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[25679] スリルランナー(ネタ・VRMMO)
Name: そうだ◆39a5bf8b ID:88376832
Date: 2011/01/30 08:10


 世に変人、狂人は数多くおれど。
 今日、この日ほど、その存在に憤慨した事はない。

 正面に座る、四人。 
「なんで!? なんで、創立したばかりのギルドでいきなり苦情メールと、警告メールが四通も来てるの!?」


 正座した、青く長い髪のロボっぽい肌をした女が手を上げる。
「何? ……ネイネ」
「んー……やはり、背の高いのお姉さんキャラを使ってー、年下の幼女キャラに手を出すのが人類が見てきた夢でー、追い求めてきた理想であると私は考えるのですよー」
 一人は、VRを良いことに、最近問題になっているセクハラ紛いの行為。

 その隣に座る、赤い髪を逆毛にしたエルフ耳の男が手を上げる。
「説明しなさい……ガル」
「あいつら、ムカついたからBBS荒らしてやったwww ざまぁwww」
 一人は、暴言吐きまくった挙句、特定掲示板でのマナーの悪い言動をする常習犯。

 さらに、その隣に座る、片目に眼帯をした人懐っこそうな少年が黒い笑顔で手を上げる。
「何か言いたい事があるの……クロ?」
「商品の値段とか確認せんと、警戒心無しに買う初心者が悪いんやん。これは人生の授業料や」
 一人は、自由な売買を売りにしたMMORPGで、言葉巧みに初心者を狙った詐欺行為。

 一番、端にいる。天使のような羽を持ち浅黒い肌をした少女。
「聞くだけ聞いてあげるわ……何があったのかしら……レン」
「強そうな人がいたから、つい、後ろから殺っちゃった☆ ごめんね! やっぱり、真正面から殺るべきだったよね\(^o^)/」
 一人は、ギルドを相手取った無差別なPK。


 どれも、悪質とはいえ、今までアカウント停止されなかった事が不思議なマナー違反者達。
 この四人、ゲームを始めた頃からの腐れ縁で、今までずっと一緒にプレイしてきたのだ。
 まぁ、普段は気が合う中なので、いつの間にかギルドを作ろうと言う事になっていたのだが。

「あんたち、いい加減に反省しなさいよ! ……もぅ!!」

 創設、1週間以下。

 ギルド名、スリルランナー。解散の危機に追い込まれ……否、その名の通り、解散の危機へと突っ走っていた。


 *


 最近、流行りのVRMMORPG、その中でも異彩を放つゲーム、ヴァルハラ・ブレイク・オンライン(略してVBO)。
 銃・魔法・剣・ロボ・戦車・戦闘機・宇宙生命体・核「世界観なんて気にしない!」と言う公式の売り文句が言う通り、まさになんでもアリのゲーム。

 ファンタジーとSFをごった煮してサラダボールのように押しつぶしたメインセットに、初心者には厳しく、玄人にも厳しい、ステータスよりもプレイヤーの腕を優先させ、随所に無理ゲーをセットでお付けされております。
 などと言う、某巨大掲示板で語るテストプレイヤー達の助言を皮肉だと勘違いし。
 何を馬鹿なと、笑って発売初日から始めた俺は、開始早々に初心者殺しの罠で死に、すぐにソレが紛れもない事実のみを言った言葉だと理解できた。

 だが、それが、俺に火を付けた。
 つまり、こんなにやり甲斐のあるゲームは存在しないのだと。
 一緒に始めたプレイヤー達が次々と脱落し、現実へと帰還していく中。しがみつくように、寝るまも惜しんでプレイした。


 そして、難関クエストやダンジョン、ゲームを進めていく内に、分かり合い、信頼できる仲間達が……。
「あんた達、四人ってどういう事なのよ!!」

「いやー。照れまするのですよー」
「照れるなぁ!」

「www」
「笑うなぁ!」

「まぁまぁ、これ納めるから心を落ち着けや」
「汚い金をギルドに入れるなぁ! ちゃんと返しに行けぇ!」

「(`・ω・´)シャキーン」
「武器出してどっか行こうとするなぁ!!」


 スリルランナー、今日も平常運転中。


 *


 このVBOは100人単位でやらなければクリアできないクエストがあれば、ソロでしかできないクエストもある。
 しかし、人数制限で一番多いのが5人。そして、ギルドの最少人数も5人。
 何が言いたいかと言うと。

