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きょうの社説 2011年2月2日
◎固まらぬ一括交付金 自由度高めるはずだったが
石川、富山県で2011年度予算編成が本格化するなか、政府が打ち出した一括交付金
の全体像がいっこうに見えず、受取額の試算もできない編成作業を強いられているのは、極めて異常な姿と言わざるを得ない。菅直人首相は施政方針演説で、一括交付金の創設について「政権交代の大きな成果」と 胸を張ったが、制度設計を後回しにしたツケが地方に及び、不満や戸惑いが広がっている現状をみれば、「成果」と言い切るのは早計だろう。 石川県などでは、従来の補助金の仕組みを踏襲して予算を組み始めている。時間が限ら れるなかではやむを得ない措置である。だが、そうなれば地方の自由度を高めるという一括交付金の趣旨は編成段階で生かされず、不確実な要素が見込み部分を多くし、かえって自由度が制約されることにもなる。自治体から「これでは補助金の方がましだった」との声が出るのも当然だろう。政府は対象事業の具体的な範囲や配分方法などを、できる限り早く示す必要がある。 一括交付金は政府予算案で都道府県向けに5120億円が計上された。9割が継続事業 分、残り1割が人口や面積など客観指標に基づき配分されることが決まっている。第一弾として8省庁の九つの補助金が統合されたが、詳細な配分ルールは明らかになっていない。このため、自治体は補助金の仕組みを参考に予算を組まざるを得ず、一括交付金とは名ばかりの状況になっている。 地方の予算編成に配慮するなら、昨年末の政府予算案決定の段階で具体像を示すのが筋 だった。民主党政権は一括交付金を地域主権改革の柱と位置づけたが、昨年秋の時点で、府省が交付金化を容認したのは計28億円にとどまった。何とか5千億円強まで上積みしたが、規模を優先し、肝心の制度設計まで手が回らなかったのが現実だろう。 全国知事会は先月、具体像の早急な提示を求める緊急声明を出した。補助金を一括交付 金化した結果、国からの総額が増えたのか減ったのかも知りたい点である。そうした全体の構造を見極めてこそ、動き出した改革の方向性も正しく評価できよう。
◎国外の邦人救出 詰めておきたい検討課題
騒乱状態のエジプトに足止めされていた邦人観光客らが、日本政府が用意したチャータ
ー機でイタリア・ローマに出国した。チャーター機の派遣は、国民の安全を確保すべき政府として当然の措置である。これを機に、国外の紛争や災害など緊急事態における邦人救出態勢の見直しに向けて議論を詰めておきたい。緊急時に在外邦人を安全に退避させる問題に関して、菅直人首相は最近、朝鮮半島有事 の対応に言及し、韓国への自衛隊出動の可否が議論の的になっているが、これに加えて政府専用機の運航についても課題が浮上している。 現在の政府専用機「ボーイング747―400型」は、北米や欧州まで無給油で飛行で き、約150人の輸送が可能という。所属は航空自衛隊であるが、機体整備は日航に委託されている。 しかし、会社更生中の日航は、燃費の良くない同型機の運航を3月末で打ち切る方針で 、いずれ機体整備からも撤退する。これにより、現在の政府専用機の整備を自衛隊が独力で行うか外国の航空会社に委託するか、あるいは新機種に変更するかどうかの判断を迫られることになったのである。 機体整備の設備を自衛隊が持つことや、新機種への買い換えは財政負担が大きいため、 政府専用機をやめて、チャーター機にする案も出されている。実際、政府専用機を持たない国はあるが、国民救出の場合の航空機確保に関しては、慎重な検討が必要である。 例えば、緊急時の外国機チャーターは、それぞれの航空会社の国民が優先されるため、 確実に確保できる保証はない。国内機では、危険地域への飛行を拒否する乗務員が出てくる可能性も否定できない。米国防省はいざという時、民間航空機を徴用する権限を持っているが、現在の日本ではそうした制度は現実的ではない。 菅内閣の昨年の「政策コンテスト」では、政府専用機維持費の防衛省要求はC判定と低 く、「将来の在り方を検討する必要がある」と廃止を視野に入れた厳しい評価を受けたが、財政面から論じて済む問題ではなかろう。
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