ISことインフィニット・ストラトスがそういえばアニメ放映したんだったなぁ、と思い。
古本屋で三巻目まで買ってみました。やっぱりロボが好き。
そんなわけでムラムラしたので気晴らしにテンプレートな転生オリ主を書いてみようと思った。主人公は親友の皮を被った誰かです。
ここに来る前に神様にあれを譲られたが、コストが高すぎたのでいろいろ制限を受けたと思ってください。むしろ主人公にあのメカを操らせたいというのが本音ですが。ぶっちゃけ――『どうしてISって、あれと足先の形が似ているのにだれも書いてくれないんだろう』と思ったのが大きな理由の一つです。
深く突っ込まないでー。
それでは、肩の力を抜いて――ではなく、肩に力を込めて読んでください。(え)
二月二日、チラシの裏からその他板に移動いたしました。
――
【ネタ】親友ポジションの男に転生しました(テンプレ転生オリ主もの。ロボのみANUBIS)
まず最初に憧れたのは――飛行機だった。
子供の頃に両親が見せてくれた演技飛行。飛行機が空中で滑らかに飛び回り、見事な演技飛行をみせてくれるのを子供心に喜んでいたのを覚えている。
綺麗で、早くて、強そうで――あれに乗るにはどうすればいいのか、と両親に興奮気味に話した俺に、しかし母親も父親も少し困ったように応えた。
『ああ。でも……もう戦闘機なんて時代遅れだしなぁ』
『弾が女の子なら、ISに乗るって事も出来たんだけど、男の子じゃあね』
IS。
元々は宇宙開発用に設計されたパワードスーツ。既存技術で設計された兵器類を全て屑鉄に変えた最強の兵器。
機動性能、攻撃力、耐久力、全ての面において最強。最早世界のパワーバランスはそれらを幾ら保有する事ができるかの一点に掛かっており、日本にあるIS学園はそれら国防や利権に大きく絡む女性の育成の場になっている。
そう。
女性のみだ。
ISの奇怪な特性として、それらを起動させ運用する事が出来るのは何故か女性のみであり――ISを稼動させる事が出来る=女性は強い=女尊男卑の風潮が徐々に浸透し始めている。この世にそれが生み出されてからまだ十年といくつか程度しか経過していないのに。
時折、弾は無性に恐ろしい恐怖に駆られる時がある。
ISがこの世に生み出されてからまだ十数年。それ以前の男性を見下す風潮などまったく知らない世代はまだまだ大勢いるにも関わらず、町を歩けば男性を奴隷扱いする女性が少しずつ出ている。
たった十数年でこれだ。
もし――ISが世界最強の兵器であり、そしてそれらが生まれた時から空気のようにごく自然に存在している世代はどうなるのだろうか。
たった十数年でこれなのだ。
女性にしか扱えない最強の兵器――それはそんな上っ面の文言よりも遥かに恐ろしい差別の時代を呼ぶ代物ではないのだろうか。世代が進めば歴史が流れれば、男性は子孫を残すための道具に成り果てて、今のように建前の男女平等の風潮など枯れ果てて本当の意味で奴隷扱いされるのではないのだろうか。
十数年で今の状態。ならば時間を経る事に差別は深まり、それを誰しも当然と受け入れる時代が来るのではないのか。
五反田 弾は自分が時折若さに似合わぬ考え方をする事を自覚していた。夢も希望も進路も漠然としているようなありふれた青春ではなく、生まれた時からどこか不安と恐怖を胸に巣食わせていたような気がする。
もちろんこんな考えが、男性と女性の和を乱すものである事など理解している。少なくともインターネットで書き込んで他者の意見を求めたときは、すぐに封殺されてしまった。削除規制の対象になり――勿論捕まるようなへまなどしてはいない。
自分の考えが今の社会の風潮に合わないことは自覚している。インターネット喫茶を使い、色々とプロバイダを経て足取りを手繰られないように手を尽くしていた。
分かっている。自分は天才だ――それも唯の天才ではない。まるで自分の十五年間に合わせて三十年か、四十年ほどの歳月を掛けねば会得できない知性がある。
その知性が、今の状況に危うさを感じていたのだ。
ISを設計した彼女――篠ノ之 束はその当たりをちゃんと考えていたのだろうか? と、五反田 弾は考える。
