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[25676] 【ネタ】 貴族な勇者様(ドラクエ3)
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/01/30 09:18
  貴族な勇者様





 もしも勇者が思いっきり貴族だったら。

 

 

 今の状況を簡単に説明すると以下の様になる。

 

 親父が行方不明になりました(実質死亡)。

 英雄不在になりました。

 俺には才能がありました。

 親父の後継となるべく英才教育を受けました。

 先日元服しました。

 王様に呼び出されました。

 魔王を殺せと言われました。

 端金を渡されて城を追い出されました。←今ここ

 俺の人生は詰んでしまったらしい。

 

 そもそも、魔王ってのは絶対に倒せないのだから魔王なのである。普通に倒せる程度なら単なる強い魔物に過ぎない。

 それが証明されたのが十数年前の親父の一件だろう。

 大陸随一の豪傑とかいって調子扱いていた我が父上は、「魔王とか超余裕www」とほざいて手下Aに葬られて御臨終となった。

 所詮、人間の限界なんてそんなもんだ。精々、下級魔族と相打ちに持ってける位。

 絶望的に戦力差が開いているのが現状なんだ。我々人類は結界に護られた町で慎ましく生きるのが最良なのだ。

 だと言うのに、傲慢極まりない王様は魔族を駆逐しろと仰る。それも、高々100G程度で。

 遠回しな処刑命令なのかも知れない。昔、公の場で陛下のヅラを取った事を未だに恨んでいるのか。

 いっそ逃げようか。このまま実家に帰らずガザ―ブ辺りに潜伏するべきか。

 非常に魅力的なアイデアが一瞬浮かんだが、遺憾な事に実行するのは躊躇われた。

 あの糞王、もしも逃げやがったら一族郎党皆殺しなとか宣言したのだ。

 流石に家族が嬲り殺しにされると心が折れる事間違いなしなので、俺は無く無く依頼を引き受ける事にした。

 取り敢えずはルイーダか。

 アリアハン如きに留まってるカス冒険者なんぞ糞の役にも立つまいが、肉の壁位にはなるだろう。

 数も腐るほどいる事だ。人員不足に悩む事も無いだろう。

 勿論、奴らは断る事は出来ない。俺には勇者の特権がある。

 勇者は全国の冒険者の頂点に君臨する英雄であり、諸国の長より様々な権限が付与される。

 その内の一つに、絶対命令と言う物がある。

 内容は名が示す通りだ。底辺の屑職である冒険者共に命令権を有する。奴らに拒否権がない事は言うまでも無い。

 そもそも奴らは戸籍が無い塵野郎だ。王の気分次第で何時でも首を刎ねる事が出来る。

 俺達の様に選ばれた市民とは生まれながら土俵が違う。精々、搾り尽くしてやろう。

 俺は少しは使える道具が居る事を願いつつ、掃溜めの巣窟に足を運んだ。

 

 

 酒場に着いた俺は薄汚い扉を蹴り開ける。

 バガンッ、と小気味のいい音と共に老朽化した木材が弾け飛ぶ。

 俺は砕け散った破片を踏み躙りながら侵入し、シンプルに要件を告げる。

 「戦士と魔法使い、僧侶」

 いきなりで何を言ってるのか分からないのか。食事中の冒険者たちはあんぐりと口を開けるだけだった。

 やれやれ、理解力の無い低能はいやだ。これだから塵は嫌いだ。

 心優しい俺は仕方無く繰り返してやる事にする。

 「光栄に思え。俺と旅に出る権利をやる。―――来い」

 それなりに鍛えられているであろう奴らに目星を付け、手招きする。今度は伝わるだろう。

 (おや?)

 すぐにも喜んでと寄ってくるだろうと思ったが、何故だか静寂が場を包んだ。

 さては恥ずかしがって遠慮しているのかもしれない。俺は心が決まるまで待ってやる事にした。

 近場にあった席にドカリと腰を下ろし、テーブルに置かれた酒をがぶ飲みする。不味っ。

 俺は思わず吐き出していた。良くも、こんな泥水を飲めるもんだ。

 矢張り、俺様とは根底から違うな。所詮は家畜だ。

 料理には手を付ける気にはならなあった。どうせ豚の餌みたいな味だろう。食った事無いけど。

 特にする事も無いので、頬杖を付きながらフォークでテーブルを突き刺したりしていると・・・。

 「―――おい」

 何時の間にか、一人の男が俺に詰め寄って来ていた。

 中々にガタイが良い。見るからに戦士タイプだが、口応えがなってないのが気に掛かる。

 まぁ、おいおい調教してやれば済む話か。まともな教育も受けてないのだから止むを得ないだろう。

 「何だ。お前だけか? 他には―――」

 バンッ!

