1109分、長友が左サイドからクロスを上げた。オーストラリアのDFは長友の突破でニアサイドに引き寄せられている。中央には11分前に途中出場した李ただ一人。李はためらわず腰を沈めてボレーの体勢になった。左足は丁寧に、だが当てるだけではなく、鋭く振り抜かれる。芯をとらえられたボールは、一歩も動けなかったGKを横目に、ネットにすっと吸い込まれていった。この試合でただ1回のゴールが生まれた瞬間だった。
 
前半から日本の動きは鈍かった。それでも9分、GKが飛び出してがら空きのゴールをめがけて長友がロングシュートを放つ。日本の前半最大のチャンスは37分。左サイドで短くパスをつなぎ、本田から縦にパスが出ると遠藤が走り込んでいた。遠藤は前田に落とすが、前田のシュートはゴールをとらえられない。

オーストラリアはケーヒルとキューウェルの2トップを生かして反撃する。次々とクロスを入れて身体能力の高さを生かす攻めだ。16分、ケーヒルがヘディングでつないだボールをキューウェルがゴールのすぐ前でコースを変えるが、これは川島が驚異的な反射ではじき出した。

後半に入ると日本の動きはさらに悪くなった。オーストラリアのクロス攻撃はさらに激化する。49分、クロスがバーに跳ね返るところをケーヒルに押し込まれそうになったが吉田が何とかクリアした。

ザッケローニ監督は56分、藤本に代えて岩政を投入し、吉田と岩政を守備ライン中央に据え、今野を左SBに回し、長友を左MFとした。当初今野をボランチに上げる策もあったようだが、結果的には長友を左MFにした作戦が当たることになる。

岩政の投入でクロスは抑えられるようになったものの、日本は反攻に移ろうとしても単発の攻めに終始する。後半の決定機は66分、長友のクロスに岡崎がダイビングヘッドで合わせた1回だけ。オーストラリアのプレッシャーは容赦なく日本を痛めつけ、72分と87分にはキューウェルが川島と1対1になる場面を作られてしまった。

なんとか無失点でしのぎ、延長戦を迎えた日本だったが、一向に状況は改善されなかった。103分、クルーズのシュートは、川島が跳ね返す。そして延長も後半になり、PK戦の時間が近づいてきたとき、『ドーハの奇蹟』が起きた。

もしもオーストラリアが1点を奪えば、そのまま大差がついた試合になったかもしれないほど、展開は一方的だった。だが、決定機を何度も決められないと相手に勝つチャンスが生まれる。日本はじっと耐えてそのチャンスを待った。ゴール以外は不格好ではあったが、耐える力は十分に誇れる戦いだった。だからこそ、日本は4回目の優勝を果たしたのである。

現地レポート/森雅史