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社説:ムバラク大統領 「即時退陣」が民意だ

 エジプト全土で盛り上がった「100万人デモ」の意味を、ムバラク大統領は理解しなかったようだ。デモ後に演説した大統領は、政界引退を表明したものの、次期大統領選が行われる9月までは職にとどまる意向を示した。しかし、デモで示された民意が「即時退陣」であるのは明らかだ。民衆の怒りの火に油を注ぐ演説になったのは残念である。

 誰を指導者として、どんな政治を望むか。それはひとえにエジプト国民の選択であり、外国が指図することではない。だからこそ米政府も欧州連合(EU)も「秩序ある移行」に言及しつつ、大統領の辞任を声高に求めることはしなかった。仮にエジプト国民が大統領演説に納得して9月までの続投を許すなら、その選択は尊重すべきである。

 しかし、そうなるかどうかだ。ムバラク氏も演説で権力の平和的移譲に努め、憲法改正など各種の制度改革を行うことを約束した。それ自体はいいが、野党勢力などがムバラク氏との対話を拒否する中で、どう改革を実行するのか。平和的な権力移譲を望むなら、速やかに身を引くのが最善の選択だ。

 「居座り」に怒る民衆は、イスラム教徒が金曜礼拝に集まる4日、再び大規模デモを行う構えだ。1日のデモは、中立的な立場を取る軍が秩序維持に努めた。だが、4日までにムバラク氏が辞任せず、軍が民衆の暴徒化を防げないようなら、権力の平和的移譲どころか、国は修羅場と化す恐れもある。親大統領派と反大統領派の衝突も起き始めた。憂慮すべき状況だ。

 無論、「ムバラク後」への不安も大きい。アラブ世界でイスラエルと最初に和平を結んだエジプトは、中東和平も含めて米国の中東政策に貢献してきた。後継の大統領候補には国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ前事務局長らの名前が挙がっているが、新体制のエジプトが親米国家であり続けるかも含めて、先行きは不透明だ。

 抗議行動の飛び火に先手を打つように、ヨルダンの内閣は総辞職した。イエメンのサレハ大統領は再選を求めないことを表明した。サウジアラビアなど湾岸の王国・首長国も同様の民衆運動を警戒している。在任約30年、82歳のムバラク氏が「私への評価は歴史が下す」と語ったのは、「勇退」を促した米国などを念頭に、「自分を見限っていいのか」と開き直ったように思える。

 しかし、国民の信を失った指導者は去るしかなかろう。事ここに至って、大統領の速やかな辞任以外に事態を収拾する方法があるのか。

 それをムバラク大統領に静かに問いたい。

毎日新聞 2011年2月3日 2時31分

 

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