「心技体の充実」をモットーに、アマチュアリズムに徹し、地域の人たちと地道に歩んでいるのが大竹市小方の「大竹ボクシングクラブ」(小出義生会長)だ。1983年にクラブを創設、長年場所を変え練習を続けてきたが、5年前に現在地にジムが完成してから昨年初めて王者が誕生するまでになった。現在40人の若者が厳しいながらボクシングを楽しんでいる。
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広島県は昔からボクシングの愛好者が多く、現在プロ6、アマ6つのジムがある。「大竹ボクシングクラブ」はアマチュアジムの一つだが、地元の体育協会に所属、文字通り地域に根ざしたジムである。
創設者の小出義生会長(51)が自身の若いころの苦しかった体験を基にコーチ資格を取得。「青少年の健全育成」を目標に、ちびっ子ボクシングクラブを立ち上げた。
クラブといっても決まった練習場があるわけではなく、大竹市内のあちこちの施設を借りながらの練習を続けてきた。それでも「小さいころからボクシングに親しませることが大きくなって役立つ」という同会長の信念が、やがて地元の人たちに理解されるようになり、現在のクラブにつながった。
5年前に完成した今のジムは小方中のプレハブ倉庫を改造したもの。決して立派とはいえないが、ここに通うボクシング愛好者の心は真っ青な空のように爽快だ。
クラブの自慢はジム創設時に通った人たちの多くが、今でも理事、指導者として側面から応援し続けていることだ。小出会長の長男・剛史さん(29)も強化コーチとして、角井竜次さんと二人三脚で熱心に指導を続けている。
「子どものころ親父から厳しく指導を受けた。ボクシングから学んだことが、社会人になって大いに役立っている。愛情を持って指導することが大事」と率先してミット打ちの相手をする。トレーナーの巣守さん(24)も仕事との両立が難しく現役を断念。アドバイザーを兼ねて後進の育成に努力している一人だ。
そんなクラブから昨年、待望の初王者が誕生した。ボクシングを始めて6年目の田村勇人さん(24)が昨年の全日本社会人選手権(11月・埼玉県和光市)のライトウエルター級で待望の王者に輝いた。
宮島工高時代、サッカー部に所属していたおかげで足に自信を持ち、自慢のフットワークで相手にダメージを与えるスタイルを自慢にしている。「今年はぜひ全日本選手権に勝ってみせたい」と、アルバイトを続けながら毎日ジムに通う模範生でもある。
田村さんに刺激を受け、小出会長から「今年のホープ」と期待されているのが大竹高3年の田村数馬君(18)だ。昨年のインターハイ、国体に出場。専門学校に進学する今年は社会人としてライトフライ級で“全国”を狙っている。「高校でできなかったことを今後に生かす。ぜひチャンピオンを獲りたい」と闘志を燃やす。
クラブの最年少ボクサー、小方小6年の吉田力也君(12)は健康コースで頑張る父親の豊さん(33)と一緒にジム通いを続けている。「サンドバッグをたたくのが面白い。これからもまじめに通って強くなりたい」と意欲的。ちびっ子ボクサーの育成を最大の目標にしているクラブ指導者のまなざしも優しい。
クラブが誕生して28年。小出会長は「今年を再スタートの年にしたい」と意気込む。今まで多忙な自営業(中国料理・鳳凰)の傍ら無我夢中で頑張ってきたが、教え子たちもようやく一本立ち、立派に育っている。
「育てることを念頭に置きながら、強いアマチュアボクサーを育てることも大事。ボクシングを通じて得るものはたくさんあるはず」と言い、リングでシャドーボクシングに励むボクサーを見つめる目は厳しい。
たとえジムの建物は立派でなくても、ジムに集うアマボクサーたちの流す汗は、どこまでもすがすがしく気持ちいい‐。