「今回はギルドの総出でクエストとなります。皆さん、私の言う事を聞いて、くれぐれも他のプレイヤーに迷惑行為をしないようにしましょう」
「「はーい」」

 元気な返事が返ってくる、無論、返事だけだ。中身は空っぽ、ひとの言う事など聞く気も無いだろう。

「今日はー、あぬ上の命令で幼女に手を出して良いと言う事ですよねー」
「話聞けですよねー、こんにゃろー。やるなら、レンにしときなさいよ」
「やんやん☆ あぬ上のセクハラーo(`ω´*)oプンスカプンスカ!!」

 レンが嫌という意志を表明してくれるが、顔は全くの無表情、口にも出していない。
 わざわざ、レアアイテムのホワイトボードを使って棒読みの自動音声と顔文字で現してくれる。普通に言えよ、と何度言った事か。

「つか、今日って、何のクエストだっけw 忘れたしwww」
「あぬ上に聞きぃな、ワシは知らんで」

 あぬ上。
 俺の事だ。

 妹に幼女のアバターで男がプレイしていると晒されて早数ヶ月。
 天使のような微笑みでレンの「姉上と兄上どっちがいい?」という質問から始まって、じゃあ、”ね”と”に”間を取って”ぬ”にしようと。
 下手に高レベルのプレイヤーなだけに、知り合いからは問題児達のギルドマスターの”あぬ上”と呼ばれている。

「ネカマの何が悪いのよ!」
「開きなおりすぎだろw あぬ上www」

 自重などと、どの口が言い出したのかスリルランナーはいつもの如く。





[25679] 第一話、皆で戦えば勝てるって言う奴は数の利を理解している人。
Name: そうだ◆39a5bf8b ID:88376832
Date: 2011/01/29 16:29


 吼える。
 全長が40mにも届くかと言う巨大な龍が、5匹も。
 さらに、頭上にはボスらしき黄金に輝く龍がいる。

 VBDの中心に立つフリーダンジョン。別名、基地外の塔と呼ばれる、果ての見えない最難関、最大を誇るダンジョン。
 10階ごとにボスが存在し、その度に難易度も跳ね上がる。

 2年経った今でも、この40皆以上の攻略が遅々として進んでいない、数多の廃人プレイヤー達の心を折り続けた魔窟。
 一定以上のレベルを持つ高ランクのプレイヤー総勢とも思える述べ二千人での、8時間に渡る波状攻撃。

 空を覆い隠すように威圧を放っていた、百匹以上いた龍達は残すは、あの5匹。
 こちらは、役五十人。
 他は全て龍達によって殲滅されてしまった。しかし、残っているのは誰も彼もVBDをプレイしているのなら、一度は見たことがある強者ばかり。

 俺は護衛を兼ねた傭兵として雇われた、ギルドが早々にやられてしまい。
 流れ者やギルドから逸れた奴らを集めて指揮を取っていた。

 即席で作り上げた拠点を一匹の龍が巨大な火炎を吐いて破壊する。
 山一つが消し炭になるような一撃。

「もう、戦争よね」
「まーそれが、ゲームの売りの一つなんでしょー……うわー。金ピカがこっち来たよー」
 自分が作ったギルドが全滅したネイネ。彼女が言うより早く、俺達は逃げ出していた。
 どのギルドもまともにコイツの相手などできない。そもそも、この龍共からの攻撃をまともに喰らえば殆ど即死だ。

 特に後光が指すような神々しい龍の嫌らしい散弾のようなブレスで、空中にいる人間を薙ぎ払い。
 叫べば雷が落ちてきて機械タイプのキャラが昇天してしまう。
 急降下してきたと思えば、地面にヒビが入って、地割れが起きて飛べないプレイヤー達が落ちていく。
 しかも、8時間掛けて周りを集中的に攻撃したとはいえ、HPはやっと今、半分を切った所。前回はここで全滅した。