 おおう。何て柄の悪い奴だ。

 いきなりテーブルを叩きやがった為に、衝撃で餌が飛び散ってしまったじゃないか。

 掃除をするのが大変だなぁと思う一方で余りの素行の悪さに流石の俺もムッと来る。

 「出て行け。今なら問題にはせん」

 ドスの利いた声で俺を睨みつけて来る。

 俺としては全く動揺するレベルではなく不快になるだけだが、一般人からすればチビりそうになるかも知れない。

 一体こいつは何を切れているんだ? 俺には底辺の思考は理解出来ない。

 と言う訳で聞いてみる。何で怒ってらっしゃるの?

 俺の至極当然の疑問に男は眼を見開いて驚愕し、握り拳を作って何かを呟く。

 あっ。今、この野郎って言ったぞ。俺には聞こえた。

 「此処は。此処は俺達冒険者の寄りべだ。戸籍も後ろ盾も何も無い、俺達が唯一安らげる場所だ」

 ほう、こんな萎びたボロ小屋で落ち着けるのか。随分と安く上がるな。

 感心する間にも口上を並べ立てる男。やれ、古くからだの、ルイーダは凄いだの。良くもここまで褒めちぎれるものだ。

 「―――断じて、断じて貴様の様な甘餓鬼に汚されていい場所じゃない!!」

 この様に締め括られる。

 やけに熱い男だ。気に入らないなら気に入らないとはっきり言えばいいのに。

 何時の間にかゾロゾロと群がって来た連中にも目を配るが、全員同じような顔をしている。ああ、そうかい。

 大体理解した。弱っちぃ癖にプライドだけは一丁前って事を。

 こいつらは要らねぇや。俺はよっこらしょと腰を上げると、じゃあなと踵を返し―――

 「ああ、忘れ物があった」

 いけないいけない。俺は反回転位していた身体を一周させ先程の男にいま一度向き直り、腰の剣をすらりと引き抜くと。

 スパッ、と横薙ぎに軽く振るう。

 「・・あ?」

 少しして、間抜けた声を出した男の上半身がずるりと滑り落ちて行き・・・

 あーあ。また汚しちまったよ。

 俺は散らかった塵を掃除する意味を込めて、口内で文言を呟く。

 「悪ぃ。後片付けはしてくから。―――イオ」

 直後、室内に轟く爆音。

 今度こそ用が済んだので、迷惑料の100G札を投げつけて出て行く事にする。

 

 全く無為な時間を過ごしたもんだ。

 俺は帰り際に酒場の外壁に蹴りを入れ、自宅に帰る事にした。

 

 

 



[25676] 貴族な勇者様2
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/01/30 09:22
  貴族な勇者様2





 帰宅した俺は、先程の酒の口直し+夕食を摂る事にした。

 自室に飯を運ばせる為にメイドに声を掛け、適当に見繕って来いと言ったのだが。

 「御曹司―――」

 さっさと部屋に帰ろうと背を向けた俺に控えめな声。振り返ると未だに侍女は留まっていた。

 何をしていると思ったが何かを言いたそうな目をしている。俺は仕方無く足を止め、続きを促した。

 「お嬢様がお呼びです。食堂にお出で下さい、と」

 メイドの言葉を信じるならば、我が妹が食卓に同席しろとの事。

 ほう。何時の間に帰って来ていたのか。長旅で故郷の味が恋しくなったのだろうか。

 別段従う理由も無いが、かと言って拒否するの為の明確な言い訳も無かった。

 まあ、偶には家族の団欒も良いだろうと思うので素直に行く事にする。

 俺は手振りでメイドに了解の意志表示をし、別館の食堂に大人しく足を運んだのだった。

 

