2010年12月3日 7時3分 更新:12月3日 8時47分
国際テロに関する警視庁資料とみられる文書流出を巡る波紋は、発覚から1カ月過ぎた今も収束する気配はない。資料を掲載した本の出版を巡り、東京地裁は11月29日に販売差し止めの仮処分決定を出したが、出版社は差し止めを求めた2人に関する部分を削除したうえで、改訂版を出す方針だ。インターネット上からの全データのダウンロードは世界で1万件を超えた。警視庁が「調査中」だとして資料の真偽を明らかにしない中、プライバシーの拡散状態が続く。【内藤陽、村上尊一、臺宏士】
警視庁が流出を把握したのは10月29日夜。今も「内部文書かどうか調査中」との立場だが、内部からの意図的流出の可能性が高いとみて調査を続けている。内部資料とみられるにもかかわらず調査が続く理由を警察幹部は「資料を現物とつき合わせ作成時期を絞り、そのうえで的を絞った聴取をしなければならない」と説明する。
仮に内部資料と判明しても、公式に認めにくいとの指摘もある。「インテリジェンス(情報活動)」で収集した情報の秘匿は世界共通のルールで、認めることは海外の治安・情報機関からの信頼を失う懸念があるからだ。
こうした中で起きたのが第三書館(東京都新宿区)による「流出『公安テロ情報』全データ」(469ページ)の出版。出版差し止め決定後、同社は、地裁が問題視した宗教活動など(4ページ半分)を削除し改訂版として12月上旬に販売再開する。
北川明社長は毎日新聞の取材に「イスラム教徒をテロリスト扱いするのはおかしい。警視庁は流出を認めていない。提示することで読者に判断を任せようと思う」と話した。
しかし、改訂版でも差し止めを求めた人以外のプライバシー情報は残されたままだ。仮処分申請の代理人・河崎健一郎弁護士は「決定の趣旨を踏まえて公人ではない人の個人情報については、包括的に削除するなどプライバシーに配慮した出版方法があるのではないか」と指摘する。
一方、ネット上にはデータが流出したままだ。情報セキュリティー会社「ネットエージェント」によると、10月28日から約1カ月で世界22カ国・地域で1万286人が文書を入手、うち国内が1万24人を占める。同社は「200人未満だった10月29日ごろであれば拡散を防ぐ技術もあった」と指摘し「1万人を超えた今は、拡散を防ぐのは物理的に無理だ」と話す。
国内の情報機関が作成したとみられる文書を巡っては、当局が真偽を明らかにしないケースもある。07年に共産党が発表した陸上自衛隊情報保全隊作成とされる内部文書を巡る訴訟で、国側は文書の真偽について認否を拒否。代理人の小野寺義象(よしかた)弁護士は「誰が文書を作ったというのか」と話す。
今回の流出について複数の警視庁幹部は「うやむやにして警察としての信頼が失墜する方が影響が大きい」と話す。調査が進んだ段階で対応を表明するとみられるものの、見通しはたっていないのが現状だ。