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2011年2月1日(火)付

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小沢氏起訴―市民の判断に意義がある

民主党の小沢一郎元代表が、政治資金規正法違反の罪で起訴された。検察審査会の2度の議決を受けたもので、ふつうの市民が政界の実力者を刑事被告人の座に据えたと言っていい。いっ[記事全文]

エジプト危機―ムバラク氏は即時辞任を

つい1週間前まで、エジプトは冬の観光シーズンを迎えて外国人観光客でにぎわっていた。今は国外への避難を求める外国人が空港に殺到している。30年続いた非民主的な強権支配に、[記事全文]

小沢氏起訴―市民の判断に意義がある

 民主党の小沢一郎元代表が、政治資金規正法違反の罪で起訴された。検察審査会の2度の議決を受けたもので、ふつうの市民が政界の実力者を刑事被告人の座に据えたと言っていい。

 いったん検察が起訴を見送った事件だ。裁判の行方は予断を許さない。

 起訴の権限は検察が長く独占してきた。足利事件のような大きな過ちもあるものの、有罪が確実に見込まれるものだけを起訴する運用により、有罪率99%という刑事司法を作りあげた。

 それは一定の評価を得る一方で、裁判の形骸化をもたらした。検察が強大な権限をにぎることになり、独善的な体質を生む素地ともなった。

 検察審による強制起訴はこれに風穴を開けた。検察がとってきた起訴と不起訴とを分ける基準や個々のケースへの対応は、一般の感覚と正義感に沿うものか。問い直す機会を市民が初めて得たと言っていいだろう。

 今回問題になったのは政治資金規正法の解釈・運用だ。これまで検察は、収支報告書に実態と異なる記載があっても、ヤミ献金など重大悪質なものでなければ摘発対象とせず、また、実務担当者を超えて政治家本人の責任まで問うには、よほど確かな証拠が必要だという方針で臨んできた。

 これに対し検察審は、規正法が目的に掲げる「国民の不断の監視と批判」を言葉だけのものにしてしまう、ずさんな記載のありように、より厳しい目を向けた。政治資金の流れの透明性を重視する姿勢は、検察が「小沢氏自身の関与を裏づけるとまではいえない」と判断した秘書らの供述を、積極的にとらえ直すことにもつながった。

 裁判でこうした点がどう評価されるか、軽々に予測できない。検察審を引きついだ指定弁護士の言い分が否定される可能性はあるし、訴追される側の負担にも配慮が必要だろう。

 だが、国民が抱いた疑問をうやむやにせず、法廷という公の場で議論し、裁判所の判断を求める。その意義は、日本の政治や司法制度を考えるうえで決して小さくない。起訴イコール有罪といった決めつけはせずに、冷静に公判の行方を見守りたい。

 政治の側が早急に取り組むべき課題もある。今の収支報告制度は、秘書任せ・他人任せを容認する内容になっている。報告書に政治家本人の署名を義務づけるなど、自覚を促し、責任を明確にする仕組みに改めるべきだ。

 小沢氏は、検察による起訴と強制起訴との違いを強調して離党などを否定した。その時どきで都合のいい理屈を持ち出し、国民に正面から向き合おうとしない姿勢には失望を禁じ得ない。

 法廷で争うことと、政治家として責任を果たすことは別問題である。国会での説明すらできないのなら、自らしかるべく身を処すのが筋ではないか。

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エジプト危機―ムバラク氏は即時辞任を

 つい1週間前まで、エジプトは冬の観光シーズンを迎えて外国人観光客でにぎわっていた。今は国外への避難を求める外国人が空港に殺到している。

 30年続いた非民主的な強権支配に、民衆の怒りが一気に噴き出した。事態が数日の間にこれほど切迫すると誰が予測しただろう。

 民主化を要求する民衆と、居座るムバラク大統領との間で、エジプト危機はますます深まっている。

 デモ隊と治安部隊の衝突は先週末に激化し、警察の銃撃などで100人の死者が出ているとの報道がある。

 政府は夜間外出禁止令を出して軍を出動させた。警察や治安部隊は治安維持の任務を解かれた。

 警察が姿を消した後、一部では略奪が起こったが、即座に地域の住民たちが自主的に自警団を組織して町を守る動きが広がっている。

 ただし、警察不在の状態が長引けば国民生活は早晩、危機に直面する。学校も、銀行も、政府機関も、閉まったままだ。都市部では食料やガソリンなどの不足が出始めている。

 政府はデモに参加する人々の連絡を絶つため、インターネットを停止し、一時は携帯電話も止めた。しかし民衆を止めることはできなかった。

 民衆パワーは、自分たちで地域の安全を守ることでも発揮されている。エジプトでの社会のつながりを感じさせるとともに、民衆の間での対立とならないのは、民主化が幅広い国民の支持を得ている証しでもある。

 ここまで国民の支持を失ったムバラク大統領には、国を危機に陥れた責任がある。今秋の任期満了を待つことなく、直ちに辞任すべきだ。

 国の再出発は全政治勢力が参加する暫定政府に委ね、できるだけ早期に大統領選挙と議会選挙をして、民意を問うべきである。

 ムバラク政権の一番の支援者だった米国も、エジプトでの民主的な政権への「移行」を支持した。日本政府も明確な意思を伝えるべきだ。

 情勢の激化の速さは予想を超えている。これ以上の流血と混乱を避けるため、国際社会はムバラク政権に強く、迅速に働きかけてほしい。

 民主化を求めるデモ隊は政府が抑えつけようとしないかぎり、平和的に訴えている。心配なのは、警察に代わって配置されている軍との衝突だ。

 軍はデモ隊への武力行使を否定しているが、今後、情勢がさらに緊迫しても不介入の方針を貫くべきだ。

 ムバラク大統領も、今回指名された副大統領も軍出身である。民主化は、ムバラク退陣だけでなく、軍主導体制の終わりを意味する。

 ムバラク政権と軍の双方に、国際的な圧力が必要だ。軍が民衆に銃を向ける事態だけは避けねばならない。

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