東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 科学 > 科学一覧 > 記事

ここから本文

【科学】

種子島だけじゃない 新型ロケットは「内之浦」発

2011年1月31日

イプシロンの打ち上げに使われることになったロケット組立棟と整備塔。右は、展示されているM5の試験機=鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所で

写真

 二〇一三年度の初飛行を目指す新型ロケット「イプシロン」の発射場が、内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)に決まった。日本初の人工衛星を打ち上げ、宇宙科学をけん引してきた伝統の発射場だが、〇六年以降は衛星や探査機の打ち上げが無し。H2Aなどを打ち上げる種子島宇宙センター(同県南種子町)への一本化も検討されていた。存続の危機を乗り切った「内之浦」が新たなスタートを切る。 (榊原智康)

■古参

 太平洋を望む大隅半島の内之浦地区に発射場が造られたのは一九六二年。日本のロケット開発の父と呼ばれる故糸川英夫博士が移設を決めた。それまでは秋田県の日本海岸にあったが、ロケットの性能が上がり、機体の残骸が日本海を越えて大陸に落ちる可能性が出てきたためだ。

 七〇年に日本初の人工衛星「おおすみ」を打ち上げて以来、主に科学衛星や探査機を送り出してきた。世界最大の固体燃料ロケットだったM5は、小惑星探査機「はやぶさ」などを打ち上げたが、二〇〇六年の7号機を最後に廃止。その後は小さな観測ロケットだけで、衛星などを載せた本格ロケットの発射は四年以上なかった。

 後継機のイプシロンは、コスト削減のため一段目にH2Aの固体補助ロケットを転用する。補助ロケットは種子島で製造されており、効率化のため発射場の種子島への一本化が検討されていた。

 宇宙機構は今月十二日、運用性、安全性、コストなどを比べ、イプシロンを内之浦から打ち上げると決定。立川敬二理事長は会見で「内之浦はM5の施設が使え、新たな施設が必要な種子島より初期投資が安い。また、発射場を一カ所にすると事故で閉鎖になった場合の影響が大きい」と説明した。

 内之浦では改修の準備が始まった。「M5の施設を最大限活用する」と峯杉賢治・同観測所所長。イプシロンの全長は二十四メートルでM5より六メートル短く、組立棟や整備塔は大幅改修せずに使える。

 また、打ち上げ作業を簡素化してコストを下げるのが特徴だ。ノートパソコン数台で操作することを目指し、大掛かりな管制室は必要なくなる。

■垂直

 同観測所は海を見下ろす山腹にある。これまで発射装置を海側に傾けてロケットを斜めに打ち出していたが、イプシロンは振動を減らすため垂直に打ち上げる。このため、打ち上げ時に立ち入り禁止となる「退避区域」はM5の半径二・一キロよりやや広がる。峯杉所長は「発射後にロケットをなるべく早く海側に向かわせ、住民生活への影響を最小限に抑えたい」とする。

 イプシロンの初号機には惑星大気を観測する科学衛星「スプリントA」を載せる。宇宙機構は基礎部分を共通化した小型科学衛星「スプリントシリーズ」の開発を進めており、五年に三基のペースで打ち上げる計画だ。

 このほか、無人宇宙実験システム研究開発機構の小型地球観測衛星「ASNARO(アスナロ)」や大学の超小型衛星の打ち上げも想定する。科学衛星だけでなく、今後ニーズが高まる小型衛星全体の発射場所として活用する方針だ。

 イプシロン開発を担当する森田泰弘・宇宙機構プロジェクトマネジャーは「目標は宇宙への『敷居』を下げること。宇宙利用を活性化させる起爆剤となる発射場になれば」と期待する。

■沸く

 内之浦宇宙空間観測所は老朽化し、存続も危うかった。そんな中での朗報に地元の肝付町は喜びに沸く。

 試算では、M5の打ち上げで一機当たり約一億五千万円の経済効果があった。打ち上げが途絶えて四年余。訪れる関係者や観光客が減り、数軒の民宿が閉じたという。漁業と農業が中心の町は過疎と高齢化が進む。民宿を営む肝付泰次さん(84)は「これで活気が戻る」と声を弾ませる。

 誘致に奔走した樋口弘志・内之浦総合支所長は「ロケットは町の誇り。町民のほとんどが胸をなで下ろしたのが正直なところ。町の活性化につなげ『内之浦』を全国に発信したい」と意気込む。

写真

 <内之浦宇宙空間観測所> 東京大生産技術研究所の付属施設として1962年に発足。81年には文部省宇宙科学研究所の付属の研究施設となり、2003年に宇宙航空研究開発機構へ統合され現名称に。カッパ(K)、ラムダ(L)、ミュー(M)と続く国産の科学観測用ロケットの発射場として使われ、設立以来、大小393機のロケットと、27基の衛星や惑星探査機を打ち上げてきた。

 <イプシロン> 固体燃料の3段式ロケット。全長24メートル、重さ91トン。高度250〜500キロの低軌道に1.2トンの衛星を上げられる。総開発費205億円。組み立てや点検を効率化し、1機の打ち上げ費は約38億円を目指す。

●記者のつぶやき

 発射場の決定の知らせが肝付町に届くと、防災行政無線で町民に「速報」され、庁舎に垂れ幕が掲げられた。小型ロケットで宇宙利用のすそ野を広げる「中心地」になれるか。内之浦の新たなステージに注目したい。

 

この記事を印刷する

PR情報





おすすめサイト

ads by adingo