 何と言う事だ。

 清潔に保たれていなくてはならない場所に異物が混入しているではないか。

 俺は視線の先の一点を指差し、傍に控えていた使用人の一人に命じる。あそこの塵を掃除しろと。

 だが使用人が即座に動く事は無かった。頻りに俺ともう一方―――妹を気にしている。

 少しイラっとする。何を迷ってやがる、主人の命令が聞けないのか。

 中々要領を得ないので、今度はやや眼力を込めて強めに言ってやる事にした。

 いいからさっさと―――

 「―――必要ありません。私が招待致しました」

 俺の言葉を断ち切ったのは妹だった。

 声量は決して大きく無いが力強い意思が込められており、室内によく響く。

 「御免なさい、レミィ。不快な思いをさせました」

 妹は横で紅茶を飲んでいた人間大の異物に謝罪する。貴族が平民に易々と頭を下げるなよ。

 異物、レミィは軽く頭を振り、気にして無いわと返し、

 「そいつの傲岸不遜っぷりにはとっくに慣れたもの」

 非常に冷めた、路傍の塵を見る様な目線を送りながら続けた。

 断じて平民風情が貴族に対して向けていい態度じゃない。半殺しにしたくなる衝動に駆られるが、鋼の心で何とか抑える。

 それに、非常に屈辱的な事だがこの女は俺の学友なのだった。

 王立アカデミーの同じ教室で勉強した間柄なので、米粒位のよしみはある。

 高貴な俺が一々反応するのも馬鹿らしい。ふんと鼻息と共に怒りを吐き出して溜飲を下げる。

 「一体どうしたんだ? そろそろ音を上げたのかい、勇者殿?」

 妹の正面の席に腰を下ろし、凱旋した妹を労ってやる。出来るだけレミィの方を見ない様にして。

 先日勇者に任命された俺だが、実は勇者は他にも存在する。

 それが我が妹、アリアであった。丁度半年前に指名を受けて旅立った記憶がある。

 本来なら魔力を持たない妹が勇者になれる事は無いのだが、超一流の剣術と品行方正な人格が決め手となったそうな。

 「旅路の経過を報告に来ただけです。明日には出立ちます」

 心配で仕方が無い俺を尻目に、妹は冷静に反応する。可愛げが無い事。

 とうとう俺に泣き付いて来たか思ったが、妹が項垂れる様子は無さそうだった。残念だ。

 律儀に糞陛下に会いに来るマメさには脱帽するよ。結構、暇なのだろうか。

 透かしたアリアの挫折が見れなかった残念がる俺に、レミィは付け加えて言う。

 「当たり前よ。アリアとアタシがいれば不可能はないわ」

 相変わらず生意気な女だ。単なる口先だけでないので殊更に厄介である。

 アカデミーの主席は当然ながら俺だった。が、俺に迫る形でトップ2、3もそこそこの成績を残していた。

 それがアリアであり、レミィであった。

 戦士としての素養は無いが、魔術師としてはトップクラスであり、俺に次ぐ才能を持っている。

 それはエリート養成科に選抜されるだけの実力はあるって事の証明でもある。他の奴らは枕営業を疑っていたが。

 確かに【セイバー】と【ウィッチ】が手を組めば、当面敵はいないだろう。そこらの雑魚な魔物では相手にはなるまい。

 精々頑張ればいいさ。何れ、人間の限界を知るその時まで。俺はその時まで楽をさせて貰おう。

 運ばれて来た料理の香りを堪能しながら、確実に訪れるであろう未来を想像し、俺はほくそ笑んだものだった。

 