一夏から彼女の事を又聞きしたことがある。あの天才科学者――箒、一夏、千冬の三名と両親のみをかろうじて身内と判断するらしい女性。それ以外には眼中にすらないといった態度の社会不適合者は考えたのだろうか。
ダイナマイトを発明する事で大いに世間に貢献し、同時に軍用に用いられる事で犠牲者を出したノーベルのように。空を飛びたい一身で飛行機を作り、そして軍用に転用されたライト兄弟のように。戦争に流用される可能性を考慮したのだろうか。
科学者とはできない事を出来るようになろうとする人種だ。そういう意味では篠ノ之 束は見事なまでの科学者だ。
自分の欲求の赴くままモノを生み出し、それがどういう結果をもたらすかなど微塵も考えず、ただただ身内のみを愛する彼女は――ただの男である自分、五反田 弾のことなどまったく意に介してなどいないだろう。
幼少期――憧れであった戦闘機に乗りたいと駄々をこね。
そして大きくなるにつれ、世界のどの国も戦闘機開発を全て放棄し、ISの開発に着手し始めて――憧れの翼を時代遅れにされた子供の気持ちなどきっと知らない。子供の頃の憧れが――無人機に改修され、ISの訓練用ドローンに転用された無惨な気持ちなど知らない。
ならば――と、この世で最強の力、ISに乗りたいと思った子供の頃、同学年の少女達に男はISを使えないと教えられた時の、あの悔しさなどきっと知らない。少女達のどことなく自慢げな――男を見下した眼差しなどきっと知らない。
夢に挑む事すら許されなかった雄の気持ちなどきっと彼女は永遠に想像しない。
そして――自分が望んで止まないものを偶然手に入れた親友に対する堪え難い嫉妬など、あいつはきっと、想像もしていない。
「なー、一夏」
「んー?」
五反田 弾には友人がいる。
幼少期からずっとの腐れ縁の男友達。織斑一夏。とりあえず見ていてイラッとするぐらいに女性に持てるフラグ立て職人であり同時に鉄壁の鈍感である。友人としてはまず良い奴と言えるのだが――しかし妹である五反田蘭の彼に対しての感情を知っている兄としてはいささか困ったものなのだ。
さっさと一人に決めてしまえ。恋愛からの痛手より回復するには時間がかかる――なにせ、なんの因果か、こいつは妹の競争相手が山盛り特盛の学校に編入されてしまったのだから。
いや、いい奴なのだ。そこは弾は胸を張って主張できる。
ただし、兄としてはその修羅場に巻き添えにされたくない。出来るならば遠いところで幸せになってください、が本音である。
今現在、五反田弾はエロ本の家捜し、もといIS学園へと編入された友人、織斑一夏の編入の手伝いをしていた。
もちろん――友人の一夏の事を憎からず思っている妹の蘭も手伝いに来たがったのだが、予定が合わずに残念ながら断念している。とりあえず妹には『心配しなくても……一夏のパンツは土産にもらってきてやるから。俺の社会的生命と引き換えにな』と機嫌を直すよう言った。
死ぬほど殴られた事は言うまでも無い。
「で、実際どうなのよ?」
「どうって……なにが?」
「とぼけやがって。右も左も国際色豊かな女人の園だぜ? なんつーか、こう十八禁な展開……は悔しいからともかく、十五禁的な展開とか無かったのかよ?」
「おいおい、どんだけ手が早いんだよ俺」
と、すっとぼけているが――コイツの場合は自己申告がアテにならない事が多々ある。
中学時代からの付き合いであるものの、何度こいつのラブコメの背景にさせられ、いつ絞め殺してやろうか、と考えた事は両の手を扱っても数え切れない。
困ったように嘆息を吐く一夏は、厭そうにこちらを見た。
「そういうお前は――都内の進学校だろう? 量子コンピューターの勉強がしたいとか。……お前頭悪そうな外見の癖に頭は恐ろしく良いからなぁ」
「……いやさ。俺は――」
弾は、かすかに笑う。
夢があった。
IS。
人類最強の兵器。その兵器に乗り込んで闘う無敵のエース。子供のようなおおよそ現実味の無い夢。
……男に生まれた人間が、雄に生まれた生き物が――どうしてその夢を諦められる? 子供のような夢とはおおよそ実現不可能な夢を指すが……その夢を見なかった雄など何処にいる?
