世に変人、狂人は数多くおれど。
今日、この日ほど、その存在に憤慨した事はない。
正面に座る、四人。
「なんで!? なんで、創立したばかりのギルドでいきなり苦情メールと、警告メールが四通も来てるの!?」
正座した、青く長い髪のロボっぽい肌をした女が手を上げる。
「何? ……ネイネ」
「んー……やはり、背の高いのお姉さんキャラを使ってー、年下の幼女キャラに手を出すのが人類が見てきた夢でー、追い求めてきた理想であると私は考えるのですよー」
一人は、VRを良いことに、最近問題になっているセクハラ紛いの行為。
その隣に座る、赤い髪を逆毛にしたエルフ耳の男が手を上げる。
「説明しなさい……ガル」
「あいつら、ムカついたからBBS荒らしてやったwww ざまぁwww」
一人は、暴言吐きまくった挙句、特定掲示板でのマナーの悪い言動をする常習犯。
さらに、その隣に座る、片目に眼帯をした人懐っこそうな少年が黒い笑顔で手を上げる。
「何か言いたい事があるの……クロ?」
「商品の値段とか確認せんと、警戒心無しに買う初心者が悪いんやん。これは人生の授業料や」
一人は、自由な売買を売りにしたMMORPGで、言葉巧みに初心者を狙った詐欺行為。
一番、端にいる。天使のような羽を持ち浅黒い肌をした少女。
「聞くだけ聞いてあげるわ……何があったのかしら……レン」
「強そうな人がいたから、つい、後ろから殺っちゃった☆ ごめんね! やっぱり、真正面から殺るべきだったよね\(^o^)/」
一人は、ギルドを相手取った無差別なPK。
どれも、悪質とはいえ、今までアカウント停止されなかった事が不思議なマナー違反者達。
この四人、ゲームを始めた頃からの腐れ縁で、今までずっと一緒にプレイしてきたのだ。
まぁ、普段は気が合う中なので、いつの間にかギルドを作ろうと言う事になっていたのだが。
「あんたち、いい加減に反省しなさいよ! ……もぅ!!」
創設、1週間以下。
ギルド名、スリルランナー。解散の危機に追い込まれ……否、その名の通り、解散の危機へと突っ走っていた。
*
最近、流行りのVRMMORPG、その中でも異彩を放つゲーム、ヴァルハラ・ブレイク・オンライン(略してVBO)。
銃・魔法・剣・ロボ・戦車・戦闘機・宇宙生命体・核「世界観なんて気にしない!」と言う公式の売り文句が言う通り、まさになんでもアリのゲーム。
ファンタジーとSFをごった煮してサラダボールのように押しつぶしたメインセットに、初心者には厳しく、玄人にも厳しい、ステータスよりもプレイヤーの腕を優先させ、随所に無理ゲーをセットでお付けされております。
などと言う、某巨大掲示板で語るテストプレイヤー達の助言を皮肉だと勘違いし。
何を馬鹿なと、笑って発売初日から始めた俺は、開始早々に初心者殺しの罠で死に、すぐにソレが紛れもない事実のみを言った言葉だと理解できた。
だが、それが、俺に火を付けた。
つまり、こんなにやり甲斐のあるゲームは存在しないのだと。
一緒に始めたプレイヤー達が次々と脱落し、現実へと帰還していく中。しがみつくように、寝るまも惜しんでプレイした。
そして、難関クエストやダンジョン、ゲームを進めていく内に、分かり合い、信頼できる仲間達が……。
「あんた達、四人ってどういう事なのよ!!」
「いやー。照れまするのですよー」
「照れるなぁ!」
「www」
「笑うなぁ!」
「まぁまぁ、これ納めるから心を落ち着けや」
「汚い金をギルドに入れるなぁ! ちゃんと返しに行けぇ!」
「(`・ω・´)シャキーン」
「武器出してどっか行こうとするなぁ!!」
スリルランナー、今日も平常運転中。
*
このVBOは100人単位でやらなければクリアできないクエストがあれば、ソロでしかできないクエストもある。
しかし、人数制限で一番多いのが5人。そして、ギルドの最少人数も5人。
何が言いたいかと言うと。
「今回はギルドの総出でクエストとなります。皆さん、私の言う事を聞いて、くれぐれも他のプレイヤーに迷惑行為をしないようにしましょう」
「「はーい」」
元気な返事が返ってくる、無論、返事だけだ。中身は空っぽ、ひとの言う事など聞く気も無いだろう。
「今日はー、あぬ上の命令で幼女に手を出して良いと言う事ですよねー」
「話聞けですよねー、こんにゃろー。やるなら、レンにしときなさいよ」
「やんやん☆ あぬ上のセクハラーo(`ω´*)oプンスカプンスカ!!」
レンが嫌という意志を表明してくれるが、顔は全くの無表情、口にも出していない。
わざわざ、レアアイテムのホワイトボードを使って棒読みの自動音声と顔文字で現してくれる。普通に言えよ、と何度言った事か。
「つか、今日って、何のクエストだっけw 忘れたしwww」
「あぬ上に聞きぃな、ワシは知らんで」
あぬ上。
俺の事だ。
妹に幼女のアバターで男がプレイしていると晒されて早数ヶ月。
天使のような微笑みでレンの「姉上と兄上どっちがいい?」という質問から始まって、じゃあ、”ね”と”に”間を取って”ぬ”にしようと。
下手に高レベルのプレイヤーなだけに、知り合いからは問題児達のギルドマスターの”あぬ上”と呼ばれている。
「ネカマの何が悪いのよ!」
「開きなおりすぎだろw あぬ上www」
自重などと、どの口が言い出したのかスリルランナーはいつもの如く。