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エジプト:反政府デモ 板垣雄三・東京大名誉教授の話

 ◇「パレスチナ抑圧」への批判--板垣雄三・東京大名誉教授(中東イスラム研究)

 今回のエジプトでの大規模な反政府デモは、チュニジア政変の影響との指摘もあるが、実際には04年ごろからムバラク退陣と「タグイール(変革)」を求める運動が公然と表れており、タグイールへの思いは民衆の間で共有されていた。

 背景として大きいのは、パレスチナ問題におけるエジプトの立ち位置の問題だ。(反イスラエル抵抗闘争の)第2次インティファーダ(00年)が目の前で鎮圧され、「9・11」(01年)を境にアフガニスタン、イラクでの戦争が展開される。08年にはイスラエルのガザ侵攻でパレスチナ人が多数犠牲になった。そういう流れの中で、イスラエルと特殊な関係を結び、協力する国のあり方への批判が、民衆の間にたまってきていたと考えるべきだ。

 エジプトは、ウラービー大佐が率いる革命が自由と独立のエジプトを目指したが、英国につぶされて植民地化された(1882年)。しかし、エジプト人の民族意識は勃興していく。英国からの独立を目指して全土で民衆蜂起した1919年革命を経て、英仏イスラエル軍の侵攻を失敗させ「タハリール(解放)」を実現したスエズ動乱(1956年)という歴史、エジプト人が持つ愛国感情の文脈で見ると、ムバラク政権は「自由と独立」でなく、米国やイスラエルと一緒になって、パレスチナ人やイスラム教徒を抑圧する側になってしまったと映るのだ。ムバラク政権は、エジプトの近現代史上の迷妄の時代というのが一般の人の感覚ではないか。

 今回の動きを、日常生活などへの不満の破裂とのみでとらえるべきではない。【聞き手・服部正法】

毎日新聞 2011年2月3日 東京朝刊

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