「もう、コイツがラスボスでいいでしょ!!」

 冗談じゃない、そんなくらいの強さ。
 後退しながら、魔術を放つ。

 ネイネや、他の前衛職達が護ってくれるが、その強靭な鱗と巧な体捌きに弾き飛ばされる。
 その、顔へと向けられたミサイルも銃弾も、全て合わせてHPバーをミクロ単位でしか動かさなかった。

「散開して! 生き残ってたらポイント10A 40Pで!!」

 有効な手立てと言えば、他の龍を殲滅して、全軍でボスに当たるまで逃げ延びる事。
 攻撃する手こそ止めないが、皆、疲労の色が見え隠れしていた。

 休日といえど、深夜2時すぎりゃそうなる。

「この時のために、昼間に寝てましたwww 超元気www」
「だったら、あんたが突っ込みなさいよ!」

 いつの間にか、隣で一緒にランニングをしていたガル。
 後ろからは何故か、私を追いかけてくる黄金の龍。

 ガルは手に持つ槍の先に付いた銃で攻撃するが、龍はビクともしない。
「無理ゲーwww」
「来るわよ! あんた、右。私、左! いいわね!」

 黄金龍のブレス、2秒しかないインターバルの後に、大地と空を引き裂くかと思うほどの熱線で薙ぎ払われる。
 たまたま、直線状にいた龍が一匹、はるか先で真っ二つに別れて消えていく。

「誤射、乙ーチャンス(゚∀゚)キタコレ!!」
 やる気の無い音声と共に、黄金龍の背へとチェーンソーを持った無表情の天使が舞い降りる。
 チェーンソーのガリガリと言う音が響き、龍の共通の弱点である羽の付け根の部分へとレンが攻撃する。
 今まで、様々な人がソコを攻撃していたのだろう、蓄積されていたダメージが開放されて、黄金龍が地面へと落ちていく。

 レンは反撃が来ると、すぐに後退し、別の龍へと攻撃を始める。
 俺は黄金龍の追撃から逃れると、指定したポイントへと向かう。
 途中でバイクに乗っていたクロの後ろへと乗っけてもらった。

「あんた、まだこんな所で商売やってたの……」
「ここほど、武器と回復系のアイテムが売れる所なんて見たことないんやて。ワシの商会、独り勝ちや」
「いい加減、アコギな商売やってると、何時か後ろから刺されるわよ」
「もう、三度は刺されとる」

 眼帯を付けた少年がタバコを吸いながらバイクで走る。現実なら逮捕、VRでも色々と問題になっている要素の一つでもある。
 そんなモノ、われ関せずと走るクロ。

「姐さんこそ、いい加減、どっかのギルドに腰落ち着けたらどないなんですか?」
「私は、ソロとフリーで、もう少し、なんとかするわよ」
「勿体ねー。ネイネん所からもお誘い受けてんやろ?」
 ネイネが作ったギルドは、身長140以下の少女で、可愛いキャラである事が、有名な初心者ギルドだ。
「アレはもう、ダメでしょ。色んな意味で……」

 最近、見に行った時。すでに、幾つかの派閥が出来ていて、物凄くギスギスしていて、瓦解するのに時間は掛かりそうになかった。
「元々、あいつがハーレム作りたい言うて、趣味で始めたギルドやから。結果は目に見えてましたけど。姐さんが入れば何とかなるんとちゃいます?」
「……何で私がそんな事しなきゃいけないのよ。そう言うのが嫌だから今まで、ソロでやってきたんじゃない」
「確かに……でも、姐さんがソロで攻略できるんはもう無いんとちゃいます?」
「わかってるわよ」
 話の途切れで丁度、指定していたポイントへ到着する。
 すでに何人かは来ているようだ。

