菅直人首相は2日の衆院予算委員会で、民主党の年金制度改革案の生命線である制度一元化について「難しい」と発言するなど制度の根幹が揺らぎ始めた。制度の具体像が何も決まっていないことも判明。首相は修正に柔軟な姿勢を示すことで野党を協議に引き込む狙いだが、改革案の信頼性が揺らぎ、政権へのダメージにもなりかねない。(9面に詳報)
民主党の09年衆院選マニフェストは▽職業によって三つに分かれている現在の制度を一元化▽所得に応じた給付を受ける「所得比例年金」と、全額消費税による「最低保障年金」を創設する--としている。具体的な数字を示したのは最低保障年金の「7万円」。当時、野党だった民主党は「厚生労働省のデータがなければ数字は出せない」と説明していた。
2日の予算委では公明党の石井啓一氏が「与党になったのだから数字を示してほしい」と詰め寄ったが、首相は「数字の面では確定した案になっていない」と答弁。「厚労省のデータ」の有無にかかわりなく、具体策が肉付けされていない現状をさらけ出した。
民主党は年金記録問題や国民年金の納付率低迷など現行制度のほころびを批判することで世論の支持を集めてきた。年金制度は政権交代の「象徴」といえ、それだけに石井氏は「謝ってもらわなければ協議に応じられない」と猛反発した。
もう一つの柱である制度一元化は、自民、公明両党の案との決定的な違いで、民主党案の根幹部分。ところが首相は「大変難しい問題を抱えている」とあっさり認めた。一元化の難しさは以前から指摘されていた。サラリーマンらの制度と自営業者らでは保険料の負担方法が異なっているからだ。だが、その解決方法について首相は「結論を出していない」と妙案がないことを明らかにした。
中身の乏しさが浮き彫りになりながらも、首相は「民主党の考え方も一つのベースにしながら、他の意見も含めた中で議論したい」と強調すると、石井氏は「実現不可能な案だから、他の案に替えて民主党案を闇に葬ろうとしているのではないのか」と皮肉った。【鈴木直】
毎日新聞 2011年2月3日 東京朝刊