 「話は変わりますが」

 夕食もたけなわとなり、デザートに差し掛かった所で妹が口を開く。

 俺はカップに注がれた茶を堪能しながら目を向ける。何だか良い予感がしないな。

 「ルイーダさんの所で一悶着あったようですね」

 咎める様な視線。随分と情報が早い。相変わらず鼻が利く女だ。

 何故責められているのか分からないが、俺にやましい所は全くないので素直に認め、

 「おう。少し、ボランティアをな」

 「ボランティア?」

 この返答は予想外だったのか、妹は責め気を削がれたらしい。

 それに調子を得た俺は用意していた理論を展開していく。

 「あそこに投入される税金は決して少なくない。故に調査しただけよ」

 ルイーダの酒場は正確に言えば、自営では無く公営に属する。

 俺達市民が支払った血税がそこそこに注ぎ込まれて運営しているのだ。

 私営ならともかく、公共機関ともなれば調査をするのは当然である。俺の様な大貴族となれば尚更知っておく必要がある。

 「確信したよ。見事に血税の無駄遣いだった」

 あんな適当な剣で即死する位だ。本当に、税金の無駄だと思うね。だから。

 「軽く仕分けしてやったのよ。公金に群がる塵共をな」

 そういう訳、と締めて妹の顔を改めて見る。

 おや、だんまりだ。俺の完璧な答弁に反論できないのかな。

 俺はティーカップを傾けて乾いた舌を潤しながら待つ事にした。うむ、旨―――

 「巫山戯ないで下さい! すると何ですか。力が無いと言う理由だけで彼らに手を掛けたと言うのですか!!」

 今日は良くテーブルを叩かれる日だ。危く鼻に入る所だったじゃないか。

 未だに興奮冷めやらぬ妹をどうどうと落ち着かせ、俺は優しく諭してやる。

 「いいか、冒険者に求められる物はなんだ? 腕っ節以外に何がある?」

 冒険者の役割は、未発掘の遺跡の調査や魔物討伐がメインとなる。

 町から出る事が出来ない一般人の代行として様々な任務を任されるのだ。その為に、高い報酬を払っている。

 だが、アリアハンの奴らは全然だ。全く、冒険者としての役割を果たせていない。

 考えて見れば分かるだろう。スライムや大烏とどっこいのカス共に何を期待出来ると言うのか。

 「な? 住民権も無い塵共に投資しても無意味だろ? 軍の経費を上乗せした方が余程良い」

 そもそも、この辺に出没する魔物は結界に侵入出来る力も無い。

 つまり奴らに存在意義は皆無と言う事になる。ある程度数を減らした方が効率的ではないか。

 非の打ち所のない理論だろう。―――だが、妹は未だに納得出来ないらしい。怒りに肩を震わせながら俺を睨み、

 「確かに兄様の言う事も理解出来なくはありません。ですが・・・」

 ああ、また始まったよ。アリアの得意技「SEEKYOU」が。勇者なんかやらないでシスターにでもなれってんだ。

 「それでも彼らは私達と同じ人間です! 同じ地より生まれた兄妹ではないですか!! それを―――」

 熱血してる所結構だが、それ以上は言わせなかった。妹の熱弁を手で制す。

 悪いが、そればかりは聞く訳には行かない。それだけは貴族として頷く訳には行かなかった。

 「勘違いするなよ、アリア。一体誰が平民を人間と認めた? 道具に肩入れするのもいい加減にしろ」

 「兄様!!」

 俺の暴言(アリアはそう思っているだろう)に怒気を強めて思わず立ち上がろうとするアリア。

 が、その腕を掴む手が別にあった。

 「もう止めときなよ。それ以上そいつに何を言っても押問答よ」

 もう行きましょうと立ち上がるレミィ。

 アリアに手を貸して、出口へと歩いて行く。そして最後に振り返り、

 「本当に、変わったね。昔のアンタはそこまで酷く無かったよ」

 扉が閉じられる。

 控えめな開閉音が静かに響いていた。

 何故だろう。高々平民の戯言なのに、何故かレミィの言葉は俺の頭を締め付けて離さなかった。

 

 

 

 



[25676] 貴族な勇者様3
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/01/31 10:30
  貴族な勇者様3





 基本的に俺は正規勇者のサブである。

 縁の下の力持ちとして、最前線のアリアをサポートする事が主な仕事となる。

 とは言っても情報収集等のスパイ活動に勤しむ訳じゃない。その程度なら態々俺を動かす必要は無いのだ。

 俺に課せられた役目は塵掃除だ。妹の食い零しを根こそぎバキュームして行かねばならない。

 そんな物は傭兵にでも頼めよ思わなくもないが、予算を考えれば仕方あるまい。

 アリアハン周辺の発掘され尽くした迷宮ならそれでもいいが、魔王軍の本拠地に近付くに連れて当然、敵の力も増して行く。

 そうなると下級・中級の傭兵共では手に負えないし、上の奴らの報酬は馬鹿にならない。

 仮に全てを外注するとなれば国庫が傾きかねない事になる。

 まさか魔族の駆逐なんて夢物語の為に国を潰す訳にも行かないだろう。そこで、俺に白羽の矢が立ったって訳だ。

 この上無く面倒臭い事になったもんだ。これもあの糞親父の独善が招いた事だと思うと、腸が煮え繰り返る。

 こんな事ならさっさと殺しておくべきだった。直接手を掛けなくても、毒殺とかやり様はあるし。

 嗚呼。早く死んでくれないかなぁ、アリア。

 オルテガを凌ぐとも言われる剣姫がくたばればあの糞王も諦めが付くと思うんだがね。

 偽善の極致である陛下は俺を正勇者にはしたくないらしいからな。大貴族の癖に、糞陛下はやたらと貴族を嫌う。

 万人に開かれた国にするだと? 神にでもなったつもりか。

 俺の愚痴は止まる気配がまるでなかった。暫く毒を吐き出してからでないと出掛けられなそうだ。

 

