝訴するケースが相次いだ。

 だが八百長相撲の証拠が出てきた今、協会はもはや従来の無気力な言い逃れは通用しない。

 日本固有の伝統技能としての大相撲では、相手力士のけがを防ぐための「かばい手」は負けとしないという決まりがある。力士の間で勝負に多少の「情」がからむケースもあるだろう。相撲ファンもある程度の寛容さを持って土俵を見守ってきたが、こうもあからさまに星が売り買いされているようでは、かばい手のつきようがない。

 放駒理事長は、外部委員による特別調査委を設置し、徹底解明を約束した。協会が全力を挙げて取り組むのは当然だが、気になることがある。放駒理事長は八百長疑惑をあくまで今回発覚したケースに限定、「過去には(八百長は)なかった」との考えを強調した。

 過去の八百長疑惑に一切口をつぐみ、本当に相撲界の浄化ができるだろうか。それとも過去にさかのぼれない理由でもあるのだろうか。相撲の根幹が揺らいでいる今、協会の本気度が試されている。

毎日新聞 2011年2月3日 2時30分

 

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