「とりあえず、ここの全員に補給お願い」
「まいどありー」

 この後、さらに6時間が経過した。

「残ってるのが、私達だけっていうのも奇遇よね」
「運命でファイナルアンサーして、この胸に飛び込んで来て、さぁ、カモン!」

 残ったのは瀕死状態の黄金龍と、バラバラのギルドに所属する5人のプレイヤー。

「うはww 皆、死にすぎwww」
「レアアイテム出ねぇかなー」
「後一撃(*´Д`)ハァハァ」

 個々人としてはそこそこ有名な高レベルのプレイヤーだったが、奇しくもこの時、残った5人が。
 まだ、名前も無いギルド”スリルランナー”の初期メンバーで。
 その伝説の始まりだったのかもしれない。


 そして、その始めての伝説は。



「……アレ?」
「おや」
「ちょwww」
「あー」
「Σ(゚∀゚ノ)ノキャー」

 瀕死の黄金龍に対し、5人がかりで。
 黄金龍のHPジャスト1を残して”全滅”。

 まさに、この瞬間、VBOの第二次40皆戦線は歴史的結末に終わった。








[25679] 第二話。水面下で動く奴は、戦艦と魚雷と相場が決まってる。
Name: そうだ◆39a5bf8b ID:88376832
Date: 2011/01/30 08:10


 例の黄金龍との一戦以来、周りにいる人間の俺を見る目が変わった。
 その種類は主に三つに分かれる。

 一つ、ニコニコと人のよい笑顔で好意的なよくぞ失敗してくれたな。次は私が倒すから安心しろ。という、建前を持ったボスが落とすユニークアイテムを狙う人間。
 一つ、早々にやられて私達を本心から応援し、後一撃の所で纏めてやられてしまった、俺たちに同情してくれる人間。
 一つ、俺たち(主に他の四人)に迷惑を被った事がある。あるいわ、そんな噂を聞き、好意的に思わず、嫉妬し馬鹿にする底辺。

 そして、今、まさに俺の目の前にいるのが、そんな、底辺の人間だった。
 正しくは底辺の亡骸。
 HPのゲージが0になり、光となって消えていく。
 俺が来たときにはすでに、薙ぎ払われた後だった。

 天使のような羽を持つ機動力が高いランダムでしか出てこない珍しい種族、その中でも、攻撃と機動にのみ特化した能力。
 目立つ焼けた肌に、色素の薄い髪、そして、露出の多いへそ出し装備。本当に天使のような顔立ちと相まって、手に持つチェーンソーが猟奇的なイメージを誇張されている。

「コイツらが喧嘩売ってきたヽ(`Д´#)ノ 」

 そして、無表情に動かない顔の代わりに、手に持つホワイトボードの付属機能、棒読みのテキストリーダーが彼女の言葉を代弁する。
 特殊な性癖を持つ人達から、VBOでPKされたいランキングNO1に輝く少女でもある。

 ちなみに、今、亡骸となった男の幸せそうな表情から察するに、彼らが底辺であることに違いない。

「これも、一つのツンデレかしら……」


 レンとは、そこそこ、長い付き合いである。
 そこそこが具体的にどれくらいかと言われると、覚えていないが、一年以上の付き合いではある。
 彼女と出会ったのは、街中でいきなりPKされそうになった事が始まりだ。強そうな人を見ると、つい戦いたくなっちゃうらしい。
 基本的にVBOはどこでもPKできる仕様になっているが、流石に街中でいきなり襲ってくるのは彼女くらいだろう。

 通報されたことも一度や二度ではない。
 基本的にいい子なのだが、俺からしたら、現実での前科が無いかの方が心配だ。


「どうしたの? ……ションボリして」
 無表情ながら、レンに何時ものような元気さがない。

「ギルド首になった」
「……え? 嘘でしょ!?」

 レンがいた所は実力至上主義の高レベルプレイヤーが集まるギルドの一つだ。
 特にクエストのクリアに力を入れており、そのギルドで副マスターをやっていたレンの実力は言うまでも無いだろう。
 長く傭兵をやっていれば彼らと共に戦う事もあり、ちょっとした知り合い程度には顔が聞き情報も入ってくる。

