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2011年2月2日(水)付

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主婦の年金―この不公平は許されない

サラリーマンの妻を主な対象にした年金の「3号被保険者」の扱いで、正直者が損をする状況が生まれている。行政がつくったこの不公平を放置することはできない。3号は自分で保険料[記事全文]

日韓経済―アジア先進モデルを競う

アジアの先進国モデルは日本だけ、と言えた時代が過去のものになろうとしているようだ。韓国経済の近年の発展が、技術や製品も含めて新たな先進モデルとして認められつつある。米シ[記事全文]

主婦の年金―この不公平は許されない

 サラリーマンの妻を主な対象にした年金の「3号被保険者」の扱いで、正直者が損をする状況が生まれている。行政がつくったこの不公平を放置することはできない。

 3号は自分で保険料を払わなくても年金に加入できる。しかし、夫が脱サラしたり、本人の収入が多くなって扶養を外れたりすれば、妻は届け出をして3号から1号被保険者になり、保険料を払うことが法律で義務づけられている。夫がリストラで職を失った場合も同様だ。

 ところが、本人が届け出をしなかったため、3号のままの記録になっている人が数十万人から100万人もいることが分かった。

 そこで厚生労働省は今年1月から、こうした人たちに最近2年分の保険料を請求するが、それ以前は、夫がサラリーマンをやめるなど3号に該当しない期間でも3号と認めることにした。

 届け出をして1号に切り替え、保険料を納めてきた人に比べて不公平だ。

 従来は届け漏れが見つかれば「未納」とされ、将来受け取る年金を減額されてきた。

 「従来の扱いだと、低年金や無年金になる人がたくさん出る」「苦情が殺到し、対応しきれない」と、厚労省は「救済」の必要を強調する。

 だが、すでに記録を訂正して、低年金や無年金になった人は救済されない。日本年金機構の現場職員からは、「今後も切り替えない方が得だという人が出てきかねない」といった心配の声が出ている。

 より公平な方法も、現場の職員や社会保険労務士から提案されている。保険料を払えるだけ払ってもらい、払えない分は加入期間としては認めるが、年金の受給額には反映させない、というやり方だ。これなら、公平感が保たれ、無年金の人を増やさないで済む。

 今回の処理方法が議論され、固まったのは長妻昭厚労相時代である。「ミスター年金」と呼ばれた長妻さんにふさわしい判断とは思えない。

 幸い、年金業務については、総務省に外部の有識者を集めた監視委員会が設置されている。厚労省とは別の立場から、くわしい経緯を調べ、点検して是正を促してもらいたい。

 今からでも遅くない。このような不公平な措置は、やめるべきだ。

 この問題の背景には、本人が届け出ない限り記録が変更されないという制度上の無理がある。さらに掘り下げれば、「保険料を払わなくても年金が受け取れる」という、3号制度が本来持つおかしさに行き当たる。

 政府は社会保障と税の一体改革の議論を始めているが、3号見直しは必須だ。サラリーマン家庭の専業主婦にも、何らかの方法で保険料負担を求める改正を検討すべきだろう。

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日韓経済―アジア先進モデルを競う

 アジアの先進国モデルは日本だけ、と言えた時代が過去のものになろうとしているようだ。

 韓国経済の近年の発展が、技術や製品も含めて新たな先進モデルとして認められつつある。米シカゴで開かれた世界最大の家電見本市で、日韓の大手が情報端末など先端技術の競争に火花を散らしたのも、そうしたうねりを象徴する風景である。

 日韓の競争は、協力と交流の深化を伴っている。薄型テレビでは、日韓が互いの部品を使い合う。日本が売る一方だった自動車部品も、韓国製を日本企業が使い出した。日本の造船メーカーで韓国大手の元役員が活躍する。中東で日韓企業連合が発電所を建設・運営。日本の百貨店が、ソウルの百貨店に学ぼうとしている。

 かつてはアジアで唯一の先進国・日本を韓国などが追っていた。空を飛ぶ雁(がん)の群れにたとえて「雁行型の発展」と呼ばれた。だが、グローバル化とデジタル化という環境変化に素早く適応したサムスン電子など韓国企業は独自の発展の道を見いだした。

 先進国クラブといわれる経済協力開発機構(OECD)に韓国はアジアで日本に次いで加盟。途上国を助ける開発援助委員会のメンバーとなった。昨年はG20サミットを議長国として成功させた。1人当たりの国内総生産(GDP)も物価の安さを踏まえれば、日本と大差がなくなった。

 台湾、中国沿岸部を含めた東アジアは世界有数の高所得圏に向かって進みつつある。日韓はその中で、補完・触発し合いながら産業社会の先進モデルを示す役割を担いそうだ。

 韓国企業の強さの理由はさまざまに指摘される。1997年の経済危機で再編やリストラが進んだ。危機をバネに変えた力は、世界最高のものから謙虚に学び、辺境市場まで知ろうとする熱意だろう。

 日本の産業界には、次世代技術で負けるのではないかとの脅威論がある。安い法人税や為替のウォン安、国内寡占市場などに批判もある。だが、突き詰めれば企業が「売る力」を取り戻し、正攻法で競い合うほかない。それだけに、合弁や共同事業などを通じて互いの実力をもっと知ることがますます重要ではあるまいか。

 日韓の自由貿易協定(FTA)の交渉はなかなか進まない。65年の国交樹立から続く韓国の対日貿易赤字が壁のひとつだ。しかし、対日赤字は韓国企業の買う力、つまり世界に売る力の表れでもある。その実態を踏まえ、打開の道を見いだせるはずだ。

 日韓は、急速に進む少子高齢化や格差拡大など共通に抱える問題も多い。それらを克服して「豊かさ」のモデルを示すためにも、両国の競争と融合をテコにした興隆の新時代を築きたい。

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