きょうの社説 2011年2月3日

◎金沢港の座礁事故 重油回収に万全期したい
 衝撃的な写真だった。小紙に掲載された油まみれの海鳥、能登の海岸線に点々と打ち上 げられた黒いタール状の重油の塊である。座礁したパナマ船籍の貨物船は燃料として540キロリットルの重油を積んでいたという。同船からの新たな重油の流出は確認されていないが、生態系への影響が懸念される。

 思い出されるのは、1997年1月に起きたロシア船籍の「ナホトカ号」の原油流出事 故である。ナホトカ号から約6200キロリットルの重油が流出し、被害は石川県や富山県など日本海沿岸の9府県に及んだ。今回の座礁事故に伴う原油流出の規模はそれよりはるかに小さく、心配するほどではないのかもしれないが、海岸から目と鼻の先の場所だけに、流れ出た重油の大半が県内の海岸線に漂着する懸念がある。環境汚染を最小限に抑えるために回収を急ぎたい。

 金沢海上保安部によると、事故当時、現場海域では幅約40〜50メートル、長さ約1 00メートルにわたって浮遊油が確認された。原油がすべて流れ出る最悪のケースを想定し、県は自治体や漁協関係者らと連絡を密にして海岸線のパトロールを強化してほしい。

 原油回収は船主の責任であり、既に委託を受けた業者が作業に当たっている。今後、原 油の漂着地が広がり、作業が追い付かない場合に備えて今のうちに応援体制を考えておきたい。

 ナホトカ号の原油流出事故当時、石川県内での重油回収には県や市町村、漁協関係者、 自衛隊員のほか、地域住民やボランティアが多数参加した。参加者は延べ20万以上に達し、老いも若きも励まし合い、真っ黒になって重油回収に挑んだ。原油回収は人海戦術に負うところが大きい。万一の場合にはボランティアの協力を仰ぐことがあっていい。

 貨物船は金沢港で、澁谷工業のボトリング装置やコマツの建設機械などを積む予定だっ た。企業が貨物船を共同でチャーターする「合い積み」の輸送を、北米向けで初めて実施するはずだったが、思わぬ事故により、納期遅れを懸念する声がある。海が荒れやすい冬場の海上輸送について、問題点を洗い出す必要もありそうだ。

◎大相撲八百長疑惑 存亡かけてウミ出し切れ
 不祥事が底なしに続く大相撲で今度は八百長疑惑である。大麻や野球賭博など土俵の外 の不祥事を超え、相撲というスポーツの正統性を根底から揺さぶる極めて深刻な事態である。これは大相撲が抱える本質的な問題といえ、疑惑の解明なくして次の場所を開くことは難しいだろう。

 八百長疑惑は週刊誌で繰り返し指摘され、引退力士らも会見で告白してきた。日本相撲 協会は法的対応を取り、あるいは無視を決め込んできたが、内部で徹底して調査する機会がありながら、漫然とやり過ごしてきたように思える。

 疑惑の背景には、臭い物にふたをするような対応の鈍さがあるのではないか。今回はメ ールという物証を突きつけられた。もはや、うやむやにすることは許されない。一生懸命やっている力士のためにも、協会は存亡をかけ、徹底的にウミを出し切ってほしい。

 八百長をうかがわせるメールは、警視庁が野球賭博の捜査で押収した携帯電話の記録を 復元して明るみに出た。複数の力士が勝ち星売買などのメールをやりとりし、取組内容を打ち合わせたような記録も見つかった。賭博容疑の限定された人間から疑惑が浮上したことで、それらは氷山の一角ではないかという疑いも募る。

 これらの取組を対象にした賭博や暴力団の関与は確認されず、警察は立件を見送るとい う。だとすれば、まさに協会の自浄能力が問われる局面である。

 賭博行為の蔓延と八百長疑惑は無関係とは思えない。賭博による金銭の貸し借りが広が れば、その関係が土俵に持ち込まれる可能性は十分に考えられる。金で星を買う邪心があれば厳しい稽古に精進できるはずもない。「心技体」の心の部分がいつの間にかよどんでいく、なれ合いの体質が協会のなかに潜んでいないだろうか。

 大相撲は興行と割り切ればいいという声もあるが、勝負の醍醐味をみせるプロスポーツ の道を歩むなら八百長は言語道断である。同じスポーツでもサッカー日本勢の活躍が目覚ましいだけに、ファンを裏切る大相撲の混乱ぶりはよけいに情けなく映る。