地上最強。天下無敵。撃墜王。英雄。
そういう言葉に心惹かれない雄など雄ではない。
「やってみたい事があったけどよ。どうにも才能がないんだわ」
おどけたように笑って肩を竦める。
そして自分は――雌ではなく、雄だから、その夢に挑む事すらできないでいる。
嗚呼、今この世の中で、最強という称号に挑む事すら許されない精気と野心に満ち溢れた雄達が、どれほどの無念と憤怒をはらわたに溜め込んでいる事か。
分かっている。自分の進路は唯の代償行為だ。
最強になれないのであれば――技術者として最強を自分で生み出す。それが――弾の選んだ、夢の残骸を掴む手段だった。
「ほんと……女人の園にたった一人の男子だなんて……」
冗談めかして弾は言う。
悔しい。悔しい。悔しい。涙を飲むぐらいには。
奇跡は狙いを外した。運命の女神は、ISに特に執着も関心も持っていない自分のすぐ傍にいた親友を狙い撃った。
『史上初のISを扱える男性』という――弾がどれほど恋焦がれても得ることの出来なかったそれを、彼は手に入れたのだ。自分にとっては金銀財宝などよりも遥かに意味のある崇高な宝物を、手に入れたのだ。
「羨ましくて……死にそうだ」
「はは」
一夏は笑う。弾の言葉が心の底からの本心であるなどと気付かず。
……きっと彼は、周りが女性ばかりのハーレムとも言うべきIS学園編入が決まった事を羨んでの言葉と思っているのだろう。当然だ、この友人にはそう思わせるように弾は自分の発言をコントロールしてきた。
軽薄で、お調子者で、情誼に厚い、中学からの親友。
自分がどんな思いを抱いていたか、一夏にどれほどの嫉妬を抱いているのか――彼は知らないし、弾もそれを知らせる気は無かった。良い奴なのだ、妹も彼を慕っているし、なんだかんだで友人のために体を張る義侠心だって持ち合わせている。
分かっている。自分のこれは唯の醜い嫉妬だ――そして幸いというべきか、それとも不幸にもというべきか、弾はそれを自制する成熟した精神を持っていたのだ。
大丈夫、俺は大丈夫――親友の前で本心など明かさず、この気持ちを永遠に墓場に持っていく。
俺はそれができる男だ。
それが、出来る男だった。
それを見るまでは。
「ん? 弾?」
織斑一夏にとって五反田 弾は親友である。同年代の友人だけあってデリケートなもの……具体的にはエロ本を見てみぬふりをしてくれる繊細さは千冬姉にはないものだ。
……とはいえ、そういう猥雑本を女しかいない寮に持っていくことはできないから親友である弾に全て預ける事になっている。エロ本を預ける事が出来る親友なんて一生涯掛けても見つかるかどうか。
そんな彼が――ゴミ箱の前で蹲り、肩を震わせているのを見て……一夏は思わず声を掛けようとする。
その時の彼の顔を、一夏は生涯忘れないだろう。
怒っている。
心の底から――激しい激怒の炎を、本気の殺意を眼差しに込めていた。
一夏は一度――第2回モンド・グロッソ決勝戦当日に誘拐された経験があるが……誘拐のプロフェッショナルが見せた機械的な凄みよりも、より激しく原始的な怒りと憎しみの感情を叩き付けられ、思わず息を呑んだ。
眼差しだけで人を殺せそうな剄烈無比の眼光。襟首を掴み上げる力は、抗する事も許さず彼を空中へと吊り上げた。こんなに力が強い奴だったのか? ……まるでなにか肉体を酷使する職業に付く為に準備として鍛えていたような腕力だ。
「なんで……」
足元に打ち捨ててあったのは――電話帳。
いや、目を凝らしてみれば分かる。一夏が電話帳だと思って捨てたそれは、IS学園における基礎学習事項を詰め込んだ教科書であり、編入する前に送られてきた教材だった。
「……なんで……!!」
一夏には、どうして弾がこれほどまで激怒しているのか理解できない。どうしてゴミ箱に捨てられていた電話帳を見て彼が泣きそうな顔をしているのか判らない。歯軋りをする姿も激情を露にする様子も――今まで一度も見せたことのない、想像すらしなかったものだった。
「……なんで……お前だけが……!!」