「いったい何やったの!?」
「わかんない。お前、もういらないって(´д⊂)‥ハゥ」

 流石にこの扱いには腹がたった。

「……ちょっと、文句言って来てくる。あんたも来なさい」
「(∩゚д゚)アーアーきこえなーい」
 隅っこでしゃがみ込んでしまうレン、何時になく怯えているようで、尚更、放っておけなかった。

「あんた納得してないんでしょ……このまま、辞めるにせよ。もう一度、話し合ったら?」
「でも( ´゚д゚)(゚д゚` )ネー」
「大丈夫だって、今までずっと一緒にやってきた仲間でしょ」

 だからこそ怖いのだろう、一度、理由も言われず拒否されているのだ。
 しかし、本当にそんな事をする奴らだったら、大切な友達であるレンを預けたりはしなかった。
 そりゃ、ちょっと、辻斬り紛いの事するけど基本はいい子なのだ。ギルドマスターにも会った事があるが、ソレを笑って許せるくらいの度量があると信じていた。

「もし、本当にダメなら。また、私と一緒にやればいいじゃない」
「───!!」

 何が嬉しかったのか、レンが抱きついてくる。
 一瞬見たレンの顔は何時もの無表情な顔ではなく、本当に微笑んでいた気がした。


 ギルド名。
 一家団乱。

 基地外の塔攻略を目指すには少ない、二十名ほど精鋭ギルド。ひたすらに好戦的で、一ヶ月に一度位は他の上位ギルドと小競り合いをしている。
 本拠地は基地外の塔の直ぐ下の街、その外れ。
 大手のギルドは、種族や職業の特化の街でもない限り、ここら辺に固まっている。

 極道でも住んでいそう和風な家。
 そこが、レンのいたギルドだった。

「たのもー!」
 呼び鈴を鳴らすと、すぐに中から人が現れる。
「おー、姐さんかぁ。今日は殴りこみか? それとも、ドンパチしに来たのか?」

 2mにも届きそうな巨体。ゴリラが和服着ているような男。
 雅桜、それが、コイツの名前。

「どっちでもないわ、この娘の事よ! そう、メール送っといたでしょうが」

 俺の後ろに隠れていたレンの顔を見ると、気まずそうな顔をする。

「よぉ。姐さんよぉ。いくら、あんたとレンが仲いいから言うて、人ん家の事情に手ぇだすんはどうなんだ?」
 一家団乱のボスゴリラはギルドを家と呼んで、家族のような信頼関係にある。
 そんな噂が流れる位、仲間を大切にする奴らだ。

「あんたん家の事情なんざ、私が知る訳無いでしょうが……。私が言いたいのはレンの事よ」
「……悪いがレンは首。これは、一家全員の総意だ」
「だから、その理由を言いなさい! 納得できる訳ないでしょうが!」
「それは言えん」
 キッパリと言い切る雅桜。
 それ以上は頑なに口を閉ざして語ろうしなかった。

「…………見損なったわ。何か理由があるにしても、そんな簡単にレンを手放すなんて。あんた達に預けた私が馬鹿だった!」
 レンのホワイトボードは白いまま何も映し出されようとしない。
「行こう……レン」

 レンの手を握って、立ち去ろうとした時、後ろから声がかかる。
「おい……」
「何よ」
「お前……人の事より自分の事を心配するんだな」
「……は? おおきなお世話よ!」

 この時、意味が解らなかったが、すぐに理解できた。
 それは、レンを連れて気晴らしにレベルの低いクエストを食い散らかそうかと言う時に起きた。
 周りにはクエストを受けようと人が集まっている。結構な大きさの広場で、有名なプレイヤーも何人か見かける。


「姉上www」
 人ごみの中から、ニヤニヤしながら近づいてくるガルの顔が、何か悪いモノを持ってきたと感じさせた。
「何よ……今、ちょっとイラついてるんだけど」
「(# ゚Д゚) シャー」
 レンもすでに武器を振り回して、下手をすると周りの人間に攻撃をしそうだった。
 そんなレンを抑えながら、ガルの方に目を向ける。
 嫌な予感というのは当たる物で、こいつは事もあろうに、こんな場所で爆弾を落としやがった。


