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社説:ホーム転落事故 人の助けがまず必要だ

 つえをついた全盲の男性が16日、東京のJR山手線目白駅のホームから誤って線路に落ち、直後に通過した電車にひかれて死亡した。同行していた奥さんも全盲だったという。痛ましい事故である。

 夕方だったが、周囲に乗客は少なかったようだ。降りる駅を間違え、普段歩きなれないホームで乗り換えようとした不運が重なった。

 ホームの安全対策や、古い規格の点字ブロックなど事故原因が指摘される。確かにハード面の整備は必要だが、駅やホームは人が集まる場所である。駅員はもちろん、私たち乗客一人ひとりの目配り、気配りが悲惨な事故を防ぐ大きな力になると改めて思う。

 10年前、同じ山手線新大久保駅で、韓国人留学生と日本人カメラマンが、ホームから転落した人を助けようとして亡くなった。先日、しのぶ会が開かれたが、その行動の尊さと勇気には今も頭が下がる。

 視覚障害者のみならず体の不自由な人を見かけたら声をかけ、手を差し伸べる。外国ではよく見る光景である。視覚障害者団体がかつて調べたところ、全盲者の65%がホームからの転落経験があるという。驚くべき数字だ。せめて、危険がないかその行動を見守りたい。

 昨今は、それ以前の常識さえ通用しないのが現実かもしれない。点字ブロックの上に物を置かない。つえの邪魔になったり踏んだりしない。公共の場所でのふるまいを学校や家庭でしっかり教えることも必要だ。

 もちろん、電車と接触しての死傷事故が過去最悪ペースで増えている現状では、ホームドアや可動式ホーム柵などの設置が急がれる。

 国土交通省によると、ホーム柵などの安全対策が必要とされる1日5000人以上利用がある駅は全国に約2800あるが、昨年3月時点で設置は449駅にとどまる。

 車両によって異なるドアの位置を統一させる装置改良など技術面の課題や、駅によってはホーム全体の補強が必要で多額の費用がかかるのが設置の進まない理由である。

 大畠章宏国交相はこのほど、積極的な設置を鉄道事業者に指示する意向を明らかにした。鉄道事業者としっかり検討してほしい。

 設置の際、国と自治体、事業者が合意の上で3分の1ずつ負担する制度があるが、あまり利用が進まないようだ。自治体側が難色を示すケースもあるというが、柔軟な対応が必要だ。柵に広告を募って費用の一部を賄うなど知恵も絞ってほしい。

 障害者の利用が多い駅について前倒しで設置を進めることが喫緊の課題である。点字ブロックを早急に最新の規格に変更することも必要だ。

毎日新聞 2011年1月30日 2時32分

 

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