 

 「あー、だるい」

 ナジミの塔に隠居する爺をぶっ殺して鍵を奪う事数時間。

 旅の疲れを癒す為にレーベで宿を取る事にする。出来ればこんなド田舎には1秒たりとも居座りたくないが。

 腰の剣を外してベットに放り投げ、もう一方にダイブする。

 取り敢えず、これで探索に必要なツールは確保出来た。

 何故だか知らないがこの世には奇妙な扉が存在し、それを開けるには特殊なカギが必要になる。

 アバカムなる解錠呪文があるにはあるが、強固な封印が施された扉には通用しないのだ。

 腰のバックパックからジャラ、と戦利品を取り出す。俺の掌には銀色の鍵が納まっていた。

 「魔法の鍵、か。骨折り損にはならなかったな」

 あの爺、中々面白い物を隠していやがった。魔法の鍵と言えば、トレジャーハンターなら喉から手が出る程に欲しがる逸品だ。

 馬鹿な男だった。大人しく渡していれば老い先短い生涯を全う出来たと言うのに。

 (オルテガ殿の魂は息子には受け継がれなんだ・・・)

 最後の言葉を思い出す。血塗れの皺枯れた顔を歪ませ、憐れむ様に俺を見ながらそう言ってのけた。

 結局、最後の最後まで俺の神経を逆撫でしてくれた爺さんは頭を踏み砕かれて死んでいった。

 盗賊崩れの塵野郎が俺に説教など、おこがましいにも程がある。殺されて当然だ。

 「誰が継ぐか。英雄気取りの平民如きの安い理想など」

 どいつもこいつもオルテガ、オルテガだ。

 下賤な流れ者に何故あそこまで人望が集まるのか。貴族には、下々の嗜好は理解出来んな。

 俺は不愉快な思いを抱えながらも目を閉じて、仮眠を取ろうとし―――

 「お客さん!!」

 「―――メラ」

 問答無用で火球を打ち込んでやった。そんなに死に急がなくてもいいだろうに。

 一体、この宿の接客はどうなっているんだ。ノックも無しに客室に入るなど、首を飛ばしてくれと言いたいのか。

 腰が砕けてあわあわと震えている礼儀の無い平民を見下ろし、

 「次は殺すぞ?」

 ほんの少し力を込めて睨みつけてやる。それだけでそいつの顔は蒼白から土気色に変わって行く。

 部屋を変えて、いやもう出て行くか?

 平民の股の間には黄ばんだ染みが広がっていた。臭くて仕方が無かった。

 

 「娘が、娘が攫われたんです!」

 頬を2・3発張って正気に戻した平民が言うには、そういう事らしい。

 何でも隣の村に出掛けていた娘の行方が知れなくなってしまったとの事。

 慌てて捜索をした所、現場付近で妖しい風体の男が父親(こいつな)に近付いて来て。

 「身代金5千G・・・ねぇ」

 小汚い字で綴られた脅迫状とおぼしき紙ぺらを仰ぎ見る。

 何ともベタなやり口な誘拐であった。金寄こせゴルァと言う主張がそこらに見受けられる。

 脅迫状から目を離し、チラリと男の顔を見る。瞳を潤ませて俺を見つめる中年の姿はかなりキモい。

 「お客様は冒険者とお見受けします。お礼は惜しみません! 何とぞ、何とぞ娘を!!」

 やっぱりそうだよなぁ。面倒臭くなって来た。

 少し考えてみよう。ここで俺が取るべき選択肢は何か。

 一番楽なのは、一切無視して村から出て行く事だ。むざむざトラブルに巻き込まれる理由は無い。

 本来なら真っ先にそうするのだが、今回に至っては少し事情が違う。

 それは、俺が貴族でありこいつらが平民であるという事。厄介な事に、レーベは俺の領地だった。

 この親父の態度から考えるに、未だ俺が貴族である事には気付かれてはいないだろう。

 だが、此処の村長とはそれなりに顔見知りなのだ。仮に俺が拒否すれば、この平民の口から洩れてしまうかも知れない。

 (あの貴族は、領民を平気で見捨てる薄情者だ)