「姉上ってネカマだったのかwww」
「……は?」


 今まで騒がしかった人達が一気に静まり返った。

「ホラコレwww 俺の巡回してたブログが実は姉上の妹のブログで、姉上の妹が取った写メうpしてたwww」

 かなり大きめの写真がガルの手の中で表示される。
 そこには、紛れもなく現実の俺とメインキャラであるアバターが映っていた。
 顔とIDにモザイクがかかってるのが唯一の救いだが。

「なんだ……コレ」
「勿論、ブログ炎上www 俺も頑張ったwww」
「……火消し……してこい」
「もう、無理ぽwww こっちの掲示板にも、うpされてるwww」
「うわああああああ!!」

 発狂して目の前にいる諸悪の根源を叩き潰す。
 ギリギリPKはしていない。

 だが、途端に周りが騒がしくなった。
 黄金龍との一戦はいろんなところで動画としてアップされており、特に最後だけ見ました的な人は結構いる。
 ある意味、俺は時の人なのだ。


「………………嘘だろ」
「まー……そんなモンだろ」
 呆然とした表情で立ち尽くす奴、何かを悟ったような奴。

「マジかよ……俺、結構、本気だったのに」
「仲間だ」
 本気で落胆する奴、喜んでる奴。

「ハッ……カマ野郎が」
「それはそれで……」
 元から嫌っていた奴、ゲイ。

 円で囲むような幾つもの好奇な目がコチラを見つめる。
 イラついていた。
 怒髪天などとうについている。

「…………ぅるさいな」

 口が勝手に動く。
 何かが切れるような音はしなかったが、堪忍袋ぐらいは切れていた。


「ネカマだぁ!? だからどうした!! 俺は手前ぇらにチヤホヤされたくてネカマやってんじゃねぇ!! このアバターが好きでネカマやってんだ!!」

 誰よりも好きだと言える。いや、俺以上に好きだなんて言わせない。


「アバターが好きなのは当たり前だろ!! 頬を調整して! 目の大きさを計算して! 髪を一から作り上げ!! 理想の分身を作ったんだ!! そこに、”俺”の想像する、最高の女に”私”がなる!! 俺に取ってこれ以上の女がいるはずがないだろうが!!」

 きっと、それが、今までこのゲームを止めなかった理由。
 何度、挫折して諦めようかと考えた時でも、キャラクターのセレクト画面まで行けば、また、ここに帰ってきてしまう。

「現実にも、仮想にも、これ以上の女がいるもんか!! 俺はコイツの、この体だからこそ、ここまでこれた!! コイツは俺の相棒で! 分身で! 理想の女だ!! そう、愛してると言っても過言じゃない!!」

 他のキャラクターを作るなど、浮気と何も変わらない。
 勘違いしてほしくないのは、俺はナルシストではなく、アバターが好きなのだ。


「”俺”はなぁ!! ロールしている”私”が、世界で誰よりも!! 何よりも!! 好きなんだよッ!!!」


 俺の叫びが何処まで届いたのかは知らない。
 また、静けさが走る。









「(゚д゚)〈幼女キャラ……」
「俺はロリコンじゃない!! たまたま! 俺の理想を体現した姿が、幼女だっただけだ!!」


 何処からともなく拍手が起きる。
 まばらだったソレが、だんだんと、大きくなっていく。

 誰も、何も言わず生暖かい目でコチラを見ている。
「止めろ……そんな目で見るな……」

「やべwww 録画しちまったwww ちょっと、掲示板行ってくるwwwwwwwwwwwwwwww」
「おい! 待て!!」


 人ごみへと逃げていくガルを追おうとするが、「まぁまぁ」とか「まぁまぁまぁ」とか言いながら、俺を抑えてくる。

「止めろぉおおおおお!!」
「\(^o^)/」


 俺はその日から、しばらく、パソコンに触れる事もできないほどの精神ダメージを負ったのは言うまでもない。




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