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天声人語

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2011年2月1日(火)付

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 ジョークの宝庫といえば結婚である。哲人ソクラテス曰(いわ)く。「まず結婚せよ。良妻を得れば幸せに、悪妻なら君は哲学者になるだろう」。青木雨彦さんの『洒落(しゃれ)た関係』から男のざれ言を続ける▼夫の証言。「新婚の妻は食べてしまいたいほどかわいかった。あの時食べときゃよかった」。もう一つ。「金曜に結婚すると不幸が起きるというのは本当ですか」。「もちろん」と劇作家のバーナード・ショー。「金曜だけが例外でいられるはずがない」▼最後のは、必然を言いたい時に応用が利く。以前なら「月曜に起訴されると有罪になるというのは……」と、問いを換えることもできた。検察の信頼が揺らいだ今は「いや、月曜には例外もある」と答えざるをえない▼その検察が諦めた小沢一郎氏の「疑惑」を、検察審査会が法廷へと押し出した。強制起訴された氏は検察嫌いの上、素人の検審が新聞やテレビに流されたと思っているのだろう。無罪を前提に辞職も離党もしない意向という▼民主党の幸不幸は、思えば小沢自由党との「結婚」に始まる。今や別居寸前だが、菅首相が「あの時…」と悔やんでも遅い。たくさん生まれたチルドレンは多くが小沢氏につき、家を出るならそっちと言わんばかりだ▼被告席から政治闘争を構える「党内党」を背負い、ねじれ国会の針山を登る首相。今さら哲学者にもなれない。ソクラテスは「天下を動かすには、まず自ら動け」と諭したが、動きようがない。次々と降りかかる難題を前に結束すべき時に、ああ犬も食わない権力劇である。

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