負の感情――弾が覚えていたのは堪え難い嫉妬と怒り。
まるで幼い頃に泣く泣く諦めた高嶺の花だった片思いの人が、今の恋人にまるで大切にされていないような光景に……関係者にしか配られない資料をゴミ箱へ放り込むそのぞんざいな扱いに、弾は歯軋りの音を漏らす。今まで影すら見せたことも無かったISへの憧れを無造作に踏み躙られ……弾は、キレた。
もちろん――人類初の男性でISを操れるという一夏を影ながら護衛しているSPが弾の暴行を見逃す訳も無く。
どこからかわらわらと沸いて出た黒服に押さえ込まれながら――弾は吠えた。何故これほど色濃い憎悪を叩き付けられるのかまったく理解できず呆然とする一夏に、弾は吠え続けた。
「なんで……なんで……なんでお前だけが、なんで……お前なんだああぁぁぁ!!」
きっと――日本のIS関連の人間は自分に対してマークを始めただろう。
恐らく日本のどこかに諜報機関では誰かの机の上に自分のパーソナルデータが山済みにされているはずだ。迂闊な発言などしたことはないが、洗いざらいプライバシーを調べられていると思うと流石に不快だ。
一人自室で――食事も拒み、兄の只ならぬ様子に心配の声を上げた蘭も無視し、弾は一人、電気もつけない部屋で唸る。
SPに連行され取調べを受けてきた――背後になんらかの組織が存在しないかを徹底的に尋問され……弾は素直に全て応える。隠す事など何も無い。誰でもいいから憤懣をぶちまけたかった。冷静さを抑えきれなかった。
自分はクールだったはずだ。憧れも夢も飼い慣らすことができたはずだったのだ。……だがあれを見た瞬間、嫉妬と悔しさで感情の堰は決壊した。
「俺は……自制できる男のはずだ」
拳を握り締める。
「一夏がISを使うって決めたなら――祝福してやれば良い……あいつには適正があった、それだけの話だ、それだけの話なんだ……!!」
歯を噛み締める。
「なのに、どうしてこんなに悔しいんだ!! 諦めたのに、捨てたのに、もう現実的な生き方しかしないと決めたのに!!
どうして俺はまだ……ISに恋焦がれているんだ!! 手に入らないものを手に入れたいとそう思っているんだ!!」
壁を殴りつけた。……音ぐらい聞こえているはずだが、蘭は兄の只ならぬ様子を察しているのか何も言わない。今はただ、優しい無干渉がありがたかった。
酒が飲みたい。まだ未成年だが。
少なくともこの胸をきしませる激しい嫉妬とたまらない悔しさを消せるなら酒気で頭を濁らせたい。
弾は――五反田食堂でお客に出す用の酒をちょろまかして、レジに代金を置くと親の目を盗み一人瓶を傾ける。生まれて始めての犯罪。
飲んだのは一瓶のみ。……初めて酒を飲んだことでアルコールに弱かったと発覚した自分の体質が――これほどありがたいとは思わなかった。
それが、指に掛かっていると気付いたのは未だに脳髄が酒気で酩酊したままベッドに倒れ込んだ状態で半覚醒した時だった。
部屋には誰もいない。鍵も掛かっている。学校では学年主席の弾は、親の信頼も厚くきっと酒を飲んで酔いつぶれているなど想像もしていないのだろう。
だから誰も入った人はいないはずなのに――何故か奇妙なストラップが指先に絡まっている。
まるで――狗のような頭部。
ロボットの首から上、まるで下半身を千切られたようなデザイン。首の一番下には球体が埋まっている。
それが何なのか理解できぬまま、五反田弾は指を伸ばしてそれに触れ――そして、声を聞いた。
『始めまして。独立型戦闘支援ユニット『デルフィ』です』
そこまで行って――弾は思い出す。これは、ISの待機状態――だがそれはないな、と透徹した理性が酒で願望が形を成したのだと警告する。無感動な瞳で彼は言葉を聞いた。
『プログラムされていた予定条件を満たしました。システムに従い、本機<ANUBIS>はフレームランナーの元に量子転送完了』
聞こえてくるのは女性の声。機械的な平坦口調であるにも関わらず、どこか温かみを思わせる響きを含んでいた。
『操作説明を行いますか?』