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社説:ダボスと日本 「開国」は政治家の心から

 特に何かを決める国際会議というのではない。米ウォール街を代表する資本家や大企業の経営者らが参加することから「金持ちクラブ」などとやゆされることもある。しかし、スイスのスキーリゾート、ダボスで毎年1月に開かれる世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)は、地球規模の「時のテーマ」について各界を代表する参加者がさまざまな発言、提言をし、注目を集めてきた。

 41回目の今年は、35カ国以上の首脳、1400人を超える経済人が参加し、菅直人首相も講演や有識者らとの懇談を行った。日本の首相で過去に出席したのは森喜朗、福田康夫、麻生太郎の3氏のみである。国会日程の合間をぬってスイスの山奥まで出かけていくのが物理的に困難だったことが大きい。

 今回の菅首相も現地滞在がわずか6時間ほどで、しかも多くの有力参加者が帰途に就いた後の現地到着となった。それでも、経済界も含め、国際的な場における日本の存在感が低下していた中、首相が直接、考えを語った意義は大きかったはずだ。

 首相は、内向きになってしまった日本を、外に向かって開かれた国へと変えていく決意を強調した。また、「絆」をキーワードに、人と人とのつながりが大切にされる社会を国内外で築いていく意欲も見せた。中国が過去最大の“代表団”を送り込み、その経済規模で世界の耳目を集める一方、こうした新しい価値の発信・普及は、今後、日本が力を入れていくべきことかもしれない。

 ただ、首相が機会を生かしきれたかといえば、そうではなさそうだ。

 今年のダボスで話題となった問題の一つは、金融危機後の各国の財政悪化だった。景気回復と財政再建をどう両立させるか、どちらにより軸足を置くべきか、などをめぐり熱い議論が交わされた。

 日本は言うまでもなく先進国一、政府の借金が膨れあがった国である。数日前には、国債の格付けが引き下げられた。菅首相が、本気で財政の立て直しに取り組む決意を表明する絶好の機会となり得たはずだ。

 もう一つ残念だったのは、世界貿易機関(WTO)の自由化交渉についてである。日本を「開国」していく具体例にWTO交渉の推進を挙げた点はよいとしても、年内妥結に向けた政治の指導力発揮を各国に熱く訴えかけるべきではなかったか。

 日本の政治家が外に向かって発信できる場は何もダボスに限らない。日本の政治家は閣僚や与党議員だけでもない。野党を含め、もっと国外のいろいろな場で交流を持ち、発信、受信を積極的に行うべきだ。日本の「開国」は、まず政治家の意識改革から始まる。

毎日新聞 2011年2月1日 2時31分

 

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