 そんな噂が広まれば徴税・政策等の領地経営に響く事は間違いない。

 最悪、反乱が起こる可能性もある。無下にする訳には行かなかった。

 ではどうする。助ける事が確定した訳だが、身代金5千か・・・。

 残念な事に、今俺はそんな金を持ち合わせていない。家に帰れば当然用意出来るが、時間が掛かる。

 こういう時に貴族は面倒だ。大金を動かす時に署名しなければならない書類がやたらに多過ぎる。

 相手は誘拐なんて低俗な手段に訴える様な連中。おたおたしてたら娘は殺される。

 別段、俺としてはどうでも良い事だがこの親父は切れるだろう。何故、助けてくれなかったのだと。

 今の俺は貴族でなく一冒険者となっているのだ。金を取ってきますとか言ったらビビりの烙印を押されかねない。

 それに、俺に取ってこれはチャンスでもある。

 もしも上手く救出する事が出来れば、英雄として村民の支持を得る事が出来る。大胆な施策も実行出来るだろう。

 これしか無いか。金は用意できない時間も無いとくれば、やる事は一つ。

 「面を上げな。大の大人がみっともない」

 俺は俯いた平民の肩を叩き、此方を向かせる。

 涙でクシャクシャになった親父を爆笑したくなる衝動を何とか堪え、仮面を被る。

 「助けてやるよ。但し、報酬は弾んで貰う」

 ニヤリと口端をつり上げて笑う。ぶっきら棒だが根は優しい冒険者を演じて。

 俺は娘が犯されていませんようにと願いつつ、死んで無ければいいやと考えていた。

 心が破壊されていても肉体が無事なら治し様はある。ベホマで一発だ。

 流石に金を渡すまで殺しはしまい。俺の計画は実にシンプルだった。

 娘を連れて来た所で爆発呪文をブチ込んでやる。犯人は一網打尽、その後で死に掛けた娘を回復する。

 完璧だ。腕の一本位無くても大丈夫だろうし。

 俺は領民に、どんな難題を押し付けようか愉しみで仕方が無かった。

 

 

 



[25676] 設定とか色々
Name: ささにしき◆e73a7386 ID:28b517f1
Date: 2011/01/31 10:30
  設定とか色々





 人物紹介

 

 

 アルス

 外道勇者。

 貴族主義を地で行く男。貴族以外の人間、平民を徹底的に見下す。

 それは家族に対しても同様で、平民出の父や妹に対しても悪辣な態度をとる。

 只今パーティー募集中。

 

 ステータス

 LV:20

 HP:100

 MP:300

 装備

 ミスリルの剣 切れ味だけでなく、魔術伝導率も抜群に良い。

 貴族の服 高級素材をふんだんに用いて造られた服。意外と丈夫。

 貴族の靴 意匠が施されたブランド品。やはり丈夫。

 サークレット 幼少時より身に付けており決して外さない。

 戦闘タイプ

 剣士としてより魔術師としての素養に優れる。

 魔術のレベルは既に大魔導師クラスに達している。

 特技:魔法剣

 何となく出来そうという理由で編み出し、数多の剣士や魔術師を絶望させる。

 

 

 アリア

 正道勇者。

 赤子の頃、オルテガに連れられて家に入った養子。

 選民思想に塗れた兄とは違い、民を憂える事の出来る人格者。

 父の後継として期待された兄が貴族様様の為、代わりに勇者としての道を歩んで行く事になる。

 現在、打倒バラモスの為に冒険中。

 

 ステータス

 LV:18

 HP:150

 MP:0

 装備

 鋼の剣 名工によって鍛えられた逸品。

 鋼の盾 限界まで軽量化した盾。

 鋼の服鎧 鋼糸が編み込まれた服。

 ブーツ アリアハン製の軍靴。

 戦闘タイプ

 純粋な戦士。

 剣士としての技量は超一流。

 彼女と十合も打ち合える人間はアルスを含めて極少数。

 特技:超剣技

 極限まで練り上げられた剣術はそれが既に必殺技。

 

 

 

 以下、随時更新予定

 

 


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