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2011年2月3日(木)付

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八百長メール―相撲は競技か、興行か

角界にまた、新たな疑惑が持ち上がった。大相撲の現役力士が、勝ち星を売り買いする八百長を行っていた疑いが明らかになった。警視庁が相撲界の野球賭博事件を捜査する過程で、力士[記事全文]

若者と社会―ギャップイヤーのすすめ

大学をすでに出た人も、数年間は新卒者と同じ扱いで採用します――。そう踏み切る企業が相次いでいる。就活市場が厳しさを増す中、若者の再挑戦に門戸をもっと開いてと、政府が要請[記事全文]

八百長メール―相撲は競技か、興行か

 角界にまた、新たな疑惑が持ち上がった。大相撲の現役力士が、勝ち星を売り買いする八百長を行っていた疑いが明らかになった。

 警視庁が相撲界の野球賭博事件を捜査する過程で、力士らの携帯電話に八百長をうかがわせるメールの記録が残っていることが分かった。

 メールには、立ち合いなど土俵での流れや星の売買とみられる数字など、生々しい内容が書かれていたという。

 野球賭博事件と次元が違うのは、問題が「土俵の中」であることだ。

 関与が疑われる力士らは十数人にのぼる。実際に現金やなれ合いの取組による星のやりとりがあったのだとすれば、ファンへの背信であり、大相撲の根幹を揺るがす重い事態である。

 日本相撲協会はきのう、この問題を調査する特別委員会を作った。委員は外部の有識者に頼んだ。

 八百長に関与したとされる力士への聴取に加え、疑われる取組をビデオで検証するなど、早急な調査が求められるのは言うまでもない。

 その上で事実関係を明らかにし、土俵を売った者に処分を科さねば、来月に迫った大阪での春場所開催は到底、世間の理解を得られまい。放駒理事長は全力士への調査にも言及した。調査の行方次第では、場所の休止も視野に入れねばならない非常事態だ。

 過去、八百長については元力士が証言したり、週刊誌が疑惑を報じ、裁判になるなど、何度も取りざたされてきた。国会で疑惑が追及されたこともある。一方で「昔から星のやり取りはある。相撲なんてそんなもの」といった冷めた見方をする向きもある。

 だが、協会は八百長を終始否定してきた。お金を払って場所に足を運ぶファンも、鍛え上げた力士同士の白熱した勝負をこそ、楽しみにしてきた。

 昨年、白鵬が双葉山の69連勝に迫ったとき、多くの関心が集まった。連勝は63で止まったが、不滅の記録に挑んだ若き横綱の健闘を人々はたたえた。それは、土俵が「見せ物」ではなく、真剣勝負を挑む場である、ということが大前提としてあったからだ。

 今回の疑惑は角界が神聖視する土俵を自ら汚し、真剣勝負を堪能してもらおうと日々鍛錬を積んでいる多くの力士の努力を踏みにじるものでもある。

 立行司は腰に短刀を帯びる。軍配を差し違えた時、腹を切る覚悟を示すためと聞く。疑惑の力士にはそんな気概も、勝負への敬意もないのだろうか。

 「協会新生の年となるよう、全力で努める」。初場所初日、放駒理事長はこうあいさつし、不祥事からの信頼回復をファンの前で誓ったばかりだ。

 様々な問題が起きても、多くの人が相撲を愛し続けてきた。しかし、今度という今度は、冷え切った心はたやすく元には戻らないのではないか。

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若者と社会―ギャップイヤーのすすめ

 大学をすでに出た人も、数年間は新卒者と同じ扱いで採用します――。そう踏み切る企業が相次いでいる。

 就活市場が厳しさを増す中、若者の再挑戦に門戸をもっと開いてと、政府が要請していた。企業には選ぶ対象を広げ、より多様な人材をさがす狙いもあるという。

 学校というエレベーターを大学まで上昇し、22歳かそこらで企業社会に一斉に押し出される。このシステムは、いまや産業構造の変化や大学進学率の伸びにマッチしなくなっている。

 だとしたら、単なる未就業者救済策からもう一歩、踏み出したい。就職前の1〜2年、有意義な「寄り道」をすることを、世の中が認知する。そうやって教室では得がたい力を蓄えた人材を、企業が評価し、積極的に採る。そんな仕組みを作れないか。

 英国で定着した「ギャップイヤー」という慣行がある。人生のすき間の1年、とでも訳せるだろう。

 大学入学の資格を得た若者が、数カ月から十数カ月の間、学業を離れ、国内外でボランティア活動や就業体験をする。大学は入学延期を認めたり、その間の学費を免除したりする。

 毎年十数%の学生が利用し、あのウィリアム王子も大学入学前、南米でボランティアを経験した。英企業には、有益なギャップイヤー経験者はコミュニケーション能力などが優れている、との評価が定着しているという。

 「日本でもギャップイヤーを」と言う声は少しずつ広がっている。

 国際協力機構が派遣する青年海外協力隊のうち、毎年300人ほどは大学新卒者。途上国に赴き、村に入り、現地との協働に汗を流す。だが任期を終え就職しようとしても、多くは中途採用の扱いだ。「彼らの経験を評価する仕組みがあれば」と協力隊事務局。

 海外でなくてもいい。学校や児童養護施設での学習支援、高齢化団地のコミュニティーづくり。若者中心のNPO活動が盛んになっている。スタッフとして一定期間働いたことが、のちの就活に有利に働くとなれば、そうしたNPOにも元気が出るだろう。

 4年前の政府の教育再生会議の報告でも、ギャップイヤー導入を提案している。単位に認める形でとり入れる大学も、一部で出てきた。

 英国のように、ボランティア活動のあっせんや助言を行う団体があってもいい。ギャップイヤー奨学金のような形でもり立てる手もある。

 学校と社会をつなぐ「複線コース」が必要な時代。内向き族に海外体験を促し、企業人になる前に一度は社会の課題に向き合わせる。それは「新しい公共」の頼もしい担い手にもなる。

 日本版ギャップイヤー。企業の採用担当者や大学関係者のみなさん、一考の